4 / 32
第十八章 雪解けと若芽
百五十四話 霧中の一歩
しおりを挟む
玄霧(げんむ)、母港、もとい実家に帰る。
「馬鹿なことはしていなかっただろうな」
司午(しご)屋敷に着いて私の顔を見るなり、そんな失礼な発言をブチ込んできやがった。
「ええ、おかげさまでとても穏やかに毎日を過ごしておりますわ。おほほ」
「なにか悪いものでも食ったか。明日は医者に行け。昔から世話になっている先生がいる。信頼できる方だ。お前のような可哀想な頭の娘でも、親切に話を聞いてくれるだろう」
本気で心配すんなや、至れり尽くせりが逆に腹立つわ。
「うるせーですっつーの。マジなにもなく、平和ですよ」
「そうか」
途端に私なんかへの興味をさっぱり失ったかのように、話題を変えて玄霧さんは言った。
「除葛(じょかつ)のやつは、河旭(かきょく)の郊外の屋敷で謹慎している。事実上の軟禁だな」
「え、あ、はい、そ、それはなにより」
魔人は、無事にお縄につき、囚われた。
玄霧さんや国のお役人さんたち、仕事をキッチリと進めてくれていたようだ。
これから厳しい取調べが、姜(きょう)さんには待っているんだろう。
上着を脱いで自分で衣装掛けに、きびきびとした動きで吊るす玄霧さん。
気のせいかもしれないけれど、玄霧さんは使用人とかに体を触られるのを、どうも嫌っているっぽい。
良いとこのお坊ちゃんの割には、なんでもかんでも、自分でやる癖がついているからだ。
神経質なんかな。
結婚したくねえタイプだのう。
失礼な感想を抱いている私に気付かず、帰宅後の荷物整理をしながら若干の早口で玄霧さんが話す。
「角州公(かくしゅうこう)が、翠蝶(すいちょう)の身の周りの不穏をかなり詳しく調べて河旭に情報を送ってくださった。国境で開催される市場の件も含めて、俺はしばらく州庁府で話すことになる。屋敷の細かいことは、引き続きお前たちに任せたぞ」
「ええ、それは承知しています。あと、その市場のことなんですけど」
私と翔霏(しょうひ)も行くつもりです、と話す前に。
「もう正午を過ぎたか。司祝門(ししゅくもん)に行かねば」
バタバタと忙しく再び出かける準備をして、玄霧さんは風のようにいなくなった。
司祝門というのは宗教関係のことを管理する、お役所の部署だ。
翠さまの呪い、それを仕掛けたインチキ法師たちに関するお話をしに行くのだろう。
「なんか早回しで動画を見てるみたいだな。玄霧の帰宅後ルーチーン、二倍速って感じ。お気に入りしてる視聴者は私だけのマイナーチャンネル」
私たちも人のことを言えないけれど、玄霧さんのせっかちは度を越しているように、たまに思う。
翠(すい)さまのお兄さんだから、仕方ないか。
と言う事情で、玄霧さんとそして巌力(がんりき)さんもお役所の人たちと外で話していることが多い。
私たち女衆は前とさほど変わらずに、屋敷内の雑務に従事していた。
「央那(おうな)さん、これ、僕たちからのお土産です」
玄霧さんに続き、お屋敷に帰った想雲(そううん)くん。
河旭で手に入れたという書籍を三冊、私にプレゼントしてくれた。
「えっホント、うわすっごい嬉しい。って言うかこの題名のない本はなに?」
中に一つ、新品の紙にさっき書きましたと言うほどに綺麗な、紙の束を糸で綴じただけの本があった。
題名も作者名もなく、どんな本なのかすら表紙からはわからない。
他の二冊は、虫や植物の図巻と、持ち歩きに便利な小さい難読字典だった。
字典はおそらく、軽螢(けいけい)からのプレゼントだろうな。
この中では一番、安そうだし。
「その本については僕もはっきりわからないのですけど、昔のお役人さんが想像で書いた、さらに古代の伝説のお話である、というもので。古伝に記されていないような架空の王朝や王の物語が、書かれているようです」
