出戻りマーメイド

未羊

文字の大きさ
42 / 47

第42話 年上は敬うべし

しおりを挟む
 波均命と久しぶりに話をした私は、その日の夜、診察を終えて戻ってきたおじいちゃん先生と一緒に夕食を取る。

「おや、マイや。ちょっと食事の量が少なくないかの?」

 夕食の食事を見たおじいちゃん先生が鋭く指摘してくる。さすがはおじいちゃん先生、勘が鋭いわね。

「今日はクリスマスイブだから、ケーキがあるの。だから、ちょっと減らしてあるんだ」

「なるほどな。しかし、わしはあまり甘いものは食べられんぞ」

「知っているわよ、おじいちゃん。だから、お兄ちゃんのお母さんと相談して、ケーキを選んできたの」

「ああ、美鳥さんと相談していたのか。なら、心配は要らんかな」

 私が答えた内容を聞いて、おじいちゃん先生はほっとしていたようだ。
 それにしても、十七年生きてきて、海斗のお母さんの名前は初めて聞いたわよ。
 海斗、真鈴、それと美鳥かぁ。らしい名前が並んでいる気がするわね。
 ご飯とおかずを平らげて、ある程度食事が済んだ頃、私は冷蔵庫からケーキを取り出してきた。
 クリーム控えめ、甘さ控えめ。おじいちゃん先生のことを考えたケーキと、自分用のケーキだ。真ん中には『Merry X'mas』と書かれたチョコプレートが乗っているのは共通だよ。

「おじいちゃん、本当にありがとう。身寄りのない私を引き取ってくれて」

「当然じゃよ。ただでさえわしは小児科の医師じゃぞ? 子どもに優しくしなくてどうするというのだ」

 ケーキと一緒にお礼を言うと、おじいちゃん先生は当然だと言わんばかりに笑って答えていた。まったく、私が知っているおじいちゃん先生だわ。
 デザートとしてケーキを食べる私たち。その最後に、私はおじいちゃん先生にもうひとつ話をすることにした。

「明日、平川さんの家でクリスマスパーティーをするらしいの。誘われたけど、行ってきても大丈夫かな?」

「おお、平川のところか。構わんよ。友人というものは大事にするものだぞ、マイ」

「うん。……でも、私は本当は別の世界の存在なのに、仲良くしてていいのかなって思うな」

「気にするな。いつ戻れるかも分からんのだしのう。戻るにしてもいい思い出が多い方がいいじゃろうて」

 私がつい悩みを漏らしてしまうと、おじいちゃん先生はアドバイスをしてくれていた。
 私が悩んでいた理由は、別れる時につらくなるんじゃないかと思ったからよ。同じ世界じゃなくて別の世界だから、帰っちゃうと二度と会えなくなっちゃうからね。
 でも、おじいちゃん先生がそう言ってくれるのなら、私はそれに従うことにした。涙の別れより、笑顔の別れの方がいいわよね。
 そんなわけで、私は平川さんの家のクリスマスパーティーに参加することに決めたのだった。

 翌日、私は診察の準備をしているおじいちゃん先生に出かけることを伝えると、波均命の神社へと向かう。
 外に出た途端、冬の空気が冷たくて非常に体が震えた。カイロをいくつか仕込んだというのに、なんでこんなに寒いのよ。
 帽子に耳当て、マフラーにコートと、自分の姿が分からないくらいにがっちり着込んでいる。それでも寒い。マーメイドって、寒さに弱すぎないかしら。
 ガタガタと震えながら、私は途中でコンビニに寄って、ゴミ袋を購入して神社に急いだ。

 到着した波均命の神社は、相変わらず落ち葉で散らかり放題だ。これでも私たちの町を海の災害から守ってくれている神様がいる神社なのに、あまりにもひどすぎるというものだわ。

「よーし、やっちゃいますか」

 私は気合いを入れると、神社の掃除を早速始める。
 手袋の上から軍手を着けて、散らかっている落ち葉や枯れ枝をゴミ袋に放り込んでいく。
 時折冬の冷たい風に吹き飛ばされていくものの、私は一生懸命掃除をしていく。

『なんだ。今日も来たのか』

 私が掃除をしていると、波均命がひょっこりを姿を見せた。

「あっ、波均命様。やっぱり見てられないですからね。マーメイドの私にとっては、海の神様は大事にしなきゃいけない存在ですし、なにより放っておけないんですよ」

 私はにこやかに掃除をしている理由を答えている。
 私が話した内容を聞いて、波均命はやれやれという様子で私を見ている。

『まったく、余計なことをしてくれるな。そんなことをしては、ただでさえ信仰心の薄い連中が来なくなってしまうではないか』

「普段からできない人たちの信仰心なんてたかが知れてますよ。こういうことは継続的にしてこそです」

「その通りだぞ、マイ」

「うわぁっ?!」

 私が波均命と話をしていると、横から誰かの声が聞こえてきた。私は思わずびっくりしてしまう。

「お、お、お兄ちゃん?!」

「やあ、マイ。ジョギングをしていたら姿が見えたんで来たんだが、何をしているんだ?」

「み、見ての通り、神社の掃除ですよ。こんなの見てられないじゃないの」

 海斗に尋ねられたので、私はむすっとした顔で答えている。手には葉っぱの詰まったゴミ袋もあるから、説得力があるはず。

「そっか。それにしても、誰と話してたんだ? 誰もいないみたいだけど」

「独り言だから気にしないでよ」

 海斗に聞かれたけれど、これ以上追及されないように私はすっぱりと言いきっておいた。
 そんなわけで、海斗がやって来たことによって、波均命との話は強制終了になっちゃったわ。
 最後に私は、クリスマスプレゼントとして小さなカップケーキとスプーンをお供えしていった。

「お供え物か」

「うん。海の平和をありがとうってね」

「……そうだな」

 私と海斗は、ゴミ袋を抱えて波均命の神社を去っていったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

デネブが死んだ

ありがとうございました。さようなら
恋愛
弟との思い出の土地で、ゆっくりと死を迎えるつもりのアデラインの隣の屋敷に、美しい夫婦がやってきた。 夫のアルビレオに強く惹かれるアデライン。 嫉妬心を抑えながら、妻のデネブと親友として接する。 アデラインは病弱のデネブを元気付けた。 原因となる病も完治した。それなのに。 ある日、デネブが死んだ。 ふわっとしてます

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

人質王女の恋

小ろく
恋愛
先の戦争で傷を負った王女ミシェルは顔に大きな痣が残ってしまい、ベールで隠し人目から隠れて過ごしていた。 数年後、隣国の裏切りで亡国の危機が訪れる。 それを救ったのは、今まで国交のなかった強大国ヒューブレイン。 両国の国交正常化まで、ミシェルを人質としてヒューブレインで預かることになる。 聡明で清楚なミシェルに、国王アスランは惹かれていく。ミシェルも誠実で美しいアスランに惹かれていくが、顔の痣がアスランへの想いを止める。 傷を持つ王女と一途な国王の恋の話。

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

処理中です...