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第ニ章 カザリア王国の日々
16 私のショウ様!
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ショウの考えた通り、ベンジャミンは優れた論客で、先ずは真ん中の席に座った中立組を反対側に引き入れた。
ワンダーとシーガルは、残り少なくなった中立組で頑張っていたが、カザリア王国の議論好きの国民性と、パロマ大学でディベートを鍛え上げたベンジャミンには勝ち目は無さそうに思えた。
「東南諸島では、女性は就職などしないでしょう。貴方達は妻に働いて貰いたいのですか?」
ワンダーとシーガルに目を付けてきた相手に、マズイと感じたショウは発言をする。
「グレンジャー教授、このテーマは女性の就職についてですよね。ベンジャミンさん、東南諸島の実情と、考え方を混同させないで下さい」
今まで大人しく議論を聞いていたショウが反論してきたのに、ベンジャミンは驚き面白く思った。
同じ地方出身のヘインズに頼まれて、女性学のサマースクールに参加したが、女学生達を苛めるのは趣味にあわなかった。お子様を苛める趣味もないが、ベンジャミンはショウに、興味があったので、議論をふっかける。
「では、貴方は女性が就職するのに賛成の席についてますが、妻が就職しても良いのですか?」
「ベンジャミンさん、このテーマは女性の就職であって、自分の未だ娶ってもない妻の就職を議論するのは脱線だと思いますよ。僕は働きたいという意志と能力を持った女性は、就職するべきだと思いますし、就職できるシステムを造るべきだと考えています」
いつも一緒に受講している女学生達からは、そうよ! と応援と拍手があがった。
その様子を見て、ベンジャミンは拙いと舌打ちしたくなる。ヘインズが黙っていないだろうと感じる。
ベンジャミンは頼まれたから就職に反対側に付いていたが、実際は働きたいなら働けば良いけど、現実は無理だなぁという中立組だった。
「では、女性が就職したら、誰が子供を産むんだ。君達も馬鹿な事ばかり言ってないで、現実を見ろよ。十六歳十七歳の花の盛りを逃したら、結婚という永久就職をするチャンスが遠ざかるばかりだぞ。実際に働く気持ちも、無いくせに!」
おかっぱ軍団は仇敵のヘインズに、石頭! 原始人! 男尊女卑! と野次を飛ばしたが、ショウの横に座っていたメアリーはビクビクしていた。
「メアリーさん、ただのディベートだよ。そんなに怯えなくても……」
メアリーは自分より年下のショウに宥められて、少し落ち着いた。
「私は女性学なんて、受講する資格無いのかも。親の言いつけ通りに結婚したくないと思っていた時に、従姉のエミリーに誘われてグレンジャー教授の講義を聴いて夢中になったけど、ディベートが苦手なの」
ショウは大人しいメアリーが、ガチガチの女性人権主義者の従姉妹と聞いて驚いたが、ディベートが下手でも講義を受けても良いと思うと言った。
ヘインズとおかっぱ軍団の下劣な個人攻撃になったので、グレンジャー教授は休憩を宣言した。
「はいはい、貴方達、テーマから外れた口喧嘩になってますよ。少し頭を冷やしましょう。休憩後は、女性の就職の功罪についての議論にしましょう。個人攻撃は止めましょうね」
ヘインズとエミリー率いるおかっぱ軍団は、お互いに休憩中も眼を飛ばしていた。
「ねえ、去年もこんな感じだったの?」
ショウはメアリーに尋ねると、思い出したのか眉を顰めて頷いた。
「毎年、グレンジャー教授のサマースクールに参加するなんて、ヘインズさんって凄く暇なのかな?」
メアリーは、ショウの耳に驚くべき事実を囁いた。
「え~! ヘインズってエミリーさんの……」
メアリーに手で口を押さえられて、ショウは呼吸ができなくなり目を白黒した。ハァハァと荒い息を静めながら、あの二人が親の決めた許嫁とはと驚いて眺めるショウだった。
「ヘインズさん、もろに私怨じゃん! でも、許嫁が髪を切ったり、女性人権主義者になって動揺したのかな? エミリーさん、綺麗な髪だものねぇ」
