世界の創造主は、仲間達と問題の後始末ばかりします。

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依頼1 スラム街の後始末をします。

1 創造主と三人の仲間達

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 神狼の使徒襲撃から数日経ったジオノーシュ。
 その中心街にある大きな酒場に、四人組の一行が食事を楽しんでいた。
 酒場は昼頃とあって多くの人間やエルフなどの異種族で賑わっている。

「自然が豊かな場所だね。肉も野菜も魚も全部が美味しい。仕事だけど来て良かったね」

 一口大に切った焼き魚を食べている、黒髪の短髪、白と黒の落ち着いた色の服を着ている、
 「クリエ・アーレル」が居た。
 12歳くらいに見える幼い少年で、そしてそれが世界の創造主だった。
 世界の均衡や存続を司る世界神を創り、絶対的存在ではあるが、
 周りには「しがない世界神の一体」と説明している。
 一緒にチームを組んでいる三人の仲間も創造主である事は知らない。
 表情が豊かで温厚、微笑む姿は幼く可愛いが、それとは逆に不思議な大人びた安心感もあった。
 
「クリエ様、口元が汚れていますよ」

 クリエの隣に居る20代後半に見える金髪で短髪、整った顔の男性、
 「ウィル・メイナス」が、ティッシュを取り出すと、クリエの口元を丁寧に拭く。
 長身で、シンプルな白いワイシャツに黒のズボン姿、穏やかで爽やかな表情をしており、礼儀正しい振る舞いをしている。
 腰には剣があり、常にクリエの事を気遣う様子から執事の様にも見えた。
 様々な属性魔法が使え、特に呪いや魂に関する魔法を得意としている。
 チーム内では主に家事全般の担当であり、皆のオカンだった。

「ん、ありがとう。僕の事は良いから、ウィルも食べよう。折角の料理が冷めちゃうよ」
「その通り。ま、食べないなら私が全部食べるから、無理はしなくていいぞ」

 銀髪セミロングで、全体的に水色の服を来た、20台前半に見える女性、
 「ミヨン・フェイカー」が居た。
 フリルやスカートにはリボンなど可愛い装飾がされている。
 肩には大きなショルダーバッグが掛けられていた。
 言動は少々男勝りであり、見た目とのギャップでたまに周囲を混乱させている。
 チーム内では主に頭脳と財務を担当しており、それぞれ個人のサイフはあるが、大きな金額は彼女の許可無しでは1ゴールド (金貨一枚)も出ない。

「そうよ。折角タダで食べられるんだから。遠慮せずに頂かないと失礼じゃない」

 上機嫌でワイングラスを片手に持っている、赤髪の長髪に赤い瞳。
 暗めの赤色をしたアオザイのような服を着ている、
 「アニス・ノウェム」が居た。
 見た目は20代前半で、胸が大きくスタイルも良い事から美人に見える。
 気さくな人柄と、その容姿から人目を惹くが、過去に造られた戦闘兵器の実験体であり、彼女の事を本当に知る者は寄り付きさえしない。
 チーム内では武力担当であり、とりあえず破壊できるなら壊そうと言う考えが目立つ。

「アニス、これから人と会うのに飲んでるんですか?」
「大丈夫よ。この程度、私には水みたいな物だから」

 ウィルにアニスはとがめられるが、特に気にする様子もなく、一気にグラスの中にあるワインを飲み干した。

 クリエたち四人は永世中立対応ギルド「ノルエステ」に所属するギルド員だった。
 国が行った調査を中立的に再調査、または後詰めする外部組織であり「デセミア」という男性の世界神がトップを務め、ギルドが出来て300年ほど経つ。
 調査権限に置いては時に皇帝よりも高い。
 その強い権限の中には、自分の生命が脅かされた場合の殺傷許可も入っている。

 依頼は地位など関係なく誰にでもでき、匿名での依頼も可能になっている。
 ギルド員は本部や支部からの指示を受けるか、依頼表から好きな物を選ぶ事が出来た。

 先に調査、報告している機関などからは煙たがれ「重箱の隅をつつく」「揚げ足取り」「後始末しか出来ない無能」など、陰口を叩かれる時がある。
 だが世界からの支持が厚いため、調査を断る事は不正や何か問題を隠しているのでは?
 と見られ、受けざるをえない状況になっている。
 その信頼が厚い理由には、ギルド員が不正をした場合は一律死刑の罰則が存在する事も起因になっていた。

 もっともそんな組織が出来たのは「心の暗黒時代」という、
 誰も信用できず世界中が疑心暗鬼に陥った時代があったためだった。

 料理を食べ終え食後をくつろいでいると、クリエたちに声を掛ける初老くらいの男性が現れた。

「こんにちは。失礼ですが、ノルエステの方でよろいしいですかな? 私、役人のドレイク・ミラーと申します」

 声がした方を振り向くと、剣を所持している白髪交じりの黒髪短髪にボサっとした髪型。
 少しよれたシャツを着ている、どこかだらしない印象の男性が居る。

「そうです。貴方が今回の案件担当の方だね?」

 クリエが笑顔で答える。ドレイクは頭を下げると、クリエの近くにある椅子に座った。

 昔には貴族や騎士団など、分かりやすい役職しかなかった。
 それでは国などの運営が偏り、一つの役職でする事が大きくなり過ぎた事から、世界神の発案により役場と役人という職業が出来た。

