海と風の王国

梨香

文字の大きさ
323 / 368
第十三章 迫る影

31  外交官なんて嫌いだ!

しおりを挟む
 アスラン王に逃げられたバッカス外務大臣は、ショウ王太子をつかまえて、ご機嫌で陰謀について報告する。

「フェルナンデス公子は、ジャリース公に始末させる手筈が整ってます。元々、あの親子関係は最悪になっていましたから、あとは一押しするだけです」

 バッカス外務大臣は楽しそうに陰謀を話すが、ショウは必要だとは思いつつも、やはり胃がきりきりと痛む。自分の命で、マルタ公国のフェルナンデス公子とスーラ王国のジェナス王子は命を落とすのだ。好意を持つ相手では無いが、やはり胸がズキンとする。

『ザイクロフト卿が友好国につけこんだ隙に、東南諸島として、どう対処するか?』父上に出された宿題に、ショウは溜め息しかでない。

……ザイクロフト卿をぶっ殺すだけでは、問題は解決しないよなぁ……

 ショウはカリン兄上ほど武力に頼るタイプでは無いが、隠謀を巡らすのも向いていないと、深い溜め息をつく。しかし、ザイクロフト卿の息の掛かった反対勢力をこのままにはしておけない。

「私としては、ジャリース公も引退してほしいのだけど……」

 バッカス外務大臣は、厳しい要求に難しい顔をする。

「フェルナンデス公子をジャリース公に始末させるのですから、マルタ公国は警戒体制を取ると思うわ。少し時間を置いてからクーデターを起こさないと失敗しちゃうわよ。まぁ、失敗しても、こちらは痛くも痒くもありませんけど……どうします? ルーパス公子を捨て駒にしますか?」

 一気にカタをつけようとする潔癖症を、冗談めかして警告されて、ショウはマルタ公国については、ゆっくりと陰謀を進めさせることにする。

「スーラ王国については、蛇神様がジェナス王子を始末する方が、後々の東南諸島との関係も良好になるでしょう。アルジェ女王の息子ですから、隠謀を巡らせたのがバレないようにしなくてはね」

 ショウは、イルバニア王国のラバーン男爵夫人に、ザイクロフト卿が資金を提供していたが、出所は貧乏なサラム王国ではなく、ジェナス王子の側近のヘルメス神官ではないかという疑惑を口にする。

「神官がお金をちょろまかして、他国の外交官に与えていたとしても、アルジェ女王はヘルメスの首を切るだけじゃないかしら? それに、私の感触ですが、蛇神様はお金については、さほど興味を持たれないのではないかしら? ショウ王太子は、蛇神様にお会いになられたのでしょう? どうすれば、ジェナス王子を始末するとお思いですか?」

 ショウは、蛇神様はジェナス王子を消すことを躊躇ったりしないだろうと思った。それを、直ちに実行しないのは、アルジェ女王が庇っているからにすぎない。

「蛇神様は、アルジェ女王がジェナス王子を見放さない限り、始末したりしないと思う。贅沢をしようが、ザイクロフト卿に金を与えようが、その程度では無理だと思う」

 スーラ王国のレーベン大使から、ジェナス王子の屋敷に何人かの間者を潜り込ましたとの報告を受けていたし、病気に見える毒も用意させている。しかし、スーラ王国での陰謀は慎重に進めなくてはいけないのだ。何故なら、来年にはショウ王太子は、ゼリア王女の婿になるからだ。

 ジェナス王子を始末するぐらいは簡単だが、裏で東南諸島が隠謀を巡らせたとか、ほんの少しでも疑われてはマズい。それに、腐敗した神官が生き残っていたら、厄介なのだ。

「アルジェ女王がジェナス王子を見放すのは、ゼリア王女に何かしでかしたりした時ですわよね……ちょっと気になる事があったので、レーベン大使に調査させたのです。ジェナス王子が変な動きをしたという、報告があったのですが……」

 ジェナス王子が変な動き? ショウはあんなに変な王族にあった事がなかった。ジャリース公が真っ当に思える程の変態だ。しかし、バッカスを問い詰めて、ゼリア王女暗殺未遂を聞き、ショウは怒りで拳を握りしめる。

「なんだって! ゼリアを殺そうとしたのか!」

 まぁまぁと、バッカス外務大臣は落ち着かせる。

「凄く行き当たりばったりの暗殺計画でしたし、ショウ王太子が港までサンズで飛んで行かれたので、計画は頓挫してしまいました。それに、船をぶつけたとしても、転覆するかどうかもわかりません。まして、ゼリア王女は泳げるのでしょう?」

 ショウは、ゼリアと海水浴した時に、泳ぐのが上手いと思ったが、港で船が一杯だと危険だと腹を立てる。

「海面一杯に船が浮いている港で、頭を打ったりして気絶したら、泳ぐのが上手でも危険じゃないか!」

 腹を立てたショウ王太子から、バッカスは蛇神様との面会での話をかなり詳しく聞き出す。

「そうですかぁ! ゼリア王女を助けてくれるような娘を授けてくれと頼まれたのですか。それに、悪い芽はつまないといけないと言われたのですね」

 にやにや嬉しそうなバッカス外務大臣が何を考えているのか知りたくもないと、ショウは腹を立てる。秘密にしていた蛇神様との会話を上手く聞き出されてしまって、げんなりする。

……本当に、外交官なんて嫌いだ! 自国の外交官も油断できないよ!……

「陰謀は任せますが、ザイクロフト卿の足取りを早くつかんで下さい。このまま彼奴の後始末ばかりして回るのは御免です!」

 ぷんぷん怒って出ていくショウ王太子とザイクロフト卿を決闘などさせるものですか! と、バッカス外務大臣は苦笑する。自分の身内の不始末は、自分で決着をつけるつもりだ。

「悪いですが、こればかりはショウ王太子の命令でも従えません」

 ザイクロフト卿の報告書で、剣の腕前を知ったバッカスは、自国の王太子を危険に曝せないと考える。しかし、ザイクロフト卿の変則的な行動と、ショウが気まぐれでとった行動が二人を運命的な出会いに導くのだ。

 後に、バッカス外務大臣は、ザイクロフト卿の変則的な行動を大いに罵る事になる。
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...