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ブルジット・ライフ
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「神崎、死んだらしいよ」
トマリがクッションを抱えながら呟いた。すいすいと画面をスクロールする手を止めずに、何気なく。
「え?まじ?」
「まじ。葬式呼ばれた。で、サンも呼んどいてって」
「まじかぁ、もうしばらく会ってなかったなぁ」
サンは読んでいた漫画の画面を閉じて、ソファから身を起こした。それに注意を払うことも無く、顔を上げないままトマリは頷く。
「行く?」
「行く。葬式行ったことないし」
「分かる。初めてなんだけど」
「親よりも友達の方が先か」
「ね」
ソファの下で座るトマリを見下ろすサンの視線に気がついたのか、トマリが目線を上げた。己の目線に合わせてついてきた画面に眉を寄せてから、画面表示をオフにする。
「なんで死んだの?」
サンが尋ねる。トマリは思い出そうと眉を寄せた。
「なんか、事故?らしい」
「蘇生も効かないってどんな事故よ」
「アレじゃない?あの、蘇生拒否」
「あー。え、でも私もそれ登録してるけど死なないよ」
目線を戻して、トマリはもう一度画面をオンにした。メールアプリをスクロールして、目当てのものを探す。
「蘇生段階まで行くケガも珍しいからね。あ、あった」
宙で指を止めて、トマリがサンを振り返る。これ、と指さした先はサンには見えない。
「画面共有入れてよ」
「あぁ」
数度宙でトマリが指を動かせば、サンの目にもトマリの画面が見えるようになる。サンは数行メールを読んで、頷いた。
「車か」
「ぺちゃんこで即死は蘇生拒否してたら無理っしょ。いやでもな、羨ましいな」
ぼやきながら画面をオフにして立ち上がって、トマリはコーヒーメーカーに向かった。それをソファにもう一度寝転がりながら叫んだサンの声が追う。
「ね!即死だよ、しかも。まぁ、神崎……いくつ下だっけ?既に長いか。私四十年で十分だったな」
「平安時代かよ」
「平安って人生四十年だったの?」
「らしい」
「え、ちょーいいじゃん。え?老衰で四十年ってこと?え?四十って何してた?四十歳……」
「サンは二個目の会社じゃない?」
出来上がったコーヒーを飲みながらトマリが答える。サンの分のコーヒーを作ってやろうとカップをもうひとつコーヒーメーカーに突っ込んだ。
「出版か!」
「そ、それが入社三十……いくつだ?私と転職のタイミング近かったよな」
「覚えてないや、どうでもいいもん」
「ね。上がつかえてるしなぁ」
出来上がったコーヒーを持ってトマリがソファまで戻ってくる。差し出せば、起き上がってソファに座ったサンがカップを受け取った。サンの隣に座って、トマリが話を続ける。
「下はもっと大変だよね。今年何人?」
サンは首を捻って、数度手を宙に滑らせた。答えを見つけて口を開く。
「五人?かな。先月までに」
「日本?」
「世界」
「減ったねぇ」
「まぁ、わざわざ自分の子供を過酷な環境に置きたくないんでしょ?産む気にならんて」
サンの言葉にトマリが肩を竦める。
「自分の分の金もないしね」
「子供産むより金貯めて隠居したい」
「そろそろ仕事辞めてもよさそうな額貯まってる気がする」
「何年分?」
「八十はいけるんだけど」
「あぁ、私もそんくらいはある。ただその後がね」
「ね、八十も働いてないってやばい奴と思われそう」
トマリがため息混じりに言うと、サンはただ首を振った。二人とも、沈黙を埋める為にコーヒーを飲み込む。
「人生四十年だったらなぁ」
「あと何年生きるの、ウチら」
サンの独り言みたいな呟きにトマリが返事をする。サンは少し首を傾げた。
「さぁ。ペシャンコになるまで?つか、ウチら今いくつ?」
「え?ちょっと待って保険証見りゃ分かる」
「ウチら同い年だよね」
「そうだよ、同級生でしょ」
