スライム姉妹の受難

未羊

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第二部 王太子妃ゼリア

第65話 到着、魔王城

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 グミの案内で魔王城まで無事にたどり着く。魔族領内であるので、当然のように出歩いていたのは魔族ばかりである。だが、その姿は非常に多種多様であり、これだけ姿の違う者が同一の場所に住んでいる事は、アレスたちからすると驚きだった。
「これだけ種族が違えば、諍いくらいは起きそうなものだがな」
 アレスがこう呟くと、
「歴代の魔王様が徐々にまとめ上げていかれたそうです。魔王様は純魔と呼ばれる人間とよく似た姿を持つ種族なんですが、それはとても慈悲深い方ですよ。あたしやお姉ちゃんもお世話になりましたからね」
 グミは魔王の事を紹介していた。
「だが、カレンの命を狙ってお前たちを差し向けてきただろうが」
「それはそうですね。魔王様が見られた夢の中でカレン様が問答無用で魔王様を葬ろうとしたのですからね。話の通じない相手であるなら、それも仕方ないのではないでしょうか」
「夢の中で見たとはいえ、それはさすがにどうかと思うが……。あいつならやりかねないと否定できないのが何とも言えんな」
 アレスの疑問にも、グミはすんなり答えていた。アサシンスライムは地頭はいいようである。
 この間も、ゼリアは久しぶりの魔族領の中心地を懐かしそうに眺めていた。時間としてはそれほど長くないはずなのだが、本当に遠い昔のような感覚に陥っていた。
「どうした、ゼリア。帰りたくなったか?」
 グミとのやり取りをしていたアレスが、ゼリアの様子に気が付いて声を掛ける。
「いえ、そういうわけではないですが、本当に久しぶりだと思いまして」
「そうか。なら久しぶりの故郷だ、ゆっくり堪能しておけばいい。父上や母上にはマシュロを通して連絡しておけばいいだろう」
 街を見るゼリアに、アレスはそう伝えておく。するとゼリアは嬉しそうに微笑んだ。
「えっ、お姉ちゃんの眷属もあっちに居るの? いつの間に?!」
「ちょっとあってな、三体とも呼び寄せたんだ。詳しい事はゼリアが落ち着いてからゆっくり聞くといい」
「うー、そうさせて頂きます」
 グミの反応に、アレスがそう返しておくと、グミはうずうずしながらも我慢していた。本当にこのスライム姉妹は血のつながった姉妹のように仲がいい。その微笑ましさに、アレスたちはくすっと笑ったのだった。
 魔王城の中へと入っていくと、ゼリアもグミもさっきまでの雰囲気がすっと消える。自分たちの主の居城の中だからなのだろう、もの凄い切り替えの早さである。
 城の中の衛兵たちは獣人型の魔族が多いようである。馬や豹、それに熊といった感じである。ゼリアとグミという2体の魔王直属の部下が居る事で、衛兵たちは馬車に目を向けるがそのまま素通りさせていく。敵意がなく安全だという事が分かるのだろう。それくらいにはゼリアとグミの2体のスライムは信用が厚いのだ。
 馬車が入口に着く。するとすぐさま馬の獣人の衛兵が近付いてきた。
「ゼリア様、お帰りなさいませ。お供の者たちも長旅お疲れ様でございます。馬は私どもがちゃんと面倒を見ますゆえ、ご安心下さい」
 馬は馬に任せるのが一番である。というわけで、
「ふっ、そうだな。私はカレンの兄であるアレス・ビボーナだ。妹が世話になっているようだな」
「カレン様のお兄様でございますか。これは失礼を致しました」
 アレスが挨拶をすると、驚いた衛兵たちはアレスに跪いていた。
「その様子だと、カレンの奴は相変わらず暴れているようだな。まったく、我が妹ながらそのお転婆は目に余るものだな」
 衛兵たちが小さく震えているので、アレスは察したようである。
「そりゃもう、一緒に居るあたしが一番怖い目に遭ってますから」
 こう言うグミだってすごく震えている。カレンの名前は恐怖の対象のようだった。その身内と分かれば態度が変わるのも無理はない。
「とりあえず馬車と馬は任せた。グミといったな、案内を頼めるか?」
「し、承知致しました」
 アレスが声を掛ければ、グミは頭を下げて馬車から降りる。それからルチアとフレンが降り、アレスが降りてゼリアの手を取る。そして、グミが先頭に立って城の中へと入っていった。
 魔王城とはいえ、中は人間の国の城とは大差はなかった。装飾が少々独特なだけである。中で働く使用人たちも街と同じように様々な種族が居り、ゼリアやグミと同じような魔物まで存在していた。
「あれは、ダーティスライムか」
 アレスが反応したのは、廊下から壁や天井を忙しなくはい回る茶色いスライムだった。
「そうですね。知能としてココアと一緒に居たその他大勢と変わりはありません」
「そうか。居ればだいぶ掃除は楽そうだな」
「人の手の届かない所でも安全にお掃除できますから、とても便利ですよ。私もやれと言われればできますけれど」
 アレスの疑問に答えていたゼリアだったが、少しむすっとしているようである。まさかの嫉妬だろうか。その様子に気が付いたルチアが微笑ましくゼリアを見ている。本当にこの二人は仲良くなったものだ。
 そういった会話も挟みながら、ゼリアたちは魔王の待ち構える謁見の間までやって来た。ついに魔王とのご対面である。
「魔王様、ビボーナ王国王太子アレス様とその妻ゼリア様をお連れ致しました」
 グミの報告が扉の前で響いた。
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