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21. ルフェール教団 1
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ルフェールは大きな都市であった。
今まで訪れた都市に比べて白が基調となった建物が多いのが特徴的で、草花などの自然も多様であり、白い壁とカラフルな植物のコントラストは、その都市の活気の良さを表わしているようであった。
そんな明るい雰囲気の街中を歩きながら、テイト達は教団支部を目指して最終の擦り合わせを行っていた。
「――先ず、俺が教団の奴らに声をかけるが、俺だと門前払いになる可能性がある。そこで、」
「あたしがフードを取って一言添えればいいのでしょう!」
ナナがやる気満々と言った様子で両手の拳を握り込むと、シンは些か不安そうに頷いた。
「レンリ様の手を煩わせるまでもありませんわ。あたしに全てお任せくださいませ!」
尚も勇んでレンリに言い切る姿を見て、シンはレンリの耳元に口を寄せて何やら伝えているようであったが、テイトにその内容は聞こえなかった。
「テイト様も期待していてくださいませ。あたしがクエレブレに拠点を与えてみせますわ!」
「うん、ありがとう。でも無理はしないで」
「ナナちゃん、俺も期待してる」
「……気安く話しかけないでいただけます?」
相変わらずリゲルにはツンとした態度で接するナナだが、何故かリゲルは楽しそうに笑っていた。
「……ナナ、拠点の条件は?」
「市民を巻き込まないように、希望は建物自体が独立して存在している場所。どこでも向かえるように、国の中心付近が望ましく、だからといって交通手段が限られてはいけないので都市部の近くが最優先。拠点の大きさは少なくとも百人程度が生活できる規模でなければダメ。更に望むのであれば、建物を囲む壁なり特殊な地形なりがあって、簡単に攻め込まれないような立地でしたら完璧、ですわね!」
「分かってるなら何よりだ」
取り敢えずはよし、とシンは小さく息を吐いた。
二人のやりとりを聞きながら、そんなに上手くいくのだろうかとテイトは内心気掛かりで仕方なかった。
シンの求める条件もさることながら、そもそも教団がそんな簡単に話を聞いてくれるのだろうか、とテイトはシンが単純明快に語る言葉を疑っていた。
それに関してはリゲルも概ねテイトと同じ気持ちのようで、目が合うと何も言わずに肩を竦められた。
おそらくレンリも同じ気持ちなのではないかと思うのだが、レンリは目深にフードを被っており、その表情を読み取ることはできなかった。
そんな不安を抱えながら辿り着いた教団支部は丁度街の中心に位置しており、白い建物ばかりのこのルフェール内で一際白く輝いて見えた。
どこか城を彷彿させるような造りをしており、その建物を囲むようにぐるりと高い壁が張り巡らされていた。
表と裏の二カ所にある大門の内表門のみが大きく開かれ、信者やら神官やらが門を潜って頻繁に出入りをしていた。
見た限り入場は自由なようだったため、テイト達もそこから中に入り込み、色とりどりの花が咲き誇る庭園を抜けて教団の中に足を踏み入れた。
中は真っ白な外観とは対照的に、豪華な造りをしていた。
天井は高く、その高さに合わせて設置された大きな窓には所々色がついており、差し込む陽光を色鮮やかなものに変えていた。
入ってすぐの広い空間には正面を向いて多くの長椅子が配置され、その椅子に座って向く方向には竜を象った大きな像が鎮座していた。
建物の中にいる者は皆、その竜の像に祈りを捧げているようであった。
テイトは暫しその光景に圧倒されながら立ち竦んでいたが、周囲の様子を気にも留めずに進むシンに気付き、慌ててその後を追いかけた。
シンは竜像の傍らに立ってにこやかに信者を見守っている老齢の神官の前で立ち止まった。
ゆったりとした白っぽい衣服を身につけた神官は、偉そうに腕を組んで立つシンに目を瞠ったかと思うと、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「どうされましたか? お祈りはお済みですか?」
