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第八章 ショウ王太子
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昼食会が終わると、婚約披露の舞踏会まで、一旦は大使館に帰って休息を取ることにした。ララは舞踏会には、帝国風のドレスに着替えることにしていたので、二階に上がってしまう。
皇太子の婚礼は国の慶事なので、リューデンハイムも休校となり、エリカとミミもパレードを見学していた。エリカはウィリアムがエスコートしていた令嬢のことが気になっていたが、ショウに呆れる程素っ気ない態度だったと聞かされて、少しホッとする。
「ウィリアム様は、竜にしか興味が無いのかしら? 私のこともヴェスタのパートナーだから、気に掛けて下さっているだけなのかも……」
エリカの疑問にショウはウッと言葉に詰まったが、これから二人で話し合って関係を深めていけば良いねと誤魔化す。
「ショウ兄上、ウィリアム様は竜馬鹿じゃあ無いわよ。いえ、竜馬鹿気味だけど、それだけじゃないわ」
自分で言い出したくせにウィリアムを弁護し始めたエリカに、ショウは恋の悩みになんか付き合うのは御免だと肩を竦める。
ミミはエリカがショウを独占していて、折角のララが着替えている好機を生かせないので苛ついていた。サロンにいても話もできないと、ミミは竜舎に向かう。
竜舎には、ラルフとサンズとヴェスタが寛いでいた。
『ラルフ、サンズ、貴方達は仲良しなのに……』
ラルフはミミと絆を結ぶ決意をサンズと話していたので、悲しそうな様子を放置できない。巨大な身体をオロオロさせて、ミミの愚痴に困惑する。
『ショウを呼び出してあげても良いけど、今はララに夢中だから……』
サンズの言葉に、ミミは打ちのめされた。姉のララともうすぐ結婚するのだから、ラブラブなのは仕方ないけど、騎竜に宣言されるとズッシリと堪える。
『ミミは未だ若いから。ショウも結婚する頃になれば、ミミとの時間も取ってくれるよ。こんなに可愛い女の子は、何処にもいないよ』
ラルフの慰めにミミは喜ぶ。
『ラルフ! ありがとう』首にしがみついて、ザラザラの固い皮に頬をすりつけた。
『ミミ、こんな時になんだけど……私と絆を結んで欲しい。ミミと一緒の時を過ごしたいのだ』
ミミは初めはショウの気を引く為に竜騎士を目指したのだが、リューデンハイムで勉強するうちに、絆を結ぶ重大さを知った。
『ラルフ、本当に私で良いの? 今も、ショウ様の気を引こうと、竜舎に来たのよ』
ラルフは、自分の目を真っ直ぐに見つめる小さな女の子が愛しくて仕方ない。
『ミミはいつも心に真っ直ぐだよ。ショウを好きなのだから、会いたいと思うのは自然なことだ。私と絆を結んで欲しい』
ミミはラルフの言葉に頷き、幸福感に満たされる。常にショウに優遇されている姉の不満や孤独感が、ラルフの愛情で押しやられた。
サンズは、古参のラルフが絆の竜騎士を持った祝福を言う。ヴェスタもエリカと絆を結びたいと、祝福しながら考える。
サンズがミミとラルフが絆を結んだと報告したので、ショウは慌てて竜舎に駆けつけた。ショウの祝福の声を聞きながらも、ミミはラルフの側を離れる気持ちにならなかった。
エリカは、いつものミミならショウにベタベタ纏わりつくのにと、絆を結ぶという意味を考え込む。
「、ウィリアム様の気持ちを手に入れる為に、ヴェスタと絆を結ぼうと思っていたけど……違うのね……」
幸せそうなミミを見てヴェスタの側に行き、自分を見つめる偽りの無い竜の金色の瞳を見つめ返して、エリカは心の底から愛しく思った。
「ミミは、当分ラルフから離れないだろう。どうすれば良いのかなぁ。サンズは未だ子竜だったし、離宮を壊して入ってきたんだけど。竜舎にミミを寝させるわけにはいかないな」
ヌートン大使も駆けつけてきて、ラルフにべったりのミミを見て考え込む。
「このまま離れられないのですか?」
