神聖国 ―竜の名を冠する者―

あらかわ

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11.  アノニマス 3

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 それからは驚くほど全てが早かった。
 
 シンの魔法は紛れもなく強力で、《アノニマス》を完全に圧倒していた。
 そこに遅れて到着した仲間も加わり、テイト達の攻防はすぐに逆転した。

 《アノニマス》は魔法を扱う強敵の存在を恐れたのか、不利だと理解するとすぐに逃亡を謀り、テイトはそれを追うこともなく見送った。
 シンはそんなテイト達の様子に訝しげな視線を寄こし、テイトはそれに苦笑を返した。

「敵の殲滅が目的な訳じゃないですから」
「甘いな。そんなことしてるから奴らは同じことを繰り返すんだろ」

 それは確かにその通りであったが、テイトは自分たちの存在が抑止力となり、相手が攻撃を止めてくれればそれでいいと思っていた。
 その考えが甘いことは十分理解していたが、テイトの目的はあくまで守ることで、戦うことではない。
 ましてや、人を殺すつもりなんて毛頭なかった。

 《アノニマス》が去った後、テイト達は被害者の救出に努めた。
 シンのおかげでいつもよりも負傷者が少なく建物の損壊が抑えられたと言っても、やはり被害を被った者は存在している。
 間に合わず、命を落とした者もいる。
 どこからか聞こえる悲痛な泣き声を耳にしながら、今の状況を喜んでばかりはいられない、とテイトは気を引き締めた。

「テイト! 本当に魔法使いを仲間にしたんだな!」

 途中で合流した仲間が、興奮気味にそう言った。
 これほどまでに被害を出さずに《アノニマス》を追い返せたのは初めてのことで、仲間の瞳もどこか希望に満ちているようであったが、テイトはそれに曖昧に返事をするしかなかった。

「――おい、こいつらはどうするんだ」

 瓦礫の撤去などの指示を出している時に背後からシンに声をかけられ、テイトはそちらに視線を向けた。
 シンは親指で拘束した三人を指し示しており、テイトはそこでようやく彼らの存在を思い出した。

「そういえば、シンさん捕まえてくれてましたね」
 今まで捕まえたことがないのですっかり忘れてました、とテイトは駆け寄って思案した。

 フードを剥ぎ取られた彼らは、依然気を失っているが、普通のどこにでもいそうな男性に見えた。 
 彼らに話を聞けば、《アノニマス》の情報を手に入れることができるだろう。
 しかし、たとえ拘束されていたとしても魔法を使うことはできるため、どうにかして安全に話を聞く手立てを考えなければ、と唸るテイトの横で徐にシンが男の頭上に掌を翳したのが見えた。
 何を、と尋ねる前にシンの手から湧き出るように水が溢れだし、その水は気絶する男の上に大量に降り注がれた。
 テイトはぎょっとして抗議の声を上げた。

「ちょっ、何してるんですか!?」
「話を聞くなら起きてもらわないとできないだろ」
「でも、魔法を使われたら……」
「俺がいるだろ」

 なんてことないように言われ、テイトは口を噤んだ。
 正直、それだけ言い切れるシンが羨ましかった。

 水を浴びて、呻きながら顔を上げた男がテイトとシンを視界に入れた瞬間、敵意に満ちた目で何らかの魔法を発動しようとしたため、テイトはすぐに臨戦態勢を取った。
 しかし、何故かその魔法が発動されることはなく、男は怯えたようにシンを見上げている。
 そのため、シンが何らかの方法で魔法を防いでくれたことだけは理解できた。

 シンから視線を送られ、テイトは構えを解いてゆっくりと息を吐き出した。

「――貴方たちの目的を教えてください」
「っい、いやだっ、殺さないでくれ」

 男は怯えた様子で、首を振った。
 テイトは無意識に顔を歪めた。

 人の命をまるで虫でも殺すかのような気安さで奪うくせに、何故自分に危険が迫った時に命乞いができるのか。
 テイトは今まで何度も見てきたのだ。

 命乞いをする人の命を笑いながら奪う《アノニマス》の姿を。

「……貴方たちが僕たちに情報をくれるのであれば、命まで奪うつもりはありません」

 テイトは毅然とした態度で伝えた。
 《アノニマス》と同じことをするつもりは到底なかった。

「やっ、やめてくれ、許してっ許してくれ」

 男は狂ったように同じことを繰り返すのみであった。
 何を尋ねても目が合うことはおろか心さえここに在らずといった状態で、虚空に向けて只管叫ぶだけであった。
 さすがに何か可笑しい、とテイトはシンと顔を見合わせた。

「落ち着いて、話をしましょう」
「やだやだやだ、やめてくれ、お願いだっ」

 男の様子は異常だった。
 困惑するテイトの横でシンも眉を顰めた。

「許してくれ、次は失敗しないっ、だからっ、まだ死にたくないっ」

 男は一人で話し続け、涙を流した。
 その目がテイトやシンを映すことはなく、何もないところを見たまま、やがて、見開かれた。

「殺さないでくれっ――ヨン、様」

 瞬間、男の胸が重たい音共に弾け飛んだ。
 飛び散る鮮血を避けきれずに受けながら、テイトは立ち竦んだ。

「――ぇ」

 テイトは男を凝視した。
 先程まで狂ったように話し続けていた男は、今はぐったりと俯いている。
 その胸は赤黒く染まり、その面積は徐々に服全体に広がっているように見えた。
 拘束されていた他の二人も同じように胸を赤色に染めながら項垂れている。
 何が起こったのかを考えなければいけないのに、テイトは言葉を失い、その場を動くことすらできなかった。

 一瞬目を見開いたシンは、眉間に皺を寄せながら拘束を解き、倒れた男の様子を確認している。
 しかし、三人が既に事切れていることは誰の目にも明らかだった。
 シンは周囲を見回して他に魔道士がいるかを確認してくれたが、眉間の皺をより一層深くするのみであった。

「……あんた達、えらい奴らと戦ってんだな」

 シンの言葉に応える余裕もなく、テイトは拳を握りしめた。
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