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第十章 結婚生活
19 新婚旅行でダブルブッキング
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ロジーナは、隣で眠っているショウの寝顔を眺めて、結婚したのだと心の底から喜びがこみ上げてきた。
「睫毛が長いのねぇ~! 眠っていると幼い感じに見えるわ」
ロジーナは起きて欲しいような、このまま眠っていて欲しいような、複雑な気持ちになる。王太子として忙しいショウが目を覚ましたら、自分の元から去ってしまうのは寂しいが、煌めく黒い瞳で自分を見つめて、しなやかな腕で抱きしめて欲しい。
「うう~ん! おはよう、ロジーナ」
見つめている気配に気づいて、ショウは目覚めると新妻のロジーナを抱き寄せてキスをする。ロジーナ付きの女官達は、寝室の気配で新婚の二人がやっと起きたのに気づいたが、いちゃいちゃと睦言が聞こえたので、朝食の用意をソッと静かにして、待機しなきゃと溜め息をつく。
とっくに王宮は動き始めているが、後宮には誰も入って来れない。アスラン王の場合なら、第一夫人のミヤに叩き起こして貰えるが、ショウには第一夫人がいないので、後宮に籠もられると手も足も出ない。
「まぁ、新婚だから仕方ないですわねぇ……」
カザリア王国のシェパード大使親子が日参しているので、彼らが王宮に来る前には新妻から離れて欲しいと、バッカス外務大臣は溜め息をついた。
ショウしかターシュと話せないので、二人の言葉を通訳して欲しいと要求されるのだが、肝心のターシュは子育て中で餌を取ったりするのに忙しくて、タイミングが合わない。その上、あの無礼な鷹匠に阻まれる日もあるので、全くターシュとの交渉は進んで無いのだ。
バッカス外務大臣は、他にも重大な案件を沢山抱えていたので、はっきり言って鷹にかかわっている暇は無いのだが、大国のカザリア王国の要求を無碍にもできない。
「あの親子が来る前に、イズマル島のことが旧帝国三国にどの程度伝わっているか、その反応について各国の大使からの報告書を読んでおきたいわ。あの蛇王子や、色ぼけ間抜け公爵、海賊の上前をはねてる王や、野心家の豹王、ケチ王の動向もチェックしなきゃいけないのに……」
王太子として子作りも大切な仕事だが、夜だけにして欲しいと、バッカス外務大臣は山積みの書類を凄まじいスピードで読んでいきながら、カリカリとしていた。
「おい! ショウはどうしたんだ?」
サンズが竜舎にいるのだから、ララの時みたいに極秘で新婚旅行に行った訳では無さそうなのにと、アスランは朝からフラナガン宰相に捕まって不平をこぼす。
「新婚なのですから、少しぐらい寝坊してもよろしいでしょう」
本来はアスラン王の仕事なのですよと、フラナガン宰相はにこやかに次々と決済が必要な案件を読み上げる。
流石のアスランも、ロジーナと過ごしているショウの邪魔をしたら、ラズローが怒るので我慢して、フラナガン宰相の読み上げる案件を承諾したり、やり直せと拒否したりしている。
アスランは、いつもは威張りん坊のラズローが悄げている様子をからかいに行ったのに、中年男の愚痴と涙に辟易として、早々に屋敷から逃げて帰ったのだ。
フラナガン宰相は王様の仕事をして貰って、嬉しそうに自分の執務室に書類を取りに帰ったが、アスランはこんな退屈な仕事をさせる為に王太子がいるんだろうと不満に思う。
フラナガン宰相が、この機会に他の決済もして貰おうと書類を持って来た時には、ミヤの元へお茶を飲みに行って、もぬけのからだ。
「なぁ、お前が甘やかすから、ショウは後宮に入り浸りの色ぼけ王太子になったじゃないか」
