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第18話 戦い去ってまた戦い
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一騎打ちを終えて、オークたちはリーダーの指示に従ってそのまま引き揚げていてしまった。
本来であれば、一騎打ちに負けたマシュロー側が攻め込まれるはずだったのだけど、オークのリーダーが私を見たことでなしになったようだった。
ただ、彼らがあの屋敷に戻ればひどい目に遭うことは見えている。
なにせ、人の話を聞かないで一方的に理不尽に追い出した主がいる館なのだから。攻め込まれたというのに、なんだか彼らのことが心配になってきて仕方なかった。
そんな彼らを見ていた私の中に、ふつふつとした気持ちが湧き上がってきた。
「みんなを助けたいのか、アイラ」
私の肩に、クルスさんがポンと手を置いてくる。
「はい。少なくともあのピゲストロさんは話の通じる方でした。あの方があの館の主になれば、私の家はもちろん、マシュローも安心できるようになると思うんです」
「そうだな。君みたいな子を理不尽に追い出した奴がいる場所だ。あのオークたちと手を組めば、もしかすると……」
クルスさんはそこまで言って、どういうわけか黙り込んでしまった。
最初は理由が分からなかった。
「私、ちょっと追いかけてきます。もしかしたら、手を組めるかもしれません」
復讐なんて考えたことはないけれど、私みたいな理不尽を受ける人たちを減らせるとならばと、私はクルスさんの返事も聞かずに走り出してしまっていた。
あまりにも唐突だったので、クルスさんも私を止めることはできず、ただその場で私の後ろ姿を見つめるしかできなかったようだった。
どのくらい走っただろうか。
ようやくオークたちの背中が見えてきた。
場所としては、魔族の屋敷とマシュローとの間に横たわる山々の南の端あたりだった。
「ま、待って下さい」
「アイラ殿?!」
私の声に驚いてオークたちが立ち止まる。そして、一部のオークが武器を手に構えている。
「やめろ。我の恩人ぞ」
それもピゲストロさんが一喝するだけで収拾してしまう。構えていた武器を下ろし、直立している。
「どうしたのですか。我らに何か御用ですかな」
「はい、その通りです」
私は真剣な表情を向ける。私の表情に、オークの一部は戸惑いを見せているようだった。
「実はお願いがあるんですよ。お話を聞いてもらってもよろしいでしょうか」
困った様子を見せたピゲストロさんたちだけれども、私の変わらない表情に話を聞くことにしたようだった。
「ありがとうございます」
体の前で手をそろえた私は、深々と頭を下げた。
翌々日、私とピゲストロさんとオーク数名からなる代表と、マシュローの町を管理する領主様たちとの間で話し合いが持たれることになった。
どうやらマリエッタさんが呼びに行っていた援軍が到着していたようで、町に近付こうとした瞬間に威嚇されてしまった。
体の大きなオークが数人いるだけでも威圧感がすごいので、こればかりは仕方がないのかなと思った。
それで、無事に話し合いを持つことになったのだけれど、オークたちの体が大きすぎるために、先日戦闘を行った場所で話をすることになった。中に入れれば町の住民に不安を与えかねないというのも理由だ。
領主様の方もずいぶんと緊張した様子だったけれど、ピゲストロさんの紳士的な態度のおかげで、ずいぶんと気楽に話ができたようだった。
「話は分かった。オークたちも一枚岩ではなく、圧倒的な力を持つその主とやらのやむなく従っているというわけなのか」
「その通りでございます。今もあの屋敷では、そこのアイラ殿のように理不尽な仕打ちを受けている者がいると思われます」
領主様もオークたちの事情に理解を示しているようだ。
「とはいえ、魔族と仲良くするというのは、他領、ましてや国にとっては理解してもらえまい」
「そのことなら、我にも提案がございます。無事に主を交代することができましたら、そちらの国に所属致しましょう。国に忠誠を誓うとなれば、少しは安心できるかと思うのです」
「ふむ……。力の強い魔族がいるのならば、他国へのけん制にも使える。考えてみる価値はありそうだな」
ピゲストロさんの提案を受けて、領主様が考え込んでいる。
それにしても、どうしてこの席に私がいるのだろうか。私はただの元町娘でメイドの魔族。こんな交渉の場にいること自体が間違いだと思う。
「アイラのおかげでこの席が設けられているんだ。君がいなくては成り立たない、我慢してくれ」
同じく同席しているクルスさんから告げられる。
褒められているようではあるものの、私の心境としては複雑極まりなかった。
せっかく魔族の屋敷を追い出されてのんびりできると思ったのに、どうしてこうなったのか。
「こういうのは為政者の分野だ。多分君には迷惑がかからないから安心してくれ」
「まあ、クルスさんがそう仰るのでしたら、期待はあまりできませんが希望は持っておきます」
クルスさんが言うので信用はしたいけれども、どうにも領主様の方が信用できなかった。そのために、私はこんな風に話してしまったのだった。
