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第十一章 ショウの家族
9 子守狼 ユナ
しおりを挟むショウがグレゴリウス国王と話し合いを持つ間、レティシィアはリリアナと、マキシウス王子を離宮の庭で遊ばせながらお茶を飲んでいた。ユーリ王妃も少し参加したが、忙しいので途中で退席してしまったのだ。
「マキシウス王子様と一緒にいる狼はとても大きいですわね」
レティシィアは愛らしい王子が黒い毛並みの狼と遊んでいるのを見て、大丈夫かしらとどきどきしたが、アイーシャ達もチビ竜とふざけているのだと思い直した。
「レティシィア様、驚かれましたか?」
サンルームから庭で遊ぶ王子を眺めながら、リリアナは微笑んだ。
「ええ、少し驚きましたわ。でも、レイテでは娘が子竜に遊戯を教えたり、一緒に海水浴してますもの」
リリアナは、暖かいレイテなら年中海水浴ができそうだと羨ましく思った。
そろそろ寒いので中に連れてなさい、と女官達に指示をだす。冷たい空気をまとわらせてマキシウス王子は、ユナを連れてサンルームに入ってきた。
フィリップに似た茶色の髪と茶色の優しそうな瞳を受け継いだマキシウスは、母上と一緒にいる見たこともない美女にポカンと口をあけた。
「マキシウス、東南諸島連合王国のレティシィア王太子妃ですよ。ご挨拶なさい」
まだ、二歳なのに美女には弱いのねと、リリアナはくすくす笑いながら咎めた。マキシウスは子どもの特権を最大限活用して、レティシィアに抱きついた。
「僕はマキシウスです、そしてこの狼はユナ」
いつもは礼儀正しいマキシウスが、レティシィアに抱きついたので、守りをしている女官達は驚いたが、あの美貌では仕方がないと溜め息をついた。
「まぁ、ユナという狼を飼っていらっしゃるのですか?」
レティシィアはレイテに置いてきたアイーシャを思い出して、マキシウスを膝に乗せて話しかける。
「ユナを飼っている? ユナに面倒を見て貰ってるのです」
リリアナは、お客様の膝からおりなさいと諭した。
「いえ、私にも同じ年頃の娘がいます。こうしてマキシウス王子を抱っこしていると、癒やされますわ」
レティシィアが心より言っているのに気づいたので、リリアナはマキシウスをそのままにしておいた。
黒い毛並みに、白い線が背中に一筋あるユナは、レティシィアを少し眺めると、足元に伏せて眠りだす。ふさふさの尻尾をくるりと身体に巻きつけて、金色の目を閉じる。
「ユナは、父上の子守をしたルナの子狼なのです。そのルナは、お祖母様の子守をしたシルバーの子狼だったのですよ」
マキシウスは良い香りにうっとりして、色々とレティシィアに話しかける。
「では、イルバニア王国には、代々狼の子守がいるのですね」
レティシィアは、レイテの王宮には真白という話せる鷹がいるのだから、この足元で眠っているユナも話せるのかしらと眺める。
「私には何を話しているのかわかりませんが、マキシウスはユナと仲良く話しています」
リリアナは竜騎士の素質に恵まれてなかったのだわと、レティシィアもアイーシャは竜と話しているが、自分はニュアンスしかわからないと苦笑した。
午前中の話し合いを切り上げて、フィリップがショウを案内して、皇太子が住む離宮に来た時には、マキシウスはレティシィアに夢中になっていた。
「レティシィア様、僕と結婚して!」
可愛いプロポーズに、レティシィアは微笑んで頬にキスをする。
「まぁ、マキシウス王子、光栄ですわ。でも、私はショウ様と結婚しているのです」
しょんぼりするマキシウスを、フィリップは抱き上げて、人妻にプロポーズしてはいけないぞと笑った。
「申し訳ありません」
息子の不始末を微笑みながら謝るリリアナを、ショウも笑いながら制した。
「マキシウス王子は、美女を見る目がありますね。そのうち、素敵な相手に巡り会いますよ」
ユナはゆっくりと立ち上がると、ショウの前に座った。
『レティシィアのことが、マキシウスは好きになったみたいだ。また、会わせてくれ』
ローラン王国のアリエナのところでソリスに慣れているショウは、ソッと手を差し出して匂いを嗅がせる。
『君はソリスの姉のルナの子狼なんだね。ソリスは家族をつくったのかな?』
ユナは尻尾をパタンと振って、きれいな銀色の狼とつがいになったと教えてくれた。
「前からソリスはアリエナにべったりだったので、そのうち話せる子狼が産まれたら王子の子守に行かせるかもしれないな」
フィリップは女官にマキシウスを渡しながら、狼は義理堅いのですと笑った。
マキシウスは、ショウがレティシィアをエスコートして、昼食会に向かうのを見て大きな溜め息をついた。
『マキシウス、レティシィアはお前には年をとりすぎている。つがいになるなら、同じ年頃の相手が相応しい』
幸いなことに、女官達にはユナの言葉は聞こえなかった。
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