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第三章『それぞれの道』
灼熱の谷
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シグムス城から西にかなり離れた場所にある谷。
そこは『灼熱の谷』と呼ばれる場所である。谷のあちこちから蒸気や熱風、果ては炎までが噴き出すような恐ろしい場所である。
ミレルたちはサキが紹介してくれたシグムス兵のフレインの案内で、砂漠の中を迷う事なく一日で突破してきていた。
「ここが、精霊イフリートが居ると言われている灼熱の谷でございます」
フレインは谷の入口で涼しい顔をして説明をしている。
ところが、ミレルたちの方はとても暑苦しくてたまらなかった。
それもそのはず。ここまで通ってきたのは砂漠の中であり、今居る場所は熱気まみれの灼熱の谷の入口である。これだけでも大変だというのに、何と言っても極めつけはフレインの格好だった。
「なんで……。なんでお前はそんな重装備で平気なんだよ!」
さすがにセインが大声で怒鳴る。
セインが怒鳴るのも無理はない。フレインの格好は、一般兵が着ているような軽装ではなく、シンプルなデザインながらにも騎士のようにしっかりと鎧兜を着込んだものだったからだ。見るからに暑苦しい格好である。
だが、セインの怒鳴り声に対して、フレインは静かにこう言ってのけていた。
「慣れでございます」
「な、慣れでどうにかなるようなものだとは思えないのですが……?」
根性論みたいな事を言われると、さすがのミレルも呆れるしかなかった。
ここまでやって来た時点で既に疲弊気味のミレルたち。その上でこの暑苦しい格好を見ながら、灼熱の中を進まなければならないとなると、さすがのミレルもお手上げのようである。どうしたものかと考え込むミレルの横で、さっきから静かなルルだったが、何かを思いついたのか突然ぶつぶつと呟き始めた。
「ルルちゃん、どうしたのですか?」
ミレルが思わず声を掛けるが、ルルは反応しない。だが、次の瞬間だった。
「来て下さい、ウンディーネ!」
ルルはこう叫んだ。
するとどうだろうか。突如として水が噴き出して渦を巻いていく。それが弾け飛んだかと思えば、その中から水の精霊ウンディーネが姿を現したのだった。
「うふふ、何の用かしら、ルルちゃん」
ウンディーネは少々意地悪そうな口調で話し掛けてくる。だけども、ルルは真剣な表情でウンディーネと向かい合う。
「ウンディーネ、私たちはここに炎の精霊イフリートが居ると聞いてやって参りました。ですが、このままでは熱気と炎に阻まれて進む事もままなりません」
ルルは襲い来る熱気に、額や首などあちこちから汗を流しながらも、しっかりとした口調で話している。
「どうか、あなたの力で道を開いて下さい!」
力強く言うルルは流れる汗にも関わらず、瞬きせずにしっかりとウンディーネを見据えている。そこにルルの本気を見たウンディーネは、静かに口を開いた。
「ふふっ、どうやら本気のようですね。いいでしょう、私の力で道を開いてあげましょう」
ウンディーネが力を使うと、急激に水のマナが集まっていき、ルルたちの周囲の熱気が少しずつ和らいでいった。
「ユグドラシルの精霊よ。あなたを中心とした範囲に熱気が及ばないように、水のマナで満たしました。炎との相性の上では私の方が力が強いですが、あまり過信はしないで下さいね」
「ありがとうございます!」
ルルは勢い良く頭を下げながらお礼を言う。
「それに、さすがに炎の精霊であるイフリートが相手となると、そうもいきません。属性の相性があるとはいえ、私の力もかなり相殺されてしまいます。水の力が弱まったと感じたら、近くに彼が居るとみていいでしょう。目安にして下さい」
ウンディーネはそう言うと、ざざあっと姿を消した。その際、消える間際の表情が少し曇っていたようにも見えたのだが、ルルたちがそれに気付く事はなかった。
ウンディーネが去った後、改めて灼熱の谷を見る。相変わらずの凄まじい熱気と炎が噴き出す光景が広がっているが、ルルの周囲を満たす水のマナが近付くとその勢いは弱まり、その周囲では熱気や炎が噴き出す事はなかった。ウンディーネの掛けてくれた水のマナによる保護は、ちゃんと機能しているようである。
こうして安心して進める事を確認したミレルたちは、いざ灼熱の谷の奥地へと向けて足を踏み入れていったのだった。
その頃、灼熱の谷の奥地。
「ほほぉ、ここに来る人間が居るとはな……」
全身を揺らめく何かが覆う謎の人物が、ミレルたちの居る方向を見ながら呟いている。
「そこそこ骨のある連中だといいのだが……、さて、こやつらはどうなのかな?」
その人物は、何やらポージングを取りながら喋っている。
「くくく……、暇つぶしに少しくらい遊んでやるとしよう。もし、軟弱な奴らであるならば……」
その瞬間、揺らめく何かがぶわっと噴き出すようにピンと逆立つ。
「この地に足を踏み入れた事を、炎獄の彼方で後悔させてやろうぞ!!」
灼熱の谷に、大きな咆哮が響き渡るのだった。
果たしてミレルたちは無事に炎の中を抜け、イフリートに会う事ができるのだろうか。
そこは『灼熱の谷』と呼ばれる場所である。谷のあちこちから蒸気や熱風、果ては炎までが噴き出すような恐ろしい場所である。
ミレルたちはサキが紹介してくれたシグムス兵のフレインの案内で、砂漠の中を迷う事なく一日で突破してきていた。
「ここが、精霊イフリートが居ると言われている灼熱の谷でございます」
フレインは谷の入口で涼しい顔をして説明をしている。
ところが、ミレルたちの方はとても暑苦しくてたまらなかった。
それもそのはず。ここまで通ってきたのは砂漠の中であり、今居る場所は熱気まみれの灼熱の谷の入口である。これだけでも大変だというのに、何と言っても極めつけはフレインの格好だった。
「なんで……。なんでお前はそんな重装備で平気なんだよ!」
さすがにセインが大声で怒鳴る。
セインが怒鳴るのも無理はない。フレインの格好は、一般兵が着ているような軽装ではなく、シンプルなデザインながらにも騎士のようにしっかりと鎧兜を着込んだものだったからだ。見るからに暑苦しい格好である。
だが、セインの怒鳴り声に対して、フレインは静かにこう言ってのけていた。
「慣れでございます」
「な、慣れでどうにかなるようなものだとは思えないのですが……?」
根性論みたいな事を言われると、さすがのミレルも呆れるしかなかった。
ここまでやって来た時点で既に疲弊気味のミレルたち。その上でこの暑苦しい格好を見ながら、灼熱の中を進まなければならないとなると、さすがのミレルもお手上げのようである。どうしたものかと考え込むミレルの横で、さっきから静かなルルだったが、何かを思いついたのか突然ぶつぶつと呟き始めた。
「ルルちゃん、どうしたのですか?」
ミレルが思わず声を掛けるが、ルルは反応しない。だが、次の瞬間だった。
「来て下さい、ウンディーネ!」
ルルはこう叫んだ。
するとどうだろうか。突如として水が噴き出して渦を巻いていく。それが弾け飛んだかと思えば、その中から水の精霊ウンディーネが姿を現したのだった。
「うふふ、何の用かしら、ルルちゃん」
ウンディーネは少々意地悪そうな口調で話し掛けてくる。だけども、ルルは真剣な表情でウンディーネと向かい合う。
「ウンディーネ、私たちはここに炎の精霊イフリートが居ると聞いてやって参りました。ですが、このままでは熱気と炎に阻まれて進む事もままなりません」
ルルは襲い来る熱気に、額や首などあちこちから汗を流しながらも、しっかりとした口調で話している。
「どうか、あなたの力で道を開いて下さい!」
力強く言うルルは流れる汗にも関わらず、瞬きせずにしっかりとウンディーネを見据えている。そこにルルの本気を見たウンディーネは、静かに口を開いた。
「ふふっ、どうやら本気のようですね。いいでしょう、私の力で道を開いてあげましょう」
ウンディーネが力を使うと、急激に水のマナが集まっていき、ルルたちの周囲の熱気が少しずつ和らいでいった。
「ユグドラシルの精霊よ。あなたを中心とした範囲に熱気が及ばないように、水のマナで満たしました。炎との相性の上では私の方が力が強いですが、あまり過信はしないで下さいね」
「ありがとうございます!」
ルルは勢い良く頭を下げながらお礼を言う。
「それに、さすがに炎の精霊であるイフリートが相手となると、そうもいきません。属性の相性があるとはいえ、私の力もかなり相殺されてしまいます。水の力が弱まったと感じたら、近くに彼が居るとみていいでしょう。目安にして下さい」
ウンディーネはそう言うと、ざざあっと姿を消した。その際、消える間際の表情が少し曇っていたようにも見えたのだが、ルルたちがそれに気付く事はなかった。
ウンディーネが去った後、改めて灼熱の谷を見る。相変わらずの凄まじい熱気と炎が噴き出す光景が広がっているが、ルルの周囲を満たす水のマナが近付くとその勢いは弱まり、その周囲では熱気や炎が噴き出す事はなかった。ウンディーネの掛けてくれた水のマナによる保護は、ちゃんと機能しているようである。
こうして安心して進める事を確認したミレルたちは、いざ灼熱の谷の奥地へと向けて足を踏み入れていったのだった。
その頃、灼熱の谷の奥地。
「ほほぉ、ここに来る人間が居るとはな……」
全身を揺らめく何かが覆う謎の人物が、ミレルたちの居る方向を見ながら呟いている。
「そこそこ骨のある連中だといいのだが……、さて、こやつらはどうなのかな?」
その人物は、何やらポージングを取りながら喋っている。
「くくく……、暇つぶしに少しくらい遊んでやるとしよう。もし、軟弱な奴らであるならば……」
その瞬間、揺らめく何かがぶわっと噴き出すようにピンと逆立つ。
「この地に足を踏み入れた事を、炎獄の彼方で後悔させてやろうぞ!!」
灼熱の谷に、大きな咆哮が響き渡るのだった。
果たしてミレルたちは無事に炎の中を抜け、イフリートに会う事ができるのだろうか。
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