異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第213話 転生者、方針を変更する

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「水中で息をする方法?」

 翌日、俺はウネのところを訪れていた。水中を調査する上で必要なことだから。
 そりゃ、マーマンたちで済ませられるなら、それに越したことはない。だが、デザストレも俺と一緒でなければ見えなかった木の件がある。となると、俺が直接行かないと発見できない可能性が十分に高いというわけだ。
 なので、俺でも水中で活動するだけの方法が欲しいってわけだ。
 風魔法や水魔法を使えば、水中でも活動はできるだろう。しかし、呼吸だけはどうしても解決できない問題だった。肺呼吸であれば水中から酸素を取り入れることはほぼ無理だろうからな。

「ああ、ウネは何か知らないか」

「知ってるのよー。これがそうなのー」

 ウネは手を広げるが、そこには何もなかった。

「うん? 何もないぞ」

 次の瞬間、ウネがぐぐぐっと力を込める。
 驚いたことに、ウネの手からにょきにょきと草が生え始めた。どうやら力を使ったようだった。

「これがその植物なのー。ちょっと透けている感じがこの植物の特徴なのー」

「へえ、そうなんだ」

 俺はウネの手の上にある植物をじろじろと見ている。

「魔王様、どうしてこれが必要?」

 きょとんとした表情で俺をじっと見つめてくる。ウネはドライアドの中でも結構まるまるとした目をしているので、その目で長く見つめられているとなんだか悪いことをしている気持になってくる。
 なので、俺は理由をウネに長々と説明する。

「……というわけなんだ。数を用意することはできるかな」

「分かったのー。わちにお任せなのー」

 俺が頼むと、ウネはやる気を見せていた。
 どことなくのほほんとした感じのウネではあるけれど、やる時はきっちりやってくれるので期待というものである。
 ウネと話をし終わると、俺は薬師たちの様子も見にいった。ウネが大量に薬草を作っているということもあるので、きっと薬師たちもいろいろ薬を作っているだろうと思ったからだ。
 それに、結構ほったらかしだからな。魔王城の主として時々様子を見て叱咤激励をしてやらないとな。
 そう思って薬師の研究室へ顔を出すと、相変わらず忙しそうな感じでバタバタとしていた。思ったよりポーションが売れているらしいから、作成に忙しいようだ。
 でも、ポーションを使う状況ってあるのかと思うんだよな。東方帝国を除く隣国とは和解してるんだしな。

「おう、今日も忙しそうだな」

「ああ、魔王様」

「お久しぶりです。お出迎えできずに申し訳ございません」

「いや、別にそれはいいんだ。いきなり来て悪かったな」

 俺が顔を見せると、薬師たちはバタバタと慌てていた。
 この様子では本当に忙しそうだ。邪魔になりそうなら立ち去るべきだろうかな。

「やけに忙しそうだな。ポーションってそんなに売れてるのか?」

「はい。おかげさまでかなりの数の注文が来ております」

「ウネさんのおかげで材料は足りているのですが、注文量が多くて間に合わないんですよね」

「なんだって、そんなに注文が来ているんだ?」

 不思議でならなかった。先日の視察で回った時もこれといって問題になりそうな状況はなかったからな。

「ご注文の書類にはこう書いてあったんです。東方帝国との緊張が高まっている。念のためにポーションを多めに用意してほしい、と」

「なるほど……。ということは南方王国か。視察に行った時に、わざわざ国境付近を避けるように案内してもらったからな」

「はい、その通りです。東方帝国からは、牽制のようによく攻撃が飛んできますので、東側の地帯では常に緊張を強いられているんですよ」

 薬師たちからはそのような答えが返ってきた。
 これは俺の知らない事情だな。

「なるほど、そんな事情があったのか」

「はい。そのためにあの辺りの警備を行う騎士や兵士たちはケガが絶えませんでね。それでポーションを大量に必要にしているのです」

「やり返さないんだな」

「今までは対魔族ということで、あまり荒立てたくないという立場でしたからね」

「だが、魔族との和解が成立した今、このままでは東方帝国との間で戦争ということも十分ありうる。ポーションを大量に欲しがる背景にはそういう事情もあるんだ」

 男性薬師の言葉で、俺はしっかりと理解できた。
 こうなってくると、水中調査よりも先に、残る東方帝国をどうにかしなきゃいけないようだな。
 東方帝国に対しては、北方聖国も手を焼いているようだしな。
 俺は決意をすると薬師たちに挨拶をして部屋に戻る。

「コモヤ、ちょっといいか?」

「はっ、魔王様。ここにおります」

 名前を呼ぶと、どこからともなくコモヤが現れる。さすが忍びだな。

「東方帝国の情報が欲しいんだ。どうも国境が騒がしいみたいだからな。俺は魔王領の東に向かって調べるから、コモヤは内部への潜入を試みてくれ」

「承知致しました。いよいよ大陸統一でございますか?」

「いやあ……。面倒事をなくしておきたいだけだよ。俺としてはやりたいことがあるんだが、問題を放置したまま行くほどの神経は持ち合わせていないからな」

 俺が苦笑いをしていると、コモヤが珍しく笑っていた。

「そんな魔王様だからこそ、うちも頑張れるんです。では、早速行ってまいります」

「ああ、頼んだぞ。報告は俺が難しいようだったらキリエに行ってくれ」

「承知致しました」

 コモヤはそう言い残すと姿を消した。
 一人になった俺は、椅子に深く腰掛けて外を見る。
 こうして、図らずも大陸のすべての国との和平に向けて動き出すことになったのだった。
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