魔王聖女

未羊

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第65話 新年祭を見守る元魔王

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 お昼を過ぎて、皇帝たちと一緒に移動をすることになるアリエルたち。
 やってきた場所は帝都の中でもひときわ開けた場所だった。

「この広い場所はどういった場所か不思議だったのですが、新年祭を行う会場だったのですね」

 帝都の見学の際に見かけたかなり広い場所の謎が、今ここに解かれたのである。
 大広場の周りには、この日のための屋台が建ち並んでいる。
 屋台の店主たちは昨日までの大雪でどうなるかとひやひやしていたようで、すっかり良くなった天気に、空と同じような晴れ渡った笑顔を見せている。

 皇帝たちの到着を合図に、街の人たちがぞろぞろと大広間に集まってくる。
 よく見ると、その一角にはひときわ高くなった場所が設けられている。椅子が置かれていることから、おそらくはここで皇帝や皇妃が見物するということなのだろう。
 一国の主である皇帝や、国を守ってくれる聖女。その重要人物たちの目の前で一芸を披露して楽しむ。それが、ハデキヤ帝国の新年祭のようだった。
 皇帝のいる場所をぐるりと物々しい警備が取り囲む中、最初の出し物が登場する。

「最初は帝室親衛隊による演武が行われます。個人演武、二人演武が行われ、そこから一般の方の様々な技能を披露していくんですよ」

「そうなのですね」

 オーロラの説明を聞いて、アリエスはなるほどと頷いている。
 アリエスの隣では、キャサリーンは無表情でじっと見つめている。

「キャサリーン様は、不機嫌そうですね」

「いつもそうだから、心配しないで下さい。技能というものは、見せびらかすものではないという考えをお持ちですから、いっつもこうなんですよ」

「そ、そうなのですね。そういうお考えもあるのですね」

 オーロラの説明に、これまた納得のいくアリエスだった。

「それで、この新年祭の一番の見どころは、締めに行われます団体演武です。十名ほどの選ばれた騎士たちが、剣を持って模擬戦を行うんですよ。もちろん、剣はこのために用意された特別な斬れない剣です。危ないですからね」

「なるほど、帝国民に広く自分たちの技術を見せつけるために、このような催しが行われているのですね。一年の最初に見せつけて、その年の活力するといったところでしょうか」

 アリエスがこう答えると、オーロラはこくりと頷いている。どうやらその通りのようだ。
 個人演武、二人演武が終わり、大きな拍手が起きる。さすが帝室親衛隊、その動きは隅々まで洗練されており、覇気すらも感じるものだった。
 しかし、アリエスたちが感動している中、キャサリーンだけは相変わらずのぶすっとした表情だった。やはり、魔王も打ち倒した聖女にしてみれば、このような魅せる動きというものは気に食わないようである。

「アリエス様、オーロラ様。キャサリーン様が先程からずっと怖いのですが」

「いいのですよ。キャサリーン様は何度も死線をくぐられてきておりますので、こういった見世物の戦いというのが気に入らないだけですから」

「うるさいですね。こそこそ人の話をしないで下さい。それこそ気分が悪いですよ」

 キャサリーンの怒りに満ちた声に、オーロラは困り顔をしている。毎年のことだというのに、なぜこんな顔をしてまで見に来るのか。それが不思議でならないオーロラなのである。
 国としてはオーロラのハデキヤとキャサリーンのテレグロスは隣り合っているので、近所付き合いのためかもしれない。とはいえ、キャサリーンはあまり自分のことを語ろうとはしないので、すべてはオーロラの憶測である。

 いろいろと思うところはあるものの、帝国の人たちがあれこれと自分たちの技能を披露し始める。
 魔物解体や木工細工といった、技能系は見ていてなかなか飽きないものである。意外と帝国の民は魔物の解体ショーに耐性があるようで、大人はもちろん、子どもに至るまで目を輝かせて最後までじっと見ていた。

「ありえすさま、すらりー、がまんできない」

 突然、スラリーが声をかけてくる。

「スラリー、あなたは我慢しなさい。さすがに魔物が飛び入り参加しては、みなさんが怖がります。知っているのは、オーロラ様とキャサリーン様だけですからね?」

 アリエスはスラリーに自重するように説得をしている。
 ところが、それは意外な形で無駄に終わる。

「いいですよ。私から伝えればみなさんも納得して下さるでしょうから。スライムという魔物の生態を知るひとつとして、ぜひともお願いできませんかね」

「ちょっと、オーロラ様、正気ですか?」

 思わぬオーロラの反応に、アリエスは戸惑っている。

「いいのですよ。全責任は私が持ちます」

 そういうと、オーロラはカプリナを連れて皇帝のところへと向かっていってしまった。

「オーロラ、一体どうしたというのだ」

 皇帝がオーロラを見ている。

「はい、ちょっと今回の出し物として面白いものを私からお出ししようと思いまして」

「ほう、それはなんだ?」

「はい。スラリー、いいですよ」

 オーロラがスラリーに話し掛けると、カプリナのマントがぐにゃりと形を歪め始める。
 次の瞬間、皇帝たちの前に、本来のスラリーが姿を現したのだった。
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