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Mission027
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ギルソンとマリカが工房に通い始めてから半年経過した。アリスも含めてめきめきとオートマタの技術を身に付けていき、それは工房の人たちが目を見張るほどだった。
それもそうだろう、11歳になったばかりの子どもたちが、自分たちに見劣りしないくらいのオートマタの部品を作り上げるのだから。少なくとも数年はかかると言われるオートマタの製造を、まさか半年で身に付けてしまうとは、よほどの適性があったという事なのだろう。
「うーん、驚きだなぁ。まだここに来て半年、11歳の若者が作る品質じゃねえぞ、これは」
ギースも完全に唸っている。
「実に表面はなめらかだ。これならすぐに組み立てて1体くらいオートマタを作れそうなもんだな」
というわけで、ギースのこの一声で、アリスたちは早速オートマタの素体を組み立てる事になった。三人で作ったパーツを組み立てていくと、確かに部位の欠損の無い確かなオートマタの素体が完成したのである。これには工場の誰もがさらに驚いた。
「こいつは、今までに見た事がないくらい、実に見事な出来栄えじゃねえか。信じられねえな……」
なんて、この工場の責任者であるギースも見た事がないレベルのオートマタの素体なのだという。それをまだ11歳の子どもが作ったっていうのだから、それは信じられないと思うのも無理はなかった。
だが、いつまでも驚いてはいられなかった。こうなると、次の段階に移りたくなるものだ。これだけ見事なオートマタの素体だというのなら、そこに魔法石を埋め込んで動かしてみれば、それは最高級のオートマタとなり得るのではないかと。
「おい、誰か魔法石を持ってこい。この上ないってやつをよ」
「えっ、お、親方?」
ギースの突然の命令に、作業員たちが戸惑う。
「早く持って来いって言ってるんだ!」
「は、はいっ!」
ギースは怒鳴って、魔法石を早く持ってこさせた。この見事なまでの素体に、採れた中でも最高の魔法石を合わせる。ギースは今までにない高揚感に包まれていた。
魔法石が届くまでの間、アリスもでき上がった素体を魔法で調べていた。
(ふむふむ、私自身の評価より高いのは当然ですが、この魔法の5段階の評価の中でも最高レベルですか……。やはり、お二人にオートマタを作らせてみて正解でしたね)
アリスは無表情を保ちながら、ちらちらと周りを見ている。さすがにギースがここまで言う事態だ。工房の中で手が動いている者は、誰一人として居なかった。
しばらくして、魔法石を取りに行っていた作業員が戻ってきた。持ってきたのは採掘場で採れた魔法石の中でも、ひと際大きく輝きも素晴らしいものだった。だが、それを見たアリスは、
「おやめ下さい。その石ではこの素体には合いません」
と、慌てて作業員を止めさせた。さすがにこれにはギースたちは驚いて動きを止めた。
「どういう事だ。ライバルの工房に最高のオートマタを作らせたくねえって事か?」
「違います。見て分かったのです。素体と石の相性がよろしくありません。このまま無理にはめ込むような事をすれば、この子は暴走してしまいます。ここはひとつ、この私に石を選ばせて頂けませんか?」
ギースが凄んで睨み付けてくるが、アリスは怯む事なくギースに反論した。今の自分はオートマタなのだ。オートマタだからこそ分かる事もあるというものなのだ。
ギースの睨みとアリスの真剣な眼差しがぶつかり合う。その結果、
「分かった。オートマタがそう言うんなら任せてやる。ただし、粗悪なオートマタになったら、責任は取ってもらうぞ」
ギースの方が折れた。
「ええ、いいでしょう。私の方も、オートマタとしての意地というものがあります。見事に引き当ててみせましょう」
二人がやり取りを終えると、アリスはギースに引き連れられて魔法石の保管庫へとやって来た。引き出しがたくさんついた棚に、魔法石が収められている。ちなみにさっきの大きな魔法石は戻すために持ってきている。
アリスは神経を研ぎ澄ませながら、棚の一つ一つを調べていく。そして、その中の一つの引き出しの前で手が止まった。
(この感じ……)
何かを感じたアリスは、戸棚を開けて魔法石を掴む。
「ええ、この石です。この石こそ、あの素体にふさわしい魔法石です」
この時のアリスには、確信めいた何かがあった。そのあまりに自信にあふれた表情に、ギースは何も言えなかった。
その魔法石を持って、工房へと戻るアリスたち。そして、オートマタを持ちたいと言っていたマリカにその石を渡す。
「これはあなたが初めて作るオートマタです。あなたの手で完成させて下さい」
アリスにこう言われたマリカは、「はい」とだけ頷いた。
そして、緊張の一瞬である。
マリカは恐る恐る、額にあるくぼみへと、その魔法石を埋め込んだ。
「マリカさん、そのオートマタが動き出せるように強く願いながら、もう一度魔法石に触れて下さい」
「は、はい!」
アリスのアドバイスで、マリカは思いを込めながら魔法石に指を触れ、強く押し込んだ。すると、魔法石から眩いばかりの光が放たれた。
やがて光が収まると、オートマタの目がゆっくりと開く。その視線の先にはマリカの姿があった。
「……おはようございます。マイマスター」
それもそうだろう、11歳になったばかりの子どもたちが、自分たちに見劣りしないくらいのオートマタの部品を作り上げるのだから。少なくとも数年はかかると言われるオートマタの製造を、まさか半年で身に付けてしまうとは、よほどの適性があったという事なのだろう。
「うーん、驚きだなぁ。まだここに来て半年、11歳の若者が作る品質じゃねえぞ、これは」
ギースも完全に唸っている。
「実に表面はなめらかだ。これならすぐに組み立てて1体くらいオートマタを作れそうなもんだな」
というわけで、ギースのこの一声で、アリスたちは早速オートマタの素体を組み立てる事になった。三人で作ったパーツを組み立てていくと、確かに部位の欠損の無い確かなオートマタの素体が完成したのである。これには工場の誰もがさらに驚いた。
「こいつは、今までに見た事がないくらい、実に見事な出来栄えじゃねえか。信じられねえな……」
なんて、この工場の責任者であるギースも見た事がないレベルのオートマタの素体なのだという。それをまだ11歳の子どもが作ったっていうのだから、それは信じられないと思うのも無理はなかった。
だが、いつまでも驚いてはいられなかった。こうなると、次の段階に移りたくなるものだ。これだけ見事なオートマタの素体だというのなら、そこに魔法石を埋め込んで動かしてみれば、それは最高級のオートマタとなり得るのではないかと。
「おい、誰か魔法石を持ってこい。この上ないってやつをよ」
「えっ、お、親方?」
ギースの突然の命令に、作業員たちが戸惑う。
「早く持って来いって言ってるんだ!」
「は、はいっ!」
ギースは怒鳴って、魔法石を早く持ってこさせた。この見事なまでの素体に、採れた中でも最高の魔法石を合わせる。ギースは今までにない高揚感に包まれていた。
魔法石が届くまでの間、アリスもでき上がった素体を魔法で調べていた。
(ふむふむ、私自身の評価より高いのは当然ですが、この魔法の5段階の評価の中でも最高レベルですか……。やはり、お二人にオートマタを作らせてみて正解でしたね)
アリスは無表情を保ちながら、ちらちらと周りを見ている。さすがにギースがここまで言う事態だ。工房の中で手が動いている者は、誰一人として居なかった。
しばらくして、魔法石を取りに行っていた作業員が戻ってきた。持ってきたのは採掘場で採れた魔法石の中でも、ひと際大きく輝きも素晴らしいものだった。だが、それを見たアリスは、
「おやめ下さい。その石ではこの素体には合いません」
と、慌てて作業員を止めさせた。さすがにこれにはギースたちは驚いて動きを止めた。
「どういう事だ。ライバルの工房に最高のオートマタを作らせたくねえって事か?」
「違います。見て分かったのです。素体と石の相性がよろしくありません。このまま無理にはめ込むような事をすれば、この子は暴走してしまいます。ここはひとつ、この私に石を選ばせて頂けませんか?」
ギースが凄んで睨み付けてくるが、アリスは怯む事なくギースに反論した。今の自分はオートマタなのだ。オートマタだからこそ分かる事もあるというものなのだ。
ギースの睨みとアリスの真剣な眼差しがぶつかり合う。その結果、
「分かった。オートマタがそう言うんなら任せてやる。ただし、粗悪なオートマタになったら、責任は取ってもらうぞ」
ギースの方が折れた。
「ええ、いいでしょう。私の方も、オートマタとしての意地というものがあります。見事に引き当ててみせましょう」
二人がやり取りを終えると、アリスはギースに引き連れられて魔法石の保管庫へとやって来た。引き出しがたくさんついた棚に、魔法石が収められている。ちなみにさっきの大きな魔法石は戻すために持ってきている。
アリスは神経を研ぎ澄ませながら、棚の一つ一つを調べていく。そして、その中の一つの引き出しの前で手が止まった。
(この感じ……)
何かを感じたアリスは、戸棚を開けて魔法石を掴む。
「ええ、この石です。この石こそ、あの素体にふさわしい魔法石です」
この時のアリスには、確信めいた何かがあった。そのあまりに自信にあふれた表情に、ギースは何も言えなかった。
その魔法石を持って、工房へと戻るアリスたち。そして、オートマタを持ちたいと言っていたマリカにその石を渡す。
「これはあなたが初めて作るオートマタです。あなたの手で完成させて下さい」
アリスにこう言われたマリカは、「はい」とだけ頷いた。
そして、緊張の一瞬である。
マリカは恐る恐る、額にあるくぼみへと、その魔法石を埋め込んだ。
「マリカさん、そのオートマタが動き出せるように強く願いながら、もう一度魔法石に触れて下さい」
「は、はい!」
アリスのアドバイスで、マリカは思いを込めながら魔法石に指を触れ、強く押し込んだ。すると、魔法石から眩いばかりの光が放たれた。
やがて光が収まると、オートマタの目がゆっくりと開く。その視線の先にはマリカの姿があった。
「……おはようございます。マイマスター」
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