「祈りに来たわけじゃない。ここの責任者と話がしたい」
神官の目元に僅かに疑心が宿り、テイトはハラハラとした気持ちでやりとりを見守った。
「……約束でもされているのでしょうか?」
「緊急の用件だから、約束を取り付ける暇がなかった」
「……失礼ですが、貴方は一体どういった方なのでしょう?」
「訳あってクエレブレに協力している者だ」
クエレブレと言う言葉を聞いた神官の目元が細まり、不信感が更に露わになったのを感じてテイトは冷や汗を流した。
空気は少しずつ張り詰めたものに変わっていくようだった。
「クエレブレ……教祖は、竜神様の名を騙る貴方たちの存在を嘆かわしく思っております。その関係者の方であるのならば、お話しすることは叶わないでしょう。お帰りください」
神官は真っ直ぐ出口を指さした。
神官の纏う冷たい空気にテイトは怯んだが、シンは不敵に笑っていた。
「俺たちが騙っていると?」
「えぇ。竜神様の名を使っていれば、何をしてもいいと思っておられるのなら、大層な勘違いでございます」
《クエレブレ》は古代語で竜を表わしている。
前リーダーであるユーリが組織にその名をつけたと聞いたが、まさか教団の不興を買っていたなんて、と顔を青くするテイトを余所に、シンは笑みを深めたままナナの方を振り返った。
ナナはその視線を受け、心得たとばかりに一歩前に出てシンの横に並び立つと、頑なに被っていたそのフードを自ら剥ぎ取った。
「――あたしが味方している者にそのような態度を取るなんて、非常に残念ですわ」
「っみ、御使い様!」
神官の驚きに満ちた声によって周囲の視線が集まり、ナナの姿を見た信者から歓は喜にも似た声が上がった。
テイトも今初めてまじまじとナナを見つめた。
言動からはかなり幼い印象を受けたが、彼女も自分の見た目とそう年齢は変わらないように見えた。
黄色の真っ直ぐ伸びた髪を耳下で二つに縛り、真っ赤な瞳は勝気に吊り上がっている。
綺麗と言うよりは可愛らしい見た目のナナは、集まる視線に臆することなく堂々と胸を張った。
周囲の声はだんだんと大きくなり、それに比例するように人も集まってきたため、神官は焦った様子でこちらへとテイト達を別室へと案内した。
一先ず話はできそうだとテイトが安堵の息を吐く横で、ナナが嬉しそうにシンの耳元に口を寄せたのが見えた。
「第一段階は上手くいきましたわね」
「あぁ、上出来だ」
シンの言葉にナナは満面の笑みを浮かべ、次いでテイトを見上げた。
「テイト様もこのままあたしにお任せください、万事上手くいきますわ」
自信満々に言い切るナナにテイトは曖昧に笑った。
そんな反応でもナナには十分だったようで、機嫌良く口元を綻ばせたのが分かった。
神官に連れられて通された部屋は、応接室のようであった。
部屋の中心に少し低めの長机があり、ふかふかとした大きなソファが机を挟むように配置されていた。
部屋に置いてあるものは多くないが、そのどれもが高価そうに見えてしまいテイトはすっかり萎縮してしまった。
硝子ケースに入った骨董品のようなものも飾られており、無闇矢鱈に触れないようにしようとテイトは心に誓った。
ソファに座るように促され、ナナと依然フードを被ったままのレンリを挟むようにして座ると、リゲルだけがソファの後ろで警戒するように立ち位置を定めた。
神官は、上の者を連れて参ります、と言うとナナに向かってだけ礼をし、静かに部屋を出て行ってしまった。
その姿を見送って、テイトはゆっくりと息を吐き出してソファに背を預けた。
リゲルが頭をポンポンと数回叩いてくれたことで、緊張が僅かに緩和されたような気がした。
「――会話は俺に任せろ。ナナは自身のことについて質問が来た時だけ答えればいい」
「分かりましたわ」
「レンリも状況によっては援護して欲しい」
「……はい」
「レンリ様、心配には及びませんわ。奴らにわざわざレンリ様の尊い姿を見せる必要はありませんわ」
お任せください、とナナはレンリの手を握った。
そんないつも通りのナナの姿に、レンリは小さく笑ったみたいだった。
