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新章 青色の智姫
第210話 トパゼリアの王子
しおりを挟む トパゼリアからやってくる女王の子どもの相手をさせられることになってしまったシアンたち。
学園祭中は武術大会に参加する予定にしているので、正直相手をしていられるか分からなかった。
「実に面倒です」
「ええ、まったくです」
女王の子どもに関しては、なにぶん情報がない。
唯一あるのが、今回先触れの中で触れられていた十一歳と十歳という年齢の王子だということだけだ。
「あの女王に子どもがいたというのが衝撃的でしたね」
「そうですね。私も幻獣時代に少し情報を集めたくらいで詳しくはないですが」
シアンはテーブルにへたり込んでいる。スミレもスミレで、淡々と話している。
スミレは幻獣クロノアで、時を司る幻獣なこともあって関心が希薄だった。その自分の性質を今になって後悔しているようである。
「あの人なら何か知っているかも知れませんね」
「ええ、できれば会いたくはないですけれど、こういう時ほど頼りになりますからね。あの猫は」
名前は出さなくてもピンとくる。それがケットシーだ。
普段はモスグリネで商業組合の組合長をしており、そんな立場でありながらも神出鬼没な猫の幻獣である。
シアンが転生してからというもの、ふらっと現れては帰っていくということを繰り返している。
ひょうひょうとした性格なので普段は関わりたくはないのだが、どこから仕入れてきたのか情報だけはかなり持っている。行き詰った時には頼りになる存在なのだ。
「なんでしょうかね。必要だと思ったら意外と現れませんね」
「そうですね。こういう時は大体笑いながら登場するんですけれど」
いつもなら邪魔されているはずなのに、今日は何も起きない。思わず首を捻ってしまう二人である。
「商業組合も学園祭の準備とか忙しいのかしらね」
「モスグリネにも貴族子女のための学園ってありますものね。そういうこともありますかと納得しておきましょう」
シアンもスミレも、精神的に疲れたので、この日はゆっくり休むことにしたのだった。
その頃のトパゼリア。
お城では今日も女王は忙しく仕事をこなしている。
「下の者にやらせていたが、ここまで大変とはな。妾もずいぶんと無茶を振っていたものだ」
アイヴォリーから帰還した後、自分でも少し仕事をするようになったのだという。
改めて自分で仕事をこなしてみると、いろいろと見えてこなかったものが見えてくるというものだ。我がままにいろいろ言いつけていた反動に、女王は少し滅入っているようだった。
「もうちょっと国内をしっかり把握しておかねばな。今まであの土地にこだわりすぎたツケか……」
仕事もそろそろ落ち着きそうになってきた時、部屋の扉が叩かれる。
「おお、来たか。息子たちよ、入れ」
「失礼致します」
声を聞いたわけでもないのに、やってきた人物を特定してしまう女王。これが彼女が胸に埋め込んだ石の力だ。
デーモンハートが浄化されたとはいえ、その力は失われていなかった。この宝石の力があるからこそ、彼女はこうやって女王の地位に居座っていられるのである。
「お呼びでしょうか、母上」
「うむ、そこに掛けるとよいぞ」
「はい、失礼します」
トパゼリアの女王には二人の息子がいる。
上が十一歳、下が十歳で、名前をそれぞれセージ、セラドンという。どちらも、少しくすんだ青色の髪と瞳を持っている。
「母上、突然ぶしつけな質問ですが、よろしいでしょうか」
「うむ、何なりと申せ」
息子たちの質問に答える気満々である。
「本当にアイヴォリー王国に堂々と乗り込むおつもりですか?」
「無論だ。今の妾は以前とは違う。それに、妾たちの希望の土地を大事にしてくれていたのなら、もうそれでよいと思ったのだ」
セージが問えば、女王は淡々とそう答えてる。ただ、その表情は少し微笑んでいるように見える。
「あれだけ強引に奪い返そうとされていたではないですか。なぜ……」
「なぜといわれるとな。妾はアイヴォリーの王妃と戦い、負けたのだ。そこで情けまでかけられたのだぞ? 負けたのだから、おとなしく身を引くものだろう」
「母上、本当に変わられましたね」
セラドンは驚いた顔をしている。
自分たちの記憶では、目的のためならば冷酷にもなれる、そんな母親だったのだから。
「それはそうだな。妾の胸にあったデーモンハートが浄化されたのだからな。ふふっ、それにしても光属性の使えぬ者が浄化の魔法を使えるとは、不思議なこともあるよな」
「……なんと?!」
息子たちが驚いている。
「ああ、確かモスグリネの王女だったか。名はシアンと申す者だ」
「シアン王女でございますか」
女王の言葉に、セージが興味を示している。
「今はアイヴォリーの王子の婚約者になったと聞いたな。以前なら奪えとでも言っただろうが、今はそうは言わぬぞ」
「母上……。そんな言葉が出るとは思いませんよ」
「ふふっ、妾自身も驚いておるよ。だが、学園祭に顔を出せばいろいろな人物に会うだろう。お前たちも十歳を過ぎたのだ。自分の目でいろいろ見てくるがよい」
「承知致しました、母上」
息子たちの前で母親っぽいところも見せる女王である。
母親と話すセージとセラドンは、いたって普通っぽく感じる。
