44 / 47
第44話 神様の忠告
しおりを挟む
平川さんの家でクリスマスパーティーがあった後の私は、26日と27日の二日間は家でじっとしていた。
いかんせん雪予報だったからだ。
寒さに弱いマーメイド族では、どうなるか分かったものじゃない。とはいえ、さすがにおじいちゃん先生に買い物に行こうと誘されたら、一緒に行くしかなかったけどね。
その買い物の際、寒そうにしている私のために、おじいちゃん先生はカイロを買い足してくれていた。五十個入りの大容量のやつを。
私も悪いとは思ったわ。将来的にどうにかして恩を返してあげたいけれど、さすがにそんな年までこっちに滞在していたくはないな。う~ん、難しいところだわ。
そうして迎えた28日。この日は年内最後の診察日ということで、おじいちゃん先生の医院は大混雑だ。これじゃ家にいても落ち着きそうにないので、私は防寒対策でガッチガチに固めて、波均命の神社へと出向くことにした。
予定通りならあさってにお祭りで、その前日の29日に神社の掃除が行われるはず。ならば、もう今日くらいしか様子を見に行けないからね。
神社までの道のりのあちこちには、昨日と一昨日に降った雪がまだ融けずに残っていた。
その状態を見てしまうと、私の足取りはさらに慎重さを増してしまう。一応冬用のブーツとはいえ、凍った地面ならやっぱりわけが違うだろうからね。
私は道行く人たちと挨拶をしながら、どうにかこうにか波均命の神社へと到達した。
「はあ、ようやく到着。うう、本当に寒いわね……」
動いたから体は温まっているはずなんだけど、種族特性のせいかやっぱり寒くてたまらない。吐く息は白いし、呼吸のたびに心から冷え込むような錯覚に陥る。
魔法で水の膜を作って防ぎたくなるけど、この寒さじゃ逆に凍り付きそうでかえって危険な気がしてきた。
そんなわけで、私はとにかく寒さをどうにか我慢するしかなかった。
『まったく、何をそんなに震えておるのだ』
「あっ、波均命様、こんにちは」
波均命が姿を見せたので、私は挨拶をしておく。
『うむ、よく来たな』
私が挨拶をしたので、波均命も迎えの挨拶をしてくれた。
『まったく、寒さに弱いというのに、よくもまあ来たものよな』
「えへへへ。海の調査がどうなっているのか気になりますからね」
『まったく、そんなに元の世界に帰りたいのか?』
私が照れたように笑いながら答えると、波均命はどことなく呆れたような声で返してきた。
「そりゃもちろん。ピクニックに出かけたところで謎の水流に襲われたんだもの。みんな絶対心配しているわよ」
『まあ、普通に考えればそうか。だが、こちらの時と同じように、向こうの記憶も消えておるとは考えられぬか?』
「可能性はあるかもしれないけれど、マーメイド族の王女は私だけだもの。戻らないわけにはいかないというものだわ」
『なるほどな。それは確かに戻らねばならぬだろうな』
いろいろと意地悪なことを言ってくるけれど、私が必死に言い返せば最後は納得してくれた。物わかりのいい神様で助かるわ。
だけど、話をしていて気になるのは、こっちの世界に飛ばされてきた理由と原因よ。調べてくれてるんなら、ちょっとくらい分かっていないかしら。
「ところで、波均命様」
『なんだ?』
「私がこっちに飛ばされてきた時の痕跡とかありましたかね」
『う、うむ……』
私が追及すれば、すんごく歯切れの悪い態度になったわ。これは、まだ何も見つけられていないということで間違いないかしら。
『悪いな。この俺の管轄でありながら、なにもまだ見つかってはおらん。おぬしは確かにこの世界の者ではないのだから、何かしらの痕跡はありそうなのだがな。巧妙に隠されているのか、この俺の目に引っかからんのだよ』
「そっかぁ……。まあ、そもそも簡単に解決するとは思ってないから、別にいいんだけどね。ただ、早い方がいいのは事実だから、頑張ってもらいたいなぁ。春まで私は海に潜れなさそうだし」
『う、うむ。努力はさせてもらう』
不満げに返してあげると、さすがに波均命は焦ったような反応を見せていた。
『ああ、そうだ』
「うん?」
そんな中、波均命は何かを思い出したようで、私の方をじっと見てくる。
『おぬしと一緒になることのある男がいるな?』
「海斗のこと?」
質問に私が確認するように返すと、こくりと頷いている。
『うむ。その男の気配が、おぬしが以前向かったという小島の辺りから感じられた。ただ、かなり薄まっているので、だいぶ昔のもののようだ』
