207 / 431
第一章 大陸編
第207話 転生者、幼馴染みと口げんかをする
しおりを挟む
俺が自室で仕事をしていると、久しぶりにピエラが俺の部屋に姿を見せた。
「セイ。西方王国からダズーとコメの生産状況の連絡があったわよ」
「おう、ピエラ。悪いな、今は手が離せない。そこに分かりやすく置いておいてくれ」
机に向かってしている作業の手を止めて、顔を上げてピエラに対応する。返事を終えると再び作業へと戻る。
「ずいぶんと書類が溜まっているわね。魔王領ってそんなに書類が溜まるほどの仕事ってあったっけ?」
俺の不可解な状況に、ピエラは思わず疑問を口にしていしまっていた。
まぁそうだよな。魔族って結構いい加減な仕事をするやつが多い。
しかし、さすがに対人間の仕事にあたる宿場町や緩衝地帯ともなるとそういうわけにはいかない。
俺のところに集まっている書類は、その多くはそういった町から集められたものとなる。
ピエラが持ってきた書類もそういった類のものになるな。外交ではあるけれど。
「あら、きれいな花ね。これはどうしたの?」
ピエラが部屋に置かれていた薔薇、ロズの鉢植えに気が付いた。
「ああ、気が付いたか。きれいだろう」
「ええ、そうね。だから、一体どうしてこれがここにあるのかしら」
ちっ、流せなかったか。
「今、舌打ちをしたわね?」
「してねえよ。まあそのロズの鉢植えだけど、俺の部屋が殺風景だからってウネに作ってもらったんだ。これで少しは部屋も賑やかになっただろうよ」
「ふ~ん。ロズの花言葉は知ってるの?」
「知らないな。てか、そんなのあるのか」
「南方王国だけの話だけどね。いくつかの花にはこじつけに近い花言葉がついているのよ」
そんなのがあったのか。前世でも花言葉ってのは聞いたことがあるけど、俺はほとんど気にしなかったな。
ピエラがこんな風に言ってくるあたり、気になってくるじゃないか。
そんなわけで、耐えるのも面倒になった俺は、ピエラにロズの花言葉を聞いてみることにした。
「なんだっていいでしょ。興味なさそうな反応しておいて、わざわざ聞いてくるわけ?」
「知ってるのか聞いてきたくせに、なんで答えないんだよ。俺は知らないから聞いているのに」
「もう……、セイの鈍感!」
ピエラはかなり怒った状態で部屋を出て行ってしまった。
「一体何だったんだ?」
ピエラの態度は気になるものの、今の俺は仕事の真っ最中。終わらせないことには今日の食事も厳しくなりそうなので、ひとまず仕事に集中することにした。
「はあ~……、ようやく終わったぁ……」
外がすっかり暗くなりかけた頃、ようやく今日の分の仕事が終わった。
まったく、なんでこういう日に限って仕事が多いんだよ。
「あ、すっかり忘れてた」
俺は応接用のテーブルに置かれた書類に気が付く。
これは、昼にピエラがやってきた際に置いていった書類だ。確か、ダズーとコメの生産量の話だったっけか。
俺は手に取って中身を確認する。
「おお、結構な量が生産されているんだな。でも、西方王国の大きさを考えると、これで足りてるのかどうかわからんな……」
書類をじっと眺めながら、俺はうーんと唸っている。
「これは一度、マネケンと話を詰めてみるか。西方王国の事情に疎すぎるんじゃ、向こうの国の民を苦しめてしまいそうだ」
そう結論付けて、俺は書類をテーブルに置いた。
タイミングよく扉を叩く音が響き渡る。
「魔王様、お食事の時間でございます」
「おう、すぐ準備する」
やって来たのはキリエのようだ。夕食を食べる時間になったらしく、俺を呼びに来たようだった。
食堂に向けて移動している時に、俺はキリエにちょっと質問をぶつけてみた。
「なあ、キリエって花言葉っていうのは知ってるか?」
「花言葉でございますか。はい、それが何か?」
この反応は知っているらしい。
「いや、ロズの鉢植えをウネに作ってもらったんだが、それを見たピエラが機嫌を悪くしちまってな。理由が知りたいんだよ」
「ああ、なるほどですね。ウネには深い意味はないと思いますが、なまじ花言葉を知っているだけに、ピエラは誤解してしまったようですね」
「ああ、ウネのやつは『魔王様にお似合いなのー』って言ってただけだったよ」
「でしょうね」
話を聞いたキリエが額に手を当ててため息をついていた。
「ロズ、特に赤いロズの花言葉は、一般的に『たくさんの愛情』という意味を持っております。つまり、それをたくさん贈るということは、それだけ深い愛情を持っているという風に捉える人がいるのですよ」
「……なるほど、ピエラはなまじ持っていた知識のせいで勘違いをした……と」
「そういうことですね。……食事の席で顔を合わせますので、ご説明なさって誤解を解かれてはいかがでしょうか」
「ああ、そうだな。このまま気まずいのもやってられないしなぁ」
俺は腕を組んで頭を捻った。
「ありがとうな、キリエ。仲直り、頑張ってみるよ」
「いえ、お役に立てて光栄でございます」
キリエと話をして、俺は気持ちがだいぶ楽になった。
ひとまずピエラとの気まずさを解消するために、気合いを入れて食堂へ向かった。
だが、俺は気が付いていなかった。この時のキリエはずいぶんと嬉しそうに笑っていたことに。
