涙の色は

緑兎

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涙の色は

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まただ
またあいつが泣いている
広い暗闇の中で
独りぼっちで
入ってきた俺に気がつかないほどバカみたいに泣きじゃくっている
でもそいつの涙はとってもキレイで
キラキラしていて
あいつの心のように
バカみたいに美しかった

今日の涙は深い青色
悲しい時に見せる色
吸い込まれそうなキレイな色
昨日は確か明るい黄色
その前は確か燃えるような赤
こいつには涙が3つある
キレイな色が3つある

それに比べて
俺の涙は黒色だ
言うならばまるでこの空間のような深い闇
もしかしたら色なんてないのかもしれない
そんな事さえ思えるほどに

俺はいつもその色しか出てこない

俺とこいつは正反対だ
こいつが白なら俺は黒
こいつがYesなら俺はNO
そう答えなければならないと思うほど
全くの正反対だった

俺は
こいつと比べるとなんて暗くて
そいつと比べるとなんて醜くて
あいつと比べるとなんて美しくないのだろう

だんだん悲しくなっていって
だんだん苦しくなってきて
俺は泣いた
バカみたいに
なのに俺はあいつみたいにキレイに泣けなくて
キレイなものは目からこぼれ落ちてこなくて
やっぱりキレイな涙は心のキレイなやつからしか出ないんだな
とか思いだして
そしたらもっと苦しくなって
あいつと同じ空間にいることすら辛くなって
あいつの近くにいるのが辛くなって
今まで少しずつ歩ませていた足を
少しずつ速め
少しずつ
速め
速め
速め
いつの間にか
あいつから逃げるように走っていた

走って
走って
走って
息が切れて
動けなくなって
崩れ落ち
黒い涙を流し続けた
止めようとしても止まらない
拭っても拭っても溢れだす黒い液体はいつしか
大きな水たまりのように
小さな池のようになって
俺は声を押し殺すことをやめた
泣いて
泣いて
泣いて
泣きつかれて
俺は黒い涙を流したまま
深い深い眠りに落ちた——————

—————目を覚ますと
目の前にはあいつがいた
相変わらず泣いていた
泣きながらこう言った
「泣いているキミが好き」
泣いてるのはお前だろう
そう言いたかった
「涙がとってもキレイだから」
キレイなのはお前だろう
そんな事も言いたかった
でも言えなかった
泣いていたのは俺も同じだったから
涙がキレイと言われて嬉しかったから
でもやっぱり
「俺の涙なんてキレイじゃないよ」
口が滑った
本当だから仕方ない
何も悪いことは言ってない
何も考えず出てきてしまった言葉だ
特に意味もないさ
でももしかしたら
そんなことないよ今まで見た中で1番キレイだ
もしかしたら
そう言ってくれるのを待っていたのかも知れない
案の定あいつは俺の望む言葉を言って
俺はなんだかほっとした
だけど
俺の涙がキレイなはずがなかった
俺の心がキレイなはずがなかった
やっぱり俺をのぞくこいつの方がずっときれいで
こいつの涙には見とれてしまうほどだった
いつの間にか俺の涙が止まり
眺めていた涙が
こいつの涙が
溜まった黒い液体に落ちた

液体の色が変わった

赤 青 黄
だけじゃない
今まで見た中で1番キレイな色を見た
今まで見た中で1番キレイな涙だった

「キミの涙はキレイだよ」
こいつは
「黒い色はいろんな色が入ってるんだ」
こいつは
本物のバカだった

せっかく止まったあの黒い涙がまた溢れ出した
でも別に辛くはなかった

こいつの涙は透明だった
言うならばまるでこの空間のような純粋さ
もしかしたら色なんてないのかもしれない
そんな事さえ思えるほどに

俺の涙は黒色だ
言うならばまるでこの空間のような美しさ
もしかしたら色なんてないのかもしれない
そんな事さえ思えるほどに
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