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32. 来訪者 1
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レンリとナナはまるで姉妹かのように仲良くなっていた。
おそらく、《クエレブレ》という元々女性が少ない集団の中で、《竜の子》という共通点を持った彼女たちには何か通ずるものがあったのだろう。
それは、部屋割りにも現れていた。
余るほど部屋があるというのに、二人は自分たちの部屋を隣同士にしているだけではなく、ナナは頻繁にレンリの部屋を訪れているようであった。
ナナが押し切って隣の部屋を希望したのだろうとテイトは推測していたが、そんな二人をよくよく観察してみると、ナナの一方的な傾倒だけではないように見えた。
レンリはナナを微笑ましく思っているようであり、それが二人のバランスを上手く調整しているようである。
二人はアスバルドでは外套を身に纏わず過ごしており、周囲は初め珍しい《竜の子》の存在に興味深そうな視線を送っていた。
しかし、それに気付いたナナに睨まれるようになると、気にしながらも不躾な視線を送る者は次第に少なくなっていった。
それでも美しい少女の存在は気になるようで、チラチラと熱の籠もった瞳で見る者には、誰かが陰ながら鉄槌を下しているようであった。
誰かとは言わないが、女神と呼んで崇拝している信者が多数存在しているようである。
テイトはレンリの部屋を訪れ、予想通り二人で過ごしていた彼女たちに、一時間後にナスタチウム地方に出発するから着いてきて欲しいと頼んだ。
思いっきり巻き込んでしまっていることに罪悪感を覚えながらも、レンリとナナは《クエレブレ》に存在する魔道士の中でも二位三位を争う実力者なので、その力に頼ってしまうのは半分仕方の無いことであった。
勿論、一位はシンである。
テイトは次にリゲルに声をかけた。
リゲルは今回の作戦に同行するシンやルゴーの名前を聞くと嫌そうに顔を顰めていたが、シンの予測の結果には興味があるようで二つ返事で引き受けてくれた。
隊の者に声をかけ終わったテイトは素早く自身の旅支度を整え、早めに正門へと向かった。
すると、正門前から揉めている声が聞こえてきたため、テイトは足早に距離を詰めた。
近寄るテイトの存在に気付いたのか、そこにいた仲間が安心したような、助けを求めるような視線をテイトに寄越した。
「――あ、リーダー、いいところに」
「どうかしたの?」
「なんか、中に入れろって奴が来てて……志願者じゃないみたいだし、外套も頭から被ってるから怪しくて断ってんだけど、しつこくて……」
困ったように早口で告げられ、テイトは門の隙間からちらりと外を窺った。
すらりと背の高い人物と自身の仲間が何やら言い争っている様子ではあったが、一触即発の状態ではなさそうであった。
「――ですから、支援をさせて頂くと御使い様と約束をしたのです。貴方では話になりません。他の方にでも確かめてください」
「そうは言ってもなぁ……」
「……アニールさん?」
聞き覚えのある声だったため、テイトは小さく呟いた。
その声はしっかりと拾われていたようで、二人の視線は一気にテイトへと集まった。
「あ、リーダー、すまんな。すぐに追い返すから、待っててくれ」
「やっと話の分かる方が来ましたね。少しばかり遅いですが」
同時に話しかけられたため内容は聞き取れなかったが、嫌みを含む言い方にはやはり覚えがあり、テイトは確信を持って門の隙間から飛び出した。
「待って待って! 彼はアニールさんと言って、僕たちの、なんていうか、支援者なんです」
「え?」
門番は困惑した表情を浮かべて、テイトとアニールを交互に見つめた。
「テイト殿、リーダーでしたら部下の教育も手を抜かずにお願いします。貴方方の力になるために支援する者を追い返すなど、あってはならないことでは? 勿論、教団の者と分からないよう顔を隠して来た私にも落ち度はありますが……」
「スミマセン」
くどくどと話すアニールに平謝りしながら、後で話すと仲間に口パクで伝え、テイトはアニールを門の中へと引き入れた。
アニールの背後にあった二台の馬車の内、一台だけが彼に続くようにして中に入り込んだ。
「アニールさん、本日はどういった用件でしょうか?」
テイトがビクビクしながら問いかける横で、アニールはフードを外した。
「御使い様に個人的に支援させて頂くとお約束したでしょう。お忘れですか?」
どこか迫力のある笑顔に戦きながら、テイトは記憶を辿った。
確かに、強引に約束を取り付けていた気がする。
いや、勿論有難いけれど。
「い、いえ、勿論覚えてます。でも、まさかアニールさん自ら来てくれるなんて」
アニールはルフェール教団の責任者ではなかっただろうか。
更に言えば、現教祖の息子の筈だ。
そんな忙しい立場の者がまさか自ら訪れるとは全く予想していなかった、と言えば嘘になる。
「御使い様が健やかに過ごされているのかもきちんとこの目で確認したかったのです。それに、御使い様と私の約束なのですから、他の方に任せるのは失礼に当たります」
彼が熱心な信者であったことを思いだし、テイトは気が遠くなった。
そんなテイトの視界の端に楽しげな様子で歩いて来るレンリとナナの姿が見えたため、テイトは救世主とばかりにそちらを見遣った。
その視線に気付いたのか、レンリとナナはテイトに向かって微笑み、そして、隣にいるアニールに目を移すと驚いたような表情を見せた。
アニールはその二人の姿に何か思うところがあったのか、感極まったように目頭を押さえた。
「御使い様……尊い……」
テイトは思わずアニールから一歩距離を取った。
こちらへ駆け寄る二人の後ろにはシンの姿も見えたため、テイトは更に頼もしく思った。
「――アニール、お久しぶりです」
「っレンリ様、ご機嫌麗しいようで、何よりです」
レンリの何の変哲もない挨拶に、アニールは宝物でも貰ったかのように深くお辞儀をした。
「アニール、ここはなかなか良い場所ですわね。あたし、気に入りましてよ」
「ナナ様もご健勝であられて……」
ゆっくりと頭を上げたアニールはレンリとナナが外套を羽織っていることに気付いたのか、少しだけ目を細めた。
「……お出かけですか?」
「えぇ、今からナスタチウム地方に行くのですわ」
「それはそれは、少し遠出ですね。……危険はないのでしょうか?」
「あたしとシン様がいるんですもの! 危険などあるはずがありませんわ」
「それは心強いですね」
ナナが胸を張って答えるとアニールはにっこりと笑った。
しかし、横目でこちらを見るアニールの目は酷く鋭いものであり、テイトはその圧から逃げるように顔を背けた。
口は決して動いていなかったのに、本当に危険はないのか説明を求めますと確かに聞こえた気がしてテイトは体を震わせた。
おそらく、《クエレブレ》という元々女性が少ない集団の中で、《竜の子》という共通点を持った彼女たちには何か通ずるものがあったのだろう。
それは、部屋割りにも現れていた。
余るほど部屋があるというのに、二人は自分たちの部屋を隣同士にしているだけではなく、ナナは頻繁にレンリの部屋を訪れているようであった。
ナナが押し切って隣の部屋を希望したのだろうとテイトは推測していたが、そんな二人をよくよく観察してみると、ナナの一方的な傾倒だけではないように見えた。
レンリはナナを微笑ましく思っているようであり、それが二人のバランスを上手く調整しているようである。
二人はアスバルドでは外套を身に纏わず過ごしており、周囲は初め珍しい《竜の子》の存在に興味深そうな視線を送っていた。
しかし、それに気付いたナナに睨まれるようになると、気にしながらも不躾な視線を送る者は次第に少なくなっていった。
それでも美しい少女の存在は気になるようで、チラチラと熱の籠もった瞳で見る者には、誰かが陰ながら鉄槌を下しているようであった。
誰かとは言わないが、女神と呼んで崇拝している信者が多数存在しているようである。
テイトはレンリの部屋を訪れ、予想通り二人で過ごしていた彼女たちに、一時間後にナスタチウム地方に出発するから着いてきて欲しいと頼んだ。
思いっきり巻き込んでしまっていることに罪悪感を覚えながらも、レンリとナナは《クエレブレ》に存在する魔道士の中でも二位三位を争う実力者なので、その力に頼ってしまうのは半分仕方の無いことであった。
勿論、一位はシンである。
テイトは次にリゲルに声をかけた。
リゲルは今回の作戦に同行するシンやルゴーの名前を聞くと嫌そうに顔を顰めていたが、シンの予測の結果には興味があるようで二つ返事で引き受けてくれた。
隊の者に声をかけ終わったテイトは素早く自身の旅支度を整え、早めに正門へと向かった。
すると、正門前から揉めている声が聞こえてきたため、テイトは足早に距離を詰めた。
近寄るテイトの存在に気付いたのか、そこにいた仲間が安心したような、助けを求めるような視線をテイトに寄越した。
「――あ、リーダー、いいところに」
「どうかしたの?」
「なんか、中に入れろって奴が来てて……志願者じゃないみたいだし、外套も頭から被ってるから怪しくて断ってんだけど、しつこくて……」
困ったように早口で告げられ、テイトは門の隙間からちらりと外を窺った。
すらりと背の高い人物と自身の仲間が何やら言い争っている様子ではあったが、一触即発の状態ではなさそうであった。
「――ですから、支援をさせて頂くと御使い様と約束をしたのです。貴方では話になりません。他の方にでも確かめてください」
「そうは言ってもなぁ……」
「……アニールさん?」
聞き覚えのある声だったため、テイトは小さく呟いた。
その声はしっかりと拾われていたようで、二人の視線は一気にテイトへと集まった。
「あ、リーダー、すまんな。すぐに追い返すから、待っててくれ」
「やっと話の分かる方が来ましたね。少しばかり遅いですが」
同時に話しかけられたため内容は聞き取れなかったが、嫌みを含む言い方にはやはり覚えがあり、テイトは確信を持って門の隙間から飛び出した。
「待って待って! 彼はアニールさんと言って、僕たちの、なんていうか、支援者なんです」
「え?」
門番は困惑した表情を浮かべて、テイトとアニールを交互に見つめた。
「テイト殿、リーダーでしたら部下の教育も手を抜かずにお願いします。貴方方の力になるために支援する者を追い返すなど、あってはならないことでは? 勿論、教団の者と分からないよう顔を隠して来た私にも落ち度はありますが……」
「スミマセン」
くどくどと話すアニールに平謝りしながら、後で話すと仲間に口パクで伝え、テイトはアニールを門の中へと引き入れた。
アニールの背後にあった二台の馬車の内、一台だけが彼に続くようにして中に入り込んだ。
「アニールさん、本日はどういった用件でしょうか?」
テイトがビクビクