琥珀の灯火を抱く少年と、誓いに囚われた騎士

大城トモ

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第二章「信じる者、欺く者」

失う光と失う体温

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「なん、で」

俺は、貼りつく喉から何とか声を絞る。
しかし、これ以上の言葉は出てこなかった。

ノエルは、嗚咽を漏らしながらずっと泣いている。
俺はその涙の理由がわからない。
捕まっているのか?何か動けない理由でもあるのか?なんで手を振り払ったんだ?
聞きたいことは山ほどある。
山ほどあるのに、俺の口はうまく動いてくれない。

「リオ君、初めまして。私はノーバイデン教団の信徒、ゼリウスでございます。家名はノーバイデン教団に入信する際に捨てたため、どうぞゼリウスとお呼びください」

ノエルの肩を抱く男は、自身が醸し出す不穏な雰囲気とは真逆な、優しそうな声で自己紹介を始める。
俺の名前を知っていることも驚いたが、今はノエルだ。ノエルをこちらに連れ戻さなければならない。

前回接触したとき、ノエルは俺の後ろにいたため、まだ安全な方だった。
しかし、今回はもう既に教団の手の中だ。
俺が抜け穴を通っている間に接触してしまったのだろうか。

でも、だったら、どうして、声をださなかったのか?
助けてなり、叫ぶなり、できたのではないか。
いや、それをする暇すら与えられないくらい、今、ノエルの体に何かがおこってしまっているのだろうか。

ぐるぐると頭をフル回転させるも、答えを導くことはできない。
ただただ涙を流すノエルは、口を開くこともしない。

「リオ君?どうされたのですか?」

男は、俺が何を疑問に思っているのか見当もついていないのか、俺の心配をするような言葉をかけてくる。
見当違いも甚だしい。俺はどうもしていない。
ノエルの事が知りたいのだ。

「リ、オ……」

すると、ノエルがかろうじて聞き取れるくらいの小さな声で、俺の名前を呼ぶ。

「ノエル!待ってろ!今助けてやるからな!」

ノエルの声を聞いて咄嗟に言葉を返す。
俺はもう一度ノエルに手を伸ばし、そして次はその腕を男に掴まれる。

「助ける?おかしいですね?この子は私のお願いを聞いてくれただけですよ?」

「おね、がい?」

男は俺の腕を、ノエルの肩を抱いている手とは反対の手でつかんでいるため、必然的にからだが内側に傾き、俺との距離も近くなる。
掴まれた瞬間に、離れるために自分の腕を引いたりしていたが、ゼリウスという男の言葉に動きを止める。

「えぇ。私が、もう一度リオ君に会いたいと、ノエル君にお願いしたんです」

「え、でもノエル、は」

「えぇ、えぇ、あなたのお友達なんですよね?教会で聞いておりますよ」

教会。この言葉が重くのしかかってくる。
レオヴィクの屋敷に移動することが決まったあの日。ヨハンから、ノエルは時々教会にお世話になっていると聞いた。
しかし、そこはノーバイデン教団の手はかかっていない教会だといっていた。
であれば、ヨハンが嘘をついていたというのだろうか。

「教会で時々行われる子供たちとの会食に、私も参加することがありまして。でもそのときは顔をフェイスベールで隠しているので、この前ここで会ったとき、ノエル君も気づかなかったようですね」

司教として教会に行っているわけではないという事だろうか。
ゼリウスの言葉を理解しようと話を聞くが、頭の回転が追い付かない。

「私はあの時に、ここで出会ったのがノエル君と気づきましたので、この前の食事の際、ノエル君に声をかけたんです」

ペラペラと、まるで自慢話でもするかのように饒舌に話す男の言葉は、すべてが嘘のようだと感じた。
いや、違う。すべて嘘だと思いたかった。

「ノエル君、最初は私の顔を見てびっくりしておりましたが、こちらのお願いを快く承諾してくれたんですよ。本当にいい子ですね」

そう言いながら、ゼリウスはノエルの肩を抱いていた手を、ノエルの頭に持っていき、くしゃりと撫でる。
その行動に、ノエルはびくりと肩を揺らす。
快く承諾、ではないだろう。おそらく、何か、何かあるはずだ。
そう、考えることはできるが、現状では皆目見当もつかず、結局はゼリウスの言葉を聞くしかない。

「さてさて、お喋りはここまでといたしましょう。神官が今か今かと首を長くしてお待ちですので、リオ君を」

まだ話は続くだろうと思い、耳を傾けていると、なぜか俺の名前が出てくる。
俺は、ハッとして再び握られている腕を引っ張る。
やはりびくともしないその腕を、空いているもう片方の腕も使いながら必死に離れようと試みる。

「こらこら、暴れないでください。手荒な真似はできないのですよ。仮にも神に近しい存在かもしれない、あなたを」

「か、み?」

「あぁ、そうでした。もう一つ確かめないといけないことがありましたね」

ゼリウスはそう言うと、ノエルの頭においていた手を下す。
その手の動きは非常にゆっくりに感じて、次の行動を考えるこの時間が異様なほど怖く、背中をツーっと一筋の汗が流れていく感覚ですら怖かった。
そんなことを思っていた矢先、「ずちゅ」と普通に生活していれば聞くことはない音が耳にまとわりついた。
何の音かと思い、音が聞こえた方、ノエルの心臓あたりに視線を下げる。
目の前に、真っ赤に染まっているはずなのに、鈍い銀色の光を放っている刃物が見えた。
そしてその刃物は、ノエルの心臓から生えているようだった。

「え」

ノエルが声を漏らす。
ゆっくりとノエルの視線が自身のお腹の方へ向いたかと思うと、「ごふっ」とせき込むように口から血を吐き出した。
そのまま、俺の方に再び視線を向け「リ、オ」と流した涙が、口元の血を洗い流すように流れていく。
その様子を、何も言えず、何も動けず俺は見ていた。

そして、ノエルの瞳から涙が止まり。そして、いつもキラキラ輝いていた瞳は、濁ってだんだんと光を失っていっていた。

「ノエ、ル?」

声をかけるが、ノエルは反応しない。ピクリとも動かない。
視界の端で何かが動いた気がして、視線をノエルの心臓に移動させると、先ほどまで目の前にあった刃物が、短くなっていき、体から抜けていくのが分かった。
ゼリウスが着ている白いローブは、刃物を持っている片腕部分だけが赤く染まりっている。
ゼリウスは「ふぅ」と、まるでひと仕事終えたかのように、少し長めの刃物、ナイフをぶんと上下にふり、付いている血を振り払う。
そして、抜けたと同時にノエルの体は重力に逆らうことなく地面に落ちた。

地面に落ちたと同時に、俺は掴まれていた腕も離されていたようで、すぐにしゃがみこみ、ノエルの体を起こす。
しかし、ノエルの腕や顔はだらりと垂れた状態のまま動くことがない。
俺は状況が理解できず、ただただノエルの体を見つめることしかできなかった。

「さぁ!神よ!あなたのお力を私にお見せください!」

ゼリウスが言うが早いか、俺の叫び声が早いか。
俺は、ノエルの体を抱きしめ、冷たくなっていく体に、ノエルが消えてしまいそうなそんな気もして、空に向かって言葉にならない声で思いっきり叫ぶ。

「うあああああああああああああああ!!」



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