307 / 431
第一章 大陸編
第307話 転生者、参謀たちに事情を説明する
しおりを挟む
東方帝国に勇者がいる。これにはバフォメットとキリエが大声を出していた。
「それは真ですか、魔王様」
「あの皇帝以外にもまさかいるのですか、魔王様」
ただ、二人で質問内容が異なっていた。
バフォメットは勇者の存在すら知らなかったのに対し、キリエは一応皇帝がその疑いのある人物だと知っていたからな。
しかしだ。二人がとにかくさっきからうるさい。答えるよりも先に、まずは落ち着かせる方が先だろう。
「二人とも落ち着け、とりあえずちゃんと話すからさ」
俺は両手を前後に振りながら、まずは落ち着くように二人に仕向ける。
さすが二人とも意図をすぐに理解してくれたようで、椅子に腰かけて落ち着いていた。
本当に二人とも優秀で助かるというものだよ。
俺も椅子に座って三人でテーブルを囲むと、ゆっくりと事情の説明を始める。
「キリエ、勇者っていうのは東方帝国の現在の皇帝陛下一人だけだよ。いろいろ確認してみたけど間違いない」
俺が説明すれば、キリエはようやく落ち着いたようだった。
だが、何も知らないバフォメットの方が面倒だな。
勇者の存在は魔族に混乱をもたらすということで、俺とキリエの間で秘密にしておこうということになってたからな。
しかし、バフォメットも魔王軍の参謀である以上、話さないわけにはいかない。今後の戦略にも影響が大きいからな。
というわけで、俺はしっかりとバフォメットを見ながら、東方帝国のことについて話をした。
「そんなわけなんでな、俺と俺以外との戦いを比べてみるに、東方帝国の現在の皇帝は勇者である可能性が非常に高いんだ」
「なるほど、それは確かに疑いがあるというか、確定といっていいくらいですな」
俺の説明を聞き終えたバフォメットは非情に納得した様子を見せていた。
俺との打ち合いと、ケンソウやヨネスとの打ち合いを比べてみると、その違いは火を見るよりも明らかだ。
人間に対する技術の拙さは、本当に見るに耐えられないくらいのへたくそと言っていいレベルだ。
ところが、魔王である俺との打ち合いではまるっきり違う。まるで手練れでもあるかのように鋭い剣が飛んでくる。
対魔族特化の存在である勇者と見て、それは間違いないだろう。
ちなみにだが、勇者と聖者と聖女というのは魔族特化の肩書ということであまり違いはない。
男性で物理攻撃が得意なら勇者。男性で魔法が得意なら聖者、女性であれば得意を問わずに示すのが聖女というわけだ。
まったく、誰だよ、こんな意味不明な区分を作ったのは。どんな人物であれ、対魔族で強いのなら称号は一種類でいいじゃないか。
なんで得意なものや性別で言葉を分けたのか。昔の人間は分からないものだぜ。
「だけど、今の東方帝国の内情や、俺たち魔族との関係を考えるに、魔族特化の能力というのはあまりにも意味がない。それで、俺は南方王国の知り合いであるヨネスを、皇帝の剣の指南役として連れて行ったんだ」
「それはいい判断だと思われます。やはり、一国の主たるもの何かに秀でていなければなりません。惹かれるものがあるからこそ、人は付き従うのです」
バフォメットは俺の判断を支持してくれていた。
さすがは魔王軍の重鎮だな。きっちりとした判断をしてくれている。
「ふぅ、よかったと思いますよ。他にも勇者がいたのかと思って、つい焦ってしまいました」
早とちりをしたキリエがほっと胸を撫で下ろしていた。キリエでもこういうことがあるんだな。
キリエの安心した顔を見て、俺はつい笑顔になってしまう。
「……魔王様、私の顔に何かついていますか?」
「いや、キリエの珍しい姿が見れて面白かったなと思っただけさ」
「……まったく魔王様ってば。人をからかうのはやめて下さい」
キリエは頬を膨らませて横を向いてしまった。
「ははは、これは面白いですね。キリエとは長い付き合いですが、このような姿、わたくしめも初めて見ましたよ。これは実に興味深い」
俺どころかバフォメットまでもが笑い始める。それだけ希少な態度なんだな、今のキリエは。
とはいえ、さすがに笑い過ぎたせいでキリエがますますへそを曲げ始めていた。これはここでやめておいた方が賢明だろうな。
「悪かったなキリエ。ひとまず、東方帝国に対する次の手を考えようと思うんだ。相談に乗ってくれ」
「……分かりました。魔王様の御心のままに」
頭を下げたかいがあったのか、キリエはすぐさま態度を切り替えて俺と向かい合ってくれた。
俺たちが行った会議の中で、東方帝国の国境まで街道を整備するという方針が決定した。
これを受けて、すぐさまバフォメットは土木班に声をかけるべく部屋を出ていく。気が早いな。
「キリエ、土木班が作業に安心して集中できるように、警備兵の編成を頼む。東方王国はまだ情勢が不安定だ。万が一ってことがあり得るからな」
「承知致しました。直ちにヴォルフたちと相談して参ります」
キリエも部屋を出ていく。
気が付けば、バフォメットの部屋に俺一人でポツンといることになってしまった。
「うん、俺も次の手を考えるか」
いつまでも他人の部屋に居座っているわけにはいかないので、俺はそそくさと部屋を去っていった。
こうして、魔王城が周辺国の中心となるための計画の最終段階を迎えることになったのだった。
