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第3章 異世界就職
ナナにできる仕事
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「昨日のフォルテちゃん、可愛かったなぁ。今日も一緒にお風呂入れるかなぁ」
ナナが宿屋【猫の毛づくろい亭】の看板娘であるフォルテとの幸せな入浴タイムを楽しんだ翌朝、ナナとニアンは宿屋の1階にある食堂で朝食をとっていた。
他にも数人の宿泊客がそれぞれに食事を楽しんでいるようだ。
メニューはふわふわのスクランブルエッグ、分厚いカリカリベーコン、ほくほくのマッシュポテトが大きなレタスのような葉に包まれて、平らな木皿に盛られていた。
その見た目は、魔族領から食べ続けて来た【喰人草の疑似餌】と比べると、圧倒的に人道的かつ平和的だった。
料理の評価としてその表現が適切かどうかは別として。
味もバランスがとれており、舌が肥えた日本人であるナナも大満足だった。
(でも、喰人草の疑似餌も見た目さえ気にしなければ、最高においしいんだよねー)
既に慣れ親しんでしまった不思議な実の味を思い出し、少し恋しくなったナナだったが、ニアンに礼を言わなければならなかったことを思い出す。
「そうだニアン、ネグリジェありがとう。嬉しかった!
何日も洗濯してなかったから、さすがにちょっと困ってたの。
おかげで気持ちよく眠れたよ」
昨晩の入浴後、ニアンに手渡されたネグリジェに着替えていたナナだったが、今は制服に戻っている。
実はフォルテの母のマロンが夜のうちに洗濯して乾燥まで仕上げてくれたのだ。
下着やその他の必需品についても昨日の夕食前までに一通り用意し、使い方まで説明してくれていた。
『男性であるニアン様にはなかなか頼みづらいでしょう』と。
母親のようなマロンの気配りに、ナナは目を潤ませて感謝したのであった。
ちなみにニアンの名誉のために補足すると、彼が女性用のネグリジェを所有していたのは、何もアブノーマルな趣味があったからではない。
彼が姉に持たされていた荷物の中に、なぜか彼女が昔着ていた衣類も混ざっていたのだ。
その中からナナに合いそうなサイズの服を選んで渡しただけである。
着替えを持っていないナナのための新しい服をなるべく早いうちに用意するつもりではあるが、さすがに昨日は間に合っていなかったので、姉の昔の服を借りたのだ。
「いや。礼を言われるほどでもない。
姉さんが昔着てた服を渡しただけだからな。
姉さんにはもう小さいだろうから、あれはナナが使ってくれて構わない」
「ありがとう! 大事にするね。それと──」
ナナは昨晩の内に考えていたことを脳裏に浮かべる。
しばらくは仕方がないとしても、いつまでもニアンに頼り続けるわけにはいかないし、やっぱり何か仕事に就くべきだと考えたのだ。
生活のためでもあるが、できれば地球に帰る方法を見つけるのにも役に立つ仕事がいい。
だがナナにはそれがどんな仕事なのか、自分にできるのかがわからなかった。
「あのね、仕事に就きたいなって思ってて……。
何か私にもできる仕事ってあるかな?
もしできれば、故郷に帰る方法を探すのに役立つ情報とか技術も得られる仕事だといいんだけど。
あ、これはもしできれば、だからね。
まずは自分で生活費を稼げるようになって、ニアンにも恩返ししたいの!」
「生活費については急ぐ必要はないが……そうだな、帰る方法を見つけるには情報収集が必要だろう。
ナナがいたニホンっていう国がどこにあるのか、それを見つけるには、この国の外の情報が必要になるな。
そうなると、世界中で活動している冒険者ギルドで情報を得るのが早いんじゃないかな。
ニホンにも冒険者ギルドの支部があったんじゃないか?」
ニアンは冒険者ギルドという組織がナナの祖国にも進出していたかどうかを問うが、当然日本には存在しない。
おそらく猟友会や農協とは全く異なる、ファンタジー世界特有の組織であろうことが推測できた。
『そっか、ニアンには日本が別の世界にあるって伝えてなかったんだっけ。
……なんでだろう、ニアンにはあまり知られたくない、気がする』
『ふむ。奴に隠したまま情報を得たいのならば、転移魔法についての最新の研究資料が閲覧できる場所について心当たりを聞いてみてはどうだ?
遠い国ならば転移の方が早いと言い訳もできるだろう』
『なるほど! やっぱり魔王は頼りになるね!』
アイマーはナナに的確な助言を返し、ナナの喜びの感情に満足しつつ思考する。
(ナナは自分が異世界人であるという事実について、ニアンに知られることを恐れている。
いや、それだけではないな。
自分では気づいていないようだがこの感情は……。
別の世界に自分が帰りたいと考えている一方で、ニアンと離れる未来に向かって行動することを、自分自身で拒否し始めているということか。
難儀な……)
「うーん、日本には冒険者ギルドは無かったよ。
ねえニアン、私、このあたりのことは全然知らないし、ルビウス王国っていう名前も聞いたことが無かったの。
ニアンも日本って知らないよね?
ということはすごく遠い場所だと思うんだ。
だからね、転移魔法について調べる方法ってないかな」
「たしかに……しかし転移魔法か。
高位の魔法使いなら使えると聞いたことがあるが、少なくともこの街で使える奴はいないはずだ。
王都に行けば……そうだ、王都にある王立図書館に行けば、そのあたりの資料もあるかもしれない」
「ほんと⁉ じゃあその国立図書館に行ってみたい!」
「あ、いや、すまない。
あの図書館は基本的には子爵位以上の上位貴族専用なんだ。
だから俺や君がすぐ入ることはできない。
だけど、君ならば入る方法がないわけじゃない」
ナナはニアンの言葉を聞いて肩を落とした。
「そう気を落とさないでくれ。
すぐには無理だが、王立図書館に入る方法はある」
「すぐには無理って……それってもしかして、私が上位貴族と結婚して貴族になるとか?
ニアンはそれでいいの?
私なんかにそんなの無理だし、知らない人と結婚なんて嫌だよぅ……ううう」
ナナは涙目になる。
知りもしない貴族との結婚なんて絶対に嫌だし、なによりニアンに勧められたようで切なさがあふれそうになったのだ。
「なっ⁉ ちがっ! ま、待ってくれ、違う、そうじゃない!
俺が君にそんなことを勧めるわけ……ってそういうことでもなくて!
とにかく結婚なんかじゃない。
そんなことは俺が認めない! ってそれもちがーう! いや違わないんだが!」
慌てたニアンが必死になってナナの勘違いを正そうとする。
が、彼の心をかき乱すのはいかなる感情か。
その言葉はもはや何を言っているのか本人も制御できていない。
だがその必死さは報われる。
ナナには意図が伝わったようだ。
「ううう、ニアン、私に結婚詐欺させない?」
「いやなぜ結婚詐欺の話に⁉
させない!
絶対にそんなことさせないから安心してくれ!」
ナナの受け取り方が少しズレていたようだが、まあ誤差の範囲だろう。
ナナは詐欺に対する警戒心が強いのだ。
……その活用にちょっとクセがあるだけで。
「ううー。わかった。私、ニアンのこと、信じてるよ」
涙目のままだが、その笑顔を取り戻したナナを見て、ニアンはほっと溜息をつく。
「ああ、ややこしい言い方をしてすまなかった。
話を戻そう。実は冒険者ギルドで一定の功績が認められると、特別褒章が授与されることがある。
これには報奨金はもちろんだが、色々な便宜を図ってもらえる権利も含まれているんだ。
その中に、王立図書館への入館許可が含まれている」
「おぉー! 合法的♪」
(詐欺なんかしないから!)
思わずニアンは心の中でツッコんだ。
目の前の愛すべき少女の勘違いひとつで、Aランク冒険者でもあり勇者ですらある自分が心をかき乱されている現状に、これだけ焦ったのはいつぶりだろうか、と自らの言動を思い出して苦笑した。
ニアンがそんなことを考えていると、嬉しそうだったナナの表情が曇り始めた。
「でも、特別褒章って、何をしたらもらえるのかな。
私にそんなすごいことできるかなぁ」
「もちろん簡単なことじゃない。
街や国にとって有益な何かを成し遂げた英雄に贈られるものだからな。
でも俺は、ナナの才能なら夢じゃないと思うんだ。
だからさ、やってみないか?
俺と同じ、冒険者を!」
(冒険者……日本に帰るための手がかりを得ることができて、お金も稼ぐことができる。なるほど、理にかなってる。
それにニアンと同じっていうのがなんとなく……嬉しい。
ニアンが私にできると見込んでくれるなら、それに応えたい!)
