落ちこぼれ勇者、つまはじき聖女の護衛に ~ぽんこつ主のご飯と生活のお世話~

苺味初芽

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地下駅の食堂車と、約束された勝利のカツカレー

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「ヴィキ、ちょっと待った」

 ニルが先頭のヴィクトリアに声をかけて地面にしゃがんだ。食事をした空間を調べた所、来た方向以外に幾つか別の亀裂があり、そのなかで一番広いものを進んで二十分ほど進んだ場所であった。

「どうした、ウンコか?」

「こんなとこでしねーよ!」

 ニルは鞘からサバイバルナイフを抜いてやけに平らな面があるギザギザの石を掘り出した。十センチほどの錆びた金属の棒が食い込んでいる。

「見ろ」

 ヴィクトリアがニルからそれを受け取って自分が灯した魔法の明かりにかざした。ニルが彼女に向かって言った。

「灯りが反射してたんだ」

 それは、ニルとヴィクトリアにはどういう物かが一目で分かる、タイルが貼り付けらえた平面と、飛び出した鉄筋を持つ、コンクリートの塊だった。

 ヴィクトリアが鉄筋部分を握って軽く振り回して見る。

「こういう武器あったよな? フォールアウトだっけ?」

 ニルは呆れて返した。

「ダイイングライトだろう。ってか、そこじゃねーよ! なんで俺らの世界の人工物があるんだと思う?」

 ニルの言葉にヴィクトリア重い表情で頷いた。

「ここからゾンビサバイバルが始まるってことだな」

「ちげーよ! いや、ゾンビ出て来る可能性はあるけど……」

 ヴィクトリアは手にしたそれをニルに返すと先に向かって歩き出した。

「アタシにはわかんね。そこはニルに任せるわ。先に進んで他に何かあるか見てみようぜ」

 ニルは頷いてそのコンクリの塊を魔道ポーチへしまい込んだ。フェリシアがニルを見て口を開く。

「あの皆さま、この辺りで一度浄化をしてよろしいでしょうか?」

 ヴィクトリアが頷き、サナツィアがフェリシアに向けていった。

「でしたら、私が浄化をしましょう。このさきどうなるか分かりませんから、貴女だけ体力を消耗するのは良くないわ」

 フェリシアがサナツィアへ笑みを向ける。

「はい。では、お言葉に甘えて。よろしくお願いいたします」

 軽くお辞儀をしたフェリシアにサナツィアが頷く。彼女は目を閉じて腰に下げていた小さなワンドを手にして顎のあたりまで上げた。

 全身から光の粒子が舞い上がりはじめ、下からのそよ風に吹かれたかのようにその真っすぐな金髪だけがわずかに舞い上がり、洞窟内の空気を入れ替えたような静謐さがその場に漂った。

「終わりました。先に進みましょう」

 サナツィアの言葉に一行は足を進めた。

 


「ヴィキ」

 ニルの言葉にヴィクトリアが返す。

「ウンコか?」

「お前ウンコしか言えない病気かよ! いいからこれ見てくれ」

 心の中で男子中学生から男子小学生にヴィクトリアを格下げしたニルが、崩れた岩の瓦礫に半分埋まった金属の板の表面の土を取り払った。

「バナヴィキ……、読めねぇ。ってかカタカナじゃん、お前が読んでくれよ」

「いや、そこだろ」

「どこだよ?」

 ニルとヴィクトリアにサナツィアが加わり、円を描くように四人がその金属板を見つめた。ニルが口を開く。

「どう見ても印刷だ。この世界に過去召喚された日本人が描いたのかと一瞬思ったけど、これは俺たちの世界で作られたものだな。見た感じ……、いや、回収したら先にすすもう」

 ニルが瓦礫に埋まったそれを無理やり引き出すと、先ほどのコンクリ塊と同じように魔道ポーチに入れた。

 その後、その曲がりくねった自然洞窟にも見える通路を辿った四人は最終的に人工的な平面を見せる壁に行き当る。

「なんとか通れそうな亀裂があるな。ちょっと見て来るから待っててくれ」

 ヴィクトリアはそう言うと奈落のように暗い亀裂の先へと滑り込み、ほどなくして手だけをその亀裂から出して手招きして見せた。

 三人は視線を交わした。今まで脅威になる対象に出会わなかったことを考えてニルが先にその亀裂を潜って通った。


 ニルが続いて通るフェリシアの手を取って立たせ、ヴィクトリアがサナツィアの手を取った。

 そこには巨大ながら精密な円筒を横たえた形の空間だった。本来なら鼻をつままれても分からない暗さの空間に、ヴィクトリアの灯りの魔法がそこかしこに浮かびあがり、その場所の全貌を明らかにしていた。