 最初こそ反発が起きたが実際運用してみると、役職ごとの仕事がハッキリと分かれ、仕事の全容が分かりやすくなり、今では当たり前の職業になる。
 また役人は一定の学があれば平民でもなれるため、人材確保のためにほとんどの大陸では、全ての者に学校へ行き、勉強を学ぶ権利が存在する。

 貴族などの上からはせっつかれ、一般市民からは文句を言われ、
 中間管理職のような立場になってはいるが、安定した収入などで平民から人気があり、優秀な者は地位が上がる事もあるので人気職になっていた。

 椅子に座ったドレイクが確認するようにクリエに話しかける。

「すでに青い封筒に入った手紙で内容はご存じと思いますが。実はそれとは別のお願いがありまして……」
「? 僕たちの仕事内容は、今回の神狼の使徒が襲って来た原因が、スラム街にあるのかを調べる事だよね?」

 今回ノルエステに届いた、青い封筒に入った手紙には、

『神狼の使徒が襲って来た原因がスラム街にあると証拠もなく騎士団に言われて困っている。
 騎士団はきちんと捜査もしていない。問題は騎士団側にあるかもしれない。
 誰が元凶か中立の立場で調べてほしい』

 という内容で、要するに騎士団が行ったずさんな捜査の後始末だった。

 送り主は匿名であったが、なぜか担当は可能ならクリエが良いと指名があり、
 事実確認をすると内容自体は本当だったので、あらかじめ役場に連絡を入れて依頼を正式に受けた報告をしていた。
 その案内担当に選ばれたのがドレイクという事になる。 

「襲われた理由が分からないので、使者を神狼の森の世界神レムル様の所に送ったのですが。返答が『自分で考えなさい』としか言われなくてですね……その、クリエ様も同じ神様ですので、できれば詳しく聞いていただけないかと」
「なるほど、お断りします」

 あっさりとクリエが笑顔で答え、ドレイクは驚いた表情になった。

「あくまで僕たちが受けた依頼はスラム街を疑っている『元凶が誰か』を調べるのであって、神狼の使徒が襲ってきた原因を突き止める事ではないからね? 細かいって思うかも知れないけど、僕たちには強力な権限があるから、勝手に逸脱して範囲を広められないんだ」

 クリエがミヨンに依頼の手紙を出すように催促すると、ミヨンはカバンから赤い封筒に入った手紙をテーブルに広げた。
 それを確認したドレイクは暫く無言で見つめると、手紙をミヨンに返す。
 ミヨンは赤い封筒に手紙を直すとカバンに仕舞った。
 急にドレイクが声を少し潜めて話す。

「実はですね、今結構ヤバイんですよ……ココ」
「ヤバイとは?」
「世界神に攻撃されたってだけで、国内外へのマイナスイメージが強い。信用が失墜しますから。下手すればこの場所は手放す事になります。そうなれば、多くの民が別の場所に移動する事になります。故郷を捨てて……それはちょっと可哀想と思いませんか?」

 言っている意味は分かるが、まるでクリエたちにその責任があるような言い方だった。しかし、

「それがどうかしたのかな?」

 クリエが特に気にした様子もなく答え、そして続けた。

「原因を作った者が責任を取るのが当たり前。この街で起きたのなら、その全ての者に責任がある。どうして君たちは守られて当たり前だと思うんだい?」
「……なるほど。確かにその通り。いやぁ、気分の悪い言い方をして申し訳ない。こっちとしても切羽詰まってるのは本当でしてな。流石に甘い考えでしたか」
「この国の国王は、何も言わないの?」
「陛下はやはり原因をまず知りたいと。まぁ、ですから私が担当になったわけなのですが。実は私、一年ほど前に、王都から出向でこっちに来てるんですよ。それが縁で担当に。良い場所で気に入ってるんですが、まさかこんな事になるとは」
「へぇ、じゃあ貴方は結構優秀な人なのね」

 話を聞いてたアニスが興味深そうに言う。王都の役人となれば、それなりの学や地位がある人が多い。

「いえいえ、まぁ左遷みたいなもんですわ……さて、話はこの辺にしてスラム街に案内しましょう。余計な話をして申し訳ない」
「僕としても関係性があると分かったのなら、協力は惜しまないので」
「そうですか。その時は是非お願いします」

 微笑むクリエにドレイクが苦笑交じりに答える。
 ここの料金はドレイクの奢りとなり、クリエたちを案内するためにドレイクは席を立って歩き出した。

「……クリエ、あいつだが」

 前を歩くドレイクに聞こえないよう、ミヨンがクリエに呟いた。

「分かってるよ。でも、必要がないなら触れなくていいんじゃないかな? 案外あっさり思わるかもしれないしね」

 クリエの言葉に三人は頷くと、ドレイクの後についてスラム街へと向かう事になった。
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