お茶をいれていたミヤは、自分は留守ばかりしているのに、たった数時間後宮でゆっくりしただけで色ぼけだなんて! と腹が立って、お茶を顔に掛けてやりたくなったが、ぐっと堪えてにこやかに笑う。
アスランは、これは拙い! とゾクッとしたが、差し出されたお茶を受け取り、良い香りにうっとりとする。
「ミヤのいれてくれるお茶は美味いなぁ~」
本音で褒めたのだが、大切に育てたショウの悪口で機嫌を損ねたミヤは、無視して帳簿を調べだした。アスランは、機嫌をとろうと提案する。
「ショウを新婚旅行に行かせようかと考えている」
「新婚旅行? 貴方がそんな親らしい心遣いをされるとは……」
帳簿を閉じて、アスランが親として成長したのかと、ミヤは目を輝かす。
「あの小うるさい大使親子を、レイテから追い出したいからなぁ~」
折角、褒めようとしていたミヤのこめかみに、青い筋が走った。
「アスラン様! 貴方がエドアルド国王にターシュは帰りそうにないだなんて、いい加減なことを仰るから、大使親子が王宮に日参するような事態になったのでしょう!」
アスランは、フラナガンが悪いと責任転換したが、ミヤにはお見通しだった。
「どうせ貴方のことだから、エドアルド国王をからかったのでしょう。フラナガン宰相は、エドアルド国王にターシュは雛を育てたら帰ると言ってるので、少しお待ち下さいと伝えて欲しいと頼んだのでしょ。なのに、ベンジャミン卿を特別任務で派遣するほど、怒らせて……」
アスランは肩を竦めて、エドアルド国王は鷹馬鹿だなぁとうそぶく。
ミヤは新婚旅行の件が気になったので、深呼吸して怒りをおさめる。アスラン王の第一夫人を勤めるのは、とても大変なのだ。
「大使親子を追い払うということは、新婚旅行はカザリア王国へですか? でも、ニューパロマにはメリッサが居ますのに……」
何を考えているのかと、ミヤは夫の顔を見つめて問い質す。
「まぁ、ベンジャミンでなくても、絆の竜騎士がレイテに派遣されれば良かったのさ。ターシュとは話せなくても、絆の竜騎士はニュアンスぐらいは理解できるからな。今はバッカス外務大臣に近づかない方が良いと、ショウに伝えておけ! マリオンは、発情期を迎えてるからな」
竜馬鹿! とミヤは罵りたくなったが、長衣の裾をつかんで、ターシュや、交尾飛行、新婚旅行のことを聞き直す。
「まぁ、子竜のお礼に、私の白雪をターシュのお嫁にだそうかと思ったのだ。そうでもしないと、エドアルド国王がレイテまで押しかけてきそうだからな。ショウは新婚旅行がてら、ターシュと白雪をニューパロマまで送って行くのさ」
そこまで考えてエドアルド国王をからかったのかと、ミヤは疑問に思った。しかし、結果は上手く帳尻を合わせているので、怒るわけにもいかず苦々しく思う。
「バッカス外務大臣のマリオンと、ベンジャミン卿の騎竜は交尾飛行するのですか? あのう……交尾飛行の際は……」
交尾飛行で絆の竜騎士も欲望を感じるのではと、バッカス外務大臣の性癖を知っているミヤは戸惑った。
「だから、ショウをバッカスの側に行かせるなと言ってるのだ。彼奴には跡取りを作る義務があるのだから、変な趣味に走られたら困る」
ミヤもそれは困ると頷いた。
「いつ頃、マリオンは交尾飛行するのですか?」
「さぁなぁ、今日辺りかもな……バッカスが妙に苛々していたのも、マリオンの影響かもしれない」
ミヤは今日はショウを後宮から出さない方が良いと判断した。
「ロジーナの歓迎会を、後宮で開きましょう! ショウにも出席して貰わなくてはねぇ」
アスランは、それはチビ助に酷な歓迎会になると止めようとしたが、ミヤが何故ショウを窮地に追い込むのか理解して爆笑する。
「まぁ、三人の妻に囲まれて、冷や汗の一つや二つかけば、彼奴も真剣に第一夫人を探さなければと尻に火がつくだろう。レティシィアの出来が良いからと、安穏とし過ぎなのだ!」
ミヤは今の状態でレティシィアが第一夫人の代行をするのは問題ないと放置していたが、お腹の子供が王子なら五年後には離宮で教育するべきだと考えている。
幼い王子を母親から離すのは可哀想な気もするが、後宮の争いから王子を遠ざけて護る意味もある。レティシィアのお腹の子供が女の子なら、少しは猶予が増えるが、他の妻達が男の子を産むかもしれないのだ。産まれた王子が五歳になる前から、第一夫人が後宮を取り仕切っている方が望ましいと、ミヤは考えていたのだ。
ミヤの思惑通り、ショウは三人の妻達に囲まれて冷や汗をかき、第一夫人を探さなければ帰宅拒否症になってしまうと、ラシンドの第一夫人に勧められたリリィに会って話してみようと決意した。
この日、王宮を訪ねたシェパード大使親子は、新婚のショウ王太子に会えなかった。
バッカス外務大臣は会えなくて気の毒だと、べンジャミンにレイテの案内を申し出た。外務大臣自らがレイテの案内をすると言うのを、その性癖を疑って拒否する無礼はできない。
ベンジャミンは熱心なバッカス外務大臣の案内で、レイテの街の知らなかった名所を見て回った。しかし、自分の騎竜がマリオンと首を絡めて発情しているのに愕然とする。
『リース! まさか……』
こうなっては止めても無駄だと、レイテの郊外に連れて行く。交尾飛行で欲望を掻き立てられたベンジャミンは、バッカス外務大臣にレイテの綺麗な芸妓の接待を受けた。
父親のユリアンは、自分もアスラン王に騙し討ちのように、騎竜の交尾飛行をさせられたので、息子が朝帰りしても不問にふした。しかし、憤懣やるかたないベンジャミンは、絶対にターシュを連れて帰ると、父親を引っ張って王宮に乗り込んだ。
子竜が産まれそうだと機嫌の良いアスラン王が、珍しく二人を謁見する。
「ターシュは、白雪から離れそうにないな」
シェパード大使はいきり立つ息子を制して、発言の意味を問い直した。
「アスラン王、それはターシュをカザリア王国に返さないという意味でしょうか?」
「いや、ターシュは白雪と離れたくないから、カザリア王国に帰らないのだ。だから、エドアルド国王に白雪を進呈しようと思っている。私の愛鷹の白雪を大切にして欲しいと、エドアルド国王に伝えてくれ」
「白雪を、エドアルド国王に下さるのですか!」
シェパード大使は上手く行き過ぎで、夢ではないかと頬を抓りたくなった。しかし、ベンジャミンはターシュの雛達はどうなるのかとアスラン王に尋ねる。
「さて、それは各々の判断に任せるしかないな。ターシュもそれを望むだろう。ショウがターシュをエドアルド国王から借りたのだから、本人に返しに行かせよう。丁度、新しく妻を娶ったから、新婚旅行にニューパロマを訪問すれば良い」
シェパード大使とベンジャミンは、白雪を貰えるのは有り難いが、話せると確認できている真白が懐いてるショウが付き添ってくるのは歓迎できない。しかし、外交官として、友好国の王太子が、新婚旅行でニューパロマを訪れたいとの申込みを、断ることもできなかった。
二人は大使館に帰って、色々な問題を話し合った。
「あっ! ニューパロマにはメリッサ姫がいるのに……」
昨日の交尾飛行や、ターシュの件で、ベンジャミンは頭がまともに動いてなかったと自分を責める。
「メリッサ姫とロジーナ妃がダブルブッキングになってしまう……」
初恋の相手メリッサと新婚旅行のロジーナが顔を合わせるのは拙いと困惑する。
「ダブルブッキングだなんて、ショウ王太子は劇場のチケットでは無いぞ。それに東南諸島連合王国は、一夫多妻制だ。お前流に言うなら、ショウ王太子は常にダブルブッキングや、トリプルブッキングだ、慣れておられるよ」