ショウは肩を竦めて、自分の時はニ週間近く一緒だったかなと答える。
「離れの扉を壊せば、ラルフはホールに入れるでしょう。そこにベッドを運ばせましょう」
ショウは舞踏会に行かなくてはいけないので、後の面倒はヌートン大使に任せて、薄いピンク色のドレスに着替えたララをエスコートして王宮に向かう。
フィリップ皇太子の結婚披露舞踏会は、外国の要人も招待されて豪華に行われた。
花嫁のリリアナは初々しくて、ショウ達は見ているだけで幸せな気持ちになる。二人のウェディングダンスが終わると、ショウはララを誘ってダンスを始める。
スチュワートもロザリモンドとダンスしているので、アレクセイは妹のミーシャを社交界に慣らす為にもとダンスに誘う。
「いえ、私は見ているだけで十分ですわ」
ミーシャの控え目な性格に苦笑して、国内の貴族に嫁がせるのも苦労しそうだと溜め息をつく。
「ミーシャ、少しダンスぐらい付き合ってくれないか? アリエナがいないので、手持ち無沙汰なんだ」
そこまで言われて、やっとミーシャはダンスを承諾した。ケイロンでアリエナ妃の側近になり、アレクセイやナルシスに会う機会が多くなっても、兄弟なのに臣下としての立場を崩さないミーシャなので、顔をあげるのも躊躇うダンスだった。
アレクセイは、ショウ王とダンスさせてやりたかったけど、この様子では無理かもしれないと困惑する。
ステップは間違えてはいないが、上手とは言い難いダンスなのだ。
身体が固いというか、緊張しているミーシャとのダンスは、社交界に慣れているアレクセイとしても、かなり難しく感じる。幸い、アレクセイは、ダンスのリードが巧みなので、ミーシャはどうにかダンスを終えた。
アレクセイはミーシャを椅子にエスコートして、侍従からレモネードを貰って渡してやる。ミーシャがレモネードを口にしながら、視線が自然とショウを追っているのを見て、やはり一度は踊らせてやろうと頭を悩ませる。
だが、あのままのミーシャでは、ショウも迷惑だろうと考える。何人かと踊らせて、場慣れさせた方が良いかもしれない。
ダンスフロアーで踊っている貴族達をアレクセイは値踏みしたが、こういう事は本来は既婚の貴婦人が相応しいのだと、困り果てる。丁度、2曲連続で踊ったロザリモンドが、スチュワートにエスコートされて、外国の要人の席に休憩に来たのでミーシャの臨時の後見人を願い出た。
「まぁ、気が付きませんでしたわ。アリエナがいないのだから、喜んでお世話しますわ」
ロザリモンドはユングフラウの若い貴族を熟知しているので、弟のウィリアムや、リューデンハイムの学友達を次々とダンス相手に選んで踊らせた。スチュワートは、アレクセイの意図が読めなくて困惑する。
エドアルド国王も庶子をショウと結婚させようと考えていたので、アレクセイもミーシャを縁付けようとしているのかと考える。ショウには強力な許嫁が多いので、エドアルド国王は諦めかけている。
スチュワートは会った事もない庶子が、東南諸島に嫁ごうと、知ったことではないとシャンパンを一気飲みする。
勿論、イルバニア王国もミーシャが次々とダンスをしている内に、少しずつ場慣れしていくのに気づいていた。
「ロザリーが、ミーシャ姫の後見人を引き受けているようだな」
グレゴリウス国王は、無事に結婚式が終わってホッとしているマウリッツ外務大臣に話しかける。
「アリエナ妃が欠席なので、アレクセイ皇太子が義理の妹のロザリモンド妃に頼まれたのでしょう。でも、スチュワート皇太子は庶子がお嫌いですのに、宜しいのでしょうか?」
マウリッツ外務大臣は、スチュワート皇太子が両親の不仲に苦しんだ時期にカザリア王国の駐在大使だったので、ロザリモンド妃がミーシャ嬢の世話を焼きすぎるのを心配する。
「今夜限りのことなら、二人が喧嘩することも無いだろう。それに、スチュワート皇太子が嫌いなのはシェリー姫だろう。ミーシャ姫に恨みはない筈だ」
外務大臣としては同盟国に嫁いだ王女が不仲になるのを心配したが、確かにあれほど熱々な二人なら、今夜のことぐらい大丈夫だろうと考える。
