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最終章「繋ぐ者、託される者」
思考の限界
しおりを挟む「リオ様、おはようございます」
アモンが俺の傍に膝をつく。俺は少し前に起きてはいたが、動きたくなくて掛け布団にくるまったままだった。
そして、おそらくではあるが、アモンが「おはようございます」と言ってくるときはちゃんと朝なのだろう。
外の時間はわからないけれど、この時のアモンからはひんやりとした外の香りがしてくる。
レオヴィクが、冬が始まる前に行動を起こしたいと言ってから時間が経ってしまっているので、もう冬なんだろうか。
スラムにいた時は冬が来ることが怖かったけど、ここにいられるなら、冬はもう怖くないのかもしれない。
「リオ様、そろそろ起きられますか?」
アモンは俺が起きていることを知っている。
知っていてこのままにしてくれているのは優しさなのか、俺にはわからない。
俺はコクリと頷いて見せて、掛け布団から体を起こす。
丸まって眠ることに関しては、体が慣れているはずなのに、最近は起きた後の体の痛みと重さが強くなってきた気がする。
俺は、ぐっと背中を伸ばし、体の筋肉をほぐす。
「やはり、あちらの布団で寝られた方がよいのですはないですか?」
「ううん。ここがいい」
「そうですか……」
アモンはしきりに俺を布団に連れて行こうとするが、俺は固くなに断った。
なんだかレオヴィクみたいだなと、笑みがこぼれそうになったが、それをぐっと抑え込み奥歯をかみしめる。
「本日は、癒しの時間はございませんので、お好きに過ごされてかまいませんよ」
「え、じゃあ、ノエルのとこーー」
「それはなりません」
好きに過ごしていいといった割には制約が多いのだ。
俺は返ってくる言葉がわかっていたが、聞かずにはいられなかった。
その時、アモンの後ろに人が立っていることに気づいた。
俺はその人を見ようと少しだけ体を横に傾ける。
信徒と同じように白いローブに教団の首飾り、そしてフードは目深にかぶっていて顔は見えない。
身長はアモンよりは少し高めだ。
レオヴィクよりは低いから、170センチとかそこらへんだろうか。
まぁ俺には正確な身長なんてわからないんだけどね、と考えていると、アモンが気づいたように俺に紹介してくる。
「癒しを待つ信徒ではございませんよ。この者は本日より、リオ様の身の回りをお世話することになりました。名をタロルと申します」
「タロル」
「はい、この者は元々口がきけません。しかし、意思の疎通は問題なくできると思われますので、お傍に置いてやってください」
俺はタロルと呼ばれた人物を見る。身長や体格からおそらく男性だろうとは思うが、名前だけでは少し判断ができない。
せめて声を聞ければと思ったが、タロルは話ができないらしい。
「タロル」
俺は、タロルを呼ぶ。
すると、タロルは一歩だけ俺に近づき首をかしげる。
まるで「なんでしょうか」と聞いてくれているような、そんな気がした。
「アモンは、もうここにはこないのか」
そこで一つ湧いてきた疑問をアモンにそのまま問う。
「私は少しばかり仕事が溜まっておりまして。また、リオ様を民にお披露目するための準備も進めなければいけませんので」
「お披露目?」
ここに来て初めて聞く言葉に驚き俺は聞き返す。
「はい。そろそろリオ様が…。神が顕現されたことを民に伝え、そしてこのアンブラリア王国を豊かな国にするためにも、リオ様の御力を貸していただこうかと思いまして」
「俺の力?」
俺は癒しの力を使うことができる。
アモン曰く、俺が神だから。
しかしその力が使えるからと言って、俺は国を豊かにするほどの力はない。
それにお披露目なんて、レオヴィクやノエルが知ったら何と思うか…
「あの者たちの事は気になさらないでください。きっとこの国を出ていくことになましょう」
「え?」
アモンから発せられる言葉の意味を理解することに時間がかかり、変な声で反応をしてしまう。
レオヴィクたちが国を離れる?
しかし本当にそんなことがあり得るのだろうか。
レオヴィクたちはアンブラリア王家の再臨を願って……。あぁ俺がここにいるから無理なのか。
俺がノエルを傷つけたから、無理なのか。
レオヴィク達の期待に応えらえないから、捨てられるのか。
思考がゆっくりと黒く塗り潰されていく。
「ご安心ください。リオ様には我々がついております」
「うん」
俺は、アモンの言葉をきいて、一人にはならないという安心感に頷いた。
ここにいれば一人になることはない。
もう捨てられることもない。
「では、リオ様。あとの事はこのタロルに任せておりますので、私はここで一度失礼いたします」
「うん」
俺の返答を聞いて、アモンは踵を返す。
去り際にタロルの肩に手を置き、何やら耳元でささやいていたが、俺には聞こえなかったし、俺にはきっと関係ない事なのだろうと、無視をした。
パタリと部屋の扉が閉まる。
今日はやることがない。
どうしよう。
そう思っているとタロルが俺に近づいてくる。
俺は体は起こしているが、まだ立ち上がってはいないため、タロルも俺の傍に膝をつき、頭の位置を同じくらいまで下げてくれる。
「ありがとう、タロル。今日は、どうしようかな」
そう言って俺は立ち上がろうと思って、木の幹に手をつく。
そのとき、ふらりと視界が揺れる。
「!?」
タロルから声にならない音が発せられ、次の瞬間にはタロルの胸元にいた。
倒れそうになってしまった俺を、タロルが助けてくれたのだろう。
「あ、ありがとう、タロル」
タロルと出会ってから、まだありがとうしか会話をしていない。
とはいえ、タロルは話せないのだから、俺一人の会話になるだろうが。
そう思ってタロルの顔を見ようと視線を上げるが、フードが深すぎて、その先は闇しか見えない。
少しだけ怖くなって視線を逸らす。
タロルは、俺の脇に手を差し込み、ぐいっと上に引き上げながら立ち上がらせてくれた。
「今日は、本でも読もうかな」
俺は、部屋の中央に向かい、本が置いてある机に向かう。
そこにある本は、今まで読んだことがない本が数冊置かれており、俺が読み終わると新しい本に変わっている。
「これにしよう」
そうして、一番最初に目についた本を手に取る。
「忘れ去られた騎士……」
本のタイトルを読み上げ、そして思い出す。
「レオヴィク」
忘れ去れているのは俺だというのに。
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