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第一章 大陸編
第161話 転生者、聖王との再交渉に臨む
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おおよその価格交渉も終わったこともあり、俺はデザストレや少女たちと一緒に神殿へと戻ってくる。
少女も能力があるということもあり、将来的には高官になる可能性もある。そのため、母親とは離れて神殿で暮らしているそうだ。
「そういえば、君の名前を聞いてなかったな。教えてもらってもいいかな」
「……デイジー」
「そうか、デイジーか。いい名前だな。俺は魔王だが、セイっていう名前があるんだ。よろしくな、デイジー」
「うん、お姉ちゃん」
名前を教えてくれたので俺も名前を教えたのだが、俺に対する呼び方はお姉ちゃんで変わらなかった。お姉ちゃんって呼ばれるから、こんな喋り方でも女性認定されてるんだな、とほほ。
神殿に戻ってくると、兵士が俺たちに駆け寄ってくる。
「ああ、お戻りになられましたか。聖王様がお待ちでございます、至急執務室へとお向かい下さい」
慌てた様子で話しているので、俺たちは足早に聖王の執務室へと向かっていった。
聖王の執務室は、先日の会議室から1つ部屋を挟んだ位置にあった。思ったより表から近い場所だった。
「お待たせ致しました、魔王」
「ああ、こちらこそ待たせてしまったな。アラクネ糸の生地の用件を待ち時間に済ませようとして、ちょっと配分をミスってしまったようだ」
「そうでしたか。では、とりあえず席に着いて下さい」
聖王の言葉に甘えて、俺たちは応接用のテーブルを囲んで座る。
聖王を中心とした場には緊張が走っている。さっきまで俺に懐いてにこにことしていたデイジーですら、カチコチになっていた。さすが聖国のトップの前といえよう。
「先日の交渉の続きでしたね。どこからお話しましょうか」
真面目な表情で切り出す聖王。
「砂糖とアラクネ糸の話からだな。ただ、今回は相場に詳しい人物を置いてきちまったんで、今後の展望の方を詰めていこうと思う」
「分かりました。取引の方はあなたにお任せしますよ。フラウゼル伯爵」
「はっ、お任せ下さい」
デイジーの父親が、聖王の命令に深く頷いていた。
それにしても、デイジーって伯爵令嬢だったのか。どうりで所作がしっかりしてると思ったぜ。
「聖国としては、魔王が代替わりしたことを重く見ております。おそらく、聖国の高位の神官ほど、今の魔王の魔力に戸惑っていることでしょうね」
「俺の魔力ってそんなにおかしいのか?」
聖王の言葉に疑問をぶつけると、力強く聖王が頷いている。
こんな反応をされても、俺にはまったく実感がないんだがな。こっちが反応に困ってしまうというものだ。
「通常魔王というのは、強い闇の魔力をまとっているものです。ですので、本来この聖国の地域に侵入することすら厳しいのです」
「ああ、デザストレがかなり弱ってたもんな。魔族に対抗する力を持つゆえ、というやつか」
「その通りでございます」
真剣な表情で受け答えをする聖王。相当な覚悟を持って臨んでいるように見えるので、俺もその覚悟に応えねばならないな。
「ですが、あなたは魔王という状態にありながら、特別なこともなしにこの聖国の結界の中を普通に活動しております。つまり、あなたが聖国にとって敵対しないものであるということを示しているのです」
つまり、聖王の言い分はこういうことだ。
通常ならば、魔王は闇の魔力と強い敵意を持っているがために、聖国の結界に弾かれる。聖国の結界は闇の魔力と悪意や敵意を弾いたり弱めたりするからだ。
だが、俺はまったく影響を受けずに平然と動いている。つまりは聖国にとっての敵意も悪意もないし、闇の魔力も持ち合わせていないということになるわけだ。
うん、おかしいな。俺は確かに魔王なんだがな。
「ですので、私としてはあなたの描く人間と魔族の新しい未来というものに興味がございます。必要がございましたら、私たちの方でも協力を惜しみません」
ずいぶんと買いかぶられている気がするな。
正直言って、俺はそこまでの人間じゃないと思っている。現状では思いつきで魔界の中を引っ掻き回しているしな。
「お気持ちは嬉しいんですけれどね、さすがに買いかぶりすぎだと思う。急激に事態を進展させると、聖国と魔王城の間に住む純魔族どもが黙っていないだろうしな」
「確かに、そうですね……」
俺が最大の懸念を話すと、聖王も納得した様子を見せている。純魔族という種族は、魔王と存在としては近しいものだからだ。しかも、俺以外の歴代の魔王の多くは、この純魔族から輩出されている。聖国との相性は最悪といってよい。
キリエ、カスミ、コモヤという俺の直属の部下というのはいるが、当面は国境付近で取引するというのがいいと思われる。
俺はひとまず妥協点を見出すために、そのことを提案する。
「そうですね。長らくの争いがあったわけですし、国境に緩衝地帯を設けるのがよろしいでしょうね」
一気に進めるのではなく、段階的に進めることを聖王は受け入れてくれた。そこに街を造れば、ひとまず互いの国の物品をやり取りできるようになるだろう。
国境に緩衝地帯を設ける。
ひとまずこれで一歩前進という状況となったのだった。
少女も能力があるということもあり、将来的には高官になる可能性もある。そのため、母親とは離れて神殿で暮らしているそうだ。
「そういえば、君の名前を聞いてなかったな。教えてもらってもいいかな」
「……デイジー」
「そうか、デイジーか。いい名前だな。俺は魔王だが、セイっていう名前があるんだ。よろしくな、デイジー」
「うん、お姉ちゃん」
名前を教えてくれたので俺も名前を教えたのだが、俺に対する呼び方はお姉ちゃんで変わらなかった。お姉ちゃんって呼ばれるから、こんな喋り方でも女性認定されてるんだな、とほほ。
神殿に戻ってくると、兵士が俺たちに駆け寄ってくる。
「ああ、お戻りになられましたか。聖王様がお待ちでございます、至急執務室へとお向かい下さい」
慌てた様子で話しているので、俺たちは足早に聖王の執務室へと向かっていった。
聖王の執務室は、先日の会議室から1つ部屋を挟んだ位置にあった。思ったより表から近い場所だった。
「お待たせ致しました、魔王」
「ああ、こちらこそ待たせてしまったな。アラクネ糸の生地の用件を待ち時間に済ませようとして、ちょっと配分をミスってしまったようだ」
「そうでしたか。では、とりあえず席に着いて下さい」
聖王の言葉に甘えて、俺たちは応接用のテーブルを囲んで座る。
聖王を中心とした場には緊張が走っている。さっきまで俺に懐いてにこにことしていたデイジーですら、カチコチになっていた。さすが聖国のトップの前といえよう。
「先日の交渉の続きでしたね。どこからお話しましょうか」
真面目な表情で切り出す聖王。
「砂糖とアラクネ糸の話からだな。ただ、今回は相場に詳しい人物を置いてきちまったんで、今後の展望の方を詰めていこうと思う」
「分かりました。取引の方はあなたにお任せしますよ。フラウゼル伯爵」
「はっ、お任せ下さい」
デイジーの父親が、聖王の命令に深く頷いていた。
それにしても、デイジーって伯爵令嬢だったのか。どうりで所作がしっかりしてると思ったぜ。
「聖国としては、魔王が代替わりしたことを重く見ております。おそらく、聖国の高位の神官ほど、今の魔王の魔力に戸惑っていることでしょうね」
「俺の魔力ってそんなにおかしいのか?」
聖王の言葉に疑問をぶつけると、力強く聖王が頷いている。
こんな反応をされても、俺にはまったく実感がないんだがな。こっちが反応に困ってしまうというものだ。
「通常魔王というのは、強い闇の魔力をまとっているものです。ですので、本来この聖国の地域に侵入することすら厳しいのです」
「ああ、デザストレがかなり弱ってたもんな。魔族に対抗する力を持つゆえ、というやつか」
「その通りでございます」
真剣な表情で受け答えをする聖王。相当な覚悟を持って臨んでいるように見えるので、俺もその覚悟に応えねばならないな。
「ですが、あなたは魔王という状態にありながら、特別なこともなしにこの聖国の結界の中を普通に活動しております。つまり、あなたが聖国にとって敵対しないものであるということを示しているのです」
つまり、聖王の言い分はこういうことだ。
通常ならば、魔王は闇の魔力と強い敵意を持っているがために、聖国の結界に弾かれる。聖国の結界は闇の魔力と悪意や敵意を弾いたり弱めたりするからだ。
だが、俺はまったく影響を受けずに平然と動いている。つまりは聖国にとっての敵意も悪意もないし、闇の魔力も持ち合わせていないということになるわけだ。
うん、おかしいな。俺は確かに魔王なんだがな。
「ですので、私としてはあなたの描く人間と魔族の新しい未来というものに興味がございます。必要がございましたら、私たちの方でも協力を惜しみません」
ずいぶんと買いかぶられている気がするな。
正直言って、俺はそこまでの人間じゃないと思っている。現状では思いつきで魔界の中を引っ掻き回しているしな。
「お気持ちは嬉しいんですけれどね、さすがに買いかぶりすぎだと思う。急激に事態を進展させると、聖国と魔王城の間に住む純魔族どもが黙っていないだろうしな」
「確かに、そうですね……」
俺が最大の懸念を話すと、聖王も納得した様子を見せている。純魔族という種族は、魔王と存在としては近しいものだからだ。しかも、俺以外の歴代の魔王の多くは、この純魔族から輩出されている。聖国との相性は最悪といってよい。
キリエ、カスミ、コモヤという俺の直属の部下というのはいるが、当面は国境付近で取引するというのがいいと思われる。
俺はひとまず妥協点を見出すために、そのことを提案する。
「そうですね。長らくの争いがあったわけですし、国境に緩衝地帯を設けるのがよろしいでしょうね」
一気に進めるのではなく、段階的に進めることを聖王は受け入れてくれた。そこに街を造れば、ひとまず互いの国の物品をやり取りできるようになるだろう。
国境に緩衝地帯を設ける。
ひとまずこれで一歩前進という状況となったのだった。
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