休憩後は少し落ち着いた討論になったが、ショウはララが女性人権主義者になってもOKだけど、髪の毛を切ったら嫌だなと他の事を考えていた。
「ショウ王子、お昼を一緒に如何ですか? 少し貴方と話してみたいのです」
昼休みになると、全員が猛ダッシュで学食に向かったが、ショウ達はベンジャミンに教授用食堂に案内してもらった。
「教授用食堂なのに、食べて良いのですか?」
王子なのに偉そうじゃないショウに、ベンジャミンは去年は優等を取ったから、教授用食堂を使える権利を褒美で貰ったのだと説明した。
「ベンジャミンさんは、賢いのですね。それなのに、何故……あっ、済みません」
ベンジャミンは同郷のヘインズに頼まれたと打ち明けた。
「ああ、許嫁のエミリーさんの目を覚まさせてくれと言われたのですね」
ワンダーとシーガルは初耳で、食べていたパンを喉に詰まらせそうになった。
「事情を知っているなら、話が早いです。私としてはエミリー嬢がヘインズを嫌いなら嫌いと、ハッキリ振って貰いたいのです。そうすればヘインズも諦めて、他の令嬢に目を向けると思うのです。このまま馬鹿な事をさせておくのは、同郷人として忍びないので」
ショウが黙っているので、こんな子供に恋愛の機敏は解らないかなと溜め息をつく。
ショウは前世の失恋を思い出していたのだ。初恋の人に振られるのは辛い。結花に振られて、凄く辛かったのを思い出したショウは、何か出来ないか考える。
「ねぇ、ヘインズさんは今でも、エミリーさんが好きなのですか?」
何を今更とベンジャミンは笑う。
「好きでも無い女の子の為に、友人達を総動員しないでしょう。ヘインズは今でもエミリー嬢が好きですよ」
「エミリーさんはどうなんだろう? 嫌がらせを言われて、平手打ちしそうだったけど……普通に考えたら嫌いだから、平手打ちなんだけど……ちょっとメアリーさんに、聞いてきますね」
ショウは食べかけの昼食を一気に詰め込むと、メアリーを探しに走り出した。その後をワンダーが追いかけて行くのを見て、シーガルはベンジャミンとテーブルに残った。
「それで、ベンジャミン・フォン・シェパードさん、ショウ王子の何が知りたくてサマースクールに参加されたのですか?」
フラナガン宰相の孫のシーガルは、父親のユリアン・フォン・シェパード大使をレイテに訪ねて来たベンジャミンに見覚えがあった。
「まさか、本当にヘインズに頼まれたのです。でも、ショウ王子と話したいと思ったのは、ヘインズとエミリー嬢の為だけじゃないかもね」
クスクス笑うベンジャミンをこれだから外交官って人種は油断出来ないと、シーガルも素知らぬ顔でヘインズさんとエミリーさんが上手くいくと良いですねと言った。
ベンジャミンも、シーガルを狐のフラナガンの孫だけあると評価する。未だ子供だと油断したら、突っ込まれてしまったのだ。
ショウが後継者かどうかなんて、サマースクール一日じゃわからないと、こんな無茶な命令をだした父に文句をつける。
王宮にも余り居着かないアスラン王の考えが掴めない父親の大使から、レイテで他有力者から娘、孫娘を是非ともショウ王子の許嫁にと申し込みがなされ、後継者なのではと大騒動になっている件を、ベンジャミンは真偽を確かめるように命令を受けていたのだ。
ショウと顔見知りにはなれたけど、父上でもわからないのに無理言わないで欲しい。それにシーガルみたいな、油断出来ない学友もついている。
昼からは小グループに別れての討論会になり、どうにかサマースクールは無事に終わった。
「エミリーさんも、未だヘインズの事が気になっているみたいだけど、こればっかりは二人で話し合わないと仕方ないよ……」
ショウは、他人の恋愛に口を出している場合では無かった。
目敏いシーガルが警告する。
「竜が大学に降りてきます」
校舎から出たショウは、夏空に舞い降りる竜がメリルだと気づいて驚いて走り寄った。
「父上、何故パロマ大学へ?」
ショウが疑問を口にすると同時に、アスランは竜から飛び降り、後ろに乗っていたララを抱き下ろした。
「ララ! どうして此処に!」
久しぶりに見るララは、思い出の中より可愛くてショウはポッと頬を赤らめる。
「ショウ様! 私のショウ様! お会いしたくて……」
竜に乗るのは不慣れなララが崩れ落ちるのを、ショウは抱き支えて、ニヤニヤ笑う父上を睨みつけた。
ワンダーとシーガルは、残り少なくなった中立組で頑張っていたが、カザリア王国の議論好きの国民性と、パロマ大学でディベートを鍛え上げたベンジャミンには勝ち目は無さそうに思えた。
「東南諸島では、女性は就職などしないでしょう。貴方達は妻に働いて貰いたいのですか?」
ワンダーとシーガルに目を付けてきた相手に、マズイと感じたショウは発言をする。
「グレンジャー教授、このテーマは女性の就職についてですよね。ベンジャミンさん、東南諸島の実情と、考え方を混同させないで下さい」
今まで大人しく議論を聞いていたショウが反論してきたのに、ベンジャミンは驚き面白く思った。
同じ地方出身のヘインズに頼まれて、女性学のサマースクールに参加したが、女学生達を苛めるのは趣味にあわなかった。お子様を苛める趣味もないが、ベンジャミンはショウに、興味があったので、議論をふっかける。
「では、貴方は女性が就職するのに賛成の席についてますが、妻が就職しても良いのですか?」
「ベンジャミンさん、このテーマは女性の就職であって、自分の未だ娶ってもない妻の就職を議論するのは脱線だと思いますよ。僕は働きたいという意志と能力を持った女性は、就職するべきだと思いますし、就職できるシステムを造るべきだと考えています」
いつも一緒に受講している女学生達からは、そうよ! と応援と拍手があがった。
その様子を見て、ベンジャミンは拙いと舌打ちしたくなる。ヘインズが黙っていないだろうと感じる。
ベンジャミンは頼まれたから就職に反対側に付いていたが、実際は働きたいなら働けば良いけど、現実は無理だなぁという中立組だった。
「では、女性が就職したら、誰が子供を産むんだ。君達も馬鹿な事ばかり言ってないで、現実を見ろよ。十六歳十七歳の花の盛りを逃したら、結婚という永久就職をするチャンスが遠ざかるばかりだぞ。実際に働く気持ちも、無いくせに!」
おかっぱ軍団は仇敵のヘインズに、石頭! 原始人! 男尊女卑! と野次を飛ばしたが、ショウの横に座っていたメアリーはビクビクしていた。
「メアリーさん、ただのディベートだよ。そんなに怯えなくても……」
メアリーは自分より年下のショウに宥められて、少し落ち着いた。
「私は女性学なんて、受講する資格無いのかも。親の言いつけ通りに結婚したくないと思っていた時に、従姉のエミリーに誘われてグレンジャー教授の講義を聴いて夢中になったけど、ディベートが苦手なの」
ショウは大人しいメアリーが、ガチガチの女性人権主義者の従姉妹と聞いて驚いたが、ディベートが下手でも講義を受けても良いと思うと言った。
ヘインズとおかっぱ軍団の下劣な個人攻撃になったので、グレンジャー教授は休憩を宣言した。
「はいはい、貴方達、テーマから外れた口喧嘩になってますよ。少し頭を冷やしましょう。休憩後は、女性の就職の功罪についての議論にしましょう。個人攻撃は止めましょうね」
ヘインズとエミリー率いるおかっぱ軍団は、お互いに休憩中も眼を飛ばしていた。
「ねえ、去年もこんな感じだったの?」
ショウはメアリーに尋ねると、思い出したのか眉を顰めて頷いた。
「毎年、グレンジャー教授のサマースクールに参加するなんて、ヘインズさんって凄く暇なのかな?」
メアリーは、ショウの耳に驚くべき事実を囁いた。
「え~! ヘインズってエミリーさんの……」
メアリーに手で口を押さえられて、ショウは呼吸ができなくなり目を白黒した。ハァハァと荒い息を静めながら、あの二人が親の決めた許嫁とはと驚いて眺めるショウだった。
「ヘインズさん、もろに私怨じゃん! でも、許嫁が髪を切ったり、女性人権主義者になって動揺したのかな? エミリーさん、綺麗な髪だものねぇ」
休憩後は少し落ち着いた討論になったが、ショウはララが女性人権主義者になってもOKだけど、髪の毛を切ったら嫌だなと他の事を考えていた。
「ショウ王子、お昼を一緒に如何ですか? 少し貴方と話してみたいのです」
昼休みになると、全員が猛ダッシュで学食に向かったが、ショウ達はベンジャミンに教授用食堂に案内してもらった。
「教授用食堂なのに、食べて良いのですか?」
王子なのに偉そうじゃないショウに、ベンジャミンは去年は優等を取ったから、教授用食堂を使える権利を褒美で貰ったのだと説明した。
「ベンジャミンさんは、賢いのですね。それなのに、何故……あっ、済みません」
ベンジャミンは同郷のヘインズに頼まれたと打ち明けた。
「ああ、許嫁のエミリーさんの目を覚まさせてくれと言われたのですね」
ワンダーとシーガルは初耳で、食べていたパンを喉に詰まらせそうになった。
「事情を知っているなら、話が早いです。私としてはエミリー嬢がヘインズを嫌いなら嫌いと、ハッキリ振って貰いたいのです。そうすればヘインズも諦めて、他の令嬢に目を向けると思うのです。このまま馬鹿な事をさせておくのは、同郷人として忍びないので」
ショウが黙っているので、こんな子供に恋愛の機敏は解らないかなと溜め息をつく。
ショウは前世の失恋を思い出していたのだ。初恋の人に振られるのは辛い。結花に振られて、凄く辛かったのを思い出したショウは、何か出来ないか考える。
「ねぇ、ヘインズさんは今でも、エミリーさんが好きなのですか?」
何を今更とベンジャミンは笑う。
「好きでも無い女の子の為に、友人達を総動員しないでしょう。ヘインズは今でもエミリー嬢が好きですよ」
「エミリーさんはどうなんだろう? 嫌がらせを言われて、平手打ちしそうだったけど……普通に考えたら嫌いだから、平手打ちなんだけど……ちょっとメアリーさんに、聞いてきますね」
ショウは食べかけの昼食を一気に詰め込むと、メアリーを探しに走り出した。その後をワンダーが追いかけて行くのを見て、シーガルはベンジャミンとテーブルに残った。
「それで、ベンジャミン・フォン・シェパードさん、ショウ王子の何が知りたくてサマースクールに参加されたのですか?」
フラナガン宰相の孫のシーガルは、父親のユリアン・フォン・シェパード大使をレイテに訪ねて来たベンジャミンに見覚えがあった。
「まさか、本当にヘインズに頼まれたのです。でも、ショウ王子と話したいと思ったのは、ヘインズとエミリー嬢の為だけじゃないかもね」
クスクス笑うベンジャミンをこれだから外交官って人種は油断出来ないと、シーガルも素知らぬ顔でヘインズさんとエミリーさんが上手くいくと良いですねと言った。
ベンジャミンも、シーガルを狐のフラナガンの孫だけあると評価する。未だ子供だと油断したら、突っ込まれてしまったのだ。
ショウが後継者かどうかなんて、サマースクール一日じゃわからないと、こんな無茶な命令をだした父に文句をつける。
王宮にも余り居着かないアスラン王の考えが掴めない父親の大使から、レイテで他有力者から娘、孫娘を是非ともショウ王子の許嫁にと申し込みがなされ、後継者なのではと大騒動になっている件を、ベンジャミンは真偽を確かめるように命令を受けていたのだ。
ショウと顔見知りにはなれたけど、父上でもわからないのに無理言わないで欲しい。それにシーガルみたいな、油断出来ない学友もついている。
昼からは小グループに別れての討論会になり、どうにかサマースクールは無事に終わった。
「エミリーさんも、未だヘインズの事が気になっているみたいだけど、こればっかりは二人で話し合わないと仕方ないよ……」
ショウは、他人の恋愛に口を出している場合では無かった。
目敏いシーガルが警告する。
「竜が大学に降りてきます」
校舎から出たショウは、夏空に舞い降りる竜がメリルだと気づいて驚いて走り寄った。
「父上、何故パロマ大学へ?」
ショウが疑問を口にすると同時に、アスランは竜から飛び降り、後ろに乗っていたララを抱き下ろした。
「ララ! どうして此処に!」
久しぶりに見るララは、思い出の中より可愛くてショウはポッと頬を赤らめる。
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