海と風の王国

梨香

文字の大きさ
45 / 368
第ニ章  カザリア王国の日々

7  竜騎士の為の学校があるんだ!

しおりを挟む
 バギンズ教授に初対面で抱き締められたショウだったが、数学の指導は真っ当だった。

「ショウ様、ワンダーが学食の席をとっていますよ。早く行きましょう」

 ショウは黒板に書かれた問題を後少しで解けそうなのにと残念に思ったが、シーガルに急かされて学食へ向かう。

 今日習った数式、習ったような気がするけど、覚えていなかった。ショウは、美容師になりたかったから、授業中も女の子の髪の毛を眺めてばかりいた自分を少し反省した。

「一から勉強し直すしか無いな~」

 シーガルはショウ王子の言葉に、自信を無くしたのではと心配した。十歳でパロマ大学の聴講生は、キツいかもしれない。自分やワンダーが講義を理解して、ショウ王子に教えなくてはいけないのだが、此方も講義に付いて行くのが精一杯だったのだ。

「あっ、あそこにワンダーがいる」

 バギンズ教授が講義の終わりを告げるやいなや、ワンダーは学食へ急ぎ、食券を買って三人分の席を確保していた。のんびりとショウとシーガルはワンダーが取ってくれた席に付いたが、昼時の学食は殺気だっている。何故なら、早く食券を買わないと、名物の不味いサンドイッチしか無くなるからだ。

「他のメニューを、もっと多く販売すれば良いのにね。その方が学生達のニーズに応えられるし、学食も儲かるのに……」

「ショウ様は、やはり東南諸島の王子ですね。学食の儲けなんて、考えた事がありませんでした。あの不味いサンドイッチはパロマ大学の伝統ですよ」

 スチュワートが、おチビのショウの一人前のコメントを聞いてからかいながら、隣に座った。

「スチュワート王子は、伝統を重んじられるのですね。でも、あのサンドイッチは栄養学の教授が考案された物でしょ? 伝統と呼べるのかな? 栄養学的に優れている上に、美味しい物も出来ると思うのですが」

 他の食券が売り切れて、サンドイッチしか残って無いと食券売り場の小母さんに言われた学生達から悲鳴があがるのを見て、ショウは肩をすくめた。

「確かに、他の食券が少ないかもしれないなぁ」

 真っ当な食べ物にあぶれた学生達の半分はお昼を諦めたり、外で食べようと学食から出て行くのを見て、スチュワートも考え直す。 

「私もこんなに学生達が昼食に苦労しているとは知りませんでした」

「本当だね、奨学金を貰っている学生は、外で食べる余裕は無いから、サンドイッチか、我慢するしかなさそうだなぁ」 

 スチュワートとジェームスの言葉に、ショウは首を傾げる。

「ああ、私とジェームスは、竜騎士の学校のウエスティンと掛け持ちだから、昼はそちらで食べてくる事が多いんだ」

 ショウは竜騎士の学校と聞いて興味を持った。

「そうか、旧帝国の三国は、竜騎士が重視されるのですね。ウエスティンでは、どんな勉強をしてるのですか?」

 目を輝かして質問してくるショウに、スチュワートはもしかして竜騎士なのかと質問し返した。

「ええ、サンズのパートナーなんです。東南諸島には竜騎士が少ないので、自己流で乗っているのです。父上は跨がって飛べば良いとしか教えて下さらなかったし、サンズも若いから他の人を乗せて飛んだ経験が無いので、これで良いのか不安なんです」

 スチュワートは、自分の子供に竜に跨がって飛べば良いとしか教えなかったアスラン王に呆れてしまった。

「それでは、困りませんか? 他の竜との連隊飛行訓練とかはしないのですか」

 ショウは前に見た、イルバニア王国の竜騎士隊の一糸乱れぬ連隊飛行を思い出して溜め息をつく。
 
「東南諸島連合王国には、竜騎士が少ないのです。でも、一度ウエスティンに見学に行っても良いですか?」

 スチュワートはショウをウエスティンの練習に参加させてやりたかったが、父上達に聞いてみなければと言った。

「ショウ様、食事がさめますよ」

 話に熱中して、食事が進んでいなかったのをシーガルに注意されて、パクパク食べ出したショウに、又返事をしますとスチュワート達は席を立った。

「アスラン王は、ショウ様を跡取りにするのでしょうか?」

「さぁ、東南諸島連合王国では竜騎士である事は重要視されないみたいだからな。第六王子ということは、上に五人も王子達がいるって事だから、普通は無いだろう」

 二人は午後の講義の教室へ向かいながら、旧帝国三国とは考え方の違うショウともう少し話してみようと考える。


 ショウはバギンズ教授の講義が無い時は、他の気になる講義を受けて良いと許可を貰っていたので、時間表と睨めっこしていた。

「学長も大教室ならどれでも受講して良いと言われたし、バギンズ教授も受けたい講義が有るなら、少人数のでも頼んでみると言って下さったけど……この時間表では、わからないなぁ。しまった! スチュワート様達に、面白い講義を尋ねれば良かったんだ」

 ショウは時間表を手に持つと、昼食を食べ終わって、雑談している学生達に聞きに行く。

「お話し中、すみません。少しお聞きしたいのですが、大教室の講義で面白い講義ありますか? 聴講生なんですが、どの講義を取ったら良いのかわからなくて」

 雑談していた学生達は、突然、東南諸島の服を着たショウに話しかけられて驚いたが、子供の質問に親切に答えてくれた。

「君が何に興味が有るのかによって、面白いと思うかどうかは変わるけど、何人か名物の教授を教えてあげるよ。後は講義を受けてみて、受講するか決めたら良いと思う。私達も先輩からお勧めの講義を聞いたりもするけど、手当たり次第に出て、気に入った講義に受講届を出しているから」

 学生達はあれこれ話し合いながら、時間表に丸を付けてくれた。

「ありがとうございました、参考にさせてもらいます」

 ショウが仲間の所へ帰るのを見ながら、学生の一人が少し微妙な顔をした。

「しまったなぁ、アン・グレンジャー教授の講義に丸しちゃった。面白いけど、女性学は東南諸島の学生には鬼門だったのに……」

「あっ、私もアレックス教授の講義に丸を付けた。私は面白いと思ったけど、パロマ大学の教授が変人だと思われちゃうかも……」

「仕方無いよ。実際、面白い講義をする教授は変人が多いもの。後は彼等次第さ、変人じゃない真面目な教授の役に立つけど退屈な講義を受講するか、変人の教授の面白いけど、どこで役に立つのか少し疑問の残る講義を受講するか決めたら良いよ」

 議論好きの学生達は、役に立たないからこそ純粋な教養だとか、いや役に立ってこそ教養なのだとかわいわい言い合いだした。

 こうしてショウは、変人の教授達の講義を受講する事になった。
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...