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第一章 大陸編
第287話 転生者、スコールと会談をする
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数日後、魔王城に見たことのある人物が尋ねてきた。
「魔王様、こちらではお初にお目にかかります。緩衝地帯領主スコールでございます」
そう、聖国との緩衝地帯の街を納めるスコールだった。
街道が正式開通したとあって、俺へ報告にやって来たらしい。
「そうか、ついにできたんだな、聖国とを結ぶ街道が」
「はい。さすがは自慢の魔王軍土木班。仕事の速さと丁寧さは誰にも負けないと自負できます」
「だなぁ。俺も作業を目の前で見てきたことがあるが、切り開いてから平らになるまでが本当に早かった。どこに出しても自慢できるほどだよな」
「いやはやまったくです」
俺とスコールはおかしくてしばらく笑い合っていた。
「それで、ここまで来た理由を教えてもらおうか」
「まぁ街道の完成報告がメインなのですがね。魔王様がご質問をなされるのでしたら、分かる範囲でお答えしましょう」
「よし分かった」
というわけで、俺はしばらくの間、スコールと一緒にしばらく話し込んでいた。
聞けば、緩衝地帯にいるクルクーの数は順調に増えているらしく、このままいけば羽毛布団の羽も十分量が手に入るようになるらしい。
ただ、入れるための布地は相変わらずアラクネからの納入待ちという状況には変わりはない。アラクネも基本的には外に出ていかない種族だからな。クローゼが特異過ぎんだよ。
まあ、その妹のニーナもすっかり魔王城の中じゃ馴染んでしまってるがな。
「とりあえず、緩衝地帯を任されているフラウゼル伯爵とも良好な関係を築いています。ただ、結界があるために私たちは聖国の中には入れませんけれどね」
「まあ、そればかりは仕方ないな。あそこに入れる魔族は、俺とキリエとコモヤとデザストレの四人だけだ。拒まれている感じを受けるのは仕方がないが、今までの歴史を考えるとそう簡単にはいかないだろうな」
「ええ、ですから私たちも我慢ができるというものですよ。相手の警戒を解かせようというのなら、私たちもそれなりの努力をしなければなりませんからね」
スコールの中では、聖国との現状についてはこれといった不満はないようだった。他の魔族たちがどうかは知らないが、スコールとリールならどうにかやっていけるだろう。魔族っていうのは基本的には実力主義だからな。
しばらくスコールと対談をしていると、扉が不意に叩かれる。
「魔王様、カスミです。お食事の準備ができたとのことです」
「そうか。すぐ向かうから用意をしてもらってくれ」
「承知致しました」
俺が返事をすると、カスミはおとなしく下がっていく。
最初の頃は憎まれ口ばかりを叩くツンデレだと思ってたが、最近はすっかりおとなしくなった気がする。それはそれでなんだか寂しく思うな。
思うところはあるが、俺はスコールを連れて食堂へと向かった。
「何気に、魔王城での食事は初めてかもしれませんな」
「そうなのか。土木班にいるっていうから、てっきり魔王城でも食事をしたことあると思ってたんだが」
「私は純魔族ですので、基本的にはあちらにいましたね。必要な時だけ出てくるっていうやつです」
「そういうものなのか」
スコールの話す内容に、どことなく納得がいったような気がする。
魔族というのは実力主義に加えて、派閥っていうのもかなり大事にする。中でも純魔族は特にプライドが高い。参謀をやっているキリエやその姉妹ならまだしも、使いっ走りみたいな職にある魔族は特に許せなかっただろうからな。以前のヒョウムなら十分あり得る話だ。
「だったら、今日は魔王城の料理を堪能していってくれ。俺が手を加えてからというもの、見た目も味もずいぶんと様変わりしたからな」
「それは楽しみでございます。このスコール、感無量でございます」
「いや、気持ちは分かるがそこまでかな……」
ちょっと大げさに感じた俺は、困り顔になってしまった。
食堂に運ばれてきた料理を前に、スコールはかなり感激したようだった。
俺が言っていた通りに見た目も味もそれは味わったことのないものばかりだからな。
とはいえ、緩衝地帯ではクルクーの卵と砂糖が手に入る。小麦粉も近くで採れるから、一部の料理は緩衝地帯でも再現可能なんだよな。
スコールに教えれば、フラウゼル伯爵にも伝わるだろうし、うまくいけばデイジーたちにも伝達されるだろう。
そう考えた俺は、一部のレシピをスコールに持たせて帰ることにした。
この世界じゃレシピは貴重だし、高額取引されることもあるらしい。そんなものをほいほいと手渡すものだから、スコールがものすごく感動していたのは印象的だったな。
「これで、南方王国、西方王国、北方聖国と魔王城が街道で結ばれた。残すは東方帝国だけか」
スコールとの会食を済ませた俺は、自室に戻っていろいろと考えていた。
敵対関係という形ですべての中心にあった魔王城が、人間たちの懸け橋としてその役割を変えつつある。
この大陸に存在する人間の四つの国のうち、三つが魔王城を中心としてつながった。ある意味大陸統一が叶いつつあるというわけだ。
「一度、様子を確認しに東方帝国に向かうべきかな。大陸の外も気になるけど、やはり大陸の安定を成し遂げてからの方が安心していけるだろうしな」
そうと決まれば、そこからの行動は早かった。
明日にはスコールが緩衝地帯に戻っていくので、その後に俺たちも発つことにしよう。
思い立ったが吉日ということで、俺はすぐさまキリエを呼んで相談をする。
渋々という感じではあったものの、キリエの了承を得られた俺は、東方帝国に向かうことを決めたのだった。
「魔王様、こちらではお初にお目にかかります。緩衝地帯領主スコールでございます」
そう、聖国との緩衝地帯の街を納めるスコールだった。
街道が正式開通したとあって、俺へ報告にやって来たらしい。
「そうか、ついにできたんだな、聖国とを結ぶ街道が」
「はい。さすがは自慢の魔王軍土木班。仕事の速さと丁寧さは誰にも負けないと自負できます」
「だなぁ。俺も作業を目の前で見てきたことがあるが、切り開いてから平らになるまでが本当に早かった。どこに出しても自慢できるほどだよな」
「いやはやまったくです」
俺とスコールはおかしくてしばらく笑い合っていた。
「それで、ここまで来た理由を教えてもらおうか」
「まぁ街道の完成報告がメインなのですがね。魔王様がご質問をなされるのでしたら、分かる範囲でお答えしましょう」
「よし分かった」
というわけで、俺はしばらくの間、スコールと一緒にしばらく話し込んでいた。
聞けば、緩衝地帯にいるクルクーの数は順調に増えているらしく、このままいけば羽毛布団の羽も十分量が手に入るようになるらしい。
ただ、入れるための布地は相変わらずアラクネからの納入待ちという状況には変わりはない。アラクネも基本的には外に出ていかない種族だからな。クローゼが特異過ぎんだよ。
まあ、その妹のニーナもすっかり魔王城の中じゃ馴染んでしまってるがな。
「とりあえず、緩衝地帯を任されているフラウゼル伯爵とも良好な関係を築いています。ただ、結界があるために私たちは聖国の中には入れませんけれどね」
「まあ、そればかりは仕方ないな。あそこに入れる魔族は、俺とキリエとコモヤとデザストレの四人だけだ。拒まれている感じを受けるのは仕方がないが、今までの歴史を考えるとそう簡単にはいかないだろうな」
「ええ、ですから私たちも我慢ができるというものですよ。相手の警戒を解かせようというのなら、私たちもそれなりの努力をしなければなりませんからね」
スコールの中では、聖国との現状についてはこれといった不満はないようだった。他の魔族たちがどうかは知らないが、スコールとリールならどうにかやっていけるだろう。魔族っていうのは基本的には実力主義だからな。
しばらくスコールと対談をしていると、扉が不意に叩かれる。
「魔王様、カスミです。お食事の準備ができたとのことです」
「そうか。すぐ向かうから用意をしてもらってくれ」
「承知致しました」
俺が返事をすると、カスミはおとなしく下がっていく。
最初の頃は憎まれ口ばかりを叩くツンデレだと思ってたが、最近はすっかりおとなしくなった気がする。それはそれでなんだか寂しく思うな。
思うところはあるが、俺はスコールを連れて食堂へと向かった。
「何気に、魔王城での食事は初めてかもしれませんな」
「そうなのか。土木班にいるっていうから、てっきり魔王城でも食事をしたことあると思ってたんだが」
「私は純魔族ですので、基本的にはあちらにいましたね。必要な時だけ出てくるっていうやつです」
「そういうものなのか」
スコールの話す内容に、どことなく納得がいったような気がする。
魔族というのは実力主義に加えて、派閥っていうのもかなり大事にする。中でも純魔族は特にプライドが高い。参謀をやっているキリエやその姉妹ならまだしも、使いっ走りみたいな職にある魔族は特に許せなかっただろうからな。以前のヒョウムなら十分あり得る話だ。
「だったら、今日は魔王城の料理を堪能していってくれ。俺が手を加えてからというもの、見た目も味もずいぶんと様変わりしたからな」
「それは楽しみでございます。このスコール、感無量でございます」
「いや、気持ちは分かるがそこまでかな……」
ちょっと大げさに感じた俺は、困り顔になってしまった。
食堂に運ばれてきた料理を前に、スコールはかなり感激したようだった。
俺が言っていた通りに見た目も味もそれは味わったことのないものばかりだからな。
とはいえ、緩衝地帯ではクルクーの卵と砂糖が手に入る。小麦粉も近くで採れるから、一部の料理は緩衝地帯でも再現可能なんだよな。
スコールに教えれば、フラウゼル伯爵にも伝わるだろうし、うまくいけばデイジーたちにも伝達されるだろう。
そう考えた俺は、一部のレシピをスコールに持たせて帰ることにした。
この世界じゃレシピは貴重だし、高額取引されることもあるらしい。そんなものをほいほいと手渡すものだから、スコールがものすごく感動していたのは印象的だったな。
「これで、南方王国、西方王国、北方聖国と魔王城が街道で結ばれた。残すは東方帝国だけか」
スコールとの会食を済ませた俺は、自室に戻っていろいろと考えていた。
敵対関係という形ですべての中心にあった魔王城が、人間たちの懸け橋としてその役割を変えつつある。
この大陸に存在する人間の四つの国のうち、三つが魔王城を中心としてつながった。ある意味大陸統一が叶いつつあるというわけだ。
「一度、様子を確認しに東方帝国に向かうべきかな。大陸の外も気になるけど、やはり大陸の安定を成し遂げてからの方が安心していけるだろうしな」
そうと決まれば、そこからの行動は早かった。
明日にはスコールが緩衝地帯に戻っていくので、その後に俺たちも発つことにしよう。
思い立ったが吉日ということで、俺はすぐさまキリエを呼んで相談をする。
渋々という感じではあったものの、キリエの了承を得られた俺は、東方帝国に向かうことを決めたのだった。
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