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98 戦いの後で (8)

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***
 
 
 「…マァマー……」と、黒髪の乳児が、なんだかむずかる様に、
リィムの悩ましく豊満な胸の谷間に頬をうずめて、
「……」リィムが、優しく微笑んで、黒髪の乳児を、そっと抱きしめて。
 
 なんだか思わず、マミが、その黒髪の乳児の頬をつついて、
ちょっと面白くなさそうに、「…自分でこの処分にしといて
自分で言うのもなんだけど、…やっぱり甘すぎたかなあ…。
まるでノーペナルティ、っていうのも、なんかこう…。
…まあ他にどうしたもんか思い付かなかったから
こうしたんではあるんだけど……。」と。
 
 ふと、リィムが、真摯な瞳でマミの瞳を見詰めて、「…マミ様、
この子の今までの記憶は、どうなっていますか…?」と。
マミが、少しうつむき気味に、「…今の所は封印状態ですけど…、
…成長していけば、いずれ、蘇るはずです……。」と。
リィムが、複雑な瞳で、「…では、その時が、
この子の償いの時かもしれませんね……。」と。
「…ええ……。」と、マミも、少し苦く。
リィムが、どこか複雑な、それでもおだやかな微笑みを
美しい面差しに浮かべて、「……償い、といっても、
できるだけ、罪悪感に苛まれてではなく、
この子自身に、この世界の良さを感じてもらって、
この世界の為に出来る事をこの子自身で前向きに探してもらう、
そういった形での償いという方向にもっていってあげられたら、
…そう、思いますね……。」と。
「…リィム様……」と、マミが、何だか胸をうたれて。
リィムが、おだやかに、
黒髪の乳児を観守る。「……罪に対して罰を下す、という事も
確かに大切な事ですが、
ただ罰を下せばその後の情況が良くなる、というものでもありません。
互いに罰を下し合う事のみに心奪われて果てしなく殺し合う、
それもまたエルクヴェリア五千年の修羅地獄の実相でもありましたから。
だから、この子には、罰としてではなく、
良い意味でこの世界と共存出来る様に育ってもらって、
その上で、出来れば、この子自身の意志で、
この子自身と世界の為に出来る事を探してもらいたい、
…私は、そう、思います……。」
 
 マミも、ミーユも、フレナも、クレイアも、フィリスも、マリンも、
プラムも、レイミナも、ヴィクトルも、ジェロニアも、ルミナも、
なんとなく、言葉も無く、
暫し、しみじみと、時が流れる。
 
 
 「……あれ……?」と、ふと、マミが。「……なにか、
思い出しかけてる……。……なんだろう……、
……ずっと、心に引っかかってた……、
……ずっと、前に…………」
 
 「……そうか……!!!!!」と、不意にマミが。
 
なんだかはしゃぐ様な面差しになって、マミが、「…俺、
ちっちゃい頃は、世界を護る、みんなの幸せを護る、
ヒーローにあこがれてたんだ……!!!!!」と、
しみじみと、笑顔で。
 
まわりのみんなが、なんだか、胸をうたれて。
 
マミが、ちょっと苦く、でも笑顔で。「……俺なんかが
ヒーローになれるわけ無い、って、いつのまにかあきらめてた。
いつのまにか、忘れてた……。
…でも、
この身体でなら、このエルクヴェリアでなら、
おれにだって、ヒーローの真似事が出来るんだ……!!!!!」
 
 「……」まわりのみんなが、なんだか、あきれた様な雰囲気に。
 
「……マミさん!!!!、あなたねぇ!!!!」と、思わずクレイアが、
なんだか怒った様に、はがゆさまみれの面差しで、「……あなたはもう
ヒーローなの…!!!!!。…ただのヒーローじゃない、
惑星エルクヴェリアを救った、二つの宇宙を救った、
ヒーローを超えたスーパーヒーローなの!!!!!。
…それが言うに事欠いて真似事って何よ真似事って!!!!?」と、
頬を染めて、憤然と、なんだかちょっと涙まで瞳の端に浮かべて。
 
「……」なんだかみんな何とも言えない面差しに。
 
 マミが、思わず、「…ごめん……」と、気まずそうに。
クレイアが憤然と、「だぁからあっ!!!!、
なんでそこで謝っちゃうのっ!!!!?、
ヒーローなんだからもっと自信もって
悠然としててもいいでしょっ!!!!?。
わたし一人お子ちゃまで拗ねてるだけなんだからっ!!!!」と、
ますます頬を染めてなんだか涙目で。
ついマミが、「…ごめん…」と、申し訳なさそうに。
クレイアが逆上してしまって、「謝るなって言ってるでしょっ!!!!、
ほんとにもうっ!!!!」と。
そのクレイアに、ミーユが、ちょっとこまった様な、
おだやかな笑顔で、「……クレイアちゃん、
…その、マミ様の、自分がヒーローだって全然解ってない所が、
マミ様のいいとこなんじゃないかなって、
わたしは、思うんだけど……。」と。
クレイアが、「…そんな事言われなくたって
わたしにだって解るわよっ!!!!、
けどねえっ!!!!、いくらなんでももうちょっとこう
なんかあるでしょっ!!!!?、ああっ、もうっ!!!!」と。
 
 なんだかこまったみたいに、あたたかく、
ミーユが、フレナが、フィリスが、マリンが、
プラムが、レイミナが、ヴィクトルが、ジェロニアが、ルミナが、
リィムが、
微笑んで、
クレイアも、そしてマミも、
その、あたたかさに、包まれて。
 
 
 その夜、
 
 フレナが、クレイアが、フィリスが、マリンが、ミーユが、
 マミが、
 どんな時を過ごしたのかは、
 
 秘密。
 
 
 
 マミの能力は、まだ、その一端が露わになったに過ぎない。
 
 
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