メリッサが傷つくのではと心配している息子に、お前が心配する問題では無いとシェパード大使は言い聞かせた。
「睫毛が長いのねぇ~! 眠っていると幼い感じに見えるわ」
ロジーナは起きて欲しいような、このまま眠っていて欲しいような、複雑な気持ちになる。王太子として忙しいショウが目を覚ましたら、自分の元から去ってしまうのは寂しいが、煌めく黒い瞳で自分を見つめて、しなやかな腕で抱きしめて欲しい。
「うう~ん! おはよう、ロジーナ」
見つめている気配に気づいて、ショウは目覚めると新妻のロジーナを抱き寄せてキスをする。ロジーナ付きの女官達は、寝室の気配で新婚の二人がやっと起きたのに気づいたが、いちゃいちゃと睦言が聞こえたので、朝食の用意をソッと静かにして、待機しなきゃと溜め息をつく。
とっくに王宮は動き始めているが、後宮には誰も入って来れない。アスラン王の場合なら、第一夫人のミヤに叩き起こして貰えるが、ショウには第一夫人がいないので、後宮に籠もられると手も足も出ない。
「まぁ、新婚だから仕方ないですわねぇ……」
カザリア王国のシェパード大使親子が日参しているので、彼らが王宮に来る前には新妻から離れて欲しいと、バッカス外務大臣は溜め息をついた。
ショウしかターシュと話せないので、二人の言葉を通訳して欲しいと要求されるのだが、肝心のターシュは子育て中で餌を取ったりするのに忙しくて、タイミングが合わない。その上、あの無礼な鷹匠に阻まれる日もあるので、全くターシュとの交渉は進んで無いのだ。
バッカス外務大臣は、他にも重大な案件を沢山抱えていたので、はっきり言って鷹にかかわっている暇は無いのだが、大国のカザリア王国の要求を無碍にもできない。
「あの親子が来る前に、イズマル島のことが旧帝国三国にどの程度伝わっているか、その反応について各国の大使からの報告書を読んでおきたいわ。あの蛇王子や、色ぼけ間抜け公爵、海賊の上前をはねてる王や、野心家の豹王、ケチ王の動向もチェックしなきゃいけないのに……」
王太子として子作りも大切な仕事だが、夜だけにして欲しいと、バッカス外務大臣は山積みの書類を凄まじいスピードで読んでいきながら、カリカリとしていた。
「おい! ショウはどうしたんだ?」
サンズが竜舎にいるのだから、ララの時みたいに極秘で新婚旅行に行った訳では無さそうなのにと、アスランは朝からフラナガン宰相に捕まって不平をこぼす。
「新婚なのですから、少しぐらい寝坊してもよろしいでしょう」
本来はアスラン王の仕事なのですよと、フラナガン宰相はにこやかに次々と決済が必要な案件を読み上げる。
流石のアスランも、ロジーナと過ごしているショウの邪魔をしたら、ラズローが怒るので我慢して、フラナガン宰相の読み上げる案件を承諾したり、やり直せと拒否したりしている。
アスランは、いつもは威張りん坊のラズローが悄げている様子をからかいに行ったのに、中年男の愚痴と涙に辟易として、早々に屋敷から逃げて帰ったのだ。
フラナガン宰相は王様の仕事をして貰って、嬉しそうに自分の執務室に書類を取りに帰ったが、アスランはこんな退屈な仕事をさせる為に王太子がいるんだろうと不満に思う。
フラナガン宰相が、この機会に他の決済もして貰おうと書類を持って来た時には、ミヤの元へお茶を飲みに行って、もぬけのからだ。
「なぁ、お前が甘やかすから、ショウは後宮に入り浸りの色ぼけ王太子になったじゃないか」
お茶をいれていたミヤは、自分は留守ばかりしているのに、たった数時間後宮でゆっくりしただけで色ぼけだなんて! と腹が立って、お茶を顔に掛けてやりたくなったが、ぐっと堪えてにこやかに笑う。