「ああ、なるほど! ショウ王子とミーシャ嬢を踊らせたくて、練習させていたのですね」
ショウがララと踊り疲れて、休憩しているところをアレクセイが捕まえて、ミーシャとのダンスを願い出る。
「ララ、一曲踊ってきても良いかい?」
ララはミーシャとショウの縁談があるとの噂を思い出したが、社交の嗜みだと、笑顔を作って送り出す。
ロザリモンドはララが内心では悲しんでいるのに気づき、弟のウィリアムを呼び寄せてダンスの相手をさせた。
椅子で座って愛しい許婚のダンスを眺めているよりは、いずれは義理の兄弟になる相手と踊っている方が気が紛れるだろうと考えたのだ。
ショウとダンスできるなんて、ミーシャは考えたこともなかった。こうして身近に体温を感じるだけでドキドキしてしまうが、これが最後のチャンスもしれないので、助けて貰ったお礼を言う。
「ショウ王子、助けて頂いたのに、お礼も言ってませんでした。ありがとうございます」
ミーシャの暗灰色の瞳に見つめられて、ショウは当たり前のことをしただけですと笑う。
「それより、アレクセイ皇太子とご一緒されていて驚きました」
ミーシャはアリエナが側近にして下さったのだと説明した。
「それは良かったですね。アリエナ妃は心の優しい方ですから、お仕えしがいがあるでしょう」
ミーシャは頷き、アリエナに色々と親切にして貰っていると嬉しそうに話す。
ショウとミーシャのダンスは一堂が注目していて、今まで大人しくてダンス相手に相槌を打つぐらいだったのに、目を輝かして積極的に話しかけているのに気づいていた。
「アレクセイ皇太子のお連れのミーシャ姫は、あんなに綺麗だったかな?」
「ローラン王国は、ミーシャ姫をショウ王子に縁付けるつもりなのか」
招待客が袖を引いて話し合っているうちに、フィリップは花嫁のリリアナの手を引いて、舞踏会場からまんまと逃げ出した。
曲が終わるとショウはミーシャをアレクセイの元までエスコートしていき、舞踏会の招待客は主役の二人が居なくなったのに騒ぎ笑った。
「ララ、もう一曲踊ったら、私達も帰ろうか」
ウィリアムからララを手渡されて、ショウはダンスフロアーへと向かう。ミーシャは夢のような時間が過ぎ去ったのを感じながら、二人の背中を見送った。
皇太子の婚礼は国の慶事なので、リューデンハイムも休校となり、エリカとミミもパレードを見学していた。エリカはウィリアムがエスコートしていた令嬢のことが気になっていたが、ショウに呆れる程素っ気ない態度だったと聞かされて、少しホッとする。
「ウィリアム様は、竜にしか興味が無いのかしら? 私のこともヴェスタのパートナーだから、気に掛けて下さっているだけなのかも……」
エリカの疑問にショウはウッと言葉に詰まったが、これから二人で話し合って関係を深めていけば良いねと誤魔化す。
「ショウ兄上、ウィリアム様は竜馬鹿じゃあ無いわよ。いえ、竜馬鹿気味だけど、それだけじゃないわ」
自分で言い出したくせにウィリアムを弁護し始めたエリカに、ショウは恋の悩みになんか付き合うのは御免だと肩を竦める。
ミミはエリカがショウを独占していて、折角のララが着替えている好機を生かせないので苛ついていた。サロンにいても話もできないと、ミミは竜舎に向かう。
竜舎には、ラルフとサンズとヴェスタが寛いでいた。
『ラルフ、サンズ、貴方達は仲良しなのに……』
ラルフはミミと絆を結ぶ決意をサンズと話していたので、悲しそうな様子を放置できない。巨大な身体をオロオロさせて、ミミの愚痴に困惑する。
『ショウを呼び出してあげても良いけど、今はララに夢中だから……』
サンズの言葉に、ミミは打ちのめされた。姉のララともうすぐ結婚するのだから、ラブラブなのは仕方ないけど、騎竜に宣言されるとズッシリと堪える。
『ミミは未だ若いから。ショウも結婚する頃になれば、ミミとの時間も取ってくれるよ。こんなに可愛い女の子は、何処にもいないよ』
ラルフの慰めにミミは喜ぶ。
『ラルフ! ありがとう』首にしがみついて、ザラザラの固い皮に頬をすりつけた。
