異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第207話 転生者、幼馴染みと口げんかをする

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 俺が自室で仕事をしていると、久しぶりにピエラが俺の部屋に姿を見せた。

「セイ。西方王国からダズーとコメの生産状況の連絡があったわよ」

「おう、ピエラ。悪いな、今は手が離せない。そこに分かりやすく置いておいてくれ」

 机に向かってしている作業の手を止めて、顔を上げてピエラに対応する。返事を終えると再び作業へと戻る。

「ずいぶんと書類が溜まっているわね。魔王領ってそんなに書類が溜まるほどの仕事ってあったっけ?」

 俺の不可解な状況に、ピエラは思わず疑問を口にしていしまっていた。
 まぁそうだよな。魔族って結構いい加減な仕事をするやつが多い。
 しかし、さすがに対人間の仕事にあたる宿場町や緩衝地帯ともなるとそういうわけにはいかない。
 俺のところに集まっている書類は、その多くはそういった町から集められたものとなる。
 ピエラが持ってきた書類もそういった類のものになるな。外交ではあるけれど。

「あら、きれいな花ね。これはどうしたの?」

 ピエラが部屋に置かれていた薔薇、ロズの鉢植えに気が付いた。

「ああ、気が付いたか。きれいだろう」

「ええ、そうね。だから、一体どうしてこれがここにあるのかしら」

 ちっ、流せなかったか。

「今、舌打ちをしたわね?」

「してねえよ。まあそのロズの鉢植えだけど、俺の部屋が殺風景だからってウネに作ってもらったんだ。これで少しは部屋も賑やかになっただろうよ」

「ふ~ん。ロズの花言葉は知ってるの?」

「知らないな。てか、そんなのあるのか」

「南方王国だけの話だけどね。いくつかの花にはこじつけに近い花言葉がついているのよ」

 そんなのがあったのか。前世でも花言葉ってのは聞いたことがあるけど、俺はほとんど気にしなかったな。
 ピエラがこんな風に言ってくるあたり、気になってくるじゃないか。
 そんなわけで、耐えるのも面倒になった俺は、ピエラにロズの花言葉を聞いてみることにした。

「なんだっていいでしょ。興味なさそうな反応しておいて、わざわざ聞いてくるわけ?」

「知ってるのか聞いてきたくせに、なんで答えないんだよ。俺は知らないから聞いているのに」

「もう……、セイの鈍感!」

 ピエラはかなり怒った状態で部屋を出て行ってしまった。

「一体何だったんだ?」

 ピエラの態度は気になるものの、今の俺は仕事の真っ最中。終わらせないことには今日の食事も厳しくなりそうなので、ひとまず仕事に集中することにした。

「はあ~……、ようやく終わったぁ……」

 外がすっかり暗くなりかけた頃、ようやく今日の分の仕事が終わった。
 まったく、なんでこういう日に限って仕事が多いんだよ。

「あ、すっかり忘れてた」

 俺は応接用のテーブルに置かれた書類に気が付く。
 これは、昼にピエラがやってきた際に置いていった書類だ。確か、ダズーとコメの生産量の話だったっけか。
 俺は手に取って中身を確認する。

「おお、結構な量が生産されているんだな。でも、西方王国の大きさを考えると、これで足りてるのかどうかわからんな……」

 書類をじっと眺めながら、俺はうーんと唸っている。

「これは一度、マネケンと話を詰めてみるか。西方王国の事情に疎すぎるんじゃ、向こうの国の民を苦しめてしまいそうだ」

 そう結論付けて、俺は書類をテーブルに置いた。
 タイミングよく扉を叩く音が響き渡る。

「魔王様、お食事の時間でございます」

「おう、すぐ準備する」

 やって来たのはキリエのようだ。夕食を食べる時間になったらしく、俺を呼びに来たようだった。
 食堂に向けて移動している時に、俺はキリエにちょっと質問をぶつけてみた。

「なあ、キリエって花言葉っていうのは知ってるか?」

「花言葉でございますか。はい、それが何か?」

 この反応は知っているらしい。

「いや、ロズの鉢植えをウネに作ってもらったんだが、それを見たピエラが機嫌を悪くしちまってな。理由が知りたいんだよ」

「ああ、なるほどですね。ウネには深い意味はないと思いますが、なまじ花言葉を知っているだけに、ピエラは誤解してしまったようですね」

「ああ、ウネのやつは『魔王様にお似合いなのー』って言ってただけだったよ」

「でしょうね」

 話を聞いたキリエが額に手を当ててため息をついていた。

「ロズ、特に赤いロズの花言葉は、一般的に『たくさんの愛情』という意味を持っております。つまり、それをたくさん贈るということは、それだけ深い愛情を持っているという風に捉える人がいるのですよ」

「……なるほど、ピエラはなまじ持っていた知識のせいで勘違いをした……と」

「そういうことですね。……食事の席で顔を合わせますので、ご説明なさって誤解を解かれてはいかがでしょうか」

「ああ、そうだな。このまま気まずいのもやってられないしなぁ」

 俺は腕を組んで頭を捻った。

「ありがとうな、キリエ。仲直り、頑張ってみるよ」

「いえ、お役に立てて光栄でございます」

 キリエと話をして、俺は気持ちがだいぶ楽になった。
 ひとまずピエラとの気まずさを解消するために、気合いを入れて食堂へ向かった。
 だが、俺は気が付いていなかった。この時のキリエはずいぶんと嬉しそうに笑っていたことに。
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