「それは真ですか、魔王様」
「あの皇帝以外にもまさかいるのですか、魔王様」
ただ、二人で質問内容が異なっていた。
バフォメットは勇者の存在すら知らなかったのに対し、キリエは一応皇帝がその疑いのある人物だと知っていたからな。
しかしだ。二人がとにかくさっきからうるさい。答えるよりも先に、まずは落ち着かせる方が先だろう。
「二人とも落ち着け、とりあえずちゃんと話すからさ」
俺は両手を前後に振りながら、まずは落ち着くように二人に仕向ける。
さすが二人とも意図をすぐに理解してくれたようで、椅子に腰かけて落ち着いていた。
本当に二人とも優秀で助かるというものだよ。
俺も椅子に座って三人でテーブルを囲むと、ゆっくりと事情の説明を始める。
「キリエ、勇者っていうのは東方帝国の現在の皇帝陛下一人だけだよ。いろいろ確認してみたけど間違いない」
俺が説明すれば、キリエはようやく落ち着いたようだった。
だが、何も知らないバフォメットの方が面倒だな。
勇者の存在は魔族に混乱をもたらすということで、俺とキリエの間で秘密にしておこうということになってたからな。
しかし、バフォメットも魔王軍の参謀である以上、話さないわけにはいかない。今後の戦略にも影響が大きいからな。
というわけで、俺はしっかりとバフォメットを見ながら、東方帝国のことについて話をした。
「そんなわけなんでな、俺と俺以外との戦いを比べてみるに、東方帝国の現在の皇帝は勇者である可能性が非常に高いんだ」
「なるほど、それは確かに疑いがあるというか、確定といっていいくらいですな」
俺の説明を聞き終えたバフォメットは非情に納得した様子を見せていた。
俺との打ち合いと、ケンソウやヨネスとの打ち合いを比べてみると、その違いは火を見るよりも明らかだ。
人間に対する技術の拙さは、本当に見るに耐えられないくらいのへたくそと言っていいレベルだ。
ところが、魔王である俺との打ち合いではまるっきり違う。まるで手練れでもあるかのように鋭い剣が飛んでくる。
対魔族特化の存在である勇者と見て、それは間違いないだろう。
ちなみにだが、勇者と聖者と聖女というのは魔族特化の肩書ということであまり違いはない。
男性で物理攻撃が得意なら勇者。男性で魔法が得意なら聖者、女性であれば得意を問わずに示すのが聖女というわけだ。
まったく、誰だよ、こんな意味不明な区分を作ったのは。どんな人物であれ、対魔族で強いのなら称号は一種類でいいじゃないか。
なんで得意なものや性別で言葉を分けたのか。昔の人間は分からないものだぜ。
「だけど、今の東方帝国の内情や、俺たち魔族との関係を考えるに、魔族特化の能力というのはあまりにも意味がない。それで、俺は南方王国の知り合いであるヨネスを、皇帝の剣の指南役として連れて行ったんだ」
「それはいい判断だと思われます。やはり、一国の主たるもの何かに秀でていなければなりません。惹かれるものがあるからこそ、人は付き従うのです」
バフォメットは俺の判断を支持してくれていた。
さすがは魔王軍の重鎮だな。きっちりとした判断をしてくれている。
「ふぅ、よかったと思いますよ。他にも勇者がいたのかと思って、つい焦ってしまいました」
早とちりをしたキリエがほっと胸を撫で下ろしていた。キリエでもこういうことがあるんだな。
キリエの安心した顔を見て、俺はつい笑顔になってしまう。
「……魔王様、私の顔に何かついていますか?」
「いや、キリエの珍しい姿が見れて面白かったなと思っただけさ」
「……まったく魔王様ってば。人をからかうのはやめて下さい」
キリエは頬を膨らませて横を向いてしまった。
「ははは、これは面白いですね。キリエとは長い付き合いですが、このような姿、わたくしめも初めて見ましたよ。これは実に興味深い」
俺どころかバフォメットまでもが笑い始める。それだけ希少な態度なんだな、今のキリエは。
とはいえ、さすがに笑い過ぎたせいでキリエがますますへそを曲げ始めていた。これはここでやめておいた方が賢明だろうな。
「悪かったなキリエ。ひとまず、東方帝国に対する次の手を考えようと思うんだ。相談に乗ってくれ」
「……分かりました。魔王様の御心のままに」
頭を下げたかいがあったのか、キリエはすぐさま態度を切り替えて俺と向かい合ってくれた。
俺たちが行った会議の中で、東方帝国の国境まで街道を整備するという方針が決定した。
これを受けて、すぐさまバフォメットは土木班に声をかけるべく部屋を出ていく。気が早いな。
「キリエ、土木班が作業に安心して集中できるように、警備兵の編成を頼む。東方王国はまだ情勢が不安定だ。万が一ってことがあり得るからな」
「承知致しました。直ちにヴォルフたちと相談して参ります」
キリエも部屋を出ていく。
気が付けば、バフォメットの部屋に俺一人でポツンといることになってしまった。
「うん、俺も次の手を考えるか」
いつまでも他人の部屋に居座っているわけにはいかないので、俺はそそくさと部屋を去っていった。
こうして、魔王城が周辺国の中心となるための計画の最終段階を迎えることになったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる