神聖国 ―竜の名を冠する者―

あらかわ

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 旅の二日目。
 休憩場所にと選んだ広々とした草原の木陰で、シンとレンリは魔法談義に花を咲かせていた。

「――レンリ、魔法の打ち消しはどうやったんだ? 瞬時に相殺できるなんて、並大抵のことじゃないぞ」
「実は、私にもよく分からなくて……」

 レンリはテイトに以前語ったことをそのまま伝え、加えて他の魔法が使えないことも打ち明けた。
 シンは考えるように顎に手を置き、それから小さく呟いた。

「……何か特別な制約があるのか?」
「制約? 魔法はそういうこともあり得るのですか?」
「あった試しはないが、もしかしたら、そういう研究がされていたのかもという俺の推測だ。他の魔法を縛る代わりに、何か一つの魔法能力だけを長けさせるとか。ただ、あんたみたいに賢い奴にするにはデメリットしかなさそうな制約だけど」
 専門外だからそれも全て予想の範疇でしかないが、と続けてシンはテイトを手招きした。
 
 二人の話していたことは自分にとっても難しい話題だったため、何故呼ばれたか分からずにテイトはビクビクとしながら近寄った。

「な、なんでしょうか?」
「取り敢えず、レンリの防御魔法がどこまで使えるか試したい。的になってくれ」
「……え、え?」

 テイトが困惑してシンを見る横で、レンリも不安そうにシンを見つめた。

「俺が魔法を放つから、あんたは動かずに立ってるだけでいい。まぁ安心しろ、もし怪我をしても治してやるから」
「そういうことじゃ……」
「私も、危険だと思います」

 自分の魔法をいまいち信じ切れていない様子のレンリは止めた方がいいとしきりに訴えたが、どこまで使えるか知ることで他の奴の立ち回りも変わってくるから、とシンが真剣な様子で説いたため、テイトはゆっくりと頷いた。

「そう、ですよね。僕やります」
「テイト……」

 尚も不安そうなレンリに、テイトは安心させるように笑いかけた。

「大丈夫です。何かあっても、治してくれるみたいですし……」

 レンリの顔は晴れなかったが、シンとテイトのやる気に押されてそっと頷いたようであった。

 テイトが十メートルほど離れた場所に移動すると、シンは徐に右手を上げてテイトを指さした。
 直後、その人差し指を中心にシンの周囲は雷を帯びたように光りだし、次第にバチバチと大きな音を立て始めた。

「――いくぞ」

 余りの迫力に、テイトはまるで死刑宣告でも受けたかのように体を硬直させた。
 破裂音と共に迫り来る電撃をただ無防備に突っ立って待ち受けることなんて出来るはずもなく、思わず両手で頭を守るような体勢をつくって目を固く瞑った。

 しかし、恐れていた衝撃はいつまで経っても訪れなかった。
 先程まで確かに鼓膜を震わせていたはずのバチバチとした音もいつの間にか聞こえなくなっていたため、テイトは恐る恐ると目を開いた。
 シンとテイトの間の地面は所々深く抉れているが、目に見える異常は逆に言えばそれだけであり、シンの攻撃など最初からなかったかのような静寂に包まれていた。
 しかしながら、地面のその様子から察するに、もし攻撃が当たっていたらと考えるとテイトの口からは安堵か恐怖か分からない吐息が零れた。

 シンは憔悴しているテイトに気付いていないのか、感心したようにレンリを見遣ると、その後も休む間もなく色々な種類の魔法をテイトに放ち続けた。
 暫く心臓の休まらない時間が続いたが、放たれたシンの魔法はどれも決してテイトに当たることはなかった。

 そして、幾つかの実験を経て、レンリの魔法は視界に入った者を守るようだ、とシンは結論づけた。

「凄い魔法だ。どんな攻撃も一瞬で無力化なんて、俺にもできないと思う」
「自分ではあまり自覚がないのですが……」
「それも含めての制約なのかもな。考えずに発動できる代わりに、他の魔法が使えないんだ」

 シンはどこか楽しそうに告げた。
 出会ってから初めて目にしたその邪気のなさそうな笑顔は、会話なしにそこだけ切り取れば、年相応の少年のように見えた。

「難点はあんた自身を守るためには発動しないことだけだが……まぁ、常にあんたの傍に誰かしらを置いておけばいいだけだし、大きな問題ではないか」
「何故私には発動しないと?」
「俺が森であんたに攻撃した時、防げなかっただろ?」
「……そういえば」

 レンリは納得したように頷いたが、シンの言葉に全員が一瞬の空白の後に反応を示した。

「シ、シンさんレンリさんを攻撃したんですか!?」
「お前マジか……」
「いくらシン様でもその言葉は聞き逃せませんわ!」

 三者三様に責められ、シンは鬱陶しそうに片眉をぴくりと動かした。
 すると、レンリがシンを庇うように前に出た。

「攻撃と言っても、怪我をさせられたわけではありませんし」
「そうは言っても……」
「不法侵入者には警戒して当然だろ」
「それでも女の子相手にそれはねーわ」
「……じゃあなんだ、あんたらは戦う相手に女がいたら戦わないのか?」

 リゲルが言い返せずに言葉に詰まると、シンは呆れたような表情でわざとらしく溜息を吐いた。
 二人の距離はこの旅路で寧ろどんどん離れていっているようだった。

「レンリさん、本当に怪我をしてないんですよね?」
「ふふ、大丈夫です」

 念押して聞くテイトに、レンリは優しく笑って見せた。
 それでも、テイトは森で再会した時のレンリの姿を思い出して、少しだけ唇を噛んだ。
 泣きそうな顔をしていたけれど、きっと不安な思いをさせていたのだろうな、とテイトは思わずにはいられなかった。
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