追放魔族のまったり生活

未羊

文字の大きさ
99 / 109

第99話 鈍い心

しおりを挟む
 夜が明けると、私たちはピゲストロさんのお屋敷を去って町へと戻ることになる。

「すまないな、すっかり人間たちのお世話になってしまったようですな」

「気にしなくてもいいですよ。あのまますべての仕事をピゲストロさんが受けていたら、きっとそのうち倒れていましたから。平和と安全のために、手をお貸ししたに過ぎませんよ」

 ピゲストロさんが謝罪をしてくるので、私はそのように返しておく。マリエッタさんたちに視線を向けると、同意しているらしく何度も頭を頷かせていた。

「はあ、やっとオークたちの屋敷から解放ですわね。豚くさくてたまりませんでしたわ」

「すまない。君たちと違って、その辺りは無頓着ですからな。オークは元々好戦的。身だしなみにはあまり気を遣いませぬ」

 プレアさんの苦情にも素直に謝罪を入れるピゲストロさん。
 本当に紳士的というか、腰が低い。これでいて戦闘能力も高いので、ピゲストロさんは本当に騎士のようだった。

「さて、そろそろ戻ろうか。しばらくは自分たちだけでやってみて、やはり何か問題があるようなら、いつでも男爵様を頼って下さると助かる」

「うむ、承知した」

 クルスさんに言われたピゲストロさんは、素直に受け入れていた。
 以前から言われている魔族の姿とは、程遠い印象を受けるというもの。

 ひと通りの挨拶を終えた私たちは、いよいよ出発の準備をする。
 ティコとキイを大きくして、その背中にそれぞれが乗り込む。キイ、男性ばかりで悪いわね。
 クルスさんと領主様から派遣された文官を背中に乗せたキイは、露骨に嫌な顔をしていた。女性の方がいいと思う行動は、魔物にもあるようだわね。
 みんなが乗り込んだのを確認して、最後に私が乗り込もうとすると、ピゲストロさんが声を掛けてくる。

「アイラ殿」

「ピゲストロさん、どうなさったのですかね」

 急に呼び止められて、私はきょとんとした顔でピゲストロさんを見る。
 なぜこのタイミングで私を呼び止めてきたのか、まったく理由がよく分からない。

「本当にアイラ殿と出会えてよかったと思っている。……いつでも屋敷に遊びに来てほしい。精一杯もてなさせてもらうぞ」

 いきなりよく分からないことを言い出すものだから、私はつい首を捻ってしまう。
 とはいえ、顔を見せればちゃんと対応してくれるというのだから、それは嬉しいかしらね。

「分かりました。どのみちファングウルフたちの様子を見に来なければなりませんから、時折寄らせて頂きますね」

 私はにこやかに話をすると、ピゲストロさんはちょっと残念そうな顔をしたように感じた。だけど、私はどうしてそんな顔したのか、理由が分からなかった。
 なんとも理解不能ではあるけれど、いい加減に私は家に戻らないといけない。そろそろ出発しなきゃね。
 私はティコの背中に乗る。
 その時にマリエッタさんたちの顔を見たんだけど、なんなのかしらね。やけに反応に困る顔だったけれど。
 気にはなるけれど、私はしっかりとティコの上に座る。

「それでは、私たちは帰ります。お元気で」

「ああ、世話になりましたぞ」

 ピゲストロさんが合図をすると、後ろにいるオークやファングウルフたちが私に向かって跪いている。一体どういう光景なのよこれ。
 なんとも照れくさくなってくるので、私はティコに命じて帰路に就く。キイもそれを追いかけるようにして走り出した。
 これで多分、オークたちは自立できるはず。私はそう願いながらお屋敷を離れていった。

 町に戻る最中、時折休息を挟む。
 いくら魔物であるティコやキイでも、連続で走れる限界はあるものね。
 私は宿屋の店員やメイドという職を経験したので、休憩中の食事は私が全部作っている。
 その食事の最中、マリエッタさんが声を掛けてきた。

「アイラ、ちょっとよろしいかしら」

「なんですか、マリエッタさん」

 せっかく味わおうとしたタイミングだったので、ちょっと眉をひそめてしまう。

「アイラって気になる殿方とかいらっしゃいますの?」

「えっ?」

 マリエッタさんの話題に、ちょっとついて行けない。
 殿方って、つまりは男性のことのはず。急になんでこんなことを聞いてきたのだろうか。

「マリエッタさん、急にどうしたんですか。そんな質問をして」

「アイラ、真剣な質問ですわよ。答えて下さらない?」

 私が困っているのに、マリエッタさんの圧が強い。

「と、特にいませんよ。私はのんびりと暮らせればいいだけですから。おかしいですよ、今日はみなさん……」

 困り顔で答えると、マリエッタさんどころがプレアさんまでが大きなため息をついている。どうしたっていうのかしら。
 私はまったく理解できずに首を捻るばかりだった。

(そっかあ……。私も人間のままだったら、誰かと一緒になって家庭を築いたりしてたのかな……)

 一度死んで魔族になったせいか、どうもこの辺の意識が薄くなっちゃってる気がする。
 いくら考えても分からないので、私は食事を再開していた。
 休憩を終えれば、再びティコとキイを走らせる。休憩の際に、なぜマリエッタさんがこの話題を出したのだろうか。私はティコを走らせている間もずっと考えていた。
 結局、私がその真意に気が付くのは、まだまだ後のことなのだった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...