「うん! 冒険者になりたい!」
苦笑しつつ冒険者になることを提案してきたニアンに対して、ナナはキラッキラの笑顔で即答した。
その後、ナナはニアンから冒険者とはどういう職業なのか、ざっくりと説明を受けた。
冒険者とは街の人や商人、行政から冒険者ギルドを通して依頼を受け、達成することで報酬を得る職業とのことだ。
その依頼内容は多岐にわたり、荷物運びや薬草採集といった比較的安全なものから、増えすぎた魔物の討伐などの危険なものまである。
各自の能力に適した依頼を受けることができるが、選択の幅を増やすためには戦闘だけでなく様々な特技を身に着けておくと良いらしい。
討伐依頼については、新人のうちは冒険者ギルド側から指名された高位冒険者が指南役として付くらしい。
『私に魔物を倒せるかどうかは別として、安全な依頼を選べば報酬が得られることは重要だよね。
しかも地球に帰るための情報に近づける可能性もあるし。
それに私には強い味方、魔王がいる!
これはなかなかの好条件じゃないかな!』
『たしかに、冒険者として各地を移動するだけでも情報は得られる。
良いと思うぞ』
『だよね!』
「今日、冒険者になる!
ねえニアン、どうすればいい?」
はやるナナの様子に目を細めながら、ニアンは質問に答える。
「冒険者ギルドがこの街にもあるんだ。
そこへ行って冒険者登録をすればいい。
なに、登録料さえ持っていけば出自は問われない。
身分証も発行してもらえる。
あぁ、宿に入る時も言ったが、金は俺が払うから安心してくれ」
ニアンのセリフにナナは申し訳なく思ったが、今の自分ではどうにもできないのだから、頼らせてもらおうと切り替えお礼を言う。
「何から何まで、ありがとう、ニアン!
絶対に出世返しするから、楽しみに待っててね!」
「ふっ、ああ。期待しておく。
じゃあ、ギルドに登録に行こうか。
ちょうど俺もギルドに用事があるんだ。
そうだ、その前にちょっと寄りたいところがある。
まずは君の戦い方を決めないとな、いいか?」
「了解っ! そうと決まれば行こう!
よーしがんばるよー!
スターフさん、マロンさん、ごちそうさまでしたー!」
ナナは額に手をびしっと当ててから立ち上がる。
そして食堂の奥で調理を担当しているスターフと、給仕をしていたマロンに感謝を告げ、ニアンと共に街に繰り出したのだった。
◇
ナナが宿屋【猫の毛づくろい亭】の看板娘であるフォルテとの幸せな入浴タイムを楽しんだ翌朝、ナナとニアンは宿屋の1階にある食堂で朝食をとっていた。
他にも数人の宿泊客がそれぞれに食事を楽しんでいるようだ。
メニューはふわふわのスクランブルエッグ、分厚いカリカリベーコン、ほくほくのマッシュポテトが大きなレタスのような葉に包まれて、平らな木皿に盛られていた。
その見た目は、魔族領から食べ続けて来た【喰人草の疑似餌】と比べると、圧倒的に人道的かつ平和的だった。
料理の評価としてその表現が適切かどうかは別として。
味もバランスがとれており、舌が肥えた日本人であるナナも大満足だった。
(でも、喰人草の疑似餌も見た目さえ気にしなければ、最高においしいんだよねー)
既に慣れ親しんでしまった不思議な実の味を思い出し、少し恋しくなったナナだったが、ニアンに礼を言わなければならなかったことを思い出す。
「そうだニアン、ネグリジェありがとう。嬉しかった!
何日も洗濯してなかったから、さすがにちょっと困ってたの。
おかげで気持ちよく眠れたよ」
昨晩の入浴後、ニアンに手渡されたネグリジェに着替えていたナナだったが、今は制服に戻っている。
実はフォルテの母のマロンが夜のうちに洗濯して乾燥まで仕上げてくれたのだ。
下着やその他の必需品についても昨日の夕食前までに一通り用意し、使い方まで説明してくれていた。
『男性であるニアン様にはなかなか頼みづらいでしょう』と。
母親のようなマロンの気配りに、ナナは目を潤ませて感謝したのであった。
ちなみにニアンの名誉のために補足すると、彼が女性用のネグリジェを所有していたのは、何もアブノーマルな趣味があったからではない。
彼が姉に持たされていた荷物の中に、なぜか彼女が昔着ていた衣類も混ざっていたのだ。
その中からナナに合いそうなサイズの服を選んで渡しただけである。
着替えを持っていないナナのための新しい服をなるべく早いうちに用意するつもりではあるが、さすがに昨日は間に合っていなかったので、姉の昔の服を借りたのだ。
「いや。礼を言われるほどでもない。
姉さんが昔着てた服を渡しただけだからな。
姉さんにはもう小さいだろうから、あれはナナが使ってくれて構わない」
「ありがとう! 大事にするね。それと──」
ナナは昨晩の内に考えていたことを脳裏に浮かべる。
しばらくは仕方がないとしても、いつまでもニアンに頼り続けるわけにはいかないし、やっぱり何か仕事に就くべきだと考えたのだ。
生活のためでもあるが、できれば地球に帰る方法を見つけるのにも役に立つ仕事がいい。
だがナナにはそれがどんな仕事なのか、自分にできるのかがわからなかった。
「あのね、仕事に就きたいなって思ってて……。
何か私にもできる仕事ってあるかな?
