海と風の王国

梨香

文字の大きさ
292 / 368
第十二章 新たな問題

23  サンズ島でのんびり

しおりを挟む

 サンズ島で温泉に浸かり、暫し航海の疲れをショウは癒した。

 海が見えるように設計されているデッキで、気持ちの良い風を受けながら、サンズ島の実質的な管理を任されているナッシュと防衛を強化する件を話し合う。

「私はメルト伯父上の代理に過ぎないからなぁ……だが、軍部とも相談して心掛けておく」

 ショウはメルトにサンズ島の管理を任せてはいたが、この発達は代理のナッシュのお蔭だと笑う。

「本当はナッシュ兄上にはイズマル島のジェープレス基地かケーレブ基地の開発を任せたいのですが……サンズ島とウォンビン島の防衛ラインの強化は大切ですからお願いします」

 イズマル島の西玄関ジェープレス基地、東玄関のケーレブ基地の周辺には、少しずつ植民した農家や商店が増えてきていた。

「ラジックはモリソンで上手くやってるみたいだな」

 ナッシュはカリンとも親しいので、軍部とも繋がりがあるが、本当は東南諸島の男らしく、商売の方が興味がある。

「サンズ島の開発は順調ですから、後は軍部でも運営できるでしょう。本来は開発が進んでいる西海岸のジェープレス基地の監督をナッシュ兄にはして頂きたいのですが……」

 ナッシュは敢えて未開の東海岸のケーレブ基地の監督を頼むショウに理由を尋ねた。

「サラム王国がイズマル島を狙うのでは無いかと心配しているのです」

 ナッシュもサラム王国が海賊を援護しているのには腹を立てていたが、イズマル島までは無理では無いかと笑う。

「サンズ島で補給しなければ、サラム王国をねぐらとしている海賊もイズマル島には到達できないだろう! ここが東南諸島の領土だと知ってるのに、海賊船で襲撃などする馬鹿はいないさ」

 サラム王国のヘルツ国王にそんな根性は無いと笑い飛ばしたナッシュだが、ハッと何かショウが心配する要因があるのだと察した。 

「東南諸島に恨みを持つ人物が、サラム王国のみならず、マルタ公国や、スーラ王国で暗躍しているのです。ザイクロフト卿と名乗るヘルツ国王の庶子だそうですが、どうやら東南諸島の血を引いているみたいで……」

 察しの良いナッシュは、バルバロッサの遺児か、そう教えられて育ったザイクロフトが東南諸島を恨んでいるのだと溜め息をつく。

「サンズ島の防衛は任せてくれ! まぁ、実際はメルト伯父上が張り切って防衛拠点にしそうだがな」

 ショウは軍事に関しては、ナッシュよりメルトの方が専門家だと頷く。

「ウォンビン島とジェープレス基地の防衛ラインはパトリックとカリン兄上に任せるつもりです。パトリックとはエスメラルダの結婚式で会うので、事情を説明しておきます」

 パトリックの名前を出した途端、おさかんな竜達の交尾計画を思い出し、少し頬を染めたショウに、ナッシュは怪訝な顔をする。

『ねぇ、海水浴しようよ』

 難しい話が終わるまで待っていたサンズが、ショウに一緒に泳ぎたいとおねだりする。

『ああ、そうだね!』

 ゴルチェ大陸では倒れて心配を掛けたので、ショウはサンズの言うことをきくと約束したんだと、ナッシュに弁解しながら席を立った。

「お前は子どもの頃から海水浴が好きだったな」

 折角、お風呂に入ったのにと、ナッシュは呆れたが、ショウはサンズと海水浴をしに海岸へ向かった。


 サンズの背中につかまって、ぷかぷか海に浮かび、沖からサンズ島を眺める。

『メルトはいなかったね』

 メルトはイズマル島との防衛ラインのパトロールが忙がしいのだろうとショウは肩を竦める。

『でも、これからはパトロールも重要だけど、サンズ島の防備を固めなくてはいけないんだ』

 綺麗な白い砂浜と緑の島には、宿泊施設が整備され、イズマル島への航路の補給島として発展している。

「この平和なサンズ島を襲撃させない為には、砲台を整備すれば効果的なのは明らかなのだけど、火薬をこの世界に持ち込みたくは無い! 戦争の死傷者の数が増えるのが目に見えている」

 折角の海水浴なのに、難しいことを考え出したショウを背中から振り落とす。

『ショウ! 人をいっぱい殺す物なんか開発しなくていい! きっと後悔して、落ち込むよ! サンズ島は、竜騎士に護って貰えば良いんだ!』

 海の塩っ辛い水を飲んだショウは、サンズが自分の心を読んだのだと苦笑する。

『確かに竜騎士がいれば、サンズ島に近づく海賊船を空から攻撃できるけど……イズマル島の測量やパトロールにも竜騎士が必要なんだ。数が少ないから、考えて配置しなくちゃいけないんだ』

 サンズは数が少ないと言うショウに、大きく頷く。

『そうだよね~! 竜の数を増やさなきゃいけないよ!』

 メールとヴェルヌが大きくなったので、次の子竜が欲しいとサンズはショウを説得しだした。

『エスメラルダのルカに私が子竜を与えて、パトリックの騎竜ペリーに子竜を貰おうかなぁ』

 子竜の夢を見ながら、砂浜で昼寝をするサンズを眺めながら、軍艦の増産と同時に竜も増やさなきゃいけないと溜め息をつく。

「騎竜の交尾が竜騎士に影響を与えなければ、何度でも平気なんだけどなぁ……」

 気恥ずかしい交尾の後の雰囲気を思い出したが、東南諸島には竜が必要だし、サンズに子竜をもっと持たせてやりたいとショウは決心する。

 ピィ~! と真白が、人間の考える事は理解できないと揶揄するように、海の上に浮かんでるサンズとショウの上をクルリと回り綺麗な真水で水浴びをしにいった。
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...