「なにそれ意味わかんなくて超アガるし。要するに名前も残らない誰かが書いた黒歴史ノートじゃん。ごめんなさいね~読んじゃうけど呪わないでね~ウフフ」
「は、ハァ……」
想雲くんが若干、引いているけれど気にしない。
私は思いがけず手に入った珍品にハスハスして、眠る翠さまの傍らで読書の蟲になる。
「へえ、この王様は支配している全土の様子を、自分の子である各地に派遣した王子たちの目を通して知ることができたそうですよ」
若干のSF的な要素もありそうな話を、私は翠さまに読み聞かせる。
大昔にいたと設定されている凄い王国の凄い王さまは、文字通りに「全土」を、王子たちの目を通して見て知ることができた、という話らしい。
要するにネットで常に王子カメラが映すライブ映像が繋がっていて、必要であればアーカイブもできる、みたいな仕組みだ。
しかし、と私は名も顔も知らぬ誰かが書いたこの設定に、疑問を持つ。
「派遣した王子がどうでもいいものばっかり見てるとか、実は行った先で視力薄弱になってしまって物が見えないとかだったら、意味ないシステムですよね。王子の中には王さまに反感を持ってて、なんとかしてデタラメの視覚情報を送ろうとした子がいるかもしれないし」
自分で見ていない、王子たちの目というバイアスを通してしか入手できない映像と情報に、どれだけの価値があるのか。
本当にそれは真実を映しているのか。
「ならあんたは頑張って自分の目で本物を見にあちこちへ行きなさいな」
私の幻聴か、と思った。
翠さまの声で、私の独り言や思索に対する回答が聞こえたのだ。
室内には他に誰もおらず、幻聴でないなら翠さまが言ったに違いないけれど。
「す、翠さま?」
「むにゃ。すぅ、すぅ」
いくら確認しても、今までどおり安らかに眠り続ける翠さましか、この部屋にはいないのだった。
「これも今、私が聞きたがってる言葉でしかないのかな」
他者ではない、自分の感覚に身を委ねても。
人は、私は見たいものしか見ないだろうし、聞きたいことしか聞かないだろう。
王子たちの目を通して四方八方を見ていた幻想の王さまも、自分が見たくないものは結局、見なかったに違いない。
人が識(し)る世界はどうしても狭く、偏りがあり、目に映るのも「思い込み」と言う名の色眼鏡フィルターがかかった虚像だらけなのだ。
「私にとっての『本物』かあ」
少なくとも今現在、私が自分の目で見たい、この手に触れたいと本心から思っているのは、翠さまの産む赤ちゃんだ。
「辛いこともあるけど、世界は素敵で楽しいよ。早く会えるといいね」
翠さまのお腹をそっと撫でる。
返事のつもりなのか、わずかに中から蹴り返して来たような気がした。
「明日には出発だね」
日を重ねて、国境市場の開催が目前に迫った。
寝たきりだというのに翠さまは食欲が以前よりも増して、お粥のようなドロドロ食品も難なく嚥下できるようになった。
私は翠さまのお世話に数日の空白を作ることに後ろめたさを感じながらも、お出かけセットを準備している。
「軽螢(けいけい)は『行けたら行く』と言っているようだ。期待しないでおこう」
翔霏(しょうひ)が翼州(よくしゅう)からの定期連絡を読みながら言った。
神台邑(じんだいむら)の再建、最初の青写真を作る作業は、なかば軽螢と椿珠(ちんじゅ)さんに任せっきりになっている。
翠さまが子どもを無事に産んで後宮に戻った暁には私たちも合流する予定だけれど、まだ先の話。
長老の孫とやさぐれ商人がタッグを組んで造る新しい邑というのも、夢とロマン溢れる物語であるな。
角州にいる私たちの側でも、新しい門出がある。
「想雲くんにとっては武官見習いのお仕事始めだね。怪我をしないで無事に終わると良いけど」
「角州左軍の仲間たちに囲まれているんだ。危ないことなどあるまい」
玄霧さんと想雲くんは、軍のみなさんと一足早く現地入りして、準備や警戒にあたっている。