アスランは、これは拙い! とゾクッとしたが、差し出されたお茶を受け取り、良い香りにうっとりとする。
「ミヤのいれてくれるお茶は美味いなぁ~」
本音で褒めたのだが、大切に育てたショウの悪口で機嫌を損ねたミヤは、無視して帳簿を調べだした。アスランは、機嫌をとろうと提案する。
「ショウを新婚旅行に行かせようかと考えている」
「新婚旅行? 貴方がそんな親らしい心遣いをされるとは……」
帳簿を閉じて、アスランが親として成長したのかと、ミヤは目を輝かす。
「あの小うるさい大使親子を、レイテから追い出したいからなぁ~」
折角、褒めようとしていたミヤのこめかみに、青い筋が走った。
「アスラン様! 貴方がエドアルド国王にターシュは帰りそうにないだなんて、いい加減なことを仰るから、大使親子が王宮に日参するような事態になったのでしょう!」
アスランは、フラナガンが悪いと責任転換したが、ミヤにはお見通しだった。
「どうせ貴方のことだから、エドアルド国王をからかったのでしょう。フラナガン宰相は、エドアルド国王にターシュは雛を育てたら帰ると言ってるので、少しお待ち下さいと伝えて欲しいと頼んだのでしょ。なのに、ベンジャミン卿を特別任務で派遣するほど、怒らせて……」
アスランは肩を竦めて、エドアルド国王は鷹馬鹿だなぁとうそぶく。
ミヤは新婚旅行の件が気になったので、深呼吸して怒りをおさめる。アスラン王の第一夫人を勤めるのは、とても大変なのだ。
「大使親子を追い払うということは、新婚旅行はカザリア王国へですか? でも、ニューパロマにはメリッサが居ますのに……」
何を考えているのかと、ミヤは夫の顔を見つめて問い質す。
「まぁ、ベンジャミンでなくても、絆の竜騎士がレイテに派遣されれば良かったのさ。ターシュとは話せなくても、絆の竜騎士はニュアンスぐらいは理解できるからな。今はバッカス外務大臣に近づかない方が良いと、ショウに伝えておけ! マリオンは、発情期を迎えてるからな」
竜馬鹿! とミヤは罵りたくなったが、長衣の裾をつかんで、ターシュや、交尾飛行、新婚旅行のことを聞き直す。
「まぁ、子竜のお礼に、私の白雪をターシュのお嫁にだそうかと思ったのだ。そうでもしないと、エドアルド国王がレイテまで押しかけてきそうだからな。ショウは新婚旅行がてら、ターシュと白雪をニューパロマまで送って行くのさ」
そこまで考えてエドアルド国王をからかったのかと、ミヤは疑問に思った。しかし、結果は上手く帳尻を合わせているので、怒るわけにもいかず苦々しく思う。
「バッカス外務大臣のマリオンと、ベンジャミン卿の騎竜は交尾飛行するのですか? あのう……交尾飛行の際は……」
交尾飛行で絆の竜騎士も欲望を感じるのではと、バッカス外務大臣の性癖を知っているミヤは戸惑った。
「だから、ショウをバッカスの側に行かせるなと言ってるのだ。彼奴には跡取りを作る義務があるのだから、変な趣味に走られたら困る」
ミヤもそれは困ると頷いた。
「いつ頃、マリオンは交尾飛行するのですか?」
「さぁなぁ、今日辺りかもな……バッカスが妙に苛々していたのも、マリオンの影響かもしれない」
ミヤは今日はショウを後宮から出さない方が良いと判断した。
「ロジーナの歓迎会を、後宮で開きましょう! ショウにも出席して貰わなくてはねぇ」
アスランは、それはチビ助に酷な歓迎会になると止めようとしたが、ミヤが何故ショウを窮地に追い込むのか理解して爆笑する。
「まぁ、三人の妻に囲まれて、冷や汗の一つや二つかけば、彼奴も真剣に第一夫人を探さなければと尻に火がつくだろう。レティシィアの出来が良いからと、安穏とし過ぎなのだ!」
