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第154話 覚悟を決める元魔王
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状況をどうするのか、アリエスはずっと悩んでいた。
そして、何を思ったのか、ヴァコルに声をかける。
「ヴァコル様、後方にお伝えください」
「なにをですか、聖女」
「狙いは私なのです。私一人でこの場を食い止めます」
「何を言っているのですか!」
さすがにアリエスが出した結論に、ヴァコルはものすごい形相で止めに入っている。
「いいのです。キャサリーン様との因縁もございますし、元魔王として、この場は私が一人で犠牲になればいいのです」
「君は……。まさか、君は聖女キャサリーンに討たれた時ももしや……!」
何かに気付いたのか、ヴァコルは思い切り叫んでいる。その叫びを聞いて、アリエスはにっこりと微笑んでいる。
「ペガサス、ヴァコル様のことを頼みますよ」
「ブルルッ!」
アリエスが話し掛けると、ペガサスはさすがに拒否する姿を見せていた。
だが、アリエスは頑として譲らなかった。
「ここを突破されては困るのです。ですから、私が身を挺してこの場で食い止めるのです。ペガサスがヴァコル様を連れて、後方の王国軍に伝えて下さい」
「聖女……。君はそこまで」
ヴァコルはもう言葉が続けられなかった。アリエスの決意に満ちた表情に、何も言えなくなってしまったのだ。
「分かりました。できる限り、王国軍を連れて戻ってきます。必ず、生きていて下さい」
「はい。それは約束いたしましょう」
アリエスはそう言うと、ペガサスをひと撫でする。
決意を秘めたような表情をすると、なんということだろうか、ペガサスがから飛び降りたのだった。
「聖女、必ずや僕は戻ってきます。必ず……必ず生きていて下さい!」
ギリッと歯を食いしばると、ヴァコルはペガサスに戻るように促した。ペガサスもアリエスの覚悟を受け取っていたので、ヴァコルに従ってサンカサスの王城へと戻っていったのだった。
―――
一方のテレグロス王国軍の方はというと……。
「止まって下さい。どうやら、客人がやって来たようです」
「こんな湿地帯に客人? どういうことでしょうか」
キャサリーンの言葉に、兵士の一人が疑問を投げかけている。
「まったく……。私たちをこの湿地帯に足止めするために、わざわざ無茶をしに来たのですか……」
「どういうことですかな、キャサリーン様」
クラブ将軍がキャサリーンを問い詰めている。
「アリエス様ですよ。単独で私たちをここで足止めするためにやって来たのです」
キャサリーンが答えると、目の前の湿地帯が次々と凍てつき始めていた。
この魔力にはとても覚えがある。
キャサリーンは、この魔力に深く触れたことがあるからだ。
いわずもがな、アリエスの持つ氷の魔力である。
この氷の魔力は、以前、サンカサス王国やハデキヤ帝国でも広範囲の雪を降らせ続けていた魔力だ。それを落ち着かせたのがキャサリーンである。ゆえに、キャサリーンはすぐにアリエスだと分かったのだ。
「ははっ。我らの狙いを知っていて、わざわざその狙いが単独でやって来たというのですかな。これは片腹痛いというものだな」
クラブ将軍は、勝ち誇ったかのように笑っている。
周りの兵士たちもつられるように笑っているが、キャサリーンだけは表情が険しいままだった。
「いけませんね。ここは少し引きますよ。少しでも浅いところに出ませんと、身動きが取れなくなります」
「何を仰いますかな。キャサリーン様のお力があれば、この程度の凍てつき、何の問題もありますまい」
「……普通の魔法でしたらね」
「なに?」
キャサリーンの言葉を聞いて、クラブ将軍はかなり険しい表情をする。
そうかと思うと、いきなりキャサリーンの胸ぐらをつかんでいた。
「聖女ごときが偉そうに言いおってからに。お前は我々のためにその力を使っていれば、それだけで十分なのだよ」
「あなた方は聖女の力を甘く見過ぎているのです。そこまで仰るのでしたら、クラブ将軍だけでお進みください」
「なんだと?!」
キャサリーンが見せた反抗的な態度に、クラブ将軍は拳を振り上げる。
ところが、その瞬間だった。
「クラブ将軍、氷がもうすぐそこまで来ております。聖女様の仰られるとおり、少しでも浅いところに移動しましょう」
「……チッ」
兵士の報告に、クラブ将軍はやむなく拳を降ろしていた。
「キャサリーン、どの辺りが浅い」
「あちらですね。進軍方向とは逆の左後ろの一帯です」
「しょうがない。全軍移動するぞ」
「はっ!」
アリエスの魔法が思ったよりも強力だったので、クラブ将軍の暴力はかろうじて振るわれずに済んだ。この事態にテレグロス王国軍の兵士たちはほっとしていたようである。
このままいては、腰まで泥に使っている状態では身動きが取れなくなっていた。
兵士たちが冷静に状況を見ていたおかげで、テレグロス王国軍は最悪の事態を免れたのである。
だが、目の前では湿地帯がじわじわと凍りついていっている。湿地帯に足を踏み入れている以上は、まだアリエスの氷の魔力による恐怖から逃れられたわけではない。
それでも、移動した先ではひざ下までの水位で済んでいる。これならば、キャサリーンの強化魔法でどうにかできる状態なのだ。