『ミミ、こんな時になんだけど……私と絆を結んで欲しい。ミミと一緒の時を過ごしたいのだ』
ミミは初めはショウの気を引く為に竜騎士を目指したのだが、リューデンハイムで勉強するうちに、絆を結ぶ重大さを知った。
『ラルフ、本当に私で良いの? 今も、ショウ様の気を引こうと、竜舎に来たのよ』
ラルフは、自分の目を真っ直ぐに見つめる小さな女の子が愛しくて仕方ない。
『ミミはいつも心に真っ直ぐだよ。ショウを好きなのだから、会いたいと思うのは自然なことだ。私と絆を結んで欲しい』
ミミはラルフの言葉に頷き、幸福感に満たされる。常にショウに優遇されている姉の不満や孤独感が、ラルフの愛情で押しやられた。
サンズは、古参のラルフが絆の竜騎士を持った祝福を言う。ヴェスタもエリカと絆を結びたいと、祝福しながら考える。
サンズがミミとラルフが絆を結んだと報告したので、ショウは慌てて竜舎に駆けつけた。ショウの祝福の声を聞きながらも、ミミはラルフの側を離れる気持ちにならなかった。
エリカは、いつものミミならショウにベタベタ纏わりつくのにと、絆を結ぶという意味を考え込む。
「、ウィリアム様の気持ちを手に入れる為に、ヴェスタと絆を結ぼうと思っていたけど……違うのね……」
幸せそうなミミを見てヴェスタの側に行き、自分を見つめる偽りの無い竜の金色の瞳を見つめ返して、エリカは心の底から愛しく思った。
「ミミは、当分ラルフから離れないだろう。どうすれば良いのかなぁ。サンズは未だ子竜だったし、離宮を壊して入ってきたんだけど。竜舎にミミを寝させるわけにはいかないな」
ヌートン大使も駆けつけてきて、ラルフにべったりのミミを見て考え込む。
「このまま離れられないのですか?」
ショウは肩を竦めて、自分の時はニ週間近く一緒だったかなと答える。
「離れの扉を壊せば、ラルフはホールに入れるでしょう。そこにベッドを運ばせましょう」
ショウは舞踏会に行かなくてはいけないので、後の面倒はヌートン大使に任せて、薄いピンク色のドレスに着替えたララをエスコートして王宮に向かう。
フィリップ皇太子の結婚披露舞踏会は、外国の要人も招待されて豪華に行われた。
花嫁のリリアナは初々しくて、ショウ達は見ているだけで幸せな気持ちになる。二人のウェディングダンスが終わると、ショウはララを誘ってダンスを始める。
スチュワートもロザリモンドとダンスしているので、アレクセイは妹のミーシャを社交界に慣らす為にもとダンスに誘う。
「いえ、私は見ているだけで十分ですわ」
ミーシャの控え目な性格に苦笑して、国内の貴族に嫁がせるのも苦労しそうだと溜め息をつく。
「ミーシャ、少しダンスぐらい付き合ってくれないか? アリエナがいないので、手持ち無沙汰なんだ」
そこまで言われて、やっとミーシャはダンスを承諾した。ケイロンでアリエナ妃の側近になり、アレクセイやナルシスに会う機会が多くなっても、兄弟なのに臣下としての立場を崩さないミーシャなので、顔をあげるのも躊躇うダンスだった。
アレクセイは、ショウ王とダンスさせてやりたかったけど、この様子では無理かもしれないと困惑する。
ステップは間違えてはいないが、上手とは言い難いダンスなのだ。
身体が固いというか、緊張しているミーシャとのダンスは、社交界に慣れているアレクセイとしても、かなり難しく感じる。幸い、アレクセイは、ダンスのリードが巧みなので、ミーシャはどうにかダンスを終えた。
アレクセイはミーシャを椅子にエスコートして、侍従からレモネードを貰って渡してやる。ミーシャがレモネードを口にしながら、視線が自然とショウを追っているのを見て、やはり一度は踊らせてやろうと頭を悩ませる。
だが、あのままのミーシャでは、ショウも迷惑だろうと考える。何人かと踊らせて、場慣れさせた方が良いかもしれない。
ダンスフロアーで踊っている貴族達をアレクセイは値踏みしたが、こういう事は本来は既婚の貴婦人が相応しいのだと、困り果てる。丁度、2曲連続で踊ったロザリモンドが、スチュワートにエスコートされて、外国の要人の席に休憩に来たのでミーシャの臨時の後見人を願い出た。
