出戻りマーメイド

未羊

文字の大きさ
36 / 47

第36話 応援する気持ちは一緒

しおりを挟む
「んもうっ! なんて強さなのよーっ!」

 試合が終わった時、真鈴ちゃんは悔しそうに地団太を踏んでいた。
 相手の高校は、全国大会にたまに出ることのある強豪校。この結果はやむを得ないかなって感じだわね。
 でも、本来の試合の半分の時間でこの点差はとんでもない強さだわ。

「さすが強豪校はそれだけ練習をしてきているってことだろうな」

「お兄ちゃんたちも練習しているのに、こんなの不公平よ」

「まあ、そうだな」

 真鈴ちゃんは頬を膨らませて、ものすごく不満そうだった。うん、気持ちは分かるわよ。
 私だって、海斗の試合をしている姿を見るのはこれが初めてだもの。まさかこんな結果になるなんて思ってもみなかったわ。

 だけど、海斗たちはそれほど休む間もなく、次の試合に臨む。
 次の相手は全国大会の常連。さっき戦った相手よりもさらに強い高校だわ。さっきの相手でもボロボロだったのに、それより強いとなると、更なる悲惨な結果が待っていることは想像に難くない。
 私は強く胸の前で手を握って、海斗たちを応援してしまう。

 狭いコートの中で入り乱れる十人の選手たち。だけど、私はやっぱり海斗の姿を追ってしまう。海斗の一挙手一投足に、一喜一憂してしまう。

(やっぱり、私って海斗のことが好きなんだなぁ……)

 無意識に目で追ってしまっていたことを自覚すると、私はついおかしくて笑ってしまう。

「ちょっと、お兄ちゃんたち負けてるのに、そんな風に笑わないでよ」

「あっ、ごめんね」

 不機嫌そうな真鈴ちゃんの声に我に返ると、苦笑いになって私は答えてしまう。
 私の顔を見た真鈴ちゃんは、ますます不機嫌になっていたわ。

 結局、次の強豪相手の練習試合も、一試合目と同じような大惨敗っぷりだった。

「くっそーっ! 力の差は分かってたけど、ここまでだとさすがに悔しさすら湧いてこないぜ」

 ここまで二試合終えた海斗は、床に足を放り出した状態で座り込みながら、正直な気持ちを叫んでいた。

「渡、あんまりはっきりそういうことを言うんじゃない。多分、相手も同じ気持ちだろうが、まだその相手との一試合が残っているんだからな」

「分かりましたよ、キャプテン」

 海斗がチームメイトからお小言を食らっていた。
 って、彼がキャプテンになってたのか。
 誰かっていうと、転生前の私の最後のクラスの委員長よ。真面目な優等生なんだけど、まさかバスケット部のキャプテンになっているとはね……。世の中分からないものだわ。
 私がじっと見ていると、そのキャプテンがこっちをちらりと見てくる。

「ほら、家族も見守っているんだろう? もうちょっと、しっかりした姿を見せてやりなよ、渡」

 一瞬ドキッとしたけど、なるほど、海斗に私たちの姿を見せるために顔を向けたのか。私のことに気が付いたのかと思ったわよ。
 そうかと思ったら、私の方を見て、ちょっと笑った気がした。

「分かったよ。最後は同じような実力の相手だ。これは絶対に負けねえからな」

「その意気だ。俺たちの実力もよく分かったことだし、この練習試合はいい収穫にしようじゃないか」

「だな、キャプテン」

 キャプテンに言われて、海斗は立ち上がって気合いを入れていた。
 そして、最後の練習試合に臨む。
 相手は似たような実力の高校だけど、わずかにこっちの高校の方が対戦成績が悪い。だけど、どちらも三連敗を避けたい気持ちがあるはず。
 海斗たちは、休憩時間を終えて、再びコートに集合していた。

「うぬぬぬ、さすがに全部負けるところは見たくないわ」

「それは私も同じ気持ちよ」

「しょうがない。今だけは一緒に応援しましょう」

「ええ、そうね」

 普段は私に対してあんまりいい顔をしてくれない真鈴ちゃんだけど、今回ばかりは一緒に応援することになった。
 まったく、真鈴ちゃんも海斗のことが相当好きなのね。やっぱり兄妹だからかな?
 とりあえず、普段のことは忘れて、海斗のことを一生懸命応援しなきゃね。
 目の前では、試合開始のジャンプボールが行われている。そこに立っているのは、やっぱり海斗だった。

「いっけーっ、お兄ちゃーんっ!」

 私たちの声援が届いたのか、このジャンプボールもしっかり海斗がものにしていた。三試合とも取ってるんだから、本当にすごいわね。
 試合を見ていると、海斗たちだって決して下手っていうわけじゃないのよね。相手がうますぎるっていう感じ。
 だって、この第三試合の相手は、海斗たちからボールをあまり奪えないでいるもの。
 時々試みられるスルーポイントシュートの精度だってあんまりよくない。なるほど、こういうところで相手に差をつけられてたってわけか。
 結果、終わってみればワンシュート分の二点差で海斗たちの勝利となった。

「よっしゃーっ!」

 試合終了のホイッスルが響き渡った瞬間、海斗の叫び声がコートの中に響き渡っていた。
 そのあまりにも大きな声に、私と真鈴ちゃんはつい笑ってしまっていた。

「お兄ちゃん、本当に嬉しそうよね」

「本当。よっぽど立て続けに負けたのが悔しかったんでしょうね」

「うんうん」

 お互いに頷いていたはずなんだけど、真鈴ちゃんは急に何かを思い出したかのように動きを止めた。

「か、勘違いしないでよ。さ、さっきまでは一時休戦してただけなんだから。あなたのことは、絶対に認めないんだから」

「ふふふっ、真鈴ちゃんてば可愛い」

「ふ、ふざけないでよ!」

 私は思わず真鈴ちゃんに抱きついていた。
 真鈴ちゃんの態度は相変わらずだけど、ちょっと距離が縮まったかなと思う日曜日だったわ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

デネブが死んだ

ありがとうございました。さようなら
恋愛
弟との思い出の土地で、ゆっくりと死を迎えるつもりのアデラインの隣の屋敷に、美しい夫婦がやってきた。 夫のアルビレオに強く惹かれるアデライン。 嫉妬心を抑えながら、妻のデネブと親友として接する。 アデラインは病弱のデネブを元気付けた。 原因となる病も完治した。それなのに。 ある日、デネブが死んだ。 ふわっとしてます

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

人質王女の恋

小ろく
恋愛
先の戦争で傷を負った王女ミシェルは顔に大きな痣が残ってしまい、ベールで隠し人目から隠れて過ごしていた。 数年後、隣国の裏切りで亡国の危機が訪れる。 それを救ったのは、今まで国交のなかった強大国ヒューブレイン。 両国の国交正常化まで、ミシェルを人質としてヒューブレインで預かることになる。 聡明で清楚なミシェルに、国王アスランは惹かれていく。ミシェルも誠実で美しいアスランに惹かれていくが、顔の痣がアスランへの想いを止める。 傷を持つ王女と一途な国王の恋の話。

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

処理中です...