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第四章 外交デビュー
26 バルバロッサに罠を仕掛けるぞ!
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ショウ達がエジソン港を目指している頃、アスランはサラム王国の大使館でキッシュ大使からバルバロッサについての報告を受けていた。
「では、バルバロッサがケシャムだとお前は言うのだな。なら、何故バルバロッサが未だ生きているのだ」
怒れるアスラン王に睨みつけられて、キッシュ大使は生きた心地がしなかったが、サラム王国のヘルツ国王が保護しているので手が出せませんでしたと、汗を拭きながら言い訳を始める。
「なら、何処が寝ぐらかぐらいは突き止めたのだろうな」
アスラン王が単身乗り込むのではと、焦ったキッシュ大使は何とぞ落ち着いて下さいと懇願する。
「キッシュ! お前は私が馬鹿だと思っているのか? バルバロッサが出航したあと、寝ぐらの後始末ぐらいしろと言っているのだ!」
キッシュ大使は、勿論ですと引き受ける。
「そろそろ、ハーレー号やエルトリア号がエジソン港でカザリア王国の海軍と合流する頃だろう。カザリア王国がどのような戦略を立てているのかしらないが、バルバロッサが軍艦と真っ向勝負を仕掛けるわけが無い」
竜騎士が東南諸島よりは多いカザリア王国だが、全員を北西部のパトロールに当てるわけにはいかないだろうとアスランは自分も海賊船を見つける手助けをするかとエジソン港へ向かう。
「この度は、海賊討伐に協力して頂き、感謝しております」
エジソン港に碇泊したハーレー号とエルトリア号から、カリン王子とメルト艦長とショウ王子がカザリア王国の軍艦シンシア号に集まって、バルバロッサ討伐の作戦会議が始まった。
シンシア号の艦長グリッド・フォン・サザビーは、初老の海軍提督で軍人にしては物腰が柔らかだ。
沿岸をパトロールしている竜騎士隊からは、ロレンス・フォン・ジュリアーニが代表して出席していた。ショウはシンシア号の甲板でロレンスのパートナーのバリスタに挨拶していたので、竜騎士にも伝わったのか目礼を返す。
「バルバロッサは用心深いですから、軍艦が近くにいたら襲撃は掛けてこないでしょう。沿岸から離れて待つしかありませんが、艦どうし間はかなりの距離を開けなくては北西部をカバー出来なくなります。これでは海賊の襲撃に気付いても、艦が間に合わないかもしれません」
サザビー提督の長い説明に、カリンは苛立ったが、メルト伯父上が無表情で聞いているので、さっさと作戦を言えと怒鳴りたくなるのを我慢する。
ショウは、サザビー提督がなかなか作戦を言い出さないのは、東南諸島に被害が甚大になる作戦だからではないかと感じる。案の定、カザリア王国の海軍は北西部の南側を受け持ち、東南諸島連合王国には北側を受け持って貰いたいと提案してきた。
「サラム王国に近い地区を我が国が受け持つのですか? その上、竜騎士隊は南部を中心にパトロールするなんて、北部を餌にして海賊を引き付けるつもりなのはわかるが……」
バルバロッサを討ち取る覚悟は決めていたが、カリンは自国の問題なのに弱腰の態度を見かねて腹を立てる。しかし、メルトに目で制されて、抗議を途中で止める。
「承知しました」
メルトに目で指図されて、年が一番若いが王太子になるショウが正式に作戦の遂行を引き受ける。
サザビー提督は無茶な作戦だと知っていたので、カリンが抗議してきたときはドキッとしたが、その時はバルバロッサが東南諸島連合王国の王族の子孫だと持ち出すつもりだった。
しかし、ショウが作戦を引き受けたので、お互いに都合の悪い事実をつきあわす事態にならなくて安堵したが、肩透かしにあったような気持ちになる。
東南諸島連合王国の面々がサンズでシンシア号から飛び去ると、サザビー提督はジュリアーニ国務大臣の子息であるロレンスに彼方の真意は何なのか尋ねる。
「さぁ、バルバロッサの件を持ち出されたく無かったのかもしれません。自国の海軍力に自信を持っているのでしょう。竜騎士隊は、南部を重点的にパトロールしますが、何人かは北部もパトロールしないとかえって疑われますので、私は北部に残ります。私も何だか簡単に引き受け過ぎだと思いますし、気になるので」
サザビー提督は、老朽化したシンシア号も愛していたが、東南諸島連合王国の新型軍艦ハーレー号や、古くなっているとはいえ整備されているエルトリア号を見て、羨ましさを感じずにはいられない。
「自国の沿岸も護れない海軍とは……」
サザビー提督の悔しさは、ロレンスにも痛いほど身に染みた。パトロールをしているが、人員不足で海賊の襲撃を許した後の農村の悲惨さを目にしたロレンスは、自国の海軍と竜騎士隊の立て直しが必要だと感じる。
「海軍も軍艦が老朽化しているし、竜騎士隊は人材不足だ。ジェームズやベンジャミンも親が外交官だからと、外務省に勤務しているのは痛いなぁ。バルバロッサ討伐は、東南諸島連合王国が協力してくれるだろうが、サラム王国のヘルツ国王がいる限り、海賊船が出没するだろう」
竜騎士隊のパトロールだけでなく、沿岸に見張り台を設置し、近隣の領主達の連携が必要だとロレンスは父上の国務大臣に何度も言ってきたし、改善されつつあるが、元々貧しい地区の領主には負担が重くのしかかった。
カザリア王国南部の領主達は、北部に同情はしつつも、自分達が大半を納めている税金を北部に重点的に使うのに難色を示している。エドアルド国王とジュリアーニ国務大臣は国内勢力のバランスも取らなくてはいけないので苦慮していたのだ。
エルトリア号に帰った三人は、艦長室で作戦を立てた。
カザリア王国とサラム王国の間に待ち伏せ出来そうな無人島があり、カリンはそこでバルバロッサが襲撃に向かうところを一網打尽にしようと提案した。ショウとメルトは、カリンの案には何点か問題があると気づいた。
「カリン兄上、それはサラム王国から私達の受け持ち地区に直進してくれれば、確かにその島の側を航行するでしょうが、カザリア王国の受け持ちの南部に向かう時は大きく外れますよ」
「南部にはカザリア王国のシンクレア号と竜騎士隊がパトロールしているから、北部に来るだろう。あっ、その場合も岸沿いに北上するか……」
「それに、この島はサラム王国の海域ですよ。ここを航行するサラム王国の軍艦と待ち伏せ中に揉めたくありませんし、バルバロッサに情報が漏れませんか?」
メルトは無言で頷き、カリンの待ち伏せ案を却下する。
「なら、どうするのだ? ずっとバルバロッサが農村を襲撃するまで待っているのか? 沖で待機していても、お前と、数人残ってくれた竜騎士隊のまばらなパトロールでは、海賊の襲撃の発見もままならないぞ」
ショウは、ダリア号がそろそろ穀物不足の大都市ニューパロマに、イルバニア王国から古くなった小麦を買い叩いて運んでくる頃なので、一案を考える。
「メルト伯父上、カリン兄上、僕に試したい作戦があるのです。この時期にサラム王国が農村を襲わせているのは、秋の収穫期まで穀物不足になっているからですよね。そこにイルバニア王国の小麦を満載した商船がよたよた航海していたら、襲撃しませんかねぇ」
「そりゃ、商船が小麦を満載していたら、鴨ネギだろうが、海賊船が出没しているのに、何処の馬鹿な商人が彷徨くんだ!」
怒りもあらわなカリンをショウは指さす。