だが、彼らもデーモンハートに魅入られた一族だ。彼らがやって来るアイヴォリー王国の学園祭は、少し波乱の予感を感じさせていた。
学園祭中は武術大会に参加する予定にしているので、正直相手をしていられるか分からなかった。
「実に面倒です」
「ええ、まったくです」
女王の子どもに関しては、なにぶん情報がない。
唯一あるのが、今回先触れの中で触れられていた十一歳と十歳という年齢の王子だということだけだ。
「あの女王に子どもがいたというのが衝撃的でしたね」
「そうですね。私も幻獣時代に少し情報を集めたくらいで詳しくはないですが」
シアンはテーブルにへたり込んでいる。スミレもスミレで、淡々と話している。
スミレは幻獣クロノアで、時を司る幻獣なこともあって関心が希薄だった。その自分の性質を今になって後悔しているようである。
「あの人なら何か知っているかも知れませんね」
「ええ、できれば会いたくはないですけれど、こういう時ほど頼りになりますからね。あの猫は」
名前は出さなくてもピンとくる。それがケットシーだ。
普段はモスグリネで商業組合の組合長をしており、そんな立場でありながらも神出鬼没な猫の幻獣である。
シアンが転生してからというもの、ふらっと現れては帰っていくということを繰り返している。
ひょうひょうとした性格なので普段は関わりたくはないのだが、どこから仕入れてきたのか情報だけはかなり持っている。行き詰った時には頼りになる存在なのだ。
「なんでしょうかね。必要だと思ったら意外と現れませんね」
「そうですね。こういう時は大体笑いながら登場するんですけれど」
いつもなら邪魔されているはずなのに、今日は何も起きない。思わず首を捻ってしまう二人である。
「商業組合も学園祭の準備とか忙しいのかしらね」
「モスグリネにも貴族子女のための学園ってありますものね。そういうこともありますかと納得しておきましょう」
シアンもスミレも、精神的に疲れたので、この日はゆっくり休むことにしたのだった。
その頃のトパゼリア。
お城では今日も女王は忙しく仕事をこなしている。
「下の者にやらせていたが、ここまで大変とはな。妾もずいぶんと無茶を振っていたものだ」
アイヴォリーから帰還した後、自分でも少し仕事をするようになったのだという。
改めて自分で仕事をこなしてみると、いろいろと見えてこなかったものが見えてくるというものだ。我がままにいろいろ言いつけていた反動に、女王は少し滅入っているようだった。
「もうちょっと国内をしっかり把握しておかねばな。今まであの土地にこだわりすぎたツケか……」
仕事もそろそろ落ち着きそうになってきた時、部屋の扉が叩かれる。
「おお、来たか。息子たちよ、入れ」
「失礼致します」
声を聞いたわけでもないのに、やってきた人物を特定してしまう女王。これが彼女が胸に埋め込んだ石の力だ。
デーモンハートが浄化されたとはいえ、その力は失われていなかった。この宝石の力があるからこそ、彼女はこうやって女王の地位に居座っていられるのである。
「お呼びでしょうか、母上」
「うむ、そこに掛けるとよいぞ」
「はい、失礼します」
トパゼリアの女王には二人の息子がいる。
上が十一歳、下が十歳で、名前をそれぞれセージ、セラドンという。どちらも、少しくすんだ青色の髪と瞳を持っている。
「母上、突然ぶしつけな質問ですが、よろしいでしょうか」
「うむ、何なりと申せ」
息子たちの質問に答える気満々である。
「本当にアイヴォリー王国に堂々と乗り込むおつもりですか?」
「無論だ。今の妾は以前とは違う。それに、妾たちの希望の土地を大事にしてくれていたのなら、もうそれでよいと思ったのだ」
セージが問えば、女王は淡々とそう答えてる。ただ、その表情は少し微笑んでいるように見える。
「あれだけ強引に奪い返そうとされていたではないですか。なぜ……」
「なぜといわれるとな。妾はアイヴォリーの王妃と戦い、負けたのだ。そこで情けまでかけられたのだぞ? 負けたのだから、おとなしく身を引くものだろう」
「母上、本当に変わられましたね」
セラドンは驚いた顔をしている。
自分たちの記憶では、目的のためならば冷酷にもなれる、そんな母親だったのだから。
「それはそうだな。妾の胸にあったデーモンハートが浄化されたのだからな。ふふっ、それにしても光属性の使えぬ者が浄化の魔法を使えるとは、不思議なこともあるよな」
「……なんと?!」
息子たちが驚いている。
「ああ、確かモスグリネの王女だったか。名はシアンと申す者だ」
「シアン王女でございますか」
女王の言葉に、セージが興味を示している。
「今はアイヴォリーの王子の婚約者になったと聞いたな。以前なら奪えとでも言っただろうが、今はそうは言わぬぞ」
「母上……。そんな言葉が出るとは思いませんよ」
「ふふっ、妾自身も驚いておるよ。だが、学園祭に顔を出せばいろいろな人物に会うだろう。お前たちも十歳を過ぎたのだ。自分の目でいろいろ見てくるがよい」
「承知致しました、母上」
息子たちの前で母親っぽいところも見せる女王である。
母親と話すセージとセラドンは、いたって普通っぽく感じる。
だが、彼らもデーモンハートに魅入られた一族だ。彼らがやって来るアイヴォリー王国の学園祭は、少し波乱の予感を感じさせていた。
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