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新章 青色の智姫
第101話 初日の終了
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学園祭初日は、夕刻となって終了の時間を迎える
マゼンダ商会の出店は相変わらずの大盛況だったようだ。終了の時間になって、ようやく出店の前から客の姿が消えたのだ。
チェリシアはやり切った表情で後片付けをしている。学園祭中はずっと設営しているとはいえ、出てきたごみは片付けなければならないからだ。根は真面目なチェリシアらしい行動である。
そこへ武術大会を終えたシアンたちがやって来る。
「あら、みんなお疲れ様」
チェリシアが顔を上げて声を掛けてくる。
「結果はどうだったのかしら」
にこにことした様子で武術大会の結果を尋ねる。
「シアン様は三回戦進出。私の子たちは敗退よ」
「いやぁ、シアン様に負けるなんて思ってもみませんでしたよ」
「私は、自分の実力の限界を知りました」
「あらあら、そうなのね。これでも口にしながら、詳しく話してよ。私はまだ片付けが終わらないから、動き回りながら聞くことになるけどね」
チェリシアはそう言いながら、本当に忙しそうに今日の片づけをしている。
ただ、マゼンダ商会はチェリシアがいるので、物品の盗難の心配がないというのは大きな強みである。なにせ、彼女の収納空間に全部放り込んでしまうのだから。それでもまだまだスペースに余裕はあるらしい。
前世のシアンですら持ちえなかった収納空間という魔法。ついついチェリシアに嫉妬してしまうシアンなのである。
武術大会を全部見ていたアイリスからの報告が終わり、チェリシアは満足したように同時に片付けを終えていた。
「ずいぶんと頭を使った勝ち方をしたのね、シアン様は」
「まさか足を滑らされるとは……。これがおば様の仰られる『足元をすくわれる』というやつなのですね」
「文字通りとは恐れ入ったけどね」
感心した表情を浮かべているチェリシア。
「ペシエラも自分の体格の不利をうまく技術でカバーしていたわね。魔法も使える試合だからこそ、工夫次第でどうとでもなるのよ。フューシャも今回は勉強になったわね」
「その通りですね」
深々と反省の態度を示すフューシャだった。
「それと、フューシャは戦いになると目の前しか見えなくなるわ。これはニーズヘッグの悪い癖ね。もう少し視野を広く持てていたら、結果は違ったかもね」
「私もそう思いますよ。チェリシア様」
チェリシアの説明に、シアンは相槌を打っていた。
「それにしても、三回戦の相手はまた面倒な人と当たったわね、シアン王女殿下」
「チェリシア様はご存じなのですか?」
シアンが問い掛ければ、渋い顔のままチェリシアは頷いている。
「ザクロース伯爵家でしょ? カーマイル様の付き添いで何度か社交の場に出ているけれど、その度に顔を合わせたわね」
社交界の状況を必死に思い出そうとしているチェリシア。
「ザクロース伯爵家は、北方に領地を持つ防衛の要ですよ。マゼンダ侯爵領の西の隣になります」
「お母様」
説明をしたのは、アイリスの母親であるアメジスタだった。
「あれ、そうだっけ」
「そうですよ。スノールビーのお得意様じゃないですか。しっかりして下さいませ、チェリシア様」
「あはは、ごめんなさい」
アメジスタに強く叱られて、しゅんと凹むチェリシアなのである。
これにはアイリスたちも苦笑いである。
「実際に戦ってみた感想ですが、体の細さの割に力があったように思います。まともに打ち合っては、確実に押し負けます」
二回戦でガーネットと戦ったプルネはこのような印象を持ったようだ。
「なにより、お母様とキャノルに鍛えられた私も敵わない体幹の強さ。シアン様では、多分一撃で剣を叩き落とされます」
プルネは一撃目をいなした時に、かすかに手のしびれを覚えたらしい。どんなに動いても体の芯がぶれないので、精一杯の力を込めて攻撃できるのだろう。プルネはそう分析したようだった。
「参考になるかは分かりませんが、私の印象はそんな感じでした。お姉様相手ほどではありませんが、十分つけ入る隙はあると思います」
「ありがとう、プルネ。明日の参考にさせてもらいます」
「ご武運を祈っております」
シアンとプルネは、真剣な表情で言葉を交わす。
「勝てる見込みはあっても、無理はなさらないで下さいね。シアン様は一年次生、対するガーネットは四年次生です。年上を相手にするわけですからね」
「ですが、武術大会という場です。最善は尽くさせて頂くつもりです」
アイリスに心配されたシアンは、強気の笑みで言葉を返している。よっぽど何か策のようなものがあるようだ。
「チェリシア様、アメジスタ様、片付けが終わりました」
マゼンダ商会の職員の声が響き渡る。その声で張り詰めた雰囲気だったシアンたちは、一気に気が緩んでしまった。
「そろそろ帰りましょうか。明日もまた朝から準備しないといけませんからね」
チェリシアは笑いながらそういうと、部下に馬車の手配を指示する。そして、校門に向けてゆっくりと歩き始めたのだった。
学園祭初日は、特に何も問題は起こらなかった。しかし、まだ三日間の日程が残っている。
夏の合宿で怪しい動きを見せたオニオール家が、この学園祭でも何かを仕掛けないとは限らない。