「カリン兄上がその馬鹿な商人になるのですよ。それと幾ら馬鹿でも護衛船ぐらいは連れて来ているでしょうから、間抜けな護衛船の船長はメルト伯父上にお願いします」
二人は、ショウの無礼な作戦に怒りを覚えたが、かといって代案が思いつかなかない。
「ダリア号がちょうどイルバニア王国の古くなった小麦を、秋の収穫期前に買い叩いて運んできます。カインズ船長をダリア号から降ろすのは苦労しそうですが、兄上ならできますよ。ボロの護衛船ならレキシントン港に常に何隻かありますし、船はボロくても乗組員はエルトリア号の精鋭部隊を乗せれば良いのです」
カリンは、う~んと、唸る。
「私には馬鹿な商人は無理だ。ショウ、お前が適任だ。北西部の港で小麦を売りながら北上すれば、きっとバルバロッサの耳に届くさ。私は、間抜けな護衛船の船長になる。ダリア号にエルトリア号の精鋭部隊を乗せろ。護衛船にハーレー号の精鋭部隊を乗せる」
メルトは、自分の出番が無いではないかと咳払いする。
「伯父上には、ハーレー号とエルトリア号を指揮して、沖で待機して貰います。バルバロッサが鴨に襲いかかったら、ショウが帆を焼いて足止めします。私は、商船と護衛船の精鋭部隊で応戦しますから、なるべく早く救援に駆け付けて下さい。ショウがいるから船足は早いでしょう」
ショウは、それではカリンが危険だと、作戦の変更を考えたが、なかなか良い変更は思いつかない。
「せめてメルト伯父のエルトリア号に竜騎士が乗っていればなぁ。そうしたら、襲撃されたのを竜に伝えられるのに……そうだ! レックス大尉を乗せておけば……」
「馬鹿か! レックスでは襲撃されたのを竜から聞いても、間に合わないではないか! 風の魔力持ちが必要なのだろうが」
突然表れたアスランに、ショウはホッとする。祖父のザハーン軍務大臣を助ける為にカリンが無茶をしないか心配していたので、エルトリア号を呼びに側を離れたくなかったのだ。
ショウとカリンは、レキシントン港でカインズ船長をどうにかこうにか説得して、乗組員達と宿屋で豪遊できる金を与えた。
「ダリア号に傷一つ付けても許さないぞ」
「わかっているよ。無事に返すし、小麦不足の北西部でニューパロマより高く売って来るから」
レキシン港から、古小麦を満載したダリア号と古びた護衛艦は、北部へと港で商売をしながら航行する。カリンは、ショウの馬鹿な商人になりきっての、欲の皮を突っ張らした演技を、呆れかえって見ていた。
「この小麦はもうすぐ古小麦になるじゃないか! そんな値段で買えるか」
「そうですか? じゃあ買って貰わなくて結構です。ニューパロマから小麦を運べば、この値段より高くなるのは知っていますよ」
「畜生! 人の足元見やがって! 持っていけ! ドロボウ!」
カリンは、余りに無礼な言葉に、腰の刀に手をかけたが、ショウと穀物商人は握手をして商談を成立させる。小麦を降ろすのを監督しながら、カリンはショウに困っている北西部で儲けるのかと小言をいう。
「う~ん、僕は欲の皮の突っ張った商人にしては、商談が下手ですねぇ。カインズ船長に、怒られてしまうなぁ。穀物商人は、今頃は馬鹿な商人だと舌を出していますよ」
それにしては迫力ある遣り取りだったと、カリンは呆れかえる。
馬鹿な商人の噂は、あっという間に広がり、北上する港には穀物商人が列をなして待ち構える。
『う~ん、あんまりバルバロッサがゆっくりしていると、積み荷が売り切れちゃうよ』
『売り切れちゃ、いけないの?』
ユーカ号に乗って交易したことを思い出し、サンズは首を傾げる。
『今回は、小麦を餌に海賊を釣り上げる作戦なんだよ。ぐずぐずしていると、売り切れちゃうぞ!』