トマリが立ち上がって、棚を覗いた。サンも立ち上がって、トマリの手元を覗き込む。どうでもいい郵便物をかき分けながら、トマリが苛立ったようにぼやく。
「なんで保険証って電子化しないの?」
「ぽいからじゃない?」
「何それ」
「まぁ、基本認証には使わないし」
目当ての保険証を見つけて、トマリは自分の生年月日に目を滑らせる。
「今年から引けばいいんでしょ?だから……百三?かな?」
「……百十三じゃね?」
「電卓、電卓」
「揃って暗算苦手すぎて笑う。あ、ほら百十三」
サンが電卓アプリを開いて答える。二人は顔を見合わせた。
「改めて考えると一世紀超えてんのか」
「全く気にしてなかった。十三年前になんかお祝いすりゃよかった?」
「めでたくないよ、なーんもめでたくない!」
トマリがギャンと叫んで保険証を引き出しに投げ戻した。そのままソファにダイブする。
「あー、一世紀。一世紀でぴったり死ねばよかったかなぁ」
「結局、ウチらもどっかで自殺するのかな?」
「まぁみんなそうするからあんなに一大ビジネスになってんでしょ?」
「まぁね」
頷いて、サンはソファの肘掛に腰を下ろす。ローテーブルに放置していたコーヒーを手に取ってから一口飲んで、伸びているトマリに目線を投げた。
「別にキリよくなくても今死んでもよくない?」
「死ぬエネルギーもないんだよなぁ。あるじゃん、踏ん切りつくタイミングというかさぁ?」
サンの問いかけに、くぐもった返事が寄越される。サンは数度瞬きをしてから、笑い混じりに尋ねた。
「いっそ仕事辞める?貯金尽きたら死ねばよくない?」
「んー」
トマリが突っ伏していた顔を横に向けた。頬が片方潰れているから相変わらずくぐもっていたが、さっきよりはクリアな声が答える。
「でもいつかは知らんけど、終わることは終わるでしょ、さすがに」
「人生?」
「そう。ならそれに金払うのもな……」
自殺するにも金かかるじゃん、と続けたトマリに、サンは分からないでもないなと頷いた。
「結局貧乏性が抜けないんだなウチら。上には二百歳組がつかえてるし。」
「な!」
叫びながらぴょんとトマリが跳ね起きた。起きた勢いのまま、今度は仰向けにひっくり返る。
「もう誰も働かなくていいじゃん!ロボットにおまかせ的な」
「でもロボット動かす人はずっと必要じゃん。メンテとかさ。そうすっと誰が働くの?ってなるじゃん」
「じゃあウチらバランス取るために無駄に働かされてんのね。ブルシット・ジョブて奴だ」
不機嫌なトマリの言葉に、サンが首を捻る。
「なにそれ」
「くだらない仕事?みたいな。やらなくてもいいけど、やっといた方がなんか平等に見える」
「平等、ねぇー」
難しい言葉だ、とサンはコーヒーを飲み干した。トマリが起き上がって伸びをする。
「三十歳から四十歳とかだけ働くとかでよくない?そしたらあとはみんな好きに生きて好きに死ねばいいじゃん」
名案だとばかりに言うトマリに、サンは肩を竦めた。
「でも一定の人数必要にならん?その、三四十代。今の代なんて五人なのに」
「じゃあ全員どっかで働く。なんか、紙とか届いて」
「それいいね……でもま、育成とか、面倒だから変わらないだろうな、上は頭のかったい二百歳組だし」
「あー……」
唸るトマリを横目に、サンはテーブルにあったトマリのコーヒーの残りを勝手に手に取った。それに気が付かずにトマリが呟く。
「人生……四十年が無理ならせめて二百年で……手を打ちたいな……」
人生長すぎるよなぁ、とサンは頷いた。少しコーヒーを飲んで、口を開く。
「生きてりゃいいことあるみたいなあれさ、嘘だよなあれは」
「嘘ぉ……ではないだろ、いいことはあるだろうけど。ただなぁ、釣り合わんのよな。めんどいことの方が多い」
「それは分かるかもしれない。高い服みたいな」
サンの言葉にトマリが体を起こして首を捻った。サンはちょっと眉を寄せて考えてから、噛み砕いて説明する。
「すげ可愛いから欲しいなぁって思うけど、数万しますって言われるとじゃあ別にいいですってなる服あるじゃん。人生のいいことってそんな感じ」
「あー、欲しいなぁって思うけど、そこまで行くのにじゃあこのめんどくさいことして下さいって言われるとじゃあいいですってなるってことか」
「そう、人生ウィンドウショッピング」
手に持ったままだったトマリのコーヒーを飲み干して、サンは歌うように続けた。
「したいことはあるけど手間と金払ってまでしたいことは無いって状態で、でもショッピング止められるほどの理由も持ってないんよね。そろそろ歩くん疲れたってくらい」
「それで云百年ウィンドウショッピングしてんの馬鹿らしいなウチら」
自分の分のコーヒーカップも持って、サンが立ち上がる。ようやくコーヒーを横取りされたことに気がついて、トマリが手を伸ばしてサンの背中を殴った。
サンは笑ってそれを受け流して、食洗機の中にカップを二つ放り込む。しばしの沈黙。
「いいなぁ神崎」
サンが楽しそうに呟いた。トマリはそーね、と返してからソファに座り直す。
「でも神崎は買いたいものあったかも」
「確かに。羨ましいって言ったら悪いかぁ」
「まぁ、羨ましいけどな」
トマリは返事をしながら画面をオンにした。目的なくタイムラインに目を滑らせる。
「ねぇうちの近くにササズってあったっけ」
「国道沿いにあるよ、車出したら十五分くらい」
「昼そこがいい、新作パフェ凄い」
「昼飯パフェ?不健康だなぁ」
食洗機の前で漫画を読んでいたサンが、画面を切ってトマリの隣に座る。共有を入れて、トマリはタイムラインにあったパフェの写真を指さした。
「いいじゃん寿命縮めていこ」
「まぁ、いいけど。車出そうか」
「なら買い物もするか」
「なんか買いたいものあるの」
「や、そっちまで出るならなんか見よっかなって」
「ウィンドウショッピングにはするなよ」
立ち上がって車のキーのある方に向かうサンに、トマリが眉を寄せる。
「サン運転するの」
「どっちでもいいけど」
「離陸と着陸下手だから乗りたくない。私やる」
「トマリだってこの間車擦ったでしょうよ」
「あれは場所が悪かったの!」
言い合いながらトマリは車のキーを取り上げる。バタンと玄関のドアが閉まれば、二人の声は聞こえなくなった。
トマリがクッションを抱えながら呟いた。すいすいと画面をスクロールする手を止めずに、何気なく。
「え?まじ?」
「まじ。葬式呼ばれた。で、サンも呼んどいてって」
「まじかぁ、もうしばらく会ってなかったなぁ」
サンは読んでいた漫画の画面を閉じて、ソファから身を起こした。それに注意を払うことも無く、顔を上げないままトマリは頷く。
「行く?」
「行く。葬式行ったことないし」
「分かる。初めてなんだけど」
「親よりも友達の方が先か」
「ね」
ソファの下で座るトマリを見下ろすサンの視線に気がついたのか、トマリが目線を上げた。己の目線に合わせてついてきた画面に眉を寄せてから、画面表示をオフにする。
「なんで死んだの?」
サンが尋ねる。トマリは思い出そうと眉を寄せた。
「なんか、事故?らしい」
「蘇生も効かないってどんな事故よ」
「アレじゃない?あの、蘇生拒否」
「あー。え、でも私もそれ登録してるけど死なないよ」
目線を戻して、トマリはもう一度画面をオンにした。メールアプリをスクロールして、目当てのものを探す。
「蘇生段階まで行くケガも珍しいからね。あ、あった」
宙で指を止めて、トマリがサンを振り返る。これ、と指さした先はサンには見えない。
「画面共有入れてよ」
「あぁ」
数度宙でトマリが指を動かせば、サンの目にもトマリの画面が見えるようになる。サンは数行メールを読んで、頷いた。
「車か」
「ぺちゃんこで即死は蘇生拒否してたら無理っしょ。いやでもな、羨ましいな」
ぼやきながら画面をオフにして立ち上がって、トマリはコーヒーメーカーに向かった。それをソファにもう一度寝転がりながら叫んだサンの声が追う。
「ね!即死だよ、しかも。まぁ、神崎……いくつ下だっけ?既に長いか。私四十年で十分だったな」
「平安時代かよ」
「平安って人生四十年だったの?」
「らしい」
「え、ちょーいいじゃん。え?老衰で四十年ってこと?え?四十って何してた?四十歳……」
「サンは二個目の会社じゃない?」
出来上がったコーヒーを飲みながらトマリが答える。サンの分のコーヒーを作ってやろうとカップをもうひとつコーヒーメーカーに突っ込んだ。
「出版か!」
「そ、それが入社三十……いくつだ?私と転職のタイミング近かったよな」
「覚えてないや、どうでもいいもん」
「ね。上がつかえてるしなぁ」
出来上がったコーヒーを持ってトマリがソファまで戻ってくる。差し出せば、起き上がってソファに座ったサンがカップを受け取った。サンの隣に座って、トマリが話を続ける。
「下はもっと大変だよね。今年何人?」
サンは首を捻って、数度手を宙に滑らせた。答えを見つけて口を開く。
「五人?かな。先月までに」
「日本?」
「世界」
「減ったねぇ」
「まぁ、わざわざ自分の子供を過酷な環境に置きたくないんでしょ?産む気にならんて」
サンの言葉にトマリが肩を竦める。
「自分の分の金もないしね」
「子供産むより金貯めて隠居したい」
「そろそろ仕事辞めてもよさそうな額貯まってる気がする」
「何年分?」
「八十はいけるんだけど」
「あぁ、私もそんくらいはある。ただその後がね」
「ね、八十も働いてないってやばい奴と思われそう」
トマリがため息混じりに言うと、サンはただ首を振った。二人とも、沈黙を埋める為にコーヒーを飲み込む。
「人生四十年だったらなぁ」
「あと何年生きるの、ウチら」
サンの独り言みたいな呟きにトマリが返事をする。サンは少し首を傾げた。
「さぁ。ペシャンコになるまで?つか、ウチら今いくつ?」
「え?ちょっと待って保険証見りゃ分かる」
「ウチら同い年だよね」
「そうだよ、同級生でしょ」
トマリが立ち上がって、棚を覗いた。サンも立ち上がって、トマリの手元を覗き込む。どうでもいい郵便物をかき分けながら、トマリが苛立ったようにぼやく。
「なんで保険証って電子化しないの?」
「ぽいからじゃない?」
「何それ」
「まぁ、基本認証には使わないし」
目当ての保険証を見つけて、トマリは自分の生年月日に目を滑らせる。
「今年から引けばいいんでしょ?だから……百三?かな?」
「……百十三じゃね?」
「電卓、電卓」
「揃って暗算苦手すぎて笑う。あ、ほら百十三」
サンが電卓アプリを開いて答える。二人は顔を見合わせた。
「改めて考えると一世紀超えてんのか」
「全く気にしてなかった。十三年前になんかお祝いすりゃよかった?」
「めでたくないよ、なーんもめでたくない!」
トマリがギャンと叫んで保険証を引き出しに投げ戻した。そのままソファにダイブする。
「あー、一世紀。一世紀でぴったり死ねばよかったかなぁ」
「結局、ウチらもどっかで自殺するのかな?」
「まぁみんなそうするからあんなに一大ビジネスになってんでしょ?」
「まぁね」
頷いて、サンはソファの肘掛に腰を下ろす。ローテーブルに放置していたコーヒーを手に取ってから一口飲んで、伸びているトマリに目線を投げた。
「別にキリよくなくても今死んでもよくない?」
「死ぬエネルギーもないんだよなぁ。あるじゃん、踏ん切りつくタイミングというかさぁ?」
サンの問いかけに、くぐもった返事が寄越される。サンは数度瞬きをしてから、笑い混じりに尋ねた。
「いっそ仕事辞める?貯金尽きたら死ねばよくない?」
「んー」
トマリが突っ伏していた顔を横に向けた。頬が片方潰れているから相変わらずくぐもっていたが、さっきよりはクリアな声が答える。
「でもいつかは知らんけど、終わることは終わるでしょ、さすがに」
「人生?」
「そう。ならそれに金払うのもな……」
自殺するにも金かかるじゃん、と続けたトマリに、サンは分からないでもないなと頷いた。
「結局貧乏性が抜けないんだなウチら。上には二百歳組がつかえてるし。」
「な!」
叫びながらぴょんとトマリが跳ね起きた。起きた勢いのまま、今度は仰向けにひっくり返る。
「もう誰も働かなくていいじゃん!ロボットにおまかせ的な」
「でもロボット動かす人はずっと必要じゃん。メンテとかさ。そうすっと誰が働くの?ってなるじゃん」
「じゃあウチらバランス取るために無駄に働かされてんのね。ブルシット・ジョブて奴だ」
不機嫌なトマリの言葉に、サンが首を捻る。
「なにそれ」
「くだらない仕事?みたいな。やらなくてもいいけど、やっといた方がなんか平等に見える」
「平等、ねぇー」
難しい言葉だ、とサンはコーヒーを飲み干した。トマリが起き上がって伸びをする。
「三十歳から四十歳とかだけ働くとかでよくない?そしたらあとはみんな好きに生きて好きに死ねばいいじゃん」
名案だとばかりに言うトマリに、サンは肩を竦めた。
「でも一定の人数必要にならん?その、三四十代。今の代なんて五人なのに」
「じゃあ全員どっかで働く。なんか、紙とか届いて」
「それいいね……でもま、育成とか、面倒だから変わらないだろうな、上は頭のかったい二百歳組だし」
「あー……」
唸るトマリを横目に、サンはテーブルにあったトマリのコーヒーの残りを勝手に手に取った。それに気が付かずにトマリが呟く。
「人生……四十年が無理ならせめて二百年で……手を打ちたいな……」
人生長すぎるよなぁ、とサンは頷いた。少しコーヒーを飲んで、口を開く。
「生きてりゃいいことあるみたいなあれさ、嘘だよなあれは」
「嘘ぉ……ではないだろ、いいことはあるだろうけど。ただなぁ、釣り合わんのよな。めんどいことの方が多い」
「それは分かるかもしれない。高い服みたいな」
サンの言葉にトマリが体を起こして首を捻った。サンはちょっと眉を寄せて考えてから、噛み砕いて説明する。
「すげ可愛いから欲しいなぁって思うけど、数万しますって言われるとじゃあ別にいいですってなる服あるじゃん。人生のいいことってそんな感じ」
「あー、欲しいなぁって思うけど、そこまで行くのにじゃあこのめんどくさいことして下さいって言われるとじゃあいいですってなるってことか」
「そう、人生ウィンドウショッピング」
手に持ったままだったトマリのコーヒーを飲み干して、サンは歌うように続けた。
「したいことはあるけど手間と金払ってまでしたいことは無いって状態で、でもショッピング止められるほどの理由も持ってないんよね。そろそろ歩くん疲れたってくらい」
「それで云百年ウィンドウショッピングしてんの馬鹿らしいなウチら」
自分の分のコーヒーカップも持って、サンが立ち上がる。ようやくコーヒーを横取りされたことに気がついて、トマリが手を伸ばしてサンの背中を殴った。
サンは笑ってそれを受け流して、食洗機の中にカップを二つ放り込む。しばしの沈黙。
「いいなぁ神崎」
サンが楽しそうに呟いた。トマリはそーね、と返してからソファに座り直す。
「でも神崎は買いたいものあったかも」
「確かに。羨ましいって言ったら悪いかぁ」
「まぁ、羨ましいけどな」
トマリは返事をしながら画面をオンにした。目的なくタイムラインに目を滑らせる。
「ねぇうちの近くにササズってあったっけ」
「国道沿いにあるよ、車出したら十五分くらい」
「昼そこがいい、新作パフェ凄い」
「昼飯パフェ?不健康だなぁ」
食洗機の前で漫画を読んでいたサンが、画面を切ってトマリの隣に座る。共有を入れて、トマリはタイムラインにあったパフェの写真を指さした。
「いいじゃん寿命縮めていこ」
「まぁ、いいけど。車出そうか」
「なら買い物もするか」
「なんか買いたいものあるの」
「や、そっちまで出るならなんか見よっかなって」
「ウィンドウショッピングにはするなよ」
立ち上がって車のキーのある方に向かうサンに、トマリが眉を寄せる。
「サン運転するの」
「どっちでもいいけど」
「離陸と着陸下手だから乗りたくない。私やる」
「トマリだってこの間車擦ったでしょうよ」
「あれは場所が悪かったの!」
言い合いながらトマリは車のキーを取り上げる。バタンと玄関のドアが閉まれば、二人の声は聞こえなくなった。
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