異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第二章 外側の世界

第354話 転生者、古の魔王と話をする

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 俺たちの目の前にいるのは、なんと外界の魔王だった。てか、まだ生きてたのか。

「魔王……。俺以外にも魔王がいたのか」

「ほう、そなたも魔王か。確かに、わしと同じ魔力を感じるな」

 ゆっくりとマーシャルが近付いてくる。

「近づくな!」

 俺は思わず叫んでしまう。

「なにゆえだ?」

 マーシャルが俺に問いかけてくる。

「今俺たちの周りには、外の世界の毒素が渦巻いているんだ。俺たちはレーヴェンの樹の種を飲み込んでいるから今は平気なんだが、種の効果は一年くらいしかもたないらしい」

「……ほう。それは興味深いな。だが、奴の毒素などわしにはまったく通じぬ。気にする必要などない」

 マーシャルはものすごく強気だった。
 でも、それは説得力のある話だ。地上が毒素に覆われた今もなお、この地下空間で一人で生きているのだから。まったくどうやって生きているのかが不思議なくらいだ。

「そういえば、外に比べてなんだか辺りの雰囲気が澄んでいるみたいなんだが、一体どうやってこの状態を?」

「その答えはこの奥にある。ついて来い」

 マーシャルが俺たちを案内しようとしている。
 初めての外での魔族だ。疑う余地はあるが、ここはおとなしくついて行くこととしよう。

 階段を下り終わって広いところで出会った魔王について行くと、再び下へと向かっていく階段が現れる。
 どれだけ深く潜っていくのだろうか。
 逆にいえば、このマーシャルは俺たちを出迎えにわざわざこの階段を上がって来たことになる。大したものだと思うぜ。
 だが、これだけの奥まった場所にいるからこそ、あの変態紳士たちの攻撃を受けずに済んでいたのだろう。

「これは、レーヴェン様でのものではないですが、同じような力を感じます」

「本当か、セイ太」

「はい。レーヴェン様でないとするならば、この力の主は……。光のリヒテル様」

「その通りじゃよ」

 マーシャルはぴたりと足を止めて、俺たちに対して振り返ってくる。

「うわぁ、光の女神さまの像です。聖都でもこれほどのものは見たことがありません」

 目の前に見えたものに対して、デイジーがものすごく反応している。

「神殿の中に飾られているあの彫像か。なんか見たことあると思ったぜ」

 確かに言われてみれば見覚えがあった。
 そう、聖王に会いに行って聖都の神殿に入った時に見かけた彫像だったのだ。だが、大きさがそれと比べても明らかにでかい。

「これが光を司るリヒテルの像だ。本人の話では、神ではないそうだ。女神と呼ばれることを恥ずかしがっておるだろうな」

「わわっ。ですが、とてもおそれ多いですので、やはり女神さまと呼ばせて頂きます」

 デイジーは慌てていたが、呼び方を訂正することはなかった。

「女神ではないということは、レーヴェンやリヒテルの上に、この世界の神がいるっていうわけか」

「その通りだ。わしがこうやって生きていられるのも、その神と使徒の手助けがあってのことだ。まったく、あれだけ昔は敵対しておったというのにな。くくく……」

 マーシャルは昔のことを思い出して笑っているようだ。
 この話は、魔王を倒したり、務めたりしている俺にはよく分かるというものだ。

「おそらく、神は自分が作り出した存在を壊されるのが嫌だったんだろうな。だから、俺たちの住むケオス大陸のような箱庭を作ってまで、人間や魔族を生かそうとしていているってわけか」

 そこまで言って、俺はあることに気が付く。

「ってことは、この世界以外の神が、この世界に干渉してきたということか」

「左様。この世界を毒素で蝕み、自分のものにしようとした者がおる。それは本当に突然のことだった」

 ところが、マーシャルはここまで言いかけて、黙り込んでしまった。

「ここはまだサージェントの街の外。まずは中に入って落ち着かれるといい」

「ああ、お邪魔させてもらうぜ」

 俺が答えると、ピエラたちもおとなしく俺に従った。
 階段をさらに下り、ようやく広い空間に出てくる。
 まるで映画で見る地下帝国といったような空間が広がっている。よくもこんな空間を作ることができたものだ。

「なんてでかさなんだ」

「避難の間に合わなんだわしらがここに留まれるようにと、見かねたリヒテルが用意してくれたものだ。地上のサージェントの街は毒に包まれるために放棄し、みな、ここへと移り住んだのだ」

 なんとも重くてつらい過去がったようだ。
 マーシャルの話にしんみりとする中、ピエラが何かに気が付いたようだ。

「ここって地下空間の割には地上程とはいかないけど、しっかりと明るさが保たれているわね」

 確かにピエラのいう通りだ。
 人工太陽ともいえるような光が、地下の空間を照らし続けている。
 この光景には、俺は猛烈に感動してしまっている。なにせ、映画とかでしか見たことのない光景を、この目で実際に見ているんだからな。

「それでだが、お前たちに頼みがある」

「俺たちでできる範囲での事であるなら、聞いてもいいんだが」

 俺たちが地下空間に感動していると、マーシャルからいきなり頼みごとがあると声をかけられてしまう。
 地下空間で長い時間を過ごしてきた魔王からの頼みごとだ。俺は思わず身構えてしまう。
 一体、古の魔王は俺たちに何を望むのだろうか。
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