竜が商船に居るのは不自然なので、夜になってからコッソリ沖で待機しているエルトリア号から呼び寄せて、サンズに愚痴っていたが、バルバロッサも小麦を売り飛ばされては困ると思ったのか、鴨に食らいついた。
『サンズ! 来てくれ! あと、メリルにバルバロッサが来たと伝えてくれ』
ショウがサンズを呼び寄せている間にも、風の魔力を駆使した海賊船が二隻凄いスピードで近づいてくる。
「あのスピードは、バルバロッサだな!」
カリンが乗組員達に戦闘準備をさせているうちに、サンズがメルトを乗せてダリア号に到着した。
「アスラン王は、風の魔力を使わなくてはいけないから、エルトリア号を離れられない。私が商船に乗っている部下を指揮する。ショウ王子は海賊船に乗り込んでは駄目だぞ!」
アスランは、息子二人では救援に向かうまで頼りないと、メルトを戦闘指揮に送り込んだ。ショウは、カリンの暴走を心配していたので、メルトが付いているのを心丈夫に感じて、サンズに飛び乗ると海賊船に向かった。
海賊船は、竜が商船に舞い降りた時点で罠だと気づいて、反転して逃げようとしていた。ショウは、逃がすものか! とサンズに飛び乗ると海賊船の上空へと急ぐ。
バルバロッサは、チッと舌打ちして、目ざわりな竜を追い払えと命じる。
「竜を船に近づけるな! 矢をお見舞いするのだ!」
海賊達は、上空の竜に矢を雨のように降らした。
『サンズ、矢が届かない所まで上がってくれ!』
上空に逃げ出した竜を見たバルバロッサは、風の魔力を全開にしてサラム王国の港に逃げ込もうとする。
「チッ、カザリア王国の馬鹿海軍にしては、姑息な手を打ってきたな!」
竜騎士が一人で追跡しようと、矢で近づけなければ良いのだと、バルバロッサは風を送り込んでいた。
上空からも海賊船がスピードを上げて、逃げ出そうとしているのが見て取れる。商船のダリア号や古い護衛戦では、追いつかない。
『バルバロッサが風の魔力を使っているのだ!』
ショウは、東南諸島の王家に現れる魔力を、バルバロッサが海賊に悪用しているのが許せない。
『ショウ! 落ち着いて!』
怒りに任せていては、作戦は失敗してしまう! サンズの注意で、ショウは大きく深呼吸して、心を静めた。そして、竜心石を手に握り込むと、『魂』で活性化する。エメラルドグリーンの竜心石が輝きを増したのを確認してから、ショウはサンズに命じる。
『サンズ、焔を噴け! 帆を焼き落とすんだ!』
バルバロッサは、帆に風を送り込みながら、チラリと罠だった商船が小さくなるのを確認した。
「かなり、商船から離れたな! こんな罠にひっかかるとは、油断していた。さっさとサラム王国に……何だ! 帆が!」
バルバロッサは、風を送り込んでいた帆が、空からの焔に包まれて炎上するのに驚いた。
「竜が火を噴くぞ~」
海賊船に乗り込んでいるぐらいなので、残酷な略奪を繰り返していた男達も、肝を冷やして戦闘意欲をなくして逃げ惑う。バルバロッサは、手当たり次第に殴りつけて、しゃんとしろ! と気合を入れていく。
「二隻とも帆をやられてしまったら、俺達もお終いだ!」
「ぐずぐず泣いている暇があったら、さっさと仮の帆を張れ!」
バルバロッサに尻を蹴り上げられて、海賊達もこのままで座して死を待つのは嫌だと、必死で仮の帆を張ろうと足掻く。
ショウは、帆が焼け落ちたのを確認すると、ダリア号に飛んで帰り、帆に風を送る。
「バルバロッサを逃がさないぞ!」
カリンも、乗組員達に戦闘体勢をとらす。
「ああ! 商船と護衛戦が追いついてきましたぜ!」
バルバロッサは、不敵な笑みを浮かべる。
「こうなったら商船を乗っ取って、サラム王国に逃げ込むしかない。商人を人質に取れば、火を噴き掛けられないだろう! てめーら、さっさと刀を持つんだ!」