お父さんと一緒の仕事に取り組める機会とあって、想雲くんは目に見えて張り切り、現場である国境の砦へ向かって行った。
「出店だけで百以上かあ。意外と集まったもんだね」
「なにせはじめてのことだからな。様子見で顔を出したい店が多かったんだろう。次に繋がるかどうかは知らないが」
市場開催は当初、小規模でも仕方ないという空気が流れていた。
どれだけのお客さんが来るか未知数だし、暴威で鳴らした旧青牙部の人間を怖がる人が多かったからだ。
しかし、角州公爵家がみずから、宝物のいくらかをこの市場で放出すると宣言した日から、流れが変わった。
その話を受けた斗羅畏(とらい)さんサイドも「余剰の毛皮や獣骨を処分したいのだが、買い手はいるだろうか」と角州に相談を持ちかけた。
ここからはもう、雪崩のように出店希望者が続出し、最終的には抽選まで行われて百を超えるお店が並ぶことになったのだ。
おめでたい話が進む裏で、私の中にある不安要素と言えば。
「玄霧さんは、戌族同士が揉め続けてくれた方が都合が良いって考えてる人たちが、姜(きょう)さんの他にもたくさんいるって言ってた」
翔霏は腕を組んで目を閉じ、フムと呟いて返答する。
「実際そうなのだろう。あの若白髪の軍師が軟禁されていようが、なにかを起こしたいやつはあちこちに潜んでいるのだろうな」
「でも斗羅畏さんたちと角州が仲良くなれば、他の勢力がおいそれと斗羅畏さんに手出しできなくなるよね?」
パワーバランス、抑止力による平和というものだ。
他の氏族はどうあれ、斗羅畏さんは今回の交流が上手く行けば、相互防衛という面で他の勢力を一歩、先んずる。
小さな、けれど大事な一歩だ。
フッと皮肉っぽく笑い。
珍しく、本当に珍しいことに、翔霏が泣きそうな顔で呟く。
「私たちの邑を焼いたような連中を、頭目が変わったからといってこんなにも、気にしてやる日が来るなんてな……」
彼女の言葉に、私はなにを返していいのか、わからなかった。
「馬鹿なことはしていなかっただろうな」
司午(しご)屋敷に着いて私の顔を見るなり、そんな失礼な発言をブチ込んできやがった。
「ええ、おかげさまでとても穏やかに毎日を過ごしておりますわ。おほほ」
「なにか悪いものでも食ったか。明日は医者に行け。昔から世話になっている先生がいる。信頼できる方だ。お前のような可哀想な頭の娘でも、親切に話を聞いてくれるだろう」
本気で心配すんなや、至れり尽くせりが逆に腹立つわ。
「うるせーですっつーの。マジなにもなく、平和ですよ」
「そうか」
途端に私なんかへの興味をさっぱり失ったかのように、話題を変えて玄霧さんは言った。
「除葛(じょかつ)のやつは、河旭(かきょく)の郊外の屋敷で謹慎している。事実上の軟禁だな」
「え、あ、はい、そ、それはなにより」
魔人は、無事にお縄につき、囚われた。
玄霧さんや国のお役人さんたち、仕事をキッチリと進めてくれていたようだ。
これから厳しい取調べが、姜(きょう)さんには待っているんだろう。
上着を脱いで自分で衣装掛けに、きびきびとした動きで吊るす玄霧さん。
気のせいかもしれないけれど、玄霧さんは使用人とかに体を触られるのを、どうも嫌っているっぽい。
良いとこのお坊ちゃんの割には、なんでもかんでも、自分でやる癖がついているからだ。
神経質なんかな。
結婚したくねえタイプだのう。
失礼な感想を抱いている私に気付かず、帰宅後の荷物整理をしながら若干の早口で玄霧さんが話す。
「角州公(かくしゅうこう)が、翠蝶(すいちょう)の身の周りの不穏をかなり詳しく調べて河旭に情報を送ってくださった。国境で開催される市場の件も含めて、俺はしばらく州庁府で話すことになる。屋敷の細かいことは、引き続きお前たちに任せたぞ」
「ええ、それは承知しています。あと、その市場のことなんですけど」
私と翔霏(しょうひ)も行くつもりです、と話す前に。
