わいせつ三兄弟とお嬢様霊能力者の妖怪退治 〜吹奏楽部副部長と妖怪退治のワルツ

めびうす零

文字の大きさ
4 / 4

会談

しおりを挟む
日本には財閥と呼ばれる存在がいくつかある。

平安時代から続く国内No.2と言われる紫鳳院家は、伝統的な金融業を基盤とし、不動産開発や文化芸術の支援事業を展開しており、古美術の収集と博物館運営で知られる。

明治時代から頭角を表し財を成した葉(よう)風(か)家は、重工業と製造業を中心に、自動車部品や船舶建造を主力とし、近年は再生可能エネルギー分野への投資を拡大している。

秦の時代の中国にルーツがあると言われる弥勒家は、国際貿易と資源開発を主軸に、鉱業や石油・ガス事業をグローバルに展開し、AIやバイオテクノロジーへの先端投資で注目を集めている。

裏社会との繋がりが噂される古井座家は、セキュリティサービスと金融仲介を表向きの事業とし、娯楽産業や不動産融資に深く関与しながら、プライベートガードや情報ネットワークを裏で運営している…。

それぞれが独自の個性を持つ家系であるが、それら財閥の中でも群を抜く存在がある。


それは、柊家。


世界2大財閥の一つであり、他家とは比較にならない規模で世界に強大な影響力を及ぼす超巨大財閥で、グローバルな多角経営を展開し、エネルギー資源、ハイテク産業、メディア・エンターテイメント、金融サービスを主力とし、衛星通信や量子コンピューティングの研究開発で世界をリードしている。


その会長が「柊(ひいらぎ)暁(ぎょう)」。


いつも優しく笑みを浮かべる好々爺だが、その経営手腕と各界に与える影響力は他家からは化け物扱いされる天才。総理大臣すら頭が上がらない。米国大統領とはあだ名で呼び合う仲。

現当主は息子の「柊(ひいらぎ)武(たけし)」。昔は武闘派であり、学生時代は他校の不良グループといつも一人で喧嘩ばかりしていた。現在はかなり大人しくなったが、いまもその性格は健在で、気に入らない閣僚をパーティで派手に背負い投げして騒動になったこともある。もちろん、柊武に一切の責任は無いことにされ、その閣僚は一ヶ月入院する羽目になった…。


もちろん、事件は柊家の権力で揉み消した。


そんな息子を持つ柊暁と古井座源一郎との極秘会談は、柊家の本邸――東京湾を見下ろす広大な敷地に建つ、近代的なガラス張りの会議室で行われていた。

夜の帳が降りた頃、部屋には柔らかな間接照明が灯り、窓の外には東京の夜景が宝石のように輝いている。重厚なマホガニーのテーブルを挟んで、二人の男が向かい合っていた。空気は張りつめ、まるで剣を交える前の武士のように、互いの視線が探り合う。

源一郎は心の中で、柊暁の笑顔の裏に隠された底知れぬ深淵を警戒していた。古井座家は裏社会との繋がりを武器に生きてきたが、柊家のグローバルな影響力は、それを超える怪物だ。

一方、暁は穏やかな笑みを浮かべながらも、内心で源一郎の野心を量っていた。この男は、ただの協力者ではない。古井座家のプライドを賭け、対等なパートナーを装いつつ、優位を狙っているに違いない。

柊暁は、ふくよかな体躯をゆったりと革張りの椅子に預け、穏やかな笑みを浮かべている。白髪混じりの髪を丁寧に撫で付け、優しく笑うその姿は、まるで近所の親しみやすいお爺さんのようだ。だが、その瞳の奥には、鋭い光が宿っている。源一郎の視線を捉え、わずかに目を細める。それは、相手の心理を読み取るための、計算された仕草だった。