バルバロッサのやけっぱちな作戦だったが、鴨の筈の商船にはエルトリア号の精鋭部隊が乗り組んでいるし、間抜けな護衛船にはハーレー号の精鋭部隊が乗っている。
カリンは、護衛船を海賊船にぶつけると、先頭をきって乗り込んだ。
「では、バルバロッサがケシャムだとお前は言うのだな。なら、何故バルバロッサが未だ生きているのだ」
怒れるアスラン王に睨みつけられて、キッシュ大使は生きた心地がしなかったが、サラム王国のヘルツ国王が保護しているので手が出せませんでしたと、汗を拭きながら言い訳を始める。
「なら、何処が寝ぐらかぐらいは突き止めたのだろうな」
アスラン王が単身乗り込むのではと、焦ったキッシュ大使は何とぞ落ち着いて下さいと懇願する。
「キッシュ! お前は私が馬鹿だと思っているのか? バルバロッサが出航したあと、寝ぐらの後始末ぐらいしろと言っているのだ!」
キッシュ大使は、勿論ですと引き受ける。
「そろそろ、ハーレー号やエルトリア号がエジソン港でカザリア王国の海軍と合流する頃だろう。カザリア王国がどのような戦略を立てているのかしらないが、バルバロッサが軍艦と真っ向勝負を仕掛けるわけが無い」
竜騎士が東南諸島よりは多いカザリア王国だが、全員を北西部のパトロールに当てるわけにはいかないだろうとアスランは自分も海賊船を見つける手助けをするかとエジソン港へ向かう。
「この度は、海賊討伐に協力して頂き、感謝しております」
エジソン港に碇泊したハーレー号とエルトリア号から、カリン王子とメルト艦長とショウ王子がカザリア王国の軍艦シンシア号に集まって、バルバロッサ討伐の作戦会議が始まった。
シンシア号の艦長グリッド・フォン・サザビーは、初老の海軍提督で軍人にしては物腰が柔らかだ。
沿岸をパトロールしている竜騎士隊からは、ロレンス・フォン・ジュリアーニが代表して出席していた。ショウはシンシア号の甲板でロレンスのパートナーのバリスタに挨拶していたので、竜騎士にも伝わったのか目礼を返す。
「バルバロッサは用心深いですから、軍艦が近くにいたら襲撃は掛けてこないでしょう。沿岸から離れて待つしかありませんが、艦どうし間はかなりの距離を開けなくては北西部をカバー出来なくなります。これでは海賊の襲撃に気付いても、艦が間に合わないかもしれません」
サザビー提督の長い説明に、カリンは苛立ったが、メルト伯父上が無表情で聞いているので、さっさと作戦を言えと怒鳴りたくなるのを我慢する。
ショウは、サザビー提督がなかなか作戦を言い出さないのは、東南諸島に被害が甚大になる作戦だからではないかと感じる。案の定、カザリア王国の海軍は北西部の南側を受け持ち、東南諸島連合王国には北側を受け持って貰いたいと提案してきた。
「サラム王国に近い地区を我が国が受け持つのですか? その上、竜騎士隊は南部を中心にパトロールするなんて、北部を餌にして海賊を引き付けるつもりなのはわかるが……」
バルバロッサを討ち取る覚悟は決めていたが、カリンは自国の問題なのに弱腰の態度を見かねて腹を立てる。しかし、メルトに目で制されて、抗議を途中で止める。
「承知しました」
メルトに目で指図されて、年が一番若いが王太子になるショウが正式に作戦の遂行を引き受ける。
サザビー提督は無茶な作戦だと知っていたので、カリンが抗議してきたときはドキッとしたが、その時はバルバロッサが東南諸島連合王国の王族の子孫だと持ち出すつもりだった。
しかし、ショウが作戦を引き受けたので、お互いに都合の悪い事実をつきあわす事態にならなくて安堵したが、肩透かしにあったような気持ちになる。
東南諸島連合王国の面々がサンズでシンシア号から飛び去ると、サザビー提督はジュリアーニ国務大臣の子息であるロレンスに彼方の真意は何なのか尋ねる。