もしできれば、故郷に帰る方法を探すのに役立つ情報とか技術も得られる仕事だといいんだけど。
あ、これはもしできれば、だからね。
まずは自分で生活費を稼げるようになって、ニアンにも恩返ししたいの!」
「生活費については急ぐ必要はないが……そうだな、帰る方法を見つけるには情報収集が必要だろう。
ナナがいたニホンっていう国がどこにあるのか、それを見つけるには、この国の外の情報が必要になるな。
そうなると、世界中で活動している冒険者ギルドで情報を得るのが早いんじゃないかな。
ニホンにも冒険者ギルドの支部があったんじゃないか?」
ニアンは冒険者ギルドという組織がナナの祖国にも進出していたかどうかを問うが、当然日本には存在しない。
おそらく猟友会や農協とは全く異なる、ファンタジー世界特有の組織であろうことが推測できた。
『そっか、ニアンには日本が別の世界にあるって伝えてなかったんだっけ。
……なんでだろう、ニアンにはあまり知られたくない、気がする』
『ふむ。奴に隠したまま情報を得たいのならば、転移魔法についての最新の研究資料が閲覧できる場所について心当たりを聞いてみてはどうだ?
遠い国ならば転移の方が早いと言い訳もできるだろう』
『なるほど! やっぱり魔王は頼りになるね!』
アイマーはナナに的確な助言を返し、ナナの喜びの感情に満足しつつ思考する。
(ナナは自分が異世界人であるという事実について、ニアンに知られることを恐れている。
いや、それだけではないな。
自分では気づいていないようだがこの感情は……。
別の世界に自分が帰りたいと考えている一方で、ニアンと離れる未来に向かって行動することを、自分自身で拒否し始めているということか。
難儀な……)
「うーん、日本には冒険者ギルドは無かったよ。
ねえニアン、私、このあたりのことは全然知らないし、ルビウス王国っていう名前も聞いたことが無かったの。
ニアンも日本って知らないよね?
ということはすごく遠い場所だと思うんだ。
だからね、転移魔法について調べる方法ってないかな」
「たしかに……しかし転移魔法か。
高位の魔法使いなら使えると聞いたことがあるが、少なくともこの街で使える奴はいないはずだ。
王都に行けば……そうだ、王都にある王立図書館に行けば、そのあたりの資料もあるかもしれない」
「ほんと⁉ じゃあその国立図書館に行ってみたい!」
「あ、いや、すまない。
あの図書館は基本的には子爵位以上の上位貴族専用なんだ。
だから俺や君がすぐ入ることはできない。
だけど、君ならば入る方法がないわけじゃない」
ナナはニアンの言葉を聞いて肩を落とした。
「そう気を落とさないでくれ。
すぐには無理だが、王立図書館に入る方法はある」
「すぐには無理って……それってもしかして、私が上位貴族と結婚して貴族になるとか?
ニアンはそれでいいの?
私なんかにそんなの無理だし、知らない人と結婚なんて嫌だよぅ……ううう」
ナナは涙目になる。
知りもしない貴族との結婚なんて絶対に嫌だし、なによりニアンに勧められたようで切なさがあふれそうになったのだ。
「なっ⁉ ちがっ! ま、待ってくれ、違う、そうじゃない!
俺が君にそんなことを勧めるわけ……ってそういうことでもなくて!
とにかく結婚なんかじゃない。
そんなことは俺が認めない! ってそれもちがーう! いや違わないんだが!」
慌てたニアンが必死になってナナの勘違いを正そうとする。
が、彼の心をかき乱すのはいかなる感情か。
その言葉はもはや何を言っているのか本人も制御できていない。
だがその必死さは報われる。
ナナには意図が伝わったようだ。
「ううう、ニアン、私に結婚詐欺させない?」
「いやなぜ結婚詐欺の話に⁉
させない!
