海と風の王国

梨香

文字の大きさ
166 / 368
第七章  王太子への道 プロポーズ

4  ピップスとアスラン王

しおりを挟む
 ショウはサンズでロジーナと侍女をラズローの屋敷に送っていくと、簡単に挨拶をして慌ただしくカドフェル号に帰った。

 本当ならロジーナから、埋め立て埠頭に関心を持っていると聞いたラズローと話したかった。しかし、サンズ島、チェンナイ、スーラ王国、ローラン王国の報告書は書いたが、王宮で父上とフラナガン宰相に直接話をしなくてはいけなかったので、レッサ艦長とピップスを同行しようと思ったのだ。

 レッサ艦長も、アスラン王と軍務大臣に直接報告しなくてはいけなかったので、サンズで王宮に送って貰えるのを喜ぶ。

 ピップスは初めてみるレイテ港の活気溢れる風景と、丘の上に見える白亜の王宮に驚く。

「さぁ、ピップスはシリンでついてきてね。え~と、父上は少し傲慢に見えるし、実際に傲慢なんだけど……気にしないで!」

 レッサ艦長はそれではフォローになってませんよと内心で突っ込んでいたが、自分も初めてアスラン王を見た時にあまりの傲慢さに驚き、その傲慢さがこれほどまで似合う王にお仕えするのだと身体が震えるほどの喜びを覚えたのを思い出した。

 ピップスは、ショウからアスラン王について先に説明を聞いていたが、実際に会って身体の芯から震えがくるような鋭い視線に曝された。

「ふ~ん、ショウから報告は聞いていたが、ピップスというのか。そちらはシリンだな」

 王宮の庭に出た父上が、竜のシリンに対しては優しい口調なのに、ショウは呆れる。

「父上、僕はピップスをパロマ大学の聴講生にしたいのです。武術も学ばせたいですし、ウェスティンで竜騎士修行もさせてやりたい」

 レッサ艦長と共の帰国の報告を受けたアスランは、まず最初にショウの側近くにいるピップスを、自分の目で確かめたいと思った。

 レーベン大使、ヌートン大使、リリック大使がピップスの話と性質をチェックして、ショウの側に置いても良いと判断したのはわかってはいる。しかし、ショウはアスランの跡取りなのだ。素姓の怪しい側仕えなど、また面倒な者を拾っできたものだとアスランは頭が痛い。

 自国の大使がショウの側にいるのを許したのだから、話に矛盾は無かったのだろうと、アスランはピップスの人となりを見極めようとする。

『シリン? ピップスはショウの側にいたいのか?』

 嘘をつかない竜に、アスランは尋ねる。

『ピップスは命を助けて貰ったショウに、一生仕えたいと思っている。私もできればサンズと共にいたい』

 アスランは、シリンがかなり高齢だと見抜いていたし、サンズに惚れているのを隠さないのに驚いた。

『シリンはピップスの騎竜なのか?』

『いや、もう少しピップスが生活の変化に慣れてから絆を結ぼうと思っている。ショウはピップスをどこかにやるのか?』

 シリンの口調から、サンズと離れたくないという気持ちが溢れていた。竜は若い竜に甘い生物だし、長年孤独に過ごしていたシリンは、サンズが可愛くて仕方ないのだろうと、アスランは苦笑する。

「ショウ、ピップスのパロマ大学留学の件はもう少し考えよう。どうせお前のことだから、メリッサの学友兼護衛にと考えたのだろうが、もう何人も派遣済みだ。パシャムから、メリッサの周りに男子学生が彷徨いていると報告があったからな」

 ショウは世話好きなパシャム大使なら、メリッサの問題に素早く対応しただろうと安心した。

「パメラもパロマ大学に留学させたいのです」

 ついでに前から思っていたので口に出したが、父上に余計な事まで考えるなと叱られてしまう。

 パメラが拗ねている時は、どうにかしろと言ったくせにと、ショウは内心で愚痴ったが、確かにこの件は父上に任すしかないと思う。

 ピップスは、アスラン王に平気で口答えしているショウに驚く。今まで経験したことが無い凄まじい圧迫感をアスラン王から受けていて、これが王様というものなのだと畏怖した。
 
「ピップス、お前は何がしたいのだ?」

 アスラン王の目に射抜かれて、ピップスは一瞬雷に打たれたような気持ちがしたが、勇気を振り絞って願い出る。

「私はショウ王子に命を助けて頂きました。ずっとお側で、お仕えしたいのです」

 アスランはショウや大使達から、ゴルチェ大陸の一部の変な風習についても報告を受けていたが、そんな風習に従う義理はないと思う。

「ピップス、お前がショウの側で仕えたいなら、かなり勉強や武術を頑張らないといけないぞ。ぼんやりして見えるが、此奴は私の後継者なのだ。何処の馬の骨かもしれない男を側仕えにするなんて、本当は有り得ない話だからな」

 ピップスはガックリしたが、ショウは良かったねと肩を叩く。

「父上は頑張れと言っているのさ! これで一緒にいられるね」

 そうなんですか? と状況が把握できてないピップスだったが、アスラン王の威圧感がふっと消えたのに気づいて、膝がガクンと折れる。ショウが手を伸ばしてピップスを立ち上がらせた時には、アスランは王宮の中に消えていた。

「御免ね、ピップス、父上は少し傲慢なんだ。でも、僕を育ててくれたミヤは、優しいから安心してね。パロマ大学の件はもう少し考えてみるけど、勉強や武術の訓練はしなくちゃいけないなぁ。何処で暮らせば良いのか、ミヤに聞きに行こう! ミヤなら全て面倒みてくれるよ」

 ピップスはショウの後について、ミヤの部屋まで案内された。緑と色とりどりの花、至る所に噴水が配置されている庭を眺めながら回廊を奥へと進むと、後宮の入り口にミヤの部屋がある。

「ミヤ! ただいま!」

 小柄な綺麗な婦人にショウが嬉しそうに抱きつくのを見て、ピップスはこの方があの恐ろしいアスラン王の第一夫人なのかと驚く。

「ショウ、長く留守をしたのね。よく顔を見せてちょうだい」

 旅の途中で簡単に東南諸島の結婚制度について説明を受けていたが、優しそうに顔を撫でているミヤが、ショウの産みの母親でないとは思えない。

「ミヤ、手紙に書いたピップスだよ。父上に威圧されてビビッているけど、本当は活発なんだ。ピップス、僕を育ててくれたミヤなんだ。これからはわからない事は、ミヤに質問したら良いよ」

 ピップスはミヤに丁寧にお辞儀する。

「ゴルザ村のピップスです。ショウ王子の側仕えになりたいのです」

 ミヤは真剣にピップスを眺めて、優しそうに微笑む。

「今は、離宮にはショウ一人しか住んでいません。末の王子で寂しがり屋だから、ピップスが一緒に住めば賑やかになるわ。勉強はパメラの家庭教師を、午前中に交代で派遣しましょう。武術訓練は、ショウと一緒で良いわね。細かい話は後にして、お茶でも飲みましょうね」

 ミヤは、初めてアスランに会った人は、ショック状態になってしまうのだと、ピップスに優しく接する。本当にこんなに純朴な男の子を脅しあげて、酷い人! と内心で文句を言いつつも、ミヤも自分の目でチェックするまでは、ピップスをショウの側になど住ませる気持ちはなかった。

 アスラン王の第一夫人として、王太子の安全に気配るのは当然な事なので、ミヤに合格を貰ったピップスはやっと王宮に受け入れられたのだ。
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...