「さぁ、バルバロッサの件を持ち出されたく無かったのかもしれません。自国の海軍力に自信を持っているのでしょう。竜騎士隊は、南部を重点的にパトロールしますが、何人かは北部もパトロールしないとかえって疑われますので、私は北部に残ります。私も何だか簡単に引き受け過ぎだと思いますし、気になるので」
サザビー提督は、老朽化したシンシア号も愛していたが、東南諸島連合王国の新型軍艦ハーレー号や、古くなっているとはいえ整備されているエルトリア号を見て、羨ましさを感じずにはいられない。
「自国の沿岸も護れない海軍とは……」
サザビー提督の悔しさは、ロレンスにも痛いほど身に染みた。パトロールをしているが、人員不足で海賊の襲撃を許した後の農村の悲惨さを目にしたロレンスは、自国の海軍と竜騎士隊の立て直しが必要だと感じる。
「海軍も軍艦が老朽化しているし、竜騎士隊は人材不足だ。ジェームズやベンジャミンも親が外交官だからと、外務省に勤務しているのは痛いなぁ。バルバロッサ討伐は、東南諸島連合王国が協力してくれるだろうが、サラム王国のヘルツ国王がいる限り、海賊船が出没するだろう」
竜騎士隊のパトロールだけでなく、沿岸に見張り台を設置し、近隣の領主達の連携が必要だとロレンスは父上の国務大臣に何度も言ってきたし、改善されつつあるが、元々貧しい地区の領主には負担が重くのしかかった。
カザリア王国南部の領主達は、北部に同情はしつつも、自分達が大半を納めている税金を北部に重点的に使うのに難色を示している。エドアルド国王とジュリアーニ国務大臣は国内勢力のバランスも取らなくてはいけないので苦慮していたのだ。
エルトリア号に帰った三人は、艦長室で作戦を立てた。
カザリア王国とサラム王国の間に待ち伏せ出来そうな無人島があり、カリンはそこでバルバロッサが襲撃に向かうところを一網打尽にしようと提案した。ショウとメルトは、カリンの案には何点か問題があると気づいた。
「カリン兄上、それはサラム王国から私達の受け持ち地区に直進してくれれば、確かにその島の側を航行するでしょうが、カザリア王国の受け持ちの南部に向かう時は大きく外れますよ」
「南部にはカザリア王国のシンクレア号と竜騎士隊がパトロールしているから、北部に来るだろう。あっ、その場合も岸沿いに北上するか……」
「それに、この島はサラム王国の海域ですよ。ここを航行するサラム王国の軍艦と待ち伏せ中に揉めたくありませんし、バルバロッサに情報が漏れませんか?」
メルトは無言で頷き、カリンの待ち伏せ案を却下する。
「なら、どうするのだ? ずっとバルバロッサが農村を襲撃するまで待っているのか? 沖で待機していても、お前と、数人残ってくれた竜騎士隊のまばらなパトロールでは、海賊の襲撃の発見もままならないぞ」
ショウは、ダリア号がそろそろ穀物不足の大都市ニューパロマに、イルバニア王国から古くなった小麦を買い叩いて運んでくる頃なので、一案を考える。
「メルト伯父上、カリン兄上、僕に試したい作戦があるのです。この時期にサラム王国が農村を襲わせているのは、秋の収穫期まで穀物不足になっているからですよね。そこにイルバニア王国の小麦を満載した商船がよたよた航海していたら、襲撃しませんかねぇ」
「そりゃ、商船が小麦を満載していたら、鴨ネギだろうが、海賊船が出没しているのに、何処の馬鹿な商人が彷徨くんだ!」
怒りもあらわなカリンをショウは指さす。
「カリン兄上がその馬鹿な商人になるのですよ。それと幾ら馬鹿でも護衛船ぐらいは連れて来ているでしょうから、間抜けな護衛船の船長はメルト伯父上にお願いします」
二人は、ショウの無礼な作戦に怒りを覚えたが、かといって代案が思いつかなかない。
「ダリア号がちょうどイルバニア王国の古くなった小麦を、秋の収穫期前に買い叩いて運んできます。カインズ船長をダリア号から降ろすのは苦労しそうですが、兄上ならできますよ。ボロの護衛船ならレキシントン港に常に何隻かありますし、船はボロくても乗組員はエルトリア号の精鋭部隊を乗せれば良いのです」
カリンは、う~んと、唸る。
「私には馬鹿な商人は無理だ。ショウ、お前が適任だ。北西部の港で小麦を売りながら北上すれば、きっとバルバロッサの耳に届くさ。私は、間抜けな護衛船の船長になる。ダリア号にエルトリア号の精鋭部隊を乗せろ。護衛船にハーレー号の精鋭部隊を乗せる」
メルトは、自分の出番が無いではないかと咳払いする。
「伯父上には、ハーレー号とエルトリア号を指揮して、沖で待機して貰います。バルバロッサが鴨に襲いかかったら、ショウが帆を焼いて足止めします。私は、商船と護衛船の精鋭部隊で応戦しますから、なるべく早く救援に駆け付けて下さい。ショウがいるから船足は早いでしょう」
ショウは、それではカリンが危険だと、作戦の変更を考えたが、なかなか良い変更は思いつかない。
「せめてメルト伯父のエルトリア号に竜騎士が乗っていればなぁ。そうしたら、襲撃されたのを竜に伝えられるのに……そうだ! レックス大尉を乗せておけば……」
「馬鹿か! レックスでは襲撃されたのを竜から聞いても、間に合わないではないか! 風の魔力持ちが必要なのだろうが」
突然表れたアスランに、ショウはホッとする。祖父のザハーン軍務大臣を助ける為にカリンが無茶をしないか心配していたので、エルトリア号を呼びに側を離れたくなかったのだ。
ショウとカリンは、レキシントン港でカインズ船長をどうにかこうにか説得して、乗組員達と宿屋で豪遊できる金を与えた。
「ダリア号に傷一つ付けても許さないぞ」
「わかっているよ。無事に返すし、小麦不足の北西部でニューパロマより高く売って来るから」
レキシン港から、古小麦を満載したダリア号と古びた護衛艦は、北部へと港で商売をしながら航行する。カリンは、ショウの馬鹿な商人になりきっての、欲の皮を突っ張らした演技を、呆れかえって見ていた。
「この小麦はもうすぐ古小麦になるじゃないか! そんな値段で買えるか」
「そうですか? じゃあ買って貰わなくて結構です。ニューパロマから小麦を運べば、この値段より高くなるのは知っていますよ」
「畜生! 人の足元見やがって! 持っていけ! ドロボウ!」
カリンは、余りに無礼な言葉に、腰の刀に手をかけたが、ショウと穀物商人は握手をして商談を成立させる。小麦を降ろすのを監督しながら、カリンはショウに困っている北西部で儲けるのかと小言をいう。
「う~ん、僕は欲の皮の突っ張った商人にしては、商談が下手ですねぇ。カインズ船長に、怒られてしまうなぁ。穀物商人は、今頃は馬鹿な商人だと舌を出していますよ」
それにしては迫力ある遣り取りだったと、カリンは呆れかえる。
馬鹿な商人の噂は、あっという間に広がり、北上する港には穀物商人が列をなして待ち構える。
『う~ん、あんまりバルバロッサがゆっくりしていると、積み荷が売り切れちゃうよ』
『売り切れちゃ、いけないの?』
ユーカ号に乗って交易したことを思い出し、サンズは首を傾げる。
『今回は、小麦を餌に海賊を釣り上げる作戦なんだよ。ぐずぐずしていると、売り切れちゃうぞ!』
竜が商船に居るのは不自然なので、夜になってからコッソリ沖で待機しているエルトリア号から呼び寄せて、サンズに愚痴っていたが、バルバロッサも小麦を売り飛ばされては困ると思ったのか、鴨に食らいついた。
『サンズ! 来てくれ! あと、メリルにバルバロッサが来たと伝えてくれ』
ショウがサンズを呼び寄せている間にも、風の魔力を駆使した海賊船が二隻凄いスピードで近づいてくる。
