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第20話 迫りくる危機
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上級ポーションを二十本くらい作り終えると、私は前回同様にお供に魔導書を一冊連れて家を出る。
魔導書を連れて出るのは、もしかした時のため。私も戦場に足を踏み入れる以上、巻き込まれる可能性は十分ある。それに、クルスさんたちを助けるためでもあるからね。
魔族になって魔力を手に入れて、魔導書から知識を得たとはいっても、私はそもそもただの普通の少女。宿屋の手伝いをしていた肝っ玉と腕っぷしと笑顔の自慢しかできない少女だからね。戦いなんて無理過ぎるわ。
今回はいつ戻れるか分からないので、他の魔導書にはお留守番を頼むとどうにしっかりと謝っておいた。戻ったらちゃんとかまってあげないとね。
私はマシュローの町へと、不眠不休で向かっていった。
我ながら、無茶をしたと思う。
結局マシュローとの往復で何日寝てないのだろうか。マシュローに到着した私は、さすがに疲れた顔をしていた。そのためにクルスさんやマリエッタさんに怒られて、自警団の詰所で寝るように言われてしまった。
ただ、眠る前に上級ポーションの入ったカバンを二人に託しておいた。こればかりは譲れなかったもの。五本に分けて薄めれば中級ポーション、さらに五本に分けて薄めれば下級ポーションになることも伝えた。言うことだけ言い終えると、ようやく安心して私は眠りにつけた。
>―――
アイラが眠る自警団の詰所の中。
クルスとマリエッタが向かい合って座っている。
「すごいわね。これだけの上級ポーションを作るって、彼女は何者なのかしら」
「俺も魔族だっていうことしか知らない。錬金術を見せてもらいはしたが、ここまでの腕前とは思ってもみなかった」
目の前に並ぶ上級ポーションの瓶を眺めながら、クルスはアイラのことについて話をしている。
クルス自身、確かにアイラのポーション作製の現場を見てはいる。だが、その時に作っていたのは下級ポーションだけだった。まさか、その二段階上の上級ポーションまで作れることは知らなかったのだ。
「自警団の鑑定でもちゃんと上級で出てますから、領主様にはご報告しませんとね」
「ああ、そうだな」
大量の上級ポーションを前に、思わずため息が出てしまう二人である。
「それでクルス、団長はどうしているのかしら。町は緊急事態だといいますのに、一切顔をお出しにならないではありませんか」
「それが、俺にも分からないんだ。話では俺が警邏に出る前まではいたという風には聞いているが、その後は誰も見ていないんだよな?」
クルスがマリエッタに確認すると、無言のまま頷いていた。
「そうか。だとすると何かきな臭くないかな。領主様がいらしているというのに顔も出さないとはな……」
マリエッタからの話を聞いて、クルスはあごに手を当てて考え込み始めた。
「団長が行方が分からない上に、そこにオークたちが攻めてくるとはな……。なんとも間の悪い話だな」
クルスが呟くと、マリエッタは何かを思いついたかのように勢いよく顔を上げる。
マリエッタの動きに驚いて、クルスも同じように顔を上げてマリエッタに声を掛ける。
「おい、一体どうしたっていうんだ、マリエッタ」
「……いえ、ちょっと嫌な想像をしてしまっただけです。でも、あながち可能性としてはなきにしもあらずだと思いますけれど」
マリエッタはクルスの質問に答えながら、少しずつ視線を逸らしていく。信じたくはないが、マリエッタにはもうそうとしか思えなかったからだ。
クルスの方はまだ分かっていないのか、マリエッタの様子に首を傾げている。
だが、クルスは突然声を上げてしまった。
「あっ、まさか……。マリエッタはそう考えているのか?」
「クルスも思い至ったのかしら。おそらくそうだと思われるわ」
「なんてこった……。俺たちまで巻き込まれかねない不祥事だぞ、その通りだとするならな」
神妙な面持ちのマリエッタに、頭を抱えて下を向くクルス。
思い当たった結論は、できれば思い違いであってほしいと本気で願ってしまう。
詰所で頭を抱える二人の元に、街の外で対応していた門番から伝令がやって来る。
「大変だ。オークたちからの伝令が来た。どうやら、彼らの言う主とかいうオークがこっちに向かってきているらしい」
「なんだと?!」
「なんですって?!」
クルスもマリエッタも、驚きの声を上げて立ち上がる。
オークたちが来たとなれば、できればアイラの力も借りたいところだが、今の彼女は疲れ切って眠っている。
「マリエッタ。ここに残ってアイラのことを頼む」
「嫌ですわ。わたくしも自警団の一員。戦わずして何が自警団ですか」
マリエッタも前線に出る気満々である。しかし、クルスはそれを制止する。
「相手はオークだ。まだピゲストロたちのようなタイプなら心配はないが、普通のオークが相手となれば女性というだけで向かわせるわけにはいかない。アイラのために残ってくれ」
「くっ……。分かりましたわ。でも、わたくしにも覚悟はありますわ。アイラさんが目を覚ましたら、止められても駆けつけますわよ」
マリエッタの覚悟に、クルスはもう何も言えなかった。マリエッタの覚悟は本物なのだから。
「よし、すぐに団員たちを集めろ。領主様とも連携を取って、迎撃の準備をする」