「フォールアウトの方だったな」

 ニルがその空間にある列車を見ていった。ヴィクトリアが相槌を打つ。

「ああ、さっきの金属板は駅の看板か何かってことか?」

 ニルが期待を込めた笑みを浮かべて言う。

「これは長距離列車だ。この意味がわかるか?」

「ん? いや?」

「食堂車があるってことだ! ワンツースリーGO!」

「あ、ズルいぞ!」

 唐突なカウントダウンで走り出したニルにヴィクトリアが悪態をついて続く。

 フェリシアとサナツィアは目を合わせると、ゆっくりと歩を進めて彼らに続いた。


******


「この状況においてパック飯が手に入ったことは幸いである!」

 食堂車の座席に座った三人に調理道具を手にしたニルがおもむろに演説を始めていた。

「魔法の粉と言われる奇跡のスパイスといえども、他の主食では破壊力が落ちてしまう。だからこそこの食堂車内での保存状態の良いパック飯の発見はチャンスだ! よって、今よりオペレーション・カレー・ライスを決行する!」

「第一群の材料、事前に買っておいた瓶詰め野菜! ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、各々個別の瓶に入ったものを用意! 肉は水煮が売っていないので、自作のオックステールの水煮!」

 ニルが瓶を順番に彼らが座った隣のテーブルに置いていく。

「第二群の材料、バター、塩、胡椒、唐辛子、ケチャップ、ソース、ワインビネガー、ローリエ、桃のピューレ、小麦粉、そして約束された勝利! カレー粉!!」

 ヴィクトリアが芝居がかった態度で、ニルの盛り上がりを静かに制すにように手を上げて見せた。

「だがしかしニルよ、パック飯は電子レンジが必要なのではないか……?」

 ニルはその言葉に対して不敵な笑みで返した。

「日本通を気取る愚かな女よ……、パック飯はお湯でも食べられるようになるのだ!!」

「な、なぁんだって~!!」

 立ち上がったヴィクトリアの小芝居に、フェリシアが笑いをこらえきれずに噴き出す。一人だけ置いてけぼりになったサナツィアの困惑を気にすることもなくニルが小芝居を続ける。

「フフ、ここにほぼ全ての材料が火の通った状態にある……、この意味がキサマに分かるかな……?」

 ヴィクトリアが何かに気が付いたようによろめいた。

「ま、まさかこれは……!」

「ウワハハ! そうだ、なんとこの調理法は、ひと煮立ちでカレーが美味しく食べられてしまうのだ!! 絶望するが良い!!!」

 そういうとニルは全ての水煮を食堂車にあった鍋に入れ始めた。もう一つの鍋にはすでに湯が沸いていて、ニルはそこにパックご飯を落とし込んだ。

「クソー、誰か奴を止めることはできないのか!」

 小芝居を続けるヴィクトリアの努力も空しく、一瞬で野菜とオックステールの匂いのスープが出来上がる。

「水煮類のあとは、ローリエ一つ、このあとカレー粉の下準備をします」

「大事な点は小麦粉とカレー粉は一旦スキレットでバターを使って炒めて香りを出すこと。このまま鍋に入れるとダマになるので、逆にスキレットに水煮の煮汁を少しずつ入れて、ゆるいペースト状にします」

 カレー粉を炒め出した途端にその匂いが広がりだし、ヴィクトリアが喉をゴクリと鳴らした。

「ペースト状になったものを入れたら、まず桃のピューレを入れて、ケチャップ、ソースで味を調えます! 辛さが足りなかったら胡椒と唐辛子、塩味が足りなかったら塩、そして最後に隠し味のワインビネガーをほんの少し!」

 ニルが小皿を取り出してカレーを少し取って味見をし、木べらを取り出して三人に向けてこれ見よがしに鍋を混ぜ始めた。

「ヒ~ヒヒ!!」

「魔女だ! 魔女が出たぞ!! 捕まえろ!! ってか早く食わせろ!!」

 ニルはそのヴィクトリアの言葉に被せるように言った。

「馬鹿め!! キサマ今更ただのカレーを食べさせられるとおもっているのか!!」

「ナ、ナニ!」

 ニルはスキレットに油を敷くとそこに作り置いてあったパン粉にまぶされた食材を乗せた。

「貴様らにくれてやるのはカツカレーだ!!!」

 ヴィクトリアは無言で立ち上がると、拳を握った両手を高く上げて食堂車の通路を往復し始める。その間もニルの手は食堂車にあった皿にカレーとライスを盛りつけていた。

 スキレットだけで火が通るように薄く肉を叩いて作られたカツがまな板の上で切られてカレーに載っていく。

「カツカレーとは華麗に勝つことと見つけたり!」

 ヴィクトリアはその謎の供述と共に配膳されたカツカレーを震える手ですくって一口食べると、半泣きの顔で負けず劣らずの妄言をこぼした。

「もう、アタシお前と結婚する!」
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