「ナナも、気負いすぎないでね」
「お優しい言葉に感謝しますわ」
少女達の会話に肩の力が抜けかけたところで扉のノック音が聞こえ、皆一様に黙り込んで扉を見据えた。
今まで訪れた都市に比べて白が基調となった建物が多いのが特徴的で、草花などの自然も多様であり、白い壁とカラフルな植物のコントラストは、その都市の活気の良さを表わしているようであった。
そんな明るい雰囲気の街中を歩きながら、テイト達は教団支部を目指して最終の擦り合わせを行っていた。
「――先ず、俺が教団の奴らに声をかけるが、俺だと門前払いになる可能性がある。そこで、」
「あたしがフードを取って一言添えればいいのでしょう!」
ナナがやる気満々と言った様子で両手の拳を握り込むと、シンは些か不安そうに頷いた。
「レンリ様の手を煩わせるまでもありませんわ。あたしに全てお任せくださいませ!」
尚も勇んでレンリに言い切る姿を見て、シンはレンリの耳元に口を寄せて何やら伝えているようであったが、テイトにその内容は聞こえなかった。
「テイト様も期待していてくださいませ。あたしがクエレブレに拠点を与えてみせますわ!」
「うん、ありがとう。でも無理はしないで」
「ナナちゃん、俺も期待してる」
「……気安く話しかけないでいただけます?」
相変わらずリゲルにはツンとした態度で接するナナだが、何故かリゲルは楽しそうに笑っていた。
「……ナナ、拠点の条件は?」
「市民を巻き込まないように、希望は建物自体が独立して存在している場所。どこでも向かえるように、国の中心付近が望ましく、だからといって交通手段が限られてはいけないので都市部の近くが最優先。拠点の大きさは少なくとも百人程度が生活できる規模でなければダメ。更に望むのであれば、建物を囲む壁なり特殊な地形なりがあって、簡単に攻め込まれないような立地でしたら完璧、ですわね!」
「分かってるなら何よりだ」
取り敢えずはよし、とシンは小さく息を吐いた。
二人のやりとりを聞きながら、そんなに上手くいくのだろうかとテイトは内心気掛かりで仕方なかった。
シンの求める条件もさることながら、そもそも教団がそんな簡単に話を聞いてくれるのだろうか、とテイトはシンが単純明快に語る言葉を疑っていた。
それに関してはリゲルも概ねテイトと同じ気持ちのようで、目が合うと何も言わずに肩を竦められた。
おそらくレンリも同じ気持ちなのではないかと思うのだが、レンリは目深にフードを被っており、その表情を読み取ることはできなかった。
そんな不安を抱えながら辿り着いた教団支部は丁度街の中心に位置しており、白い建物ばかりのこのルフェール内で一際白く輝いて見えた。
どこか城を彷彿させるような造りをしており、その建物を囲むようにぐるりと高い壁が張り巡らされていた。
表と裏の二カ所にある大門の内表門のみが大きく開かれ、信者やら神官やらが門を潜って頻繁に出入りをしていた。
見た限り入場は自由なようだったため、テイト達もそこから中に入り込み、色とりどりの花が咲き誇る庭園を抜けて教団の中に足を踏み入れた。
中は真っ白な外観とは対照的に、豪華な造りをしていた。
天井は高く、その高さに合わせて設置された大きな窓には所々色がついており、差し込む陽光を色鮮やかなものに変えていた。
入ってすぐの広い空間には正面を向いて多くの長椅子が配置され、その椅子に座って向く方向には竜を象った大きな像が鎮座していた。
建物の中にいる者は皆、その竜の像に祈りを捧げているようであった。
テイトは暫しその光景に圧倒されながら立ち竦んでいたが、周囲の様子を気にも留めずに進むシンに気付き、慌ててその後を追いかけた。
シンは竜像の傍らに立ってにこやかに信者を見守っている老齢の神官の前で立ち止まった。
ゆったりとした白っぽい衣服を身につけた神官は、偉そうに腕を組んで立つシンに目を瞠ったかと思うと、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「どうされましたか? お祈りはお済みですか?」
「祈りに来たわけじゃない。ここの責任者と話がしたい」
