異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第172話 転生者、デイジーとウネを会わせる

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 俺はデイジーを連れて魔王城に戻ってくる。
 そしたら、ピエラもいろいろ報告があるからといってついてきやがった。いや、俺への報告なら集落にいる間にしておいてくれよ。
 どう見ても、別の思惑があるようにしか思えなくて、帰りの馬車の中ではずっと俺は外を見て過ごしていた。
 だって、ピエラがものすごい形相で俺を睨んでくるんだからな。デイジーを見ていればさらに激化しそうだったし、ピエラは直視できないからしょうがないんだよ。

(くそっ、よそ見しててもピエラのやつはずっと俺に険悪の視線を送ってくるな。まったく何がどうしてそういう目になるんだよ……)

 結局、魔王城に戻るまで一切落ち着くことができなかったのだった。

 魔王城に戻ってくると、俺はピエラをキリエとバフォメットに任せて、デイジーを庭園へと連れていく。
 キリエたちには庭園には近付けさせていなかったからな。予想外な行動をしていなければ、これが初めて庭園を見る機会のはずだ。
 庭園にやって来ると、数名の薬師がウネと話し込んでいた。一体何があったのだろうか。

「おーい、久しぶりだな。何があったんだ?」

 さすがにこれだけ集まって話をしているとあっては、気になって仕方がないというものだ。
 俺の声に驚いたのか、薬師たちは慌てたように俺に跪いている。

「おいおい、あまり辺に服を汚すような真似はしないでくれ。薬は繊細なんだろう?」

「はっ! こ、これは失礼致しました。ですが、さすがにお世話になっている魔王様を前に立っているというのはどうも……」

 薬師たちは跪いたまま、言い訳を並べて立ち上がろうとしない。

「いや、俺がいいっていうんだからいいんだよ。そういう汚れが薬にどんな影響を及ぼすか分からないんだからな?」

 さすがに見苦しくなったので、俺は無理やりにでも立たせようとする。薬の品質の劣化は、薬師としては致命的なんだからな?
 ここまで言って、ようやく薬師たちは立ち上がっていた。本当に世話の焼ける連中だぜ。

「とりあえず、そのままじゃ部屋に戻れないだろう。ちょっとじっとしてろ」

 俺は魔法を使う。
 転生時の特典ともいえるチート級の能力のひとつだ。
 驚くなかれ、薬師たちの跪いた時についた汚れがどんどんと落ちていっていた。洗浄の魔法ってわけだ。
 薬師たちが驚いている中、ウネが俺の手をくいくいと引いている。

「魔王様、あの子は誰?」

「うん? ああ、そうだな紹介しておくよ」

 ウネはどうやらデイジーのことが気になっているようだった。なので、ここは紹介しておくのが先決だろう。
 俺はデイジーの隣まで移動すると、自分に近い方の肩にポンと手を添えた。

「この子はデイジー・フラウゼル伯爵令嬢といってな。北方聖国のご令嬢なんだ」

「な、なんと!」

 ウネはどうでもよさそうな反応をしているのに、薬師たちの方が大げさに驚いている。
 この分だと、薬師たちはどの程度か分からないけれど、フラウゼル伯爵家を知っているということなのかな?

「フラウゼル伯爵家は、南方王国でも知る人は知る家柄ですぞ。まさか、そこのお嬢様がこんなところにいらしているなんて……!」

「こんなところで悪かったな」

「ひっ!」

 薬師の一人から出てきた言葉に、つい眉をぴくぴくとさせてしまう俺だった。俺の城だぞ、ここは。怒って当然ってもんだろ。
 俺が少し脅しをかければ、薬師たちは黙ってしまう。用事が終わったらな部屋に戻って休むように言うと、薬師たちはすごすごとおとなしく部屋へと戻っていった。

「それはそうとして、薬師と何を話してたんだ?」

「わちの力を使って、新しい薬草を用意できないかって話」

「新しい薬草?」

 なんとも勝手なことをしているものだ。
 一応ここは魔王城の中だ。やるなら俺かキリエかバフォメットに許可を取ってもらいたいものだな。
 言いたいことはあるけれど、本人たちを追い返しちまったので、ウネにとりあえず確認をしておく。

「ふむ、あまり表立って作らないのなら構わないぞ。ただでさえ緑精の広葉と赤霊草ですら貴重品なんだ。それより上物ともなれば、どんな連中がやって来るか分からないからな」

「分かったのー」

 ウネは返事をするとゆっくりと歩いていく。

「彼女は何者なんですか?」

「ドライアドって種族のウネだよ。名前のせいでアルラウネに間違われそうになるが、ドライアドだ」

「へぇ~、そうなんですね」

 デイジーは驚いたようにウネの姿をじっと眺めている。

「デイジーも何か必要なものがあったら、キリエかバフォメットを通してくれ。俺よりあの二人の方が詳しいから、大抵のことはすぐ判断が出るだろうからさ」

「分かりました。そうさせて頂きます」

 俺の言葉に、デイジーはこくりと頷いていた。
 本当はクルクーのところにも案内しようと思ったが、すっかり日が暮れてしまっていた。これは明日にした方がよさそうだな。
 クルクーのいる北西の庭園までは距離があるし、何が起こるか分かったもんじゃないからな。
 というわけで、ウネのいる庭園での話が一段落したことで、俺はデイジーを連れて城の中へと戻っていったのだった。
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