異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第227話 転生者、エイミーを軽くあしらう

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「ぜはーぜはー……。ひ、人使いが荒いにゃ……」

 俺たちはあっという間に魔王城に戻ってきていた。
 エイミーの本来の姿は大きな猫。その背中に乗って走ってきたのだ。
 全力疾走をさせたので、エイミーは息切れをしている。

「悪かったな。これでも飲んでくれ」

 俺はデザストレのうろこの中にしまってあったミルクを引っ張り出す。西方王国で購入してきたやつだ。

「げっ、あいつのうろこなのにゃ。そんなのを使っているなんて信じられないにゃ」

「そんなこと言ってもな。これのおかげで荷物が軽くて済むんだぜ? あいつ、宝物を溜め込む癖があるらしくてな。それの保持のためにこんな能力が持つまでになったらしい」

「厄災め、信じられないにゃ……」

 俺の話を聞いて、エイミーはドン引きしていた。
 俺がエイミーの対応をしている間、キリエはウネを呼びに行っている。
 さすがに場所が遠いので戻ってくるまでに時間がかかっているようだが、その前に面倒なやつがやって来た。

「おい待て、なぜ調和がこんなところにいるんだ!」

 いわずもがな、デザストレだ。
 かつては厄災と呼ばれていた黒いドラゴンだ。今は俺に負けた関係で配下の一人にはなってるが、それでも俺に逆らおうとする唯一の存在でもある。

「うるさいのにゃ、厄災。私は、魔王に頼まれてやむなくやって来たのにゃ」

「なんだと?! にしても、相変わらず気持ち悪い語尾だな」

「うるさいにゃ!!」

 会った早々、予想通りのケンカが始まった。
 とはいえ、暴れさせるわけにはいかないな。真横には魔王城があるんだし、俺には魔王としての役目がある。

「はいはい、やめろ。俺の居城で暴れさせやしないぞ」

「ぐっ……」

 俺が止めれば、デザストレはおとなしく引き下がる。
 なにせ、俺には散々こてんぱんにされてるからな。あいつの頭には、俺には敵わないということがしっかりと刻まれてるからな。

「なんなのにゃ。いつからそんなへっぴり腰になったのにゃ」

「うるさい。お前はあいつにこてんぱんにされたことがないからそういえるだけだ。思い出しただけでも寒気がするぜ」

 エイミーの挑発には簡単に乗らないデザストレである。うん、よっぽど骨身にしみてるんだな。
 俺はにこにこと一緒に引っ張り出した大皿にミルクを注いでる。

「とりあえず、叫ぶのはそれくらいにしておけ。ほら、西方王国のミルクだぞ」

「そ、そんなものに釣られ……」

 俺がミルクを差し出すと、エイミーがひげをぴくぴくとさせている。
 のどが渇いていることもあって、エイミーは我慢できずにミルクを一口なめる。

「こ、これはっ!」

 全身の毛がピリピリと逆立っている。どうやら電流が走ったような状態になっているらしい。

「う、うまいのにゃ。ぺろぺろ……」

 一心不乱にミルクを飲んでいる。
 あまりの可愛らしさに、俺はついにやにやとしながらその姿を見つめていた。
 俺がエイミーをじっと見ていると、ウネを連れたキリエが戻ってきた。

「魔王様、お帰りなのー」

「おう、ウネ。来てくれたか」

「わちも魔王様の部下なのー。ご用があればそれに応えるのー」

 ウネは相変わらずマイペースなようだ。のほほんとした顔で左手を上げながら、俺にそう話しかけている。

「キリエ、ウネが不在の間のことは話をしてきてくれたか?」

「いえ、私が話をするまでもありませんでした。薬師の皆さんが世話をなさってくれるようです」

 キリエからはこう返ってくる。さすがは参謀、かゆいところにも手が届く働きだぜ。
 魔王城の庭園のことは問題なさそうなので、俺はミルクを飲んでいるエイミーに話し掛ける。

「エイミー、ちょっといいか?」

「なんなのにゃ」

 閉じていた目を片方だけ開けながら、不機嫌そうな反応が返ってくる。

「紹介するよ。こいつが食糧事情を解決してくれる魔族、ドライアドのウネだ」

「よろしくなのよー」

 俺が紹介すると、にこにこといつも通りの笑顔を見せながらウネが挨拶をしている。
 ところが、エイミーはあまり興味なさそうである。ミルクを飲むのに必死なのかもしれない。

「おい、調和。ちっとは反応したらどうなんだ!」

 俺は怒っていないのに、デザストレが怒鳴りつけている。
 国境で魔法攻撃を食らっていた時から思っていたが、こいつら、本当に仲が悪いんだな。

「うるさいにゃ。私は腹ペコなのにゃ。陛下の命令があるから、仕方なく受け入れてやるにゃ」

 簡単に答えた後、エイミーはひたすらミルクを飲み続けていた。しょせん猫は猫なんだな。
 俺たちはエイミーがミルクを飲み終わるのをただ待つわけにもいかないので、その横で俺が不在だった時の魔王城や魔王領の様子を報告してもらった。
 その際に呼ばれたカスミが、居座っていたでかい猫であるエイミーに驚いたのはいうまでもない。
 ただ、ピエラがここにいなくてよかったと思う。あいつは筋金入りのもふ好きだからな。
 ちなみにエイミーがミルクを飲み終えたのはかなりあとで、その時には俺たちは十分に話を終えられるくらいだった。
 ミルクを飲み終えたエイミーは眠ろうとするが、俺がそれを許すわけがない。すぐさま帝国へ向けてとんぼ返りとなったのだった。

「寝かせるにゃーっ!」

 エイミーの声がむなしくこだましたのだった。
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