一日目が無事に終わったことでほっとひと安心はできたものの、まだまだ気の緩められない状況が続きそうだった。
マゼンダ商会の出店は相変わらずの大盛況だったようだ。終了の時間になって、ようやく出店の前から客の姿が消えたのだ。
チェリシアはやり切った表情で後片付けをしている。学園祭中はずっと設営しているとはいえ、出てきたごみは片付けなければならないからだ。根は真面目なチェリシアらしい行動である。
そこへ武術大会を終えたシアンたちがやって来る。
「あら、みんなお疲れ様」
チェリシアが顔を上げて声を掛けてくる。
「結果はどうだったのかしら」
にこにことした様子で武術大会の結果を尋ねる。
「シアン様は三回戦進出。私の子たちは敗退よ」
「いやぁ、シアン様に負けるなんて思ってもみませんでしたよ」
「私は、自分の実力の限界を知りました」
「あらあら、そうなのね。これでも口にしながら、詳しく話してよ。私はまだ片付けが終わらないから、動き回りながら聞くことになるけどね」
チェリシアはそう言いながら、本当に忙しそうに今日の片づけをしている。
ただ、マゼンダ商会はチェリシアがいるので、物品の盗難の心配がないというのは大きな強みである。なにせ、彼女の収納空間に全部放り込んでしまうのだから。それでもまだまだスペースに余裕はあるらしい。
前世のシアンですら持ちえなかった収納空間という魔法。ついついチェリシアに嫉妬してしまうシアンなのである。
武術大会を全部見ていたアイリスからの報告が終わり、チェリシアは満足したように同時に片付けを終えていた。
「ずいぶんと頭を使った勝ち方をしたのね、シアン様は」
「まさか足を滑らされるとは……。これがおば様の仰られる『足元をすくわれる』というやつなのですね」
「文字通りとは恐れ入ったけどね」
感心した表情を浮かべているチェリシア。
「ペシエラも自分の体格の不利をうまく技術でカバーしていたわね。魔法も使える試合だからこそ、工夫次第でどうとでもなるのよ。フューシャも今回は勉強になったわね」
「その通りですね」
深々と反省の態度を示すフューシャだった。
「それと、フューシャは戦いになると目の前しか見えなくなるわ。これはニーズヘッグの悪い癖ね。もう少し視野を広く持てていたら、結果は違ったかもね」
「私もそう思いますよ。チェリシア様」
チェリシアの説明に、シアンは相槌を打っていた。
「それにしても、三回戦の相手はまた面倒な人と当たったわね、シアン王女殿下」
「チェリシア様はご存じなのですか?」
シアンが問い掛ければ、渋い顔のままチェリシアは頷いている。
「ザクロース伯爵家でしょ? カーマイル様の付き添いで何度か社交の場に出ているけれど、その度に顔を合わせたわね」
社交界の状況を必死に思い出そうとしているチェリシア。
「ザクロース伯爵家は、北方に領地を持つ防衛の要ですよ。マゼンダ侯爵領の西の隣になります」
「お母様」
説明をしたのは、アイリスの母親であるアメジスタだった。
「あれ、そうだっけ」
「そうですよ。スノールビーのお得意様じゃないですか。しっかりして下さいませ、チェリシア様」
「あはは、ごめんなさい」
アメジスタに強く叱られて、しゅんと凹むチェリシアなのである。
これにはアイリスたちも苦笑いである。
「実際に戦ってみた感想ですが、体の細さの割に力があったように思います。まともに打ち合っては、確実に押し負けます」
二回戦でガーネットと戦ったプルネはこのような印象を持ったようだ。
「なにより、お母様とキャノルに鍛えられた私も敵わない体幹の強さ。シアン様では、多分一撃で剣を叩き落とされます」
プルネは一撃目をいなした時に、かすかに手のしびれを覚えたらしい。どんなに動いても体の芯がぶれないので、精一杯の力を込めて攻撃できるのだろう。プルネはそう分析したようだった。
「参考になるかは分かりませんが、私の印象はそんな感じでした。お姉様相手ほどではありませんが、十分つけ入る隙はあると思います」
「ありがとう、プルネ。明日の参考にさせてもらいます」
「ご武運を祈っております」
シアンとプルネは、真剣な表情で言葉を交わす。
「勝てる見込みはあっても、無理はなさらないで下さいね。シアン様は一年次生、対するガーネットは四年次生です。年上を相手にするわけですからね」
「ですが、武術大会という場です。最善は尽くさせて頂くつもりです」
アイリスに心配されたシアンは、強気の笑みで言葉を返している。よっぽど何か策のようなものがあるようだ。
「チェリシア様、アメジスタ様、片付けが終わりました」
マゼンダ商会の職員の声が響き渡る。その声で張り詰めた雰囲気だったシアンたちは、一気に気が緩んでしまった。
「そろそろ帰りましょうか。明日もまた朝から準備しないといけませんからね」
チェリシアは笑いながらそういうと、部下に馬車の手配を指示する。そして、校門に向けてゆっくりと歩き始めたのだった。
学園祭初日は、特に何も問題は起こらなかった。しかし、まだ三日間の日程が残っている。
夏の合宿で怪しい動きを見せたオニオール家が、この学園祭でも何かを仕掛けないとは限らない。
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