ミヤは今の状態でレティシィアが第一夫人の代行をするのは問題ないと放置していたが、お腹の子供が王子なら五年後には離宮で教育するべきだと考えている。
幼い王子を母親から離すのは可哀想な気もするが、後宮の争いから王子を遠ざけて護る意味もある。レティシィアのお腹の子供が女の子なら、少しは猶予が増えるが、他の妻達が男の子を産むかもしれないのだ。産まれた王子が五歳になる前から、第一夫人が後宮を取り仕切っている方が望ましいと、ミヤは考えていたのだ。
ミヤの思惑通り、ショウは三人の妻達に囲まれて冷や汗をかき、第一夫人を探さなければ帰宅拒否症になってしまうと、ラシンドの第一夫人に勧められたリリィに会って話してみようと決意した。
この日、王宮を訪ねたシェパード大使親子は、新婚のショウ王太子に会えなかった。
バッカス外務大臣は会えなくて気の毒だと、べンジャミンにレイテの案内を申し出た。外務大臣自らがレイテの案内をすると言うのを、その性癖を疑って拒否する無礼はできない。
ベンジャミンは熱心なバッカス外務大臣の案内で、レイテの街の知らなかった名所を見て回った。しかし、自分の騎竜がマリオンと首を絡めて発情しているのに愕然とする。
『リース! まさか……』
こうなっては止めても無駄だと、レイテの郊外に連れて行く。交尾飛行で欲望を掻き立てられたベンジャミンは、バッカス外務大臣にレイテの綺麗な芸妓の接待を受けた。
父親のユリアンは、自分もアスラン王に騙し討ちのように、騎竜の交尾飛行をさせられたので、息子が朝帰りしても不問にふした。しかし、憤懣やるかたないベンジャミンは、絶対にターシュを連れて帰ると、父親を引っ張って王宮に乗り込んだ。
子竜が産まれそうだと機嫌の良いアスラン王が、珍しく二人を謁見する。
「ターシュは、白雪から離れそうにないな」
シェパード大使はいきり立つ息子を制して、発言の意味を問い直した。
「アスラン王、それはターシュをカザリア王国に返さないという意味でしょうか?」
「いや、ターシュは白雪と離れたくないから、カザリア王国に帰らないのだ。だから、エドアルド国王に白雪を進呈しようと思っている。私の愛鷹の白雪を大切にして欲しいと、エドアルド国王に伝えてくれ」
「白雪を、エドアルド国王に下さるのですか!」
シェパード大使は上手く行き過ぎで、夢ではないかと頬を抓りたくなった。しかし、ベンジャミンはターシュの雛達はどうなるのかとアスラン王に尋ねる。
「さて、それは各々の判断に任せるしかないな。ターシュもそれを望むだろう。ショウがターシュをエドアルド国王から借りたのだから、本人に返しに行かせよう。丁度、新しく妻を娶ったから、新婚旅行にニューパロマを訪問すれば良い」
シェパード大使とベンジャミンは、白雪を貰えるのは有り難いが、話せると確認できている真白が懐いてるショウが付き添ってくるのは歓迎できない。しかし、外交官として、友好国の王太子が、新婚旅行でニューパロマを訪れたいとの申込みを、断ることもできなかった。
二人は大使館に帰って、色々な問題を話し合った。
「あっ! ニューパロマにはメリッサ姫がいるのに……」
昨日の交尾飛行や、ターシュの件で、ベンジャミンは頭がまともに動いてなかったと自分を責める。
「メリッサ姫とロジーナ妃がダブルブッキングになってしまう……」
初恋の相手メリッサと新婚旅行のロジーナが顔を合わせるのは拙いと困惑する。
「ダブルブッキングだなんて、ショウ王太子は劇場のチケットでは無いぞ。それに東南諸島連合王国は、一夫多妻制だ。お前流に言うなら、ショウ王太子は常にダブルブッキングや、トリプルブッキングだ、慣れておられるよ」
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