キャサリーンとアリエスの因縁の対決は、もうすぐそこまで迫ってきているのだった。
そして、何を思ったのか、ヴァコルに声をかける。
「ヴァコル様、後方にお伝えください」
「なにをですか、聖女」
「狙いは私なのです。私一人でこの場を食い止めます」
「何を言っているのですか!」
さすがにアリエスが出した結論に、ヴァコルはものすごい形相で止めに入っている。
「いいのです。キャサリーン様との因縁もございますし、元魔王として、この場は私が一人で犠牲になればいいのです」
「君は……。まさか、君は聖女キャサリーンに討たれた時ももしや……!」
何かに気付いたのか、ヴァコルは思い切り叫んでいる。その叫びを聞いて、アリエスはにっこりと微笑んでいる。
「ペガサス、ヴァコル様のことを頼みますよ」
「ブルルッ!」
アリエスが話し掛けると、ペガサスはさすがに拒否する姿を見せていた。
だが、アリエスは頑として譲らなかった。
「ここを突破されては困るのです。ですから、私が身を挺してこの場で食い止めるのです。ペガサスがヴァコル様を連れて、後方の王国軍に伝えて下さい」
「聖女……。君はそこまで」
ヴァコルはもう言葉が続けられなかった。アリエスの決意に満ちた表情に、何も言えなくなってしまったのだ。
「分かりました。できる限り、王国軍を連れて戻ってきます。必ず、生きていて下さい」
「はい。それは約束いたしましょう」
アリエスはそう言うと、ペガサスをひと撫でする。
決意を秘めたような表情をすると、なんということだろうか、ペガサスがから飛び降りたのだった。
「聖女、必ずや僕は戻ってきます。必ず……必ず生きていて下さい!」
ギリッと歯を食いしばると、ヴァコルはペガサスに戻るように促した。ペガサスもアリエスの覚悟を受け取っていたので、ヴァコルに従ってサンカサスの王城へと戻っていったのだった。
―――
一方のテレグロス王国軍の方はというと……。
「止まって下さい。どうやら、客人がやって来たようです」
「こんな湿地帯に客人? どういうことでしょうか」
キャサリーンの言葉に、兵士の一人が疑問を投げかけている。
「まったく……。私たちをこの湿地帯に足止めするために、わざわざ無茶をしに来たのですか……」
「どういうことですかな、キャサリーン様」
クラブ将軍がキャサリーンを問い詰めている。
「アリエス様ですよ。単独で私たちをここで足止めするためにやって来たのです」
キャサリーンが答えると、目の前の湿地帯が次々と凍てつき始めていた。
この魔力にはとても覚えがある。
キャサリーンは、この魔力に深く触れたことがあるからだ。
いわずもがな、アリエスの持つ氷の魔力である。
この氷の魔力は、以前、サンカサス王国やハデキヤ帝国でも広範囲の雪を降らせ続けていた魔力だ。それを落ち着かせたのがキャサリーンである。ゆえに、キャサリーンはすぐにアリエスだと分かったのだ。
「ははっ。我らの狙いを知っていて、わざわざその狙いが単独でやって来たというのですかな。これは片腹痛いというものだな」
クラブ将軍は、勝ち誇ったかのように笑っている。
周りの兵士たちもつられるように笑っているが、キャサリーンだけは表情が険しいままだった。
「いけませんね。ここは少し引きますよ。少しでも浅いところに出ませんと、身動きが取れなくなります」
「何を仰いますかな。キャサリーン様のお力があれば、この程度の凍てつき、何の問題もありますまい」
「……普通の魔法でしたらね」
「なに?」
キャサリーンの言葉を聞いて、クラブ将軍はかなり険しい表情をする。
そうかと思うと、いきなりキャサリーンの胸ぐらをつかんでいた。
「聖女ごときが偉そうに言いおってからに。お前は我々のためにその力を使っていれば、それだけで十分なのだよ」
「あなた方は聖女の力を甘く見過ぎているのです。そこまで仰るのでしたら、クラブ将軍だけでお進みください」
「なんだと?!」
キャサリーンが見せた反抗的な態度に、クラブ将軍は拳を振り上げる。
ところが、その瞬間だった。
「クラブ将軍、氷がもうすぐそこまで来ております。聖女様の仰られるとおり、少しでも浅いところに移動しましょう」
「……チッ」
兵士の報告に、クラブ将軍はやむなく拳を降ろしていた。
「キャサリーン、どの辺りが浅い」
「あちらですね。進軍方向とは逆の左後ろの一帯です」
「しょうがない。全軍移動するぞ」
「はっ!」
アリエスの魔法が思ったよりも強力だったので、クラブ将軍の暴力はかろうじて振るわれずに済んだ。この事態にテレグロス王国軍の兵士たちはほっとしていたようである。
このままいては、腰まで泥に使っている状態では身動きが取れなくなっていた。
兵士たちが冷静に状況を見ていたおかげで、テレグロス王国軍は最悪の事態を免れたのである。
だが、目の前では湿地帯がじわじわと凍りついていっている。湿地帯に足を踏み入れている以上は、まだアリエスの氷の魔力による恐怖から逃れられたわけではない。
それでも、移動した先ではひざ下までの水位で済んでいる。これならば、キャサリーンの強化魔法でどうにかできる状態なのだ。
キャサリーンとアリエスの因縁の対決は、もうすぐそこまで迫ってきているのだった。
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