「はっ、承知致しました」
クルスは指示を飛ばすと、慌ただしく自警団の詰所から飛び出していった。
魔導書を連れて出るのは、もしかした時のため。私も戦場に足を踏み入れる以上、巻き込まれる可能性は十分ある。それに、クルスさんたちを助けるためでもあるからね。
魔族になって魔力を手に入れて、魔導書から知識を得たとはいっても、私はそもそもただの普通の少女。宿屋の手伝いをしていた肝っ玉と腕っぷしと笑顔の自慢しかできない少女だからね。戦いなんて無理過ぎるわ。
今回はいつ戻れるか分からないので、他の魔導書にはお留守番を頼むとどうにしっかりと謝っておいた。戻ったらちゃんとかまってあげないとね。
私はマシュローの町へと、不眠不休で向かっていった。
我ながら、無茶をしたと思う。
結局マシュローとの往復で何日寝てないのだろうか。マシュローに到着した私は、さすがに疲れた顔をしていた。そのためにクルスさんやマリエッタさんに怒られて、自警団の詰所で寝るように言われてしまった。
ただ、眠る前に上級ポーションの入ったカバンを二人に託しておいた。こればかりは譲れなかったもの。五本に分けて薄めれば中級ポーション、さらに五本に分けて薄めれば下級ポーションになることも伝えた。言うことだけ言い終えると、ようやく安心して私は眠りにつけた。
>―――
アイラが眠る自警団の詰所の中。
クルスとマリエッタが向かい合って座っている。
「すごいわね。これだけの上級ポーションを作るって、彼女は何者なのかしら」
「俺も魔族だっていうことしか知らない。錬金術を見せてもらいはしたが、ここまでの腕前とは思ってもみなかった」
目の前に並ぶ上級ポーションの瓶を眺めながら、クルスはアイラのことについて話をしている。
クルス自身、確かにアイラのポーション作製の現場を見てはいる。だが、その時に作っていたのは下級ポーションだけだった。まさか、その二段階上の上級ポーションまで作れることは知らなかったのだ。
「自警団の鑑定でもちゃんと上級で出てますから、領主様にはご報告しませんとね」
「ああ、そうだな」
大量の上級ポーションを前に、思わずため息が出てしまう二人である。
「それでクルス、団長はどうしているのかしら。町は緊急事態だといいますのに、一切顔をお出しにならないではありませんか」
「それが、俺にも分からないんだ。話では俺が警邏に出る前まではいたという風には聞いているが、その後は誰も見ていないんだよな?」
クルスがマリエッタに確認すると、無言のまま頷いていた。
「そうか。だとすると何かきな臭くないかな。領主様がいらしているというのに顔も出さないとはな……」
マリエッタからの話を聞いて、クルスはあごに手を当てて考え込み始めた。
「団長が行方が分からない上に、そこにオークたちが攻めてくるとはな……。なんとも間の悪い話だな」
クルスが呟くと、マリエッタは何かを思いついたかのように勢いよく顔を上げる。
マリエッタの動きに驚いて、クルスも同じように顔を上げてマリエッタに声を掛ける。
「おい、一体どうしたっていうんだ、マリエッタ」
「……いえ、ちょっと嫌な想像をしてしまっただけです。でも、あながち可能性としてはなきにしもあらずだと思いますけれど」
マリエッタはクルスの質問に答えながら、少しずつ視線を逸らしていく。信じたくはないが、マリエッタにはもうそうとしか思えなかったからだ。
クルスの方はまだ分かっていないのか、マリエッタの様子に首を傾げている。
だが、クルスは突然声を上げてしまった。
「あっ、まさか……。マリエッタはそう考えているのか?」
「クルスも思い至ったのかしら。おそらくそうだと思われるわ」
「なんてこった……。俺たちまで巻き込まれかねない不祥事だぞ、その通りだとするならな」
神妙な面持ちのマリエッタに、頭を抱えて下を向くクルス。
思い当たった結論は、できれば思い違いであってほしいと本気で願ってしまう。
詰所で頭を抱える二人の元に、街の外で対応していた門番から伝令がやって来る。
「大変だ。オークたちからの伝令が来た。どうやら、彼らの言う主とかいうオークがこっちに向かってきているらしい」
「なんだと?!」
「なんですって?!」
クルスもマリエッタも、驚きの声を上げて立ち上がる。
オークたちが来たとなれば、できればアイラの力も借りたいところだが、今の彼女は疲れ切って眠っている。
「マリエッタ。ここに残ってアイラのことを頼む」
「嫌ですわ。わたくしも自警団の一員。戦わずして何が自警団ですか」
マリエッタも前線に出る気満々である。しかし、クルスはそれを制止する。
「相手はオークだ。まだピゲストロたちのようなタイプなら心配はないが、普通のオークが相手となれば女性というだけで向かわせるわけにはいかない。アイラのために残ってくれ」
「くっ……。分かりましたわ。でも、わたくしにも覚悟はありますわ。アイラさんが目を覚ましたら、止められても駆けつけますわよ」
マリエッタの覚悟に、クルスはもう何も言えなかった。マリエッタの覚悟は本物なのだから。
「よし、すぐに団員たちを集めろ。領主様とも連携を取って、迎撃の準備をする」
「はっ、承知致しました」
クルスは指示を飛ばすと、慌ただしく自警団の詰所から飛び出していった。
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