着実に進むオークの主の討伐計画。
無事に成功させて、マシュローの町の危機を振り払うことができるのだろうか。
今もピゲストロさんと領主様の話し合いは続いているのだった。
本来であれば、一騎打ちに負けたマシュロー側が攻め込まれるはずだったのだけど、オークのリーダーが私を見たことでなしになったようだった。
ただ、彼らがあの屋敷に戻ればひどい目に遭うことは見えている。
なにせ、人の話を聞かないで一方的に理不尽に追い出した主がいる館なのだから。攻め込まれたというのに、なんだか彼らのことが心配になってきて仕方なかった。
そんな彼らを見ていた私の中に、ふつふつとした気持ちが湧き上がってきた。
「みんなを助けたいのか、アイラ」
私の肩に、クルスさんがポンと手を置いてくる。
「はい。少なくともあのピゲストロさんは話の通じる方でした。あの方があの館の主になれば、私の家はもちろん、マシュローも安心できるようになると思うんです」
「そうだな。君みたいな子を理不尽に追い出した奴がいる場所だ。あのオークたちと手を組めば、もしかすると……」
クルスさんはそこまで言って、どういうわけか黙り込んでしまった。
最初は理由が分からなかった。
「私、ちょっと追いかけてきます。もしかしたら、手を組めるかもしれません」
復讐なんて考えたことはないけれど、私みたいな理不尽を受ける人たちを減らせるとならばと、私はクルスさんの返事も聞かずに走り出してしまっていた。
あまりにも唐突だったので、クルスさんも私を止めることはできず、ただその場で私の後ろ姿を見つめるしかできなかったようだった。
どのくらい走っただろうか。
ようやくオークたちの背中が見えてきた。
場所としては、魔族の屋敷とマシュローとの間に横たわる山々の南の端あたりだった。
「ま、待って下さい」
「アイラ殿?!」
私の声に驚いてオークたちが立ち止まる。そして、一部のオークが武器を手に構えている。
「やめろ。我の恩人ぞ」
それもピゲストロさんが一喝するだけで収拾してしまう。構えていた武器を下ろし、直立している。
「どうしたのですか。我らに何か御用ですかな」
「はい、その通りです」
私は真剣な表情を向ける。私の表情に、オークの一部は戸惑いを見せているようだった。
「実はお願いがあるんですよ。お話を聞いてもらってもよろしいでしょうか」
困った様子を見せたピゲストロさんたちだけれども、私の変わらない表情に話を聞くことにしたようだった。
「ありがとうございます」
体の前で手をそろえた私は、深々と頭を下げた。
翌々日、私とピゲストロさんとオーク数名からなる代表と、マシュローの町を管理する領主様たちとの間で話し合いが持たれることになった。
どうやらマリエッタさんが呼びに行っていた援軍が到着していたようで、町に近付こうとした瞬間に威嚇されてしまった。
体の大きなオークが数人いるだけでも威圧感がすごいので、こればかりは仕方がないのかなと思った。
それで、無事に話し合いを持つことになったのだけれど、オークたちの体が大きすぎるために、先日戦闘を行った場所で話をすることになった。中に入れれば町の住民に不安を与えかねないというのも理由だ。
領主様の方もずいぶんと緊張した様子だったけれど、ピゲストロさんの紳士的な態度のおかげで、ずいぶんと気楽に話ができたようだった。
「話は分かった。オークたちも一枚岩ではなく、圧倒的な力を持つその主とやらのやむなく従っているというわけなのか」
「その通りでございます。今もあの屋敷では、そこのアイラ殿のように理不尽な仕打ちを受けている者がいると思われます」
領主様もオークたちの事情に理解を示しているようだ。
「とはいえ、魔族と仲良くするというのは、他領、ましてや国にとっては理解してもらえまい」
「そのことなら、我にも提案がございます。無事に主を交代することができましたら、そちらの国に所属致しましょう。国に忠誠を誓うとなれば、少しは安心できるかと思うのです」
「ふむ……。力の強い魔族がいるのならば、他国へのけん制にも使える。考えてみる価値はありそうだな」
ピゲストロさんの提案を受けて、領主様が考え込んでいる。
それにしても、どうしてこの席に私がいるのだろうか。私はただの元町娘でメイドの魔族。こんな交渉の場にいること自体が間違いだと思う。
「アイラのおかげでこの席が設けられているんだ。君がいなくては成り立たない、我慢してくれ」
同じく同席しているクルスさんから告げられる。
褒められているようではあるものの、私の心境としては複雑極まりなかった。
せっかく魔族の屋敷を追い出されてのんびりできると思ったのに、どうしてこうなったのか。
「こういうのは為政者の分野だ。多分君には迷惑がかからないから安心してくれ」
「まあ、クルスさんがそう仰るのでしたら、期待はあまりできませんが希望は持っておきます」
クルスさんが言うので信用はしたいけれども、どうにも領主様の方が信用できなかった。そのために、私はこんな風に話してしまったのだった。
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