絶対にそんなことさせないから安心してくれ!」
ナナの受け取り方が少しズレていたようだが、まあ誤差の範囲だろう。
ナナは詐欺に対する警戒心が強いのだ。
……その活用にちょっとクセがあるだけで。
「ううー。わかった。私、ニアンのこと、信じてるよ」
涙目のままだが、その笑顔を取り戻したナナを見て、ニアンはほっと溜息をつく。
「ああ、ややこしい言い方をしてすまなかった。
話を戻そう。実は冒険者ギルドで一定の功績が認められると、特別褒章が授与されることがある。
これには報奨金はもちろんだが、色々な便宜を図ってもらえる権利も含まれているんだ。
その中に、王立図書館への入館許可が含まれている」
「おぉー! 合法的♪」
(詐欺なんかしないから!)
思わずニアンは心の中でツッコんだ。
目の前の愛すべき少女の勘違いひとつで、Aランク冒険者でもあり勇者ですらある自分が心をかき乱されている現状に、これだけ焦ったのはいつぶりだろうか、と自らの言動を思い出して苦笑した。
ニアンがそんなことを考えていると、嬉しそうだったナナの表情が曇り始めた。
「でも、特別褒章って、何をしたらもらえるのかな。
私にそんなすごいことできるかなぁ」
「もちろん簡単なことじゃない。
街や国にとって有益な何かを成し遂げた英雄に贈られるものだからな。
でも俺は、ナナの才能なら夢じゃないと思うんだ。
だからさ、やってみないか?
俺と同じ、冒険者を!」
(冒険者……日本に帰るための手がかりを得ることができて、お金も稼ぐことができる。なるほど、理にかなってる。
それにニアンと同じっていうのがなんとなく……嬉しい。
ニアンが私にできると見込んでくれるなら、それに応えたい!)
「うん! 冒険者になりたい!」
苦笑しつつ冒険者になることを提案してきたニアンに対して、ナナはキラッキラの笑顔で即答した。
その後、ナナはニアンから冒険者とはどういう職業なのか、ざっくりと説明を受けた。
冒険者とは街の人や商人、行政から冒険者ギルドを通して依頼を受け、達成することで報酬を得る職業とのことだ。
その依頼内容は多岐にわたり、荷物運びや薬草採集といった比較的安全なものから、増えすぎた魔物の討伐などの危険なものまである。
各自の能力に適した依頼を受けることができるが、選択の幅を増やすためには戦闘だけでなく様々な特技を身に着けておくと良いらしい。
討伐依頼については、新人のうちは冒険者ギルド側から指名された高位冒険者が指南役として付くらしい。
『私に魔物を倒せるかどうかは別として、安全な依頼を選べば報酬が得られることは重要だよね。
しかも地球に帰るための情報に近づける可能性もあるし。
それに私には強い味方、魔王がいる!
これはなかなかの好条件じゃないかな!』
『たしかに、冒険者として各地を移動するだけでも情報は得られる。
良いと思うぞ』
『だよね!』
「今日、冒険者になる!
ねえニアン、どうすればいい?」
はやるナナの様子に目を細めながら、ニアンは質問に答える。
「冒険者ギルドがこの街にもあるんだ。
そこへ行って冒険者登録をすればいい。
なに、登録料さえ持っていけば出自は問われない。
身分証も発行してもらえる。
あぁ、宿に入る時も言ったが、金は俺が払うから安心してくれ」
ニアンのセリフにナナは申し訳なく思ったが、今の自分ではどうにもできないのだから、頼らせてもらおうと切り替えお礼を言う。
「何から何まで、ありがとう、ニアン!
絶対に出世返しするから、楽しみに待っててね!」
「ふっ、ああ。期待しておく。
じゃあ、ギルドに登録に行こうか。
ちょうど俺もギルドに用事があるんだ。
そうだ、その前にちょっと寄りたいところがある。
まずは君の戦い方を決めないとな、いいか?」
「了解っ! そうと決まれば行こう!
よーしがんばるよー!
スターフさん、マロンさん、ごちそうさまでしたー!」
ナナは額に手をびしっと当ててから立ち上がる。
そして食堂の奥で調理を担当しているスターフと、給仕をしていたマロンに感謝を告げ、ニアンと共に街に繰り出したのだった。
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