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落ちこぼれ霊能者の僕と訳アリ幽霊の君1

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「ヤッホー!」
言葉を失う僕に君は僕と同じ高校の制服姿でいたずらっ子のように笑っていた。
「ねー、なんか言ってよ~」
言われた言葉が頭に入ってこない。
だって君は......君は。
交通事故で死んだはずだ。


その日は朝から僕の心を代弁するかのようにしとしとと雨が降っていた。
高校二年の僕、神間律は好きだった同級生、高橋綾を交通事故で亡くした。事故の相手の車は居眠り運転だったらしい。
葬式に行くと僕と同じ高校の制服を着て満面の笑みを浮かべた綾の遺影が飾られている。本当はこんなの見たくなかった。
いつか告白して付き合えて更には結婚なんてできたら、君が会社に行く時のスーツ姿や、ウェディングドレス姿、赤いちゃんちゃんこ姿も見たかったのに。
葬式で覚えているのはこれくらいだ。あとは悲しみとショックで覚えていない。 
葬式が終わるなり、僕は家に直帰して自分の部屋で塞ぎ込んでいたはず。
なのに。


君は幽霊となって僕の目の前に現れた。


「ねぇー、そんなに驚かなくてもいいじゃん!
律は霊能者の家系でしょー?」
と目の前に現れた半透明の綾が言った。
そう。確かに僕は霊能者の家系の生まれである。
だか、僕は両親を呆れ返らせるほどの究極ななのだ。
故に幽霊が視えたことは無かった。
何故綾だけは見えるのか、など疑問は浮かぶが驚きの感情は落ち着いてきた。
父親によると幽霊がこうして現れるときは何かをお願いしたい時が多いらしい。
「僕にして欲しい事があるのかい?」
そう聞くと、君は元々上がっている口角をさらに上げて、
「うん!私に律を守らせて!」
と言った。予想外な回答に僕は鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしてしまった。
「守護霊って事?」
と、何とか口に出すと綾は少し目を泳がせて
「まぁ、そんなとこ。律を守れば生前の罪が赦されて成仏できるらしいの。」
と言う。何かを隠しているようなそぶりだった。
加えて、生前の罪がとても気になる。でも何かワケを隠している手前、すんなり罪を教えてくれるとは思わなかったし、問い詰めたら綾がどこかに行ってしまいそうで聞く事ができなかった。「守らせて」といわれたのがちょっと嬉しくて舞い上がっていたのもある。
「じゃあこれから宜しく。」
と僕が手を出すと綾はそれに重ねた。
が、綾の手はすり抜けていき、感触はない。分かってはいたけれど綾が幽霊であることを再確認させられた様で悲しくなった。僕が悲しみに浸っている横で綾はそうそう、と思い出したかの様に話し始める。
「私が律を守るたびに、この体は透明さを失うらしいの。そして、律が私に触れられるようになった時、私は成仏できる。」
とにっこりと笑った。僕は複雑な気分になった。
綾は勿論さっさと成仏したいだろうが、僕は綾と離れたく無かった。
もう綾を失いたくない。
けれども君に、触れたい。
相反する二つの想いが入り混じって混乱する。
「あー良かったー!律が私のお願い受け入れてくれて!
他の子の元にも行ったんだけど、みんな私の事視えなくてさ~」
「えっ」
真っ先に僕の所に来たとばかり思っていた為、ショックだし、勘違いしていたのが恥ずかしい。

こんな訳で落ちこぼれ霊能者の僕と訳アリ幽霊の君がいる生活が幕を開けた。
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