「まぁ、気が付きませんでしたわ。アリエナがいないのだから、喜んでお世話しますわ」
ロザリモンドはユングフラウの若い貴族を熟知しているので、弟のウィリアムや、リューデンハイムの学友達を次々とダンス相手に選んで踊らせた。スチュワートは、アレクセイの意図が読めなくて困惑する。
エドアルド国王も庶子をショウと結婚させようと考えていたので、アレクセイもミーシャを縁付けようとしているのかと考える。ショウには強力な許嫁が多いので、エドアルド国王は諦めかけている。
スチュワートは会った事もない庶子が、東南諸島に嫁ごうと、知ったことではないとシャンパンを一気飲みする。
勿論、イルバニア王国もミーシャが次々とダンスをしている内に、少しずつ場慣れしていくのに気づいていた。
「ロザリーが、ミーシャ姫の後見人を引き受けているようだな」
グレゴリウス国王は、無事に結婚式が終わってホッとしているマウリッツ外務大臣に話しかける。
「アリエナ妃が欠席なので、アレクセイ皇太子が義理の妹のロザリモンド妃に頼まれたのでしょう。でも、スチュワート皇太子は庶子がお嫌いですのに、宜しいのでしょうか?」
マウリッツ外務大臣は、スチュワート皇太子が両親の不仲に苦しんだ時期にカザリア王国の駐在大使だったので、ロザリモンド妃がミーシャ嬢の世話を焼きすぎるのを心配する。
「今夜限りのことなら、二人が喧嘩することも無いだろう。それに、スチュワート皇太子が嫌いなのはシェリー姫だろう。ミーシャ姫に恨みはない筈だ」
外務大臣としては同盟国に嫁いだ王女が不仲になるのを心配したが、確かにあれほど熱々な二人なら、今夜のことぐらい大丈夫だろうと考える。
「ああ、なるほど! ショウ王子とミーシャ嬢を踊らせたくて、練習させていたのですね」
ショウがララと踊り疲れて、休憩しているところをアレクセイが捕まえて、ミーシャとのダンスを願い出る。
「ララ、一曲踊ってきても良いかい?」
ララはミーシャとショウの縁談があるとの噂を思い出したが、社交の嗜みだと、笑顔を作って送り出す。
ロザリモンドはララが内心では悲しんでいるのに気づき、弟のウィリアムを呼び寄せてダンスの相手をさせた。
椅子で座って愛しい許婚のダンスを眺めているよりは、いずれは義理の兄弟になる相手と踊っている方が気が紛れるだろうと考えたのだ。
ショウとダンスできるなんて、ミーシャは考えたこともなかった。こうして身近に体温を感じるだけでドキドキしてしまうが、これが最後のチャンスもしれないので、助けて貰ったお礼を言う。
「ショウ王子、助けて頂いたのに、お礼も言ってませんでした。ありがとうございます」
ミーシャの暗灰色の瞳に見つめられて、ショウは当たり前のことをしただけですと笑う。
「それより、アレクセイ皇太子とご一緒されていて驚きました」
ミーシャはアリエナが側近にして下さったのだと説明した。
「それは良かったですね。アリエナ妃は心の優しい方ですから、お仕えしがいがあるでしょう」
ミーシャは頷き、アリエナに色々と親切にして貰っていると嬉しそうに話す。
ショウとミーシャのダンスは一堂が注目していて、今まで大人しくてダンス相手に相槌を打つぐらいだったのに、目を輝かして積極的に話しかけているのに気づいていた。
「アレクセイ皇太子のお連れのミーシャ姫は、あんなに綺麗だったかな?」
「ローラン王国は、ミーシャ姫をショウ王子に縁付けるつもりなのか」
招待客が袖を引いて話し合っているうちに、フィリップは花嫁のリリアナの手を引いて、舞踏会場からまんまと逃げ出した。
曲が終わるとショウはミーシャをアレクセイの元までエスコートしていき、舞踏会の招待客は主役の二人が居なくなったのに騒ぎ笑った。
「ララ、もう一曲踊ったら、私達も帰ろうか」
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