「もう正午を過ぎたか。司祝門(ししゅくもん)に行かねば」
バタバタと忙しく再び出かける準備をして、玄霧さんは風のようにいなくなった。
司祝門というのは宗教関係のことを管理する、お役所の部署だ。
翠さまの呪い、それを仕掛けたインチキ法師たちに関するお話をしに行くのだろう。
「なんか早回しで動画を見てるみたいだな。玄霧の帰宅後ルーチーン、二倍速って感じ。お気に入りしてる視聴者は私だけのマイナーチャンネル」
私たちも人のことを言えないけれど、玄霧さんのせっかちは度を越しているように、たまに思う。
翠(すい)さまのお兄さんだから、仕方ないか。
と言う事情で、玄霧さんとそして巌力(がんりき)さんもお役所の人たちと外で話していることが多い。
私たち女衆は前とさほど変わらずに、屋敷内の雑務に従事していた。
「央那(おうな)さん、これ、僕たちからのお土産です」
玄霧さんに続き、お屋敷に帰った想雲(そううん)くん。
河旭で手に入れたという書籍を三冊、私にプレゼントしてくれた。
「えっホント、うわすっごい嬉しい。って言うかこの題名のない本はなに?」
中に一つ、新品の紙にさっき書きましたと言うほどに綺麗な、紙の束を糸で綴じただけの本があった。
題名も作者名もなく、どんな本なのかすら表紙からはわからない。
他の二冊は、虫や植物の図巻と、持ち歩きに便利な小さい難読字典だった。
字典はおそらく、軽螢(けいけい)からのプレゼントだろうな。
この中では一番、安そうだし。
「その本については僕もはっきりわからないのですけど、昔のお役人さんが想像で書いた、さらに古代の伝説のお話である、というもので。古伝に記されていないような架空の王朝や王の物語が、書かれているようです」
「なにそれ意味わかんなくて超アガるし。要するに名前も残らない誰かが書いた黒歴史ノートじゃん。ごめんなさいね~読んじゃうけど呪わないでね~ウフフ」
「は、ハァ……」
想雲くんが若干、引いているけれど気にしない。
私は思いがけず手に入った珍品にハスハスして、眠る翠さまの傍らで読書の蟲になる。
「へえ、この王様は支配している全土の様子を、自分の子である各地に派遣した王子たちの目を通して知ることができたそうですよ」
若干のSF的な要素もありそうな話を、私は翠さまに読み聞かせる。
大昔にいたと設定されている凄い王国の凄い王さまは、文字通りに「全土」を、王子たちの目を通して見て知ることができた、という話らしい。
要するにネットで常に王子カメラが映すライブ映像が繋がっていて、必要であればアーカイブもできる、みたいな仕組みだ。
しかし、と私は名も顔も知らぬ誰かが書いたこの設定に、疑問を持つ。
「派遣した王子がどうでもいいものばっかり見てるとか、実は行った先で視力薄弱になってしまって物が見えないとかだったら、意味ないシステムですよね。王子の中には王さまに反感を持ってて、なんとかしてデタラメの視覚情報を送ろうとした子がいるかもしれないし」
自分で見ていない、王子たちの目というバイアスを通してしか入手できない映像と情報に、どれだけの価値があるのか。
本当にそれは真実を映しているのか。
「ならあんたは頑張って自分の目で本物を見にあちこちへ行きなさいな」
私の幻聴か、と思った。
翠さまの声で、私の独り言や思索に対する回答が聞こえたのだ。
室内には他に誰もおらず、幻聴でないなら翠さまが言ったに違いないけれど。
「す、翠さま?」
「むにゃ。すぅ、すぅ」
いくら確認しても、今までどおり安らかに眠り続ける翠さましか、この部屋にはいないのだった。
「これも今、私が聞きたがってる言葉でしかないのかな」
他者ではない、自分の感覚に身を委ねても。
人は、私は見たいものしか見ないだろうし、聞きたいことしか聞かないだろう。
王子たちの目を通して四方八方を見ていた幻想の王さまも、自分が見たくないものは結局、見なかったに違いない。
人が識(し)る世界はどうしても狭く、偏りがあり、目に映るのも「思い込み」と言う名の色眼鏡フィルターがかかった虚像だらけなのだ。
「私にとっての『本物』かあ」
少なくとも今現在、私が自分の目で見たい、この手に触れたいと本心から思っているのは、翠さまの産む赤ちゃんだ。
「辛いこともあるけど、世界は素敵で楽しいよ。早く会えるといいね」
翠さまのお腹をそっと撫でる。
返事のつもりなのか、わずかに中から蹴り返して来たような気がした。
「明日には出発だね」
日を重ねて、国境市場の開催が目前に迫った。
寝たきりだというのに翠さまは食欲が以前よりも増して、お粥のようなドロドロ食品も難なく嚥下できるようになった。
私は翠さまのお世話に数日の空白を作ることに後ろめたさを感じながらも、お出かけセットを準備している。
「軽螢(けいけい)は『行けたら行く』と言っているようだ。期待しないでおこう」
翔霏(しょうひ)が翼州(よくしゅう)からの定期連絡を読みながら言った。
神台邑(じんだいむら)の再建、最初の青写真を作る作業は、なかば軽螢と椿珠(ちんじゅ)さんに任せっきりになっている。
翠さまが子どもを無事に産んで後宮に戻った暁には私たちも合流する予定だけれど、まだ先の話。
長老の孫とやさぐれ商人がタッグを組んで造る新しい邑というのも、夢とロマン溢れる物語であるな。
角州にいる私たちの側でも、新しい門出がある。
「想雲くんにとっては武官見習いのお仕事始めだね。怪我をしないで無事に終わると良いけど」
「角州左軍の仲間たちに囲まれているんだ。危ないことなどあるまい」
玄霧さんと想雲くんは、軍のみなさんと一足早く現地入りして、準備や警戒にあたっている。
お父さんと一緒の仕事に取り組める機会とあって、想雲くんは目に見えて張り切り、現場である国境の砦へ向かって行った。
「出店だけで百以上かあ。意外と集まったもんだね」
「なにせはじめてのことだからな。様子見で顔を出したい店が多かったんだろう。次に繋がるかどうかは知らないが」
市場開催は当初、小規模でも仕方ないという空気が流れていた。
どれだけのお客さんが来るか未知数だし、暴威で鳴らした旧青牙部の人間を怖がる人が多かったからだ。
しかし、角州公爵家がみずから、宝物のいくらかをこの市場で放出すると宣言した日から、流れが変わった。
その話を受けた斗羅畏(とらい)さんサイドも「余剰の毛皮や獣骨を処分したいのだが、買い手はいるだろうか」と角州に相談を持ちかけた。
ここからはもう、雪崩のように出店希望者が続出し、最終的には抽選まで行われて百を超えるお店が並ぶことになったのだ。
おめでたい話が進む裏で、私の中にある不安要素と言えば。
「玄霧さんは、戌族同士が揉め続けてくれた方が都合が良いって考えてる人たちが、姜(きょう)さんの他にもたくさんいるって言ってた」
翔霏は腕を組んで目を閉じ、フムと呟いて返答する。
「実際そうなのだろう。あの若白髪の軍師が軟禁されていようが、なにかを起こしたいやつはあちこちに潜んでいるのだろうな」
「でも斗羅畏さんたちと角州が仲良くなれば、他の勢力がおいそれと斗羅畏さんに手出しできなくなるよね?」
パワーバランス、抑止力による平和というものだ。
他の氏族はどうあれ、斗羅畏さんは今回の交流が上手く行けば、相互防衛という面で他の勢力を一歩、先んずる。
小さな、けれど大事な一歩だ。
フッと皮肉っぽく笑い。
珍しく、本当に珍しいことに、翔霏が泣きそうな顔で呟く。
「私たちの邑を焼いたような連中を、頭目が変わったからといってこんなにも、気にしてやる日が来るなんてな……」
彼女の言葉に、私はなにを返していいのか、わからなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる