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第99話 鈍い心
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夜が明けると、私たちはピゲストロさんのお屋敷を去って町へと戻ることになる。
「すまないな、すっかり人間たちのお世話になってしまったようですな」
「気にしなくてもいいですよ。あのまますべての仕事をピゲストロさんが受けていたら、きっとそのうち倒れていましたから。平和と安全のために、手をお貸ししたに過ぎませんよ」
ピゲストロさんが謝罪をしてくるので、私はそのように返しておく。マリエッタさんたちに視線を向けると、同意しているらしく何度も頭を頷かせていた。
「はあ、やっとオークたちの屋敷から解放ですわね。豚くさくてたまりませんでしたわ」
「すまない。君たちと違って、その辺りは無頓着ですからな。オークは元々好戦的。身だしなみにはあまり気を遣いませぬ」
プレアさんの苦情にも素直に謝罪を入れるピゲストロさん。
本当に紳士的というか、腰が低い。これでいて戦闘能力も高いので、ピゲストロさんは本当に騎士のようだった。
「さて、そろそろ戻ろうか。しばらくは自分たちだけでやってみて、やはり何か問題があるようなら、いつでも男爵様を頼って下さると助かる」
「うむ、承知した」
クルスさんに言われたピゲストロさんは、素直に受け入れていた。
以前から言われている魔族の姿とは、程遠い印象を受けるというもの。
ひと通りの挨拶を終えた私たちは、いよいよ出発の準備をする。
ティコとキイを大きくして、その背中にそれぞれが乗り込む。キイ、男性ばかりで悪いわね。
クルスさんと領主様から派遣された文官を背中に乗せたキイは、露骨に嫌な顔をしていた。女性の方がいいと思う行動は、魔物にもあるようだわね。
みんなが乗り込んだのを確認して、最後に私が乗り込もうとすると、ピゲストロさんが声を掛けてくる。
「アイラ殿」
「ピゲストロさん、どうなさったのですかね」
急に呼び止められて、私はきょとんとした顔でピゲストロさんを見る。
なぜこのタイミングで私を呼び止めてきたのか、まったく理由がよく分からない。
「本当にアイラ殿と出会えてよかったと思っている。……いつでも屋敷に遊びに来てほしい。精一杯もてなさせてもらうぞ」
いきなりよく分からないことを言い出すものだから、私はつい首を捻ってしまう。
とはいえ、顔を見せればちゃんと対応してくれるというのだから、それは嬉しいかしらね。
「分かりました。どのみちファングウルフたちの様子を見に来なければなりませんから、時折寄らせて頂きますね」
私はにこやかに話をすると、ピゲストロさんはちょっと残念そうな顔をしたように感じた。だけど、私はどうしてそんな顔したのか、理由が分からなかった。
なんとも理解不能ではあるけれど、いい加減に私は家に戻らないといけない。そろそろ出発しなきゃね。
私はティコの背中に乗る。
その時にマリエッタさんたちの顔を見たんだけど、なんなのかしらね。やけに反応に困る顔だったけれど。
気にはなるけれど、私はしっかりとティコの上に座る。
「それでは、私たちは帰ります。お元気で」
「ああ、世話になりましたぞ」
ピゲストロさんが合図をすると、後ろにいるオークやファングウルフたちが私に向かって跪いている。一体どういう光景なのよこれ。
なんとも照れくさくなってくるので、私はティコに命じて帰路に就く。キイもそれを追いかけるようにして走り出した。
これで多分、オークたちは自立できるはず。私はそう願いながらお屋敷を離れていった。
町に戻る最中、時折休息を挟む。
いくら魔物であるティコやキイでも、連続で走れる限界はあるものね。
私は宿屋の店員やメイドという職を経験したので、休憩中の食事は私が全部作っている。
その食事の最中、マリエッタさんが声を掛けてきた。
「アイラ、ちょっとよろしいかしら」
「なんですか、マリエッタさん」
せっかく味わおうとしたタイミングだったので、ちょっと眉をひそめてしまう。
「アイラって気になる殿方とかいらっしゃいますの?」
「えっ?」
マリエッタさんの話題に、ちょっとついて行けない。
殿方って、つまりは男性のことのはず。急になんでこんなことを聞いてきたのだろうか。
「マリエッタさん、急にどうしたんですか。そんな質問をして」
「アイラ、真剣な質問ですわよ。答えて下さらない?」
私が困っているのに、マリエッタさんの圧が強い。
「と、特にいませんよ。私はのんびりと暮らせればいいだけですから。おかしいですよ、今日はみなさん……」
困り顔で答えると、マリエッタさんどころがプレアさんまでが大きなため息をついている。どうしたっていうのかしら。
私はまったく理解できずに首を捻るばかりだった。
(そっかあ……。私も人間のままだったら、誰かと一緒になって家庭を築いたりしてたのかな……)
一度死んで魔族になったせいか、どうもこの辺の意識が薄くなっちゃってる気がする。
いくら考えても分からないので、私は食事を再開していた。
休憩を終えれば、再びティコとキイを走らせる。休憩の際に、なぜマリエッタさんがこの話題を出したのだろうか。私はティコを走らせている間もずっと考えていた。