「セイ。西方王国からダズーとコメの生産状況の連絡があったわよ」
「おう、ピエラ。悪いな、今は手が離せない。そこに分かりやすく置いておいてくれ」
机に向かってしている作業の手を止めて、顔を上げてピエラに対応する。返事を終えると再び作業へと戻る。
「ずいぶんと書類が溜まっているわね。魔王領ってそんなに書類が溜まるほどの仕事ってあったっけ?」
俺の不可解な状況に、ピエラは思わず疑問を口にしていしまっていた。
まぁそうだよな。魔族って結構いい加減な仕事をするやつが多い。
しかし、さすがに対人間の仕事にあたる宿場町や緩衝地帯ともなるとそういうわけにはいかない。
俺のところに集まっている書類は、その多くはそういった町から集められたものとなる。
ピエラが持ってきた書類もそういった類のものになるな。外交ではあるけれど。
「あら、きれいな花ね。これはどうしたの?」
ピエラが部屋に置かれていた薔薇、ロズの鉢植えに気が付いた。
「ああ、気が付いたか。きれいだろう」
「ええ、そうね。だから、一体どうしてこれがここにあるのかしら」
ちっ、流せなかったか。
「今、舌打ちをしたわね?」
「してねえよ。まあそのロズの鉢植えだけど、俺の部屋が殺風景だからってウネに作ってもらったんだ。これで少しは部屋も賑やかになっただろうよ」
「ふ~ん。ロズの花言葉は知ってるの?」
「知らないな。てか、そんなのあるのか」
「南方王国だけの話だけどね。いくつかの花にはこじつけに近い花言葉がついているのよ」
そんなのがあったのか。前世でも花言葉ってのは聞いたことがあるけど、俺はほとんど気にしなかったな。
ピエラがこんな風に言ってくるあたり、気になってくるじゃないか。
そんなわけで、耐えるのも面倒になった俺は、ピエラにロズの花言葉を聞いてみることにした。
「なんだっていいでしょ。興味なさそうな反応しておいて、わざわざ聞いてくるわけ?」
「知ってるのか聞いてきたくせに、なんで答えないんだよ。俺は知らないから聞いているのに」
「もう……、セイの鈍感!」
ピエラはかなり怒った状態で部屋を出て行ってしまった。
「一体何だったんだ?」
ピエラの態度は気になるものの、今の俺は仕事の真っ最中。終わらせないことには今日の食事も厳しくなりそうなので、ひとまず仕事に集中することにした。
「はあ~……、ようやく終わったぁ……」
外がすっかり暗くなりかけた頃、ようやく今日の分の仕事が終わった。
まったく、なんでこういう日に限って仕事が多いんだよ。
「あ、すっかり忘れてた」
俺は応接用のテーブルに置かれた書類に気が付く。
これは、昼にピエラがやってきた際に置いていった書類だ。確か、ダズーとコメの生産量の話だったっけか。
俺は手に取って中身を確認する。
「おお、結構な量が生産されているんだな。でも、西方王国の大きさを考えると、これで足りてるのかどうかわからんな……」
書類をじっと眺めながら、俺はうーんと唸っている。
「これは一度、マネケンと話を詰めてみるか。西方王国の事情に疎すぎるんじゃ、向こうの国の民を苦しめてしまいそうだ」
そう結論付けて、俺は書類をテーブルに置いた。
タイミングよく扉を叩く音が響き渡る。
「魔王様、お食事の時間でございます」
「おう、すぐ準備する」
やって来たのはキリエのようだ。夕食を食べる時間になったらしく、俺を呼びに来たようだった。
食堂に向けて移動している時に、俺はキリエにちょっと質問をぶつけてみた。
「なあ、キリエって花言葉っていうのは知ってるか?」
「花言葉でございますか。はい、それが何か?」
この反応は知っているらしい。
「いや、ロズの鉢植えをウネに作ってもらったんだが、それを見たピエラが機嫌を悪くしちまってな。理由が知りたいんだよ」
「ああ、なるほどですね。ウネには深い意味はないと思いますが、なまじ花言葉を知っているだけに、ピエラは誤解してしまったようですね」
「ああ、ウネのやつは『魔王様にお似合いなのー』って言ってただけだったよ」
「でしょうね」
話を聞いたキリエが額に手を当ててため息をついていた。
「ロズ、特に赤いロズの花言葉は、一般的に『たくさんの愛情』という意味を持っております。つまり、それをたくさん贈るということは、それだけ深い愛情を持っているという風に捉える人がいるのですよ」
「……なるほど、ピエラはなまじ持っていた知識のせいで勘違いをした……と」
「そういうことですね。……食事の席で顔を合わせますので、ご説明なさって誤解を解かれてはいかがでしょうか」
「ああ、そうだな。このまま気まずいのもやってられないしなぁ」
俺は腕を組んで頭を捻った。
「ありがとうな、キリエ。仲直り、頑張ってみるよ」
「いえ、お役に立てて光栄でございます」
キリエと話をして、俺は気持ちがだいぶ楽になった。
ひとまずピエラとの気まずさを解消するために、気合いを入れて食堂へ向かった。
だが、俺は気が付いていなかった。この時のキリエはずいぶんと嬉しそうに笑っていたことに。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる