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26. ルフェール教団 6
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連れてこられた個室には既にアニールが待っており、彼はレンリとナナの姿を見とめるとにこやかな笑顔を浮かべて丁寧に挨拶を述べた。
そのまま自然な動作で縦長のテーブルまで二人をエスコートすると、丁重に椅子を引いてレンリとナナを席へと案内した。
残されたテイト達は別の神官に誘導されて各自席についたが、テイトは真っ白なクロスの上に並べられたカトラリーを見て顔を強張らせた。
幾つもある大きさの違うフォーク、ナイフ、スプーンにマナーが試されるのかと顔を青くすると、近くに座ったリゲルも同じような顔で卓上を凝視しているのが見えた。
そのため、表面上和やかに始まった晩餐は、テイトにとってある意味苦行の時間となった。
テイトは今までマナーが必要な食事などしたことはない。
時間をおきながら運ばれてくる料理の数々を、他の人の食事の仕方を盗み見ながら、なんとか口の中へと放り込んだ。
おいしいはずなのに緊張で殆ど味はしなかった。
テイトが周囲を観察してみると、レンリは綺麗な所作で食事をしており、このような場に慣れている印象を受けた。
驚いたのは、シンやナナも同じように苦労することなく食事をしていたことだった。
その三人を手本にしながら、テイトもゆっくりと食べ物を咀嚼した。
話はアニールがレンリやナナに話題を振るような形で進んだ。
シンは話を切り出すタイミングを伺っているように見えたが、幸運なことに、シンの聞きたいことはアニール自らが口に出した。
「――あぁ、そういえば、遺跡の方は明日には何カ所かご提示できそうです」
「……本当ですか?」
「えぇ、レンリ様に憂いなく過ごしていただけるよう、早急に進めさせていただきました。今暫くお待たせしてしまうのは、申し訳ないのですが……」
「いいえ、とんでもないです。どうお礼を申し上げればいいか……」
「お礼など……御使い様の幸せが、私どもの幸せですから」
アニールはうっとりとした表情でレンリを見つめた。
その心酔しきった表情に、レンリは少しだけ困ったように微笑んだ。
そうして二時間強にも及ぶ食事を終えて部屋に戻った頃にはかなり憔悴していたため、テイトはベッドに倒れ込んだ。
「ご飯食べて疲れるとか、初めてかも」
「……俺も」
テイトが首だけ動かして横を覗い見ると、リゲルも同じようにベッドの上で俯せになって動かなくなっていた。
このまま寝てしまおうかと目を閉じかけた時、リゲルの自分を呼ぶ小さな声が聞こえたため、テイトは懸命に目蓋を押し上げた。
「なに?」
「……前から言おうと思ってたんだけど、さ」
リゲルはいつの間に体勢を変えたのか、仰向けになって天井を向いたまま歯切れ悪く話し始めた。
「俺、テイトの代わりに、レンリちゃんのこと疑うって言ってたけどさ、」
「うん」
「それ、止めるわ」
「うん。……うん?」
テイトはがばりと上体を起こしてリゲルを見遣った。
天井を眺めたままのリゲルとは目が合うことはなく、月明かりもない暗い部屋の中ではその表情を読み取ることも出来なかった。
「疑うのは、あの魔法使いがやってくれるみたいだし、俺はいいかなって」
「それは僕としてもいいんだけど……」
「命を助けてもらったのに疑うなんて、そんな薄情なことも出来ないし」
何かに言い訳するように続けるリゲルを不思議に思ったが、それでもリゲルの決断は嬉しいものだったため、テイトは緩く笑みを浮かべた。
「お前の代わりに疑うって言った手前、こういうのはちゃんと伝えておかないとって思って」
「別に気にしないけど、でも、そっか、よかった」
なんだか今日は穏やかな気持ちで眠れそうだとテイトは目を瞑ったが、今度はノック音に眠気を阻まれた。
「――アニールです、もうお休みですか」
「あ、今行きます」
テイトは慌てて起き上がった。
リゲルも体を起こしてテーブルの燭台に火を灯してくれていた。
「すみません、夜分に。少しお話いいですか?」
扉を開けると、アニールがあの人好きのする柔和な笑みを湛えたまま尋ねてきたため、テイトは是と頷いた。
その返答に笑みを深めたアニールは背後にいた神官を手で制し、失礼しますと一人で部屋へと入り込んだ。
「おや、お一人ではありませんでしたか。皆様に一部屋ずつ用意したつもりでしたが、何か問題でも?」
「いえ、そんなことは」
テイトが手を振って釈明すると、押さえる手が離れた扉は自然と動き、ガチャリと音を立てて完全に閉じてしまった。
それと同時に、アニールの顔からは笑みが消えた。
「少し、お尋ねしたいことがあるのですが」
無表情で問われ、テイトは思わず硬直した。
シンに気をつけろと言われていたことを今更ながらに思い出したが、既に教団の者を招き入れた後である。
テイトが動揺しながらリゲルを一瞥すると、リゲルも警戒したように武器の近くに立ち位置を変え、厳しい表情でアニールを注視していた。
「な、なんでしょうか?」
「竜の子の子供もまた竜の子である可能性が高いと言われています。教団は、出来得る限りその血縁者全てを把握し、御使い様の望みを叶えてきました。勿論、隠れ住む者までは知ることは出来ていませんが……」
アニールが目を細めると、彼の優しそうな面影は完全に消え去った。
その冷たい眼差しを受けて、テイトの背に冷や汗が伝った。
「レンリ様とナナ様は、今までどちらに住まわれていたのでしょう?」
冷え冷えとした視線に、テイトは小さく悲鳴を上げた。
「そ、それって、二人に直接聞きましたか?」
「聞けるわけないでしょう!」
アニールが声を荒げるのでテイトはびくりと肩を震わせた。
視界の端に、リゲルが武器を手に持つのが見えた。
「そんなプライベートなことをお聞きして、失礼に当たってしまったらどうするんですか!?」
「……え?」
テイトは目を丸くしてアニールを見つめ、次いでリゲルに視線を移した。
リゲルは間の抜けた表情をしており、これが聞き間違いではないのだと確信すると同時に、自分も同じような顔をしている気がしてテイトは急いで顔を引き締めた。
「レンリ様は貴方に助けられたと仰っていましたね。以前に何か危険な目に遭ったかと考えるだけで既に胸が痛いのに、その過去を掘り返すような不躾なことができますか!?」
「い、いえ」
「だから、貴方に聞いているのです」
アニールはぎりぎりと悔しそうに歯を噛み締めていた。
なんとなく大丈夫そうだ、とテイトは息を吐いた。
「……僕たちも詳しくは知らないんです」
「本当ですか?」
「はい。それに本人達のことを僕が勝手に言うわけにもいきませんし」
その言葉に、アニールは不満そうな顔をしながらも納得したようであった。
もし、ここで研究所の話をしようものなら、大変なことになるだろうとは容易に想像が出来た。
「……そうですね、私としたことが考えが及ばなかったようで」
アニールは尚も無表情のまま続けた。
「まぁ、竜の子を助けた方であるのならば同志と言っても過言ではないでしょうし、心配はいらないかとは思いますが、一つ忠告させてください」
「……なんでしょうか」
「貴方方は危ない活動をしていると聞き及んでおりますので、くれぐれも御使い様の御身に危険が及ぶようなことはなさらないようにお願いします」
十分分かっているかとは思いますが、と念押ししながらアニールは顔に笑みを貼り付けた。
笑っているはずなのに妙に威圧感のあるその顔に、テイトは思わず引き攣りながら頷いた。
「それなら結構です。夜分にお時間を頂きありがとうございます。では、おやすみなさい」
アニールは満足した様子で頭を下げ、意気揚々と部屋を去っていった。
嵐のように過ぎ去った出来事に、先程迄確かに感じていたはずの眠気はどこかにいってしまったようだった。
「……教団、怖ぇな」
リゲルがぽつりと呟いた言葉に、テイトは完全に同意した。
そのまま自然な動作で縦長のテーブルまで二人をエスコートすると、丁重に椅子を引いてレンリとナナを席へと案内した。
残されたテイト達は別の神官に誘導されて各自席についたが、テイトは真っ白なクロスの上に並べられたカトラリーを見て顔を強張らせた。
幾つもある大きさの違うフォーク、ナイフ、スプーンにマナーが試されるのかと顔を青くすると、近くに座ったリゲルも同じような顔で卓上を凝視しているのが見えた。
そのため、表面上和やかに始まった晩餐は、テイトにとってある意味苦行の時間となった。
テイトは今までマナーが必要な食事などしたことはない。
時間をおきながら運ばれてくる料理の数々を、他の人の食事の仕方を盗み見ながら、なんとか口の中へと放り込んだ。
おいしいはずなのに緊張で殆ど味はしなかった。
テイトが周囲を観察してみると、レンリは綺麗な所作で食事をしており、このような場に慣れている印象を受けた。
驚いたのは、シンやナナも同じように苦労することなく食事をしていたことだった。
その三人を手本にしながら、テイトもゆっくりと食べ物を咀嚼した。
話はアニールがレンリやナナに話題を振るような形で進んだ。
シンは話を切り出すタイミングを伺っているように見えたが、幸運なことに、シンの聞きたいことはアニール自らが口に出した。
「――あぁ、そういえば、遺跡の方は明日には何カ所かご提示できそうです」
「……本当ですか?」
「えぇ、レンリ様に憂いなく過ごしていただけるよう、早急に進めさせていただきました。今暫くお待たせしてしまうのは、申し訳ないのですが……」
「いいえ、とんでもないです。どうお礼を申し上げればいいか……」
「お礼など……御使い様の幸せが、私どもの幸せですから」
アニールはうっとりとした表情でレンリを見つめた。
その心酔しきった表情に、レンリは少しだけ困ったように微笑んだ。
そうして二時間強にも及ぶ食事を終えて部屋に戻った頃にはかなり憔悴していたため、テイトはベッドに倒れ込んだ。
「ご飯食べて疲れるとか、初めてかも」
「……俺も」
テイトが首だけ動かして横を覗い見ると、リゲルも同じようにベッドの上で俯せになって動かなくなっていた。
このまま寝てしまおうかと目を閉じかけた時、リゲルの自分を呼ぶ小さな声が聞こえたため、テイトは懸命に目蓋を押し上げた。
「なに?」
「……前から言おうと思ってたんだけど、さ」
リゲルはいつの間に体勢を変えたのか、仰向けになって天井を向いたまま歯切れ悪く話し始めた。
「俺、テイトの代わりに、レンリちゃんのこと疑うって言ってたけどさ、」
「うん」
「それ、止めるわ」
「うん。……うん?」
テイトはがばりと上体を起こしてリゲルを見遣った。
天井を眺めたままのリゲルとは目が合うことはなく、月明かりもない暗い部屋の中ではその表情を読み取ることも出来なかった。
「疑うのは、あの魔法使いがやってくれるみたいだし、俺はいいかなって」
「それは僕としてもいいんだけど……」
「命を助けてもらったのに疑うなんて、そんな薄情なことも出来ないし」
何かに言い訳するように続けるリゲルを不思議に思ったが、それでもリゲルの決断は嬉しいものだったため、テイトは緩く笑みを浮かべた。
「お前の代わりに疑うって言った手前、こういうのはちゃんと伝えておかないとって思って」
「別に気にしないけど、でも、そっか、よかった」
なんだか今日は穏やかな気持ちで眠れそうだとテイトは目を瞑ったが、今度はノック音に眠気を阻まれた。
「――アニールです、もうお休みですか」
「あ、今行きます」
テイトは慌てて起き上がった。
リゲルも体を起こしてテーブルの燭台に火を灯してくれていた。
「すみません、夜分に。少しお話いいですか?」
扉を開けると、アニールがあの人好きのする柔和な笑みを湛えたまま尋ねてきたため、テイトは是と頷いた。
その返答に笑みを深めたアニールは背後にいた神官を手で制し、失礼しますと一人で部屋へと入り込んだ。
「おや、お一人ではありませんでしたか。皆様に一部屋ずつ用意したつもりでしたが、何か問題でも?」
「いえ、そんなことは」
テイトが手を振って釈明すると、押さえる手が離れた扉は自然と動き、ガチャリと音を立てて完全に閉じてしまった。
それと同時に、アニールの顔からは笑みが消えた。
「少し、お尋ねしたいことがあるのですが」
無表情で問われ、テイトは思わず硬直した。
シンに気をつけろと言われていたことを今更ながらに思い出したが、既に教団の者を招き入れた後である。
テイトが動揺しながらリゲルを一瞥すると、リゲルも警戒したように武器の近くに立ち位置を変え、厳しい表情でアニールを注視していた。
「な、なんでしょうか?」
「竜の子の子供もまた竜の子である可能性が高いと言われています。教団は、出来得る限りその血縁者全てを把握し、御使い様の望みを叶えてきました。勿論、隠れ住む者までは知ることは出来ていませんが……」
アニールが目を細めると、彼の優しそうな面影は完全に消え去った。
その冷たい眼差しを受けて、テイトの背に冷や汗が伝った。
「レンリ様とナナ様は、今までどちらに住まわれていたのでしょう?」
冷え冷えとした視線に、テイトは小さく悲鳴を上げた。
「そ、それって、二人に直接聞きましたか?」
「聞けるわけないでしょう!」
アニールが声を荒げるのでテイトはびくりと肩を震わせた。
視界の端に、リゲルが武器を手に持つのが見えた。
「そんなプライベートなことをお聞きして、失礼に当たってしまったらどうするんですか!?」
「……え?」
テイトは目を丸くしてアニールを見つめ、次いでリゲルに視線を移した。
リゲルは間の抜けた表情をしており、これが聞き間違いではないのだと確信すると同時に、自分も同じような顔をしている気がしてテイトは急いで顔を引き締めた。
「レンリ様は貴方に助けられたと仰っていましたね。以前に何か危険な目に遭ったかと考えるだけで既に胸が痛いのに、その過去を掘り返すような不躾なことができますか!?」
「い、いえ」
「だから、貴方に聞いているのです」
アニールはぎりぎりと悔しそうに歯を噛み締めていた。
なんとなく大丈夫そうだ、とテイトは息を吐いた。
「……僕たちも詳しくは知らないんです」
「本当ですか?」
「はい。それに本人達のことを僕が勝手に言うわけにもいきませんし」
その言葉に、アニールは不満そうな顔をしながらも納得したようであった。
もし、ここで研究所の話をしようものなら、大変なことになるだろうとは容易に想像が出来た。
「……そうですね、私としたことが考えが及ばなかったようで」
アニールは尚も無表情のまま続けた。
「まぁ、竜の子を助けた方であるのならば同志と言っても過言ではないでしょうし、心配はいらないかとは思いますが、一つ忠告させてください」
「……なんでしょうか」
「貴方方は危ない活動をしていると聞き及んでおりますので、くれぐれも御使い様の御身に危険が及ぶようなことはなさらないようにお願いします」
十分分かっているかとは思いますが、と念押ししながらアニールは顔に笑みを貼り付けた。
笑っているはずなのに妙に威圧感のあるその顔に、テイトは思わず引き攣りながら頷いた。
「それなら結構です。夜分にお時間を頂きありがとうございます。では、おやすみなさい」
アニールは満足した様子で頭を下げ、意気揚々と部屋を去っていった。
嵐のように過ぎ去った出来事に、先程迄確かに感じていたはずの眠気はどこかにいってしまったようだった。
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