ドラゴニックプラネット

未羊

文字の大きさ
75 / 75

第75話 好かれるもの、嫌われるもの

しおりを挟む
 がさがさと音がして物陰から飛び出てきたのは、大きなトカゲだった。

「まあ、可愛い」

 予想外なブランの反応に、レンクスはぎょっとする。

「あれのどこが可愛いんだよ。トカゲにしたらやたらでかいし……、こいつ、恐竜の子どもか?」

「えっ?」

 レンクスが口に出した推理に、ブランは思わずびっくりしてしまう。
 確かによく見てみれば、鋭い爪やら太い体といった、アロサウルスによく似た恐竜と同じような特徴を備えている。

「きゅる?」

 だが、不思議そうに首を傾げる姿は、ブランの心を間違いなく貫いてしまっていた。

「か~わ~い~」

 ブランの反応に思わず引いてしまうレンクスである。

「お前、この虫どもも気に入っていると思ったが、恐竜の子どもまで好きになるのか。お前の好みがまったく分からんぞ」

『あれならば我でも勝てそうですな』

 表情を歪ませながら苦言を呈するレンクスに対し、ノワールはなんとも好戦的である。
 おそらくノワールは、あまりの図体のでかさに勝負できないことにストレスをためているのだろう。そのうっぷんが今のようなセリフにつながったのだと思われる。

「もう、ノワールってば。相手はまだ子どもよ。今ならまだ仲良くなれるかもしれないじゃない」

 ブランがノワールに文句を言うと、レンクスが急に立ち上がる。

「ちょっと、レンクス。何をするつもりなの?」

「なに、ブランの能力を試してみたいだけさ」

「待って、まさか……」

 恐竜の子どもにずかずかと歩いていくレンクスを、ブランは止めようとする。
 ところが、次の瞬間、恐れていた事態が起きてしまう。

「子どもだと楽だな」

「何をしてるのよ、レンクス!」

 レンクスの足元には、恐竜の子どもが横たわっている。
 なんということだろうか。こともあろうにレンクスは恐竜の子どもの首を折ってしまったのだ。

『ふむ……。恐竜も子どものうちに叩けば、我らでも勝負になるということか。だが、子どもを見つけるのは難しい。なにゆえ、ここに子どもがいたのだ?』

 ノワールは冷静に分析をしている。
 その目の前では、ブランが倒れた恐竜の子どもを抱きかかえている。
 さっきまで可愛さに喜んでいたとは思えない表情である。
 動かなくなった恐竜の子どもを抱きかかえて、ブランが涙を流している。恐ろしい相手であろうと、やはり子どもを手にかけることは許せなかったのだろう。軽蔑の目をレンクスに向けている。

「お前の気持ちも分からんでもないが、放っておくとそいつはでかくなった時に俺たちを襲ってくることになるんだぞ? 危険な芽は早めに摘み取っておくべきだろうが」

「うう、そうよね……」

 レンクスの反論に、ブランは一応納得する。納得はするけれども、気持ちはそうはいかなかった。

「ごめんね、痛かったでしょうに」

 ブランは泣きながら、恐竜の子どもをさらにきつく抱きしめる。
 その時だった。
 恐竜の体に触れたブランの涙が奇跡を起こす。

「えっ、なに。何が起きてるの?」

「なんだ、この光は!」

『先日のマロンたちの時とはけた違いの輝きですぞ』

 ノワールが指摘する通り、ブランが対象を眷属化する時には、眷属化に成功したという証として対象の体がうっすらと光るようになっている。
 ところが、今回の恐竜の子どもは、かなり強く光っている。
 理由はまったく分からない。あるとすれば、ブランの強い哀れみの気持ちだろう。
 徐々に光がおさまっていくと、恐竜の子どもの首は正常に戻り、ゆっくりと目が開いていく。

『主』

 目が覚めた恐竜の子どもは、第一声としてブランのことを『主』と呼んだ。どうやら眷属化に成功したらしい。

『やい、さっきはよくも痛い目に遭わせてくれたな。仕返ししてやるぞ』

 目が覚めたかと思えば、レンクスを視界に入れた途端、敵愾心丸出しである。
 それもそうだ。近付いてきたと思ったら首をがっちり固めてきたのだから。

「レンクス、しっかりと嫌われてしまってるわよ。謝ってちょうだい」

「いや、でもなぁ……」

「謝って」

 ブランからの強い圧に屈し、レンクスはやむなく恐竜の子どもに頭を下げていた。

「悪い、ブランの能力を確かめたかっただけなんだ」

『だーめ。僕は許さないからね』

 だが、初対面の印象が悪すぎたせいか、謝っても全然許す気配はなかった。こればかりは自業自得である。ノワールも擁護するつもりはまったくないようだ。
 ひとまずは恐竜の子どもに関する騒動は落ち着いたものの、レンクスの評価はガタ落ちたままで終わりそうだった。
 レンクスにお説教の終わったブランは、恐竜の子どもに名前をつけようとして唸っている。
 しばらく悩んだ結果、ブランは恐竜の子どもに付ける名前が決まったようだ。

「あなたの名前はレザールよ。これからはよろしくね」

『ありがとう、主。主のためなら頑張るよ』

『うむ、歓迎するぞ、レザール。我はノワールだ、よろしく頼む』

『うん!』

 レザールはとても名前を気に入ったらしく、にこにこと笑っているようだった。
 喜び合うブランたちとは対照的に、すっかり嫌われてしまったであろうレンクスはしばらくショックで立ち直れないようだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...