「あのスピードは、バルバロッサだな!」
カリンが乗組員達に戦闘準備をさせているうちに、サンズがメルトを乗せてダリア号に到着した。
「アスラン王は、風の魔力を使わなくてはいけないから、エルトリア号を離れられない。私が商船に乗っている部下を指揮する。ショウ王子は海賊船に乗り込んでは駄目だぞ!」
アスランは、息子二人では救援に向かうまで頼りないと、メルトを戦闘指揮に送り込んだ。ショウは、カリンの暴走を心配していたので、メルトが付いているのを心丈夫に感じて、サンズに飛び乗ると海賊船に向かった。
海賊船は、竜が商船に舞い降りた時点で罠だと気づいて、反転して逃げようとしていた。ショウは、逃がすものか! とサンズに飛び乗ると海賊船の上空へと急ぐ。
バルバロッサは、チッと舌打ちして、目ざわりな竜を追い払えと命じる。
「竜を船に近づけるな! 矢をお見舞いするのだ!」
海賊達は、上空の竜に矢を雨のように降らした。
『サンズ、矢が届かない所まで上がってくれ!』
上空に逃げ出した竜を見たバルバロッサは、風の魔力を全開にしてサラム王国の港に逃げ込もうとする。
「チッ、カザリア王国の馬鹿海軍にしては、姑息な手を打ってきたな!」
竜騎士が一人で追跡しようと、矢で近づけなければ良いのだと、バルバロッサは風を送り込んでいた。
上空からも海賊船がスピードを上げて、逃げ出そうとしているのが見て取れる。商船のダリア号や古い護衛戦では、追いつかない。
『バルバロッサが風の魔力を使っているのだ!』
ショウは、東南諸島の王家に現れる魔力を、バルバロッサが海賊に悪用しているのが許せない。
『ショウ! 落ち着いて!』
怒りに任せていては、作戦は失敗してしまう! サンズの注意で、ショウは大きく深呼吸して、心を静めた。そして、竜心石を手に握り込むと、『魂』で活性化する。エメラルドグリーンの竜心石が輝きを増したのを確認してから、ショウはサンズに命じる。
『サンズ、焔を噴け! 帆を焼き落とすんだ!』
バルバロッサは、帆に風を送り込みながら、チラリと罠だった商船が小さくなるのを確認した。
「かなり、商船から離れたな! こんな罠にひっかかるとは、油断していた。さっさとサラム王国に……何だ! 帆が!」
バルバロッサは、風を送り込んでいた帆が、空からの焔に包まれて炎上するのに驚いた。
「竜が火を噴くぞ~」
海賊船に乗り込んでいるぐらいなので、残酷な略奪を繰り返していた男達も、肝を冷やして戦闘意欲をなくして逃げ惑う。バルバロッサは、手当たり次第に殴りつけて、しゃんとしろ! と気合を入れていく。
「二隻とも帆をやられてしまったら、俺達もお終いだ!」
「ぐずぐず泣いている暇があったら、さっさと仮の帆を張れ!」
バルバロッサに尻を蹴り上げられて、海賊達もこのままで座して死を待つのは嫌だと、必死で仮の帆を張ろうと足掻く。
ショウは、帆が焼け落ちたのを確認すると、ダリア号に飛んで帰り、帆に風を送る。
「バルバロッサを逃がさないぞ!」
カリンも、乗組員達に戦闘体勢をとらす。
「ああ! 商船と護衛戦が追いついてきましたぜ!」
バルバロッサは、不敵な笑みを浮かべる。
「こうなったら商船を乗っ取って、サラム王国に逃げ込むしかない。商人を人質に取れば、火を噴き掛けられないだろう! てめーら、さっさと刀を持つんだ!」
バルバロッサのやけっぱちな作戦だったが、鴨の筈の商船にはエルトリア号の精鋭部隊が乗り組んでいるし、間抜けな護衛船にはハーレー号の精鋭部隊が乗っている。
カリンは、護衛船を海賊船にぶつけると、先頭をきって乗り込んだ。
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