神官の目元に僅かに疑心が宿り、テイトはハラハラとした気持ちでやりとりを見守った。
「……約束でもされているのでしょうか?」
「緊急の用件だから、約束を取り付ける暇がなかった」
「……失礼ですが、貴方は一体どういった方なのでしょう?」
「訳あってクエレブレに協力している者だ」
クエレブレと言う言葉を聞いた神官の目元が細まり、不信感が更に露わになったのを感じてテイトは冷や汗を流した。
空気は少しずつ張り詰めたものに変わっていくようだった。
「クエレブレ……教祖は、竜神様の名を騙る貴方たちの存在を嘆かわしく思っております。その関係者の方であるのならば、お話しすることは叶わないでしょう。お帰りください」
神官は真っ直ぐ出口を指さした。
神官の纏う冷たい空気にテイトは怯んだが、シンは不敵に笑っていた。
「俺たちが騙っていると?」
「えぇ。竜神様の名を使っていれば、何をしてもいいと思っておられるのなら、大層な勘違いでございます」
《クエレブレ》は古代語で竜を表わしている。
前リーダーであるユーリが組織にその名をつけたと聞いたが、まさか教団の不興を買っていたなんて、と顔を青くするテイトを余所に、シンは笑みを深めたままナナの方を振り返った。
ナナはその視線を受け、心得たとばかりに一歩前に出てシンの横に並び立つと、頑なに被っていたそのフードを自ら剥ぎ取った。
「――あたしが味方している者にそのような態度を取るなんて、非常に残念ですわ」
「っみ、御使い様!」
神官の驚きに満ちた声によって周囲の視線が集まり、ナナの姿を見た信者から歓は喜にも似た声が上がった。
テイトも今初めてまじまじとナナを見つめた。
言動からはかなり幼い印象を受けたが、彼女も自分の見た目とそう年齢は変わらないように見えた。
黄色の真っ直ぐ伸びた髪を耳下で二つに縛り、真っ赤な瞳は勝気に吊り上がっている。
綺麗と言うよりは可愛らしい見た目のナナは、集まる視線に臆することなく堂々と胸を張った。
周囲の声はだんだんと大きくなり、それに比例するように人も集まってきたため、神官は焦った様子でこちらへとテイト達を別室へと案内した。
一先ず話はできそうだとテイトが安堵の息を吐く横で、ナナが嬉しそうにシンの耳元に口を寄せたのが見えた。
「第一段階は上手くいきましたわね」
「あぁ、上出来だ」
シンの言葉にナナは満面の笑みを浮かべ、次いでテイトを見上げた。
「テイト様もこのままあたしにお任せください、万事上手くいきますわ」
自信満々に言い切るナナにテイトは曖昧に笑った。
そんな反応でもナナには十分だったようで、機嫌良く口元を綻ばせたのが分かった。
神官に連れられて通された部屋は、応接室のようであった。
部屋の中心に少し低めの長机があり、ふかふかとした大きなソファが机を挟むように配置されていた。
部屋に置いてあるものは多くないが、そのどれもが高価そうに見えてしまいテイトはすっかり萎縮してしまった。
硝子ケースに入った骨董品のようなものも飾られており、無闇矢鱈に触れないようにしようとテイトは心に誓った。
ソファに座るように促され、ナナと依然フードを被ったままのレンリを挟むようにして座ると、リゲルだけがソファの後ろで警戒するように立ち位置を定めた。
神官は、上の者を連れて参ります、と言うとナナに向かってだけ礼をし、静かに部屋を出て行ってしまった。
その姿を見送って、テイトはゆっくりと息を吐き出してソファに背を預けた。
リゲルが頭をポンポンと数回叩いてくれたことで、緊張が僅かに緩和されたような気がした。
「――会話は俺に任せろ。ナナは自身のことについて質問が来た時だけ答えればいい」
「分かりましたわ」
「レンリも状況によっては援護して欲しい」
「……はい」
「レンリ様、心配には及びませんわ。奴らにわざわざレンリ様の尊い姿を見せる必要はありませんわ」
お任せください、とナナはレンリの手を握った。
そんないつも通りのナナの姿に、レンリは小さく笑ったみたいだった。
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