「それがどうかしたの?」
『普通、気配というのはそんなに長く残るものではない。それがいまだに残っているということは、何者かがそれを触媒に使ったということだろう』
「触媒?」
妙な単語が出てきたので、私はなにそれという顔で聞き返している。
『簡単に言えば、儀式などで使う道具だな。何かを結びつけるために使われる、仲介をするための道具が触媒というわけだ』
「なんでそんなものに?」
『それが分かれば苦労はせん。だが、よからぬ考えを持った者がおったということは間違いないだろう。重々に気をつけるといい』
「忠告、どうもありがとう。魔法が使える身ではあるけれど、私はそういうのは信じないから」
『気を付けるに越したことはない。あの男と会う時には、周りに気を付けるのだ』
「……分かったわよ」
なんだかイライラして来ていたので、私はすっかり砕けた言葉遣いで波均命の対応をしてしまった。
だけど、信じないとはいったものの、なんだか気になる話だわ。
私は神社の掃除をしながら、ひとまず心の片隅に思いとどめておくことにしたのだった。
いかんせん雪予報だったからだ。
寒さに弱いマーメイド族では、どうなるか分かったものじゃない。とはいえ、さすがにおじいちゃん先生に買い物に行こうと誘されたら、一緒に行くしかなかったけどね。
その買い物の際、寒そうにしている私のために、おじいちゃん先生はカイロを買い足してくれていた。五十個入りの大容量のやつを。
私も悪いとは思ったわ。将来的にどうにかして恩を返してあげたいけれど、さすがにそんな年までこっちに滞在していたくはないな。う~ん、難しいところだわ。
そうして迎えた28日。この日は年内最後の診察日ということで、おじいちゃん先生の医院は大混雑だ。これじゃ家にいても落ち着きそうにないので、私は防寒対策でガッチガチに固めて、波均命の神社へと出向くことにした。
予定通りならあさってにお祭りで、その前日の29日に神社の掃除が行われるはず。ならば、もう今日くらいしか様子を見に行けないからね。
神社までの道のりのあちこちには、昨日と一昨日に降った雪がまだ融けずに残っていた。
その状態を見てしまうと、私の足取りはさらに慎重さを増してしまう。一応冬用のブーツとはいえ、凍った地面ならやっぱりわけが違うだろうからね。
私は道行く人たちと挨拶をしながら、どうにかこうにか波均命の神社へと到達した。
「はあ、ようやく到着。うう、本当に寒いわね……」
動いたから体は温まっているはずなんだけど、種族特性のせいかやっぱり寒くてたまらない。吐く息は白いし、呼吸のたびに心から冷え込むような錯覚に陥る。
魔法で水の膜を作って防ぎたくなるけど、この寒さじゃ逆に凍り付きそうでかえって危険な気がしてきた。
そんなわけで、私はとにかく寒さをどうにか我慢するしかなかった。
『まったく、何をそんなに震えておるのだ』
「あっ、波均命様、こんにちは」
波均命が姿を見せたので、私は挨拶をしておく。
『うむ、よく来たな』
私が挨拶をしたので、波均命も迎えの挨拶をしてくれた。
『まったく、寒さに弱いというのに、よくもまあ来たものよな』
「えへへへ。海の調査がどうなっているのか気になりますからね」
『まったく、そんなに元の世界に帰りたいのか?』
私が照れたように笑いながら答えると、波均命はどことなく呆れたような声で返してきた。
「そりゃもちろん。ピクニックに出かけたところで謎の水流に襲われたんだもの。みんな絶対心配しているわよ」
『まあ、普通に考えればそうか。だが、こちらの時と同じように、向こうの記憶も消えておるとは考えられぬか?』
「可能性はあるかもしれないけれど、マーメイド族の王女は私だけだもの。戻らないわけにはいかないというものだわ」
『なるほどな。それは確かに戻らねばならぬだろうな』
いろいろと意地悪なことを言ってくるけれど、私が必死に言い返せば最後は納得してくれた。物わかりのいい神様で助かるわ。
だけど、話をしていて気になるのは、こっちの世界に飛ばされてきた理由と原因よ。調べてくれてるんなら、ちょっとくらい分かっていないかしら。
「ところで、波均命様」
『なんだ?』
「私がこっちに飛ばされてきた時の痕跡とかありましたかね」
『う、うむ……』
私が追及すれば、すんごく歯切れの悪い態度になったわ。これは、まだ何も見つけられていないということで間違いないかしら。
