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第1章 異世界転移
バケツ姫と挑戦者①
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『しまった! ナナ下がれ‼ まずいッ間に合うか⁉』
突然アイマーが【伝心】で緊急メッセージを伝えて来た。
それはようやく魔王城から外に出て、城を囲む城壁の門の真下あたりに差し掛かった時の事だった。
アイマーから伝わる感情は焦燥感に満ちていた。
『っ⁉』
≪ドゴッ‼≫
――刹那。
ナナの足元の地面が消失した。
バランスを崩して後ろに倒れるナナを襲う浮遊感。
アイマーの指示に即座に対応しようとしたナナだったが、後ろに跳ぼうと動かした脚は、消えてしまった地面を蹴ることが出来ず空振りしたのだ。
ナナの身体は後ろ向きに回転しつつ、落下し始めていた。
ナナは落ちながら必死に首を曲げて、突然消えた地面を確認する。
そこには、半径5メートルほどの円形の穴が空いていた。
ナナはそのほぼ中心にいるため、穴の壁には手が届かない。
深さは10メートルほどもあり、底には鋭く尖った、細長い金属の棘が多数突き立っていた。
棘同士の間隔は狭く、小柄なナナでも避けることは不可能だ。
このまま落ちたら間違いなく、ナナの身体を20本以上の棘が貫通し、その命の灯火をかき消すだろう。
それを認識したナナは、目を見開いたまま顔を真っ青にする
「え、あ…」
(なんで? なんでこんな⁉
やだ、待って、嫌だよ、まだ死にたくないよ‼
お願い、お願いだから!
お兄ちゃん助けてッ‼)
ナナの叫びは言葉にならず、その口からは意味の無い音がこぼれるのみだった。
――ナナの身体に衝撃が走り、ナナは息を詰まらせた。
少し遅れて、何かが飛んできて自分にぶつかったのだと気付く。
衝突した何かは、ナナの身体を捕捉し、飛んできた勢いのままに横方向に運び去る。
そしてそのまま穴の外の地面に着地して、勢いを殺しきれずに転がった。
その何か――いや、誰かに抱きかかえられたまま地面を何度も転がったあと、ようやく動きが止まった。
「えっ……なにが…?」
ナナは慌てて身を起こそうとする。
だが、目が回ってうまく動けず、その誰かの上に倒れ込んだ。
ぽふっとナナを受け止めた誰かから、優しい声がかけられる。
「おっと――大丈夫か?
俺も焦っていたから少し手荒になってしまった。すまない」
声の方を向くと、倒れたナナを抱きとめて座っている、明るい金髪の美青年が微笑んでいた。
その表情からは、ほっとしたような安堵が読み取れる。
彼はナナを優しく起こしてから手を離し、自らも立ち上がって、紳士な態度で話しかけてくる。
「どうやら怪我は…なさそうだな」
ナナは彼の言葉に、自分の身体を確認する。
派手に地面を横転したはずだが、怪我はない。
もしかしたら、この美青年がかばってくれたのかもしれない。
「……あの、はい、大丈夫、みたいです。
もしかして、助けて…下さったのですか?」
先ほどの落とし穴の恐怖を思い出し、身震いしながら聞いてみた。
「ああ、偶然近くにいたんだ。
君の驚く声と、この落とし穴が作動する音が聞こえてな。
さすがに焦ったが、間に合ってよかった」
「ありがとうございます!
本当に、もう駄目だと思ってました。
御恩をお返しできればいいのですが――」
ナナは頭を深く下げ、美青年に心からの謝意を伝える。
「いや、無事ならいい。
助けることができて何よりだ。
礼もその言葉で十分だ」
彼はナナの感謝に対して、嬉しそうな柔らかい笑顔を返してくる。
見た目だけでなく、中身までしっかりとイケメン仕様のようだ。
「しかし……魔族はなんでこんな場所に落とし穴を設置したんだ?
これでは自分たちも困るだろうに。
彼らが考えることはわからないな」
そう言って彼は苦笑しながら、口を閉じ始めた落とし穴の方を見つめる。
その時、沈んだ雰囲気のアイマーが【伝心】でナナに謝ってくる。
『む、むう。すまぬ。ナナよ、お主の命を危険にさらしてしまった。
これは我の落ち度である。申し訳ない』
城の設計者であるアイマーは、もちろんこの罠のことを把握していた。
だが、彼自身が城門を通ることがほとんどなかったため、失念していたのだ。
ちなみにこの落とし穴は、魔王城が兵の訓練施設を兼ねているが故に設置されている。
この程度の罠を回避できない未熟者を、文字通り門前返しにするための仕掛けだ。
平時であれば門衛が待機しており、罠に掛かった者を救助する役も担っているはずだった。
だが今は、とある理由で魔王城に誰もいない。
『死ぬかと思ったよぉおお……でも、助かったからよかった……。
それに、魔王も何とかしてくれるつもりだったんでしょ?』
『ああ。だが際どいタイミングだったことは事実なのだ。すまぬ』
ナナは【伝心】で伝わるアイマーの感情から、彼が何らかの措置を実行しようとしていたことを把握していた。
美青年の登場で不要になったそれは、結界魔法を駆使してナナを受け止めるという手段だった。
だがアイマーが言う通り、発動はギリギリで、あと一瞬でも遅ければ間に合わない、という状況だったのだ。
『結局助けてくれるつもりだったなら、大丈夫だよ。ありがとね、魔王』
『そう言ってくれると救われる。お主は優しい娘だな、ナナよ』
『ふふっ。ところで……もしかしてこの人って、噂の挑戦者さん?』
『ふむ……確かにこやつが挑戦者のようだ』
『そうなんだ。なんか想像してたよりかっこいい!』
ナナは予想外のイケメン、しかも命を助けてくれたイケメンの出現に、一瞬デレた。
ナナもお年頃の女の子なのだ。
これぐらいは仕方がない。
突然アイマーが【伝心】で緊急メッセージを伝えて来た。
それはようやく魔王城から外に出て、城を囲む城壁の門の真下あたりに差し掛かった時の事だった。
アイマーから伝わる感情は焦燥感に満ちていた。
『っ⁉』
≪ドゴッ‼≫
――刹那。
ナナの足元の地面が消失した。
バランスを崩して後ろに倒れるナナを襲う浮遊感。
アイマーの指示に即座に対応しようとしたナナだったが、後ろに跳ぼうと動かした脚は、消えてしまった地面を蹴ることが出来ず空振りしたのだ。
ナナの身体は後ろ向きに回転しつつ、落下し始めていた。
ナナは落ちながら必死に首を曲げて、突然消えた地面を確認する。
そこには、半径5メートルほどの円形の穴が空いていた。
ナナはそのほぼ中心にいるため、穴の壁には手が届かない。
深さは10メートルほどもあり、底には鋭く尖った、細長い金属の棘が多数突き立っていた。
棘同士の間隔は狭く、小柄なナナでも避けることは不可能だ。
このまま落ちたら間違いなく、ナナの身体を20本以上の棘が貫通し、その命の灯火をかき消すだろう。
それを認識したナナは、目を見開いたまま顔を真っ青にする
「え、あ…」
(なんで? なんでこんな⁉
やだ、待って、嫌だよ、まだ死にたくないよ‼
お願い、お願いだから!
お兄ちゃん助けてッ‼)
ナナの叫びは言葉にならず、その口からは意味の無い音がこぼれるのみだった。
――ナナの身体に衝撃が走り、ナナは息を詰まらせた。
少し遅れて、何かが飛んできて自分にぶつかったのだと気付く。
衝突した何かは、ナナの身体を捕捉し、飛んできた勢いのままに横方向に運び去る。
そしてそのまま穴の外の地面に着地して、勢いを殺しきれずに転がった。
その何か――いや、誰かに抱きかかえられたまま地面を何度も転がったあと、ようやく動きが止まった。
「えっ……なにが…?」
ナナは慌てて身を起こそうとする。
だが、目が回ってうまく動けず、その誰かの上に倒れ込んだ。
ぽふっとナナを受け止めた誰かから、優しい声がかけられる。
「おっと――大丈夫か?
俺も焦っていたから少し手荒になってしまった。すまない」
声の方を向くと、倒れたナナを抱きとめて座っている、明るい金髪の美青年が微笑んでいた。
その表情からは、ほっとしたような安堵が読み取れる。
彼はナナを優しく起こしてから手を離し、自らも立ち上がって、紳士な態度で話しかけてくる。
「どうやら怪我は…なさそうだな」
ナナは彼の言葉に、自分の身体を確認する。
派手に地面を横転したはずだが、怪我はない。
もしかしたら、この美青年がかばってくれたのかもしれない。
「……あの、はい、大丈夫、みたいです。
もしかして、助けて…下さったのですか?」
先ほどの落とし穴の恐怖を思い出し、身震いしながら聞いてみた。
「ああ、偶然近くにいたんだ。
君の驚く声と、この落とし穴が作動する音が聞こえてな。
さすがに焦ったが、間に合ってよかった」
「ありがとうございます!
本当に、もう駄目だと思ってました。
御恩をお返しできればいいのですが――」
ナナは頭を深く下げ、美青年に心からの謝意を伝える。
「いや、無事ならいい。
助けることができて何よりだ。
礼もその言葉で十分だ」
彼はナナの感謝に対して、嬉しそうな柔らかい笑顔を返してくる。
見た目だけでなく、中身までしっかりとイケメン仕様のようだ。
「しかし……魔族はなんでこんな場所に落とし穴を設置したんだ?
これでは自分たちも困るだろうに。
彼らが考えることはわからないな」
そう言って彼は苦笑しながら、口を閉じ始めた落とし穴の方を見つめる。
その時、沈んだ雰囲気のアイマーが【伝心】でナナに謝ってくる。
『む、むう。すまぬ。ナナよ、お主の命を危険にさらしてしまった。
これは我の落ち度である。申し訳ない』
城の設計者であるアイマーは、もちろんこの罠のことを把握していた。
だが、彼自身が城門を通ることがほとんどなかったため、失念していたのだ。
ちなみにこの落とし穴は、魔王城が兵の訓練施設を兼ねているが故に設置されている。
この程度の罠を回避できない未熟者を、文字通り門前返しにするための仕掛けだ。
平時であれば門衛が待機しており、罠に掛かった者を救助する役も担っているはずだった。
だが今は、とある理由で魔王城に誰もいない。
『死ぬかと思ったよぉおお……でも、助かったからよかった……。
それに、魔王も何とかしてくれるつもりだったんでしょ?』
『ああ。だが際どいタイミングだったことは事実なのだ。すまぬ』
ナナは【伝心】で伝わるアイマーの感情から、彼が何らかの措置を実行しようとしていたことを把握していた。
美青年の登場で不要になったそれは、結界魔法を駆使してナナを受け止めるという手段だった。
だがアイマーが言う通り、発動はギリギリで、あと一瞬でも遅ければ間に合わない、という状況だったのだ。
『結局助けてくれるつもりだったなら、大丈夫だよ。ありがとね、魔王』
『そう言ってくれると救われる。お主は優しい娘だな、ナナよ』
『ふふっ。ところで……もしかしてこの人って、噂の挑戦者さん?』
『ふむ……確かにこやつが挑戦者のようだ』
『そうなんだ。なんか想像してたよりかっこいい!』
ナナは予想外のイケメン、しかも命を助けてくれたイケメンの出現に、一瞬デレた。
ナナもお年頃の女の子なのだ。
これぐらいは仕方がない。
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