一方、古井座源一郎は銀色の髪をオールバックにし、厳格な表情で座っていた。祠での出来事から数日、九尾の狐捕獲作戦の計画を練り上げ、今日、この場に臨んでいる。源一郎の隣には、メモを取る秘書が控え、柊暁の側には、息子の武が無言で立っていた。武の目は、いつものように闘志を秘め、時折、父の言葉に頷く。

武は内心で苛立っていた。古井座家のような裏社会寄りの家系が、柊家の威光にすがる姿が気に入らない。だが、現当主でも父の意向には逆らえない。決定には従うしかないのだ。

会談は、源一郎の提案から始まった。彼はテーブルの上に広げた地図と計画書を指差し、落ち着いた声で切り出した。だが、その声には微かな緊張が混じっていた。柊家に頭を下げるのは、本音では古井座家のプライドが許さない。源一郎は内心で歯噛みしつつ、言葉を選ぶ。


源一郎「柊会長、この度はお時間をいただき、ありがとうございます。早速ですが、本題に入らせていただきます。九尾の狐捕獲作戦についてです。那須の殺生石の下で眠るあの伝説の大妖怪を、叩き起こし、捕獲する。目的は、先程ご説明した古井座家の守護霊獣たちの要請に応じ、この町――いや、日本全体の潜在的な脅威を排除することです。ですが、当然、経済的な側面も無視できません。九尾の狐の力――その霊的なエネルギーを抽出できれば、新エネルギー源として革命を起こせます。バイオテクノロジーや量子コンピューティングへの応用も可能です。推定市場規模は、数兆円規模。分配について、柊家と古井座家で折半とさせていただきたいのですが、いかがでしょうか?」


源一郎の言葉は、ビジネスライクで的確だ。地図には、殺生石周辺の封鎖範囲が赤く囲まれ、それぞれの設置位置が詳細に記されている。だが、彼の心の中では、駆け引きが始まっていた。この提案は、柊家を試す一手。折半を要求することで、相手の反応を窺う。もし暁が渋れば、そこを突いて優位に立つ。源一郎の指先が、地図の上で微かに震える。プライドが、こうした交渉で傷つくのを恐れていた。

柊暁は優しく笑い、ゆっくりと頷いた。穏やかな声が部屋に響く。だが、その笑いの裏で、暁は源一郎の野心を読み取っていた。この男は、ただの分け前を求めているのではない。柊家の力を借り、古井座家の地位を高めようとしている。暁のプライドは、そんな下心を許さない。だが、面白がってもいた。こうした駆け引きこそ、ビジネスの醍醐味だ。


暁「フォフォフォ、源一郎君。君の計画は実に面白い。九尾の狐か……古い伝説が現代のビジネスに繋がるとはな。経済的利益の分配、折半で構わんよ。柊コンツェルンがエネルギー部門で独占できれば、株価も跳ね上がるだろう。わしらのグローバルネットワークで、国際市場への展開もスムーズにいく。だが、わしらもただ乗るわけにはいかん。わしらの私設部隊と技術を投入させてもらおう。ヘリコプターによる避難支援、ドローンによる監視網――それに、封鎖エリアの通信ジャミング装置も提供しよう。ゴジラの新作ロケだと言えば、マスコミも飛びつくじゃろうて…フォフォフォ。」


暁の言葉は余裕たっぷりだが、内心では計算を巡らせていた。折半を即座に受け入れることで、源一郎を油断させる。だが、参加要請を強調し、柊家の優位性を示す。これで、古井座家は柊家の支援なしでは作戦が成り立たないことを思い知らせる。源一郎の表情がわずかに強張るのを、暁は見逃さない。プライドの戦いが、ここで激化する。

源一郎は頷き、計画書のページをめくる。そこには、マスコミ対策の詳細が記されていた。「九尾の覚醒 ~怪獣大戦~」という架空の映画タイトル、プレスリリースのドラフト、SNS監視のフロー図。源一郎は声を低くして続ける。だが、今度は少し声を強め、反撃に出る。柊家の支援を当然視するような暁の態度が、古井座家のプライドを刺激していた。