『悪いな。この俺の管轄でありながら、なにもまだ見つかってはおらん。おぬしは確かにこの世界の者ではないのだから、何かしらの痕跡はありそうなのだがな。巧妙に隠されているのか、この俺の目に引っかからんのだよ』
「そっかぁ……。まあ、そもそも簡単に解決するとは思ってないから、別にいいんだけどね。ただ、早い方がいいのは事実だから、頑張ってもらいたいなぁ。春まで私は海に潜れなさそうだし」
『う、うむ。努力はさせてもらう』
不満げに返してあげると、さすがに波均命は焦ったような反応を見せていた。
『ああ、そうだ』
「うん?」
そんな中、波均命は何かを思い出したようで、私の方をじっと見てくる。
『おぬしと一緒になることのある男がいるな?』
「海斗のこと?」
質問に私が確認するように返すと、こくりと頷いている。
『うむ。その男の気配が、おぬしが以前向かったという小島の辺りから感じられた。ただ、かなり薄まっているので、だいぶ昔のもののようだ』
「それがどうかしたの?」
『普通、気配というのはそんなに長く残るものではない。それがいまだに残っているということは、何者かがそれを触媒に使ったということだろう』
「触媒?」
妙な単語が出てきたので、私はなにそれという顔で聞き返している。
『簡単に言えば、儀式などで使う道具だな。何かを結びつけるために使われる、仲介をするための道具が触媒というわけだ』
「なんでそんなものに?」
『それが分かれば苦労はせん。だが、よからぬ考えを持った者がおったということは間違いないだろう。重々に気をつけるといい』
「忠告、どうもありがとう。魔法が使える身ではあるけれど、私はそういうのは信じないから」
『気を付けるに越したことはない。あの男と会う時には、周りに気を付けるのだ』
「……分かったわよ」
なんだかイライラして来ていたので、私はすっかり砕けた言葉遣いで波均命の対応をしてしまった。
だけど、信じないとはいったものの、なんだか気になる話だわ。
私は神社の掃除をしながら、ひとまず心の片隅に思いとどめておくことにしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
デネブが死んだ
ありがとうございました。さようなら
恋愛
弟との思い出の土地で、ゆっくりと死を迎えるつもりのアデラインの隣の屋敷に、美しい夫婦がやってきた。
夫のアルビレオに強く惹かれるアデライン。
嫉妬心を抑えながら、妻のデネブと親友として接する。
アデラインは病弱のデネブを元気付けた。
原因となる病も完治した。それなのに。
ある日、デネブが死んだ。
ふわっとしてます
捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。
亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。
だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。
婚約破棄をされたアニエル。
だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。
ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。
その相手とはレオニードヴァイオルード。
好青年で素敵な男性だ。
婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。
一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。
元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……
人質王女の恋
小ろく
恋愛
先の戦争で傷を負った王女ミシェルは顔に大きな痣が残ってしまい、ベールで隠し人目から隠れて過ごしていた。
数年後、隣国の裏切りで亡国の危機が訪れる。
それを救ったのは、今まで国交のなかった強大国ヒューブレイン。
両国の国交正常化まで、ミシェルを人質としてヒューブレインで預かることになる。
聡明で清楚なミシェルに、国王アスランは惹かれていく。ミシェルも誠実で美しいアスランに惹かれていくが、顔の痣がアスランへの想いを止める。
傷を持つ王女と一途な国王の恋の話。
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる