異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第295話 転生者、皇帝の剣の腕を心配する

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 皇帝の部屋へと入っていく俺とキリエ。
 部屋の中では皇帝とエイミー、それとケンソウが一緒にくつろいでいたようだ。

「おお、魔王ではないか。どうしたというのだ」

 俺が入ってきたことで、皇帝は立ち上がって俺たちを迎えてくれる。
 普通は座したまま対応をするので、立ち上がるというだけでもかなり待遇がよいといえる。
 まあ、ここまでの付き合いを思えば、このくらいは普通かな。

「悪いな、陛下に聞きたいことがあってな。それで来たんだ」

「ほう、それは何かな?」

 俺が用件を伝えると、皇帝は目つきを鋭くしていた。
 これは間違いなく警戒しているようだ。勘は鋭そうだもんな。

「うん、ちょっと剣の打ち合いのことで引っ掛かったことがあったから確かめに来たんだよ」

「ほう、剣の打ち合いについてですか」

 なぜか皇帝ではなくケンソウが反応している。さすが将軍だな。こういうことには反応がいいものだ。
 でも、今話題にしたいものとは違う気がするので、ひとまずはケンソウのことは放っておく。

「ああ、俺とケンソウとの間で、陛下の実力がかなり違ってたと思ってな。もしかしたらと、俺とキリエの中でとある疑いが出てきたんだ」

「ほほう……、それはとても気になるな」

「私もですよ。ささっ、早く続きを」

「ケンソウ、落ち着くのだ」

「はっ、これは私としたことが……。おほん、失礼致しました」

 皇帝から咎められて、ケンソウは咳払いをひとつして再び直立の姿勢に戻る。
 まったく、戦いのこととなるとケンソウは気が逸るようだな。根っからの武人といったところなんだろうが、困ったものだ。

「他の兵士や魔族とやってみればもっとはっきりするんだろうが、俺とケンソウとの戦いの違いから推測できることがあったんだ」

 俺の隣ではキリエが大きく頷いている。

「それはどのようなことかな?」

 皇帝の目つきが鋭くなる。これで十一歳っていうんだから、とんでもなく本物だよな。まったく将来どんな大物になるのか楽しみなくらいだぜ。
 っと、意識が逸れかけたな。
 改めて、俺はキリエとアイコンタクトを取る。キリエの目は俺に譲るといっているようだったので、改めて俺は皇帝たちに向き合う。

「おそらく皇帝陛下は魔族に対して有利になる能力を持っていると思うんだ」

 俺がこう告げると、皇帝とケンソウは前のめりになり、エイミーは顔を押さえていた。
 エイミーの態度は気にはなったが、とりあえず今はエイミーのことは無視しておく。
 どうも最初から知っていたっぽい感じだからな、それは後で問い詰めることにしような。
 ということで、一瞬気が逸れたものの、俺は再び皇帝をじっと見る。

「それで、キリエと確認して至った結論が、皇帝陛下はおそらく勇者じゃないかと思われるんだ」

「勇者ですと?!」

 皇帝よりも先にケンソウが大声を出して驚いている。
 もう少し声を抑えてくれないかな。人に聞かれたくない内容なんだがな、これ。

「ケンソウ、お前はもう少し考えろ」

 すぐさま皇帝がケンソウを叱っていた。さすが皇帝、反応が早い。
 騒がしいケンソウをよそに、キリエが前に一歩歩み出てくる。

「勇者について、詳しくはこの私、キリエが説明致しましょう」

 さすが魔王軍の参謀、こういう時は頼りになる。メイド服を着てるんだが、すっかり雰囲気が参謀のものだ。
 キリエは早速、さっき俺にしていた説明を皇帝たちにもしている。
 皇帝たちはキリエの説明に、一生懸命聞き入っている。

「はあ、なんでばらしちゃったかにゃ……」

 キリエの説明中、エイミーが俺に近付いてきた。

「お前、やっぱり知ってたんだな」

「あったり前にゃ。私は混沌の使徒にゃ。ほとんどすべてのことはお見通しにゃよ」

 俺がボソッと愚痴るように言うと、エイミーは不機嫌そうにしながら言葉を返してきていた。
 デザストレと違って、エイミーは本当に優秀だな。

「でもさ、こうやって魔王である俺と和解してしまった以上、勇者ってそれほど必要なのか?」

「必要度が下がっただけにゃ。要らないというわけじゃないにゃ」

「そんなものかね」

 エイミーが即答してきたので、俺は適当に頷いておいた。

「ただにゃ、勇者というのは魔族や魔物だけに有効というのが問題なのにゃ」

「というと?」

「人間でも悪いのがいるのにゃ。特に今みたいに魔族と和解した時は、人間が今度は敵になるにゃ。今の帝国を見ればよく分かることにゃ」

「ああ、確かに」

 エイミーの言い分にかなり納得がいってしまう。
 皇帝派と反皇帝派に分かれている帝国の状態は、まさにエイミーが話した状態そのものだからだ。

「人間が相手となると、陛下の実力はへぼへぼにゃ。魔王相手じゃ勇者補正で実力以上に振るえてしまうから意味がないにゃ」

「実に難儀なものだな。というか、ケンソウ相手の戦いを見ていると、陛下の能力は俺よりもかなり下だ。育てるとなると、骨が折れそうな話だぞ」

「だにゃあ……」

 俺たちはキリエから説明を受けている皇帝をじっと見ている。
 勇者という響きに惹かれたのか、皇帝の目はキラキラと輝いているようだ。

「しゃーない。俺の伝手でも探して、南方王国から誰か連れてくるか。人間相手じゃないと意味がないんだろ?」

「その通りにゃ」

「ケンソウも他の兵士の相手で大変だしな。今回も一肌脱いでやるか」

「悪いのにゃ」

 俺とエイミーの話し合いで、皇帝のために剣の先生をつけることになった。
 さて、一体誰を連れてこようか悩むところだが、ひとまず心当たりのある人物に当たってみることにしようと思う。

 皇帝の育成計画が、ここに始まったのだった。
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