結局、私がその真意に気が付くのは、まだまだ後のことなのだった……。
「すまないな、すっかり人間たちのお世話になってしまったようですな」
「気にしなくてもいいですよ。あのまますべての仕事をピゲストロさんが受けていたら、きっとそのうち倒れていましたから。平和と安全のために、手をお貸ししたに過ぎませんよ」
ピゲストロさんが謝罪をしてくるので、私はそのように返しておく。マリエッタさんたちに視線を向けると、同意しているらしく何度も頭を頷かせていた。
「はあ、やっとオークたちの屋敷から解放ですわね。豚くさくてたまりませんでしたわ」
「すまない。君たちと違って、その辺りは無頓着ですからな。オークは元々好戦的。身だしなみにはあまり気を遣いませぬ」
プレアさんの苦情にも素直に謝罪を入れるピゲストロさん。
本当に紳士的というか、腰が低い。これでいて戦闘能力も高いので、ピゲストロさんは本当に騎士のようだった。
「さて、そろそろ戻ろうか。しばらくは自分たちだけでやってみて、やはり何か問題があるようなら、いつでも男爵様を頼って下さると助かる」
「うむ、承知した」
クルスさんに言われたピゲストロさんは、素直に受け入れていた。
以前から言われている魔族の姿とは、程遠い印象を受けるというもの。
ひと通りの挨拶を終えた私たちは、いよいよ出発の準備をする。
ティコとキイを大きくして、その背中にそれぞれが乗り込む。キイ、男性ばかりで悪いわね。
クルスさんと領主様から派遣された文官を背中に乗せたキイは、露骨に嫌な顔をしていた。女性の方がいいと思う行動は、魔物にもあるようだわね。
みんなが乗り込んだのを確認して、最後に私が乗り込もうとすると、ピゲストロさんが声を掛けてくる。
「アイラ殿」
「ピゲストロさん、どうなさったのですかね」
急に呼び止められて、私はきょとんとした顔でピゲストロさんを見る。
なぜこのタイミングで私を呼び止めてきたのか、まったく理由がよく分からない。
「本当にアイラ殿と出会えてよかったと思っている。……いつでも屋敷に遊びに来てほしい。精一杯もてなさせてもらうぞ」
いきなりよく分からないことを言い出すものだから、私はつい首を捻ってしまう。
とはいえ、顔を見せればちゃんと対応してくれるというのだから、それは嬉しいかしらね。
「分かりました。どのみちファングウルフたちの様子を見に来なければなりませんから、時折寄らせて頂きますね」
私はにこやかに話をすると、ピゲストロさんはちょっと残念そうな顔をしたように感じた。だけど、私はどうしてそんな顔したのか、理由が分からなかった。
なんとも理解不能ではあるけれど、いい加減に私は家に戻らないといけない。そろそろ出発しなきゃね。
私はティコの背中に乗る。
その時にマリエッタさんたちの顔を見たんだけど、なんなのかしらね。やけに反応に困る顔だったけれど。
気にはなるけれど、私はしっかりとティコの上に座る。
「それでは、私たちは帰ります。お元気で」
「ああ、世話になりましたぞ」
ピゲストロさんが合図をすると、後ろにいるオークやファングウルフたちが私に向かって跪いている。一体どういう光景なのよこれ。
なんとも照れくさくなってくるので、私はティコに命じて帰路に就く。キイもそれを追いかけるようにして走り出した。
これで多分、オークたちは自立できるはず。私はそう願いながらお屋敷を離れていった。
町に戻る最中、時折休息を挟む。
いくら魔物であるティコやキイでも、連続で走れる限界はあるものね。
私は宿屋の店員やメイドという職を経験したので、休憩中の食事は私が全部作っている。
その食事の最中、マリエッタさんが声を掛けてきた。
「アイラ、ちょっとよろしいかしら」
「なんですか、マリエッタさん」
せっかく味わおうとしたタイミングだったので、ちょっと眉をひそめてしまう。
「アイラって気になる殿方とかいらっしゃいますの?」
「えっ?」
マリエッタさんの話題に、ちょっとついて行けない。
殿方って、つまりは男性のことのはず。急になんでこんなことを聞いてきたのだろうか。
「マリエッタさん、急にどうしたんですか。そんな質問をして」
「アイラ、真剣な質問ですわよ。答えて下さらない?」
私が困っているのに、マリエッタさんの圧が強い。
「と、特にいませんよ。私はのんびりと暮らせればいいだけですから。おかしいですよ、今日はみなさん……」
困り顔で答えると、マリエッタさんどころがプレアさんまでが大きなため息をついている。どうしたっていうのかしら。
私はまったく理解できずに首を捻るばかりだった。
(そっかあ……。私も人間のままだったら、誰かと一緒になって家庭を築いたりしてたのかな……)
一度死んで魔族になったせいか、どうもこの辺の意識が薄くなっちゃってる気がする。
いくら考えても分からないので、私は食事を再開していた。
休憩を終えれば、再びティコとキイを走らせる。休憩の際に、なぜマリエッタさんがこの話題を出したのだろうか。私はティコを走らせている間もずっと考えていた。
結局、私がその真意に気が付くのは、まだまだ後のことなのだった……。
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