追放魔族のまったり生活

未羊

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第46話 ポーションの材料を求めて

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 翌朝、私は宿屋を出発しようと受付に立っていた。その台を挟んだ向こうにはベルが立っていた。

「本島にもう発っちまうのかい? 久しぶりに会ったし、もっとゆっくりしていってもいいと思うんだけど」

「今回、ここに寄ったのはついでだからごめんね。またいずれゆっくり会いに来るわよ」

 私はにこにこと笑って答えていた。

「本当に来てくれるのかい? これっきりなんてことはないだろうね」

「んー、なんとも言えないのよね。今私が住んでいるところ、多分普通に歩くと二十日以上かかっちゃうから」

「どんだけ遠くに住んでいるのよ。まぁしょうがないわね、新しい場所でも頑張りなさいよ」

「頑張るわよ。それじゃ、私はそろそろ行くわね。元気でね、ベル」

 私はベルに笑顔で手を振って別れる。ずいぶんと時間は経ってしまっていたけれど、これで今生の別れとは思わないし、そもそも薬草を摘んだ後にもう一回寄ろうと思うもの。
 ひとまずは前向きな気持ちで故郷の町を出発できるのはよかったと思う。
 ベルとは気持ちよく話はできたけれど、さすがに二十年以上経っていては他の人たちと会うのはちょっと気まずいところもあるから、さっさと出かけちゃいましょう。

 町から出て東側に向かう。
 マシュローの西側の山脈の切れ目となる場所が、今回の目的地だ。
 その山脈の北側が、その特殊な薬草の群生地らしい。

「ふぅ、ずいぶんと険しい山道ね」

 私は一生懸命山道を登っていく。
 珍しい草の群生地ということもあってか、魔物たちも見たこともないものばかりで、しかも強さがあった。
 魔導書の補助があってようやく倒すことはできたけど、単独じゃ厳しかったかも。まったくなんて場所なのよ。
 これなら町で護衛でも雇えばよかったかしら。お金は一応あるんだし。
 しかし、山道を進み始めたところではもはや今さら過ぎた。私は諦めて山道どんどん進んでいく。

「ふぅ、大体この辺りだっけか」

 魔物をある程度倒したところで私はひと息つく。確認するような私の質問に対して、魔導書は頷くように面を向けて前に傾いていた。魔導書なのに微妙に感情があるのにはまだまだ慣れないわね。
 一面に広がるのは除病ポーションの材料となる薬草だった。名前はど忘れしちゃったけど。だって、仰々しい名前だから、口に出すにもおそれ多いと思ったんだもの。

「きれいな光景。ここから薬草を摘み取っていくっていうのももったいない気がするわね」

 強い魔物に襲われながら登って来ただけに、たどり着いて目の前に広がった光景に感動を覚えていた。
 しかし、ここに来た目的はポーションの材料を手に入れて持って帰ること。一本一本を丁寧に摘んで、それらを収納魔法へとしまい込んでいく。
 ただし、錬金で失敗した時のことを考えてちょっと多めに摘んでしまった気がするわ。大丈夫かしらね……。
 私がちらりと薬草の群生地に目を向けると、魔導書が目の前に飛んできてくるりと一回転している。まるで心配ないと言っているようだ。まったく、あの家からこれだけ離れても動いてるって、この魔導書すごすぎないかしら。
 十分な量を摘み取ると、私は群生地に向けて頭を下げてお礼を言っておいた。貴重なものを提供してもらったんだもの、これくらいはしないとね。
 これが終わると、もうひとつの解毒ポーションの材料を集めることにする。
 解毒ポーションは、今まで作っていた普通のポーションに魔物の素材を使う。実に初めての薬草以外の素材が必要になるのだという。
 こちらは、使う魔物の素材で解毒ランクが変わるそうな。普通のポーションのように薄めて使うこともできない。つまり、対応する毒のランクと種類によって材料が変わってくるというものだった。ちなみに薄めるとそれだけ効きが悪くなるというデメリットしか存在しないのだという。
 今回の場所から近いのは、最高ランクの解毒ポーション。ほぼすべての毒に対応が可能なのだという。ほぼすべてという言葉に引っ掛かりを覚えるけど、まあ日常生活の毒ならきっと対処可能よね。

「えっと、最高ランクの解毒ポーションの材料は、マンティコアの血……。マンティコア?!」

 家で見ていた材料の名前を思い出して、再度魔導書に確認をする。

「あった、これね」

 マンティコアは獅子の体を持ち、サソリの尾を持つバケモノらしい。そのサソリの尾に含まれる毒がかなり強力なようで、そのせいで最高ランクの解毒ポーションになっているそうだ。

「さすがに食らえば、私でも危ないかしらね」

 心配そうな声を上げる私だけど、やっぱり魔導書はくるりと一回転してみせている。大丈夫だということなんだろうけど、私はそもそもただの町娘だし、魔族になってからもただのメイドだった。
 ここに来るまでにいろんな魔物を倒してはいるけれど、それは魔導書がいたからこそ。心配は消えないというものだった。

「しょうがないか。ここまで来たらやってやるわよ」

 錬金術師としての欲求が勝ってしまった瞬間だった。
 新しいポーションを作るという欲求を満たすために、いざマンティコア討伐に向かう私なのだった。
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