源一郎「ありがとうございます。柊家私設部隊の参加は願ってもない支援、大変心強い。マスコミ対策は、作戦の成否を握ります。那須の観光地を封鎖する以上、目撃情報やリークは避けられません。映画撮影の偽装で住民を説得し、十分な補償金も出しますが、万一の拡散時は、柊家のメディアコントロールをお願いしたい。SNSの削除、報道機関への圧力――それに、米国政府への協力要請も。今回の作戦には米軍の協力が絶対に必要です。柊会長のコネで、大統領に一言いただければ……ただ、柊家が独占的にエネルギー部門を握るなら、分配は折半ではなく、古井座家に6割を要求したい。古井座家の霊獣たちが起点なのですから。」


源一郎の言葉に、駆け引きの火花が散る。分配を6割に引き上げる要求は、強気の交渉。プライドをかけて、柊家を試す。部屋の空気が一瞬、重くなる。武が拳を握りしめ、父の反応を待つ。暁の笑みが、わずかに凍りつく。内心で苛立つが、表面は穏やかだ。この男、ただ者ではない。だが、柊家のプライドは、そんな要求を簡単に飲まない。

柊暁は再び笑い、テーブルの上のグラスに手を伸ばす。水を一口飲み、目を細める。その笑みの奥に、化け物のような計算高さが覗く。源一郎の要求を逆手に取り、譲歩を引き出す。


暁「フォフォフォ、源一郎君。6割か……面白い提案だ。だが、わしの古い友、ジョン(大統領のあだ名)なら、電話一本で動くよ。『テロ対策の共同訓練』とでも言っておけば、米軍の協力は得られる。ルートも、わしらの衛星でカバーする。だが、分配は折半でどうだ? 代わりに、柊家が全費用を負担する。古井座家の負担をゼロにし、成功後の国際展開で、古井座家に優先権を与えよう。エネルギー抽出の特許も、共同名義で。」


暁の反提案は、巧妙だ。費用負担で源一郎の負担を軽減し、プライドをくすぐる。だが、折半を譲らないことで、柊家の優位を主張。源一郎の心臓が速く鼓動する。この老獪な男、隙を見せない。古井座家のプライドが、譲歩を許さないが、作戦の成功のためには、柊家の力が必要だ。源一郎は息を吸い、わずかに頭を下げる。


源一郎「わかりました。折半で。ですが、米国政府の協力は、柊会長の責任でお願いします。万一、失敗したら、古井座家の名が傷つく。」


武がここで口を挟む。声は荒々しく、昔の武闘派ぶりが滲む。父の交渉を支えつつ、源一郎を牽制する。


武「父上、俺も参加させてくれ。封鎖ラインの警備なら、俺の部隊が最適だ。気に入らない記者が出てきたら、実力で黙らせる。古井座家のような裏社会の連中が、柊家の名を借りるなら、俺が監視する。」

源一郎「………」


武の言葉に、源一郎の目が鋭くなる。プライドを傷つける挑発だ。だが、暁が笑い、息子を制す。


暁「武よ。お前は閣僚を投げ飛ばした前科があるからな。マスコミ対策は穏便に。源一郎君、協定はこれで決まりだ。九尾の狐の捕獲後、エネルギー抽出の特許は共同出願。利益は折半、失敗時の責任も共有。わしらの力で、この作戦を完璧に遂行しようではないか。」

源一郎「はい。一蓮托生ですな。」


二人はテーブル越しに手を差し出し、固く握手した。源一郎の掌は汗ばみ、暁のそれは冷たく落ち着いていた。部屋の外では、東京湾の波が静かに打ち寄せ、夜の闇が深まっていく。

極秘会談は、こうして締結された。

九尾の狐捕獲作戦――伝統と現代の技術が交錯する、壮大な計画の幕が開こうとしていた。互いのプライドがぶつかり合った会談は、両者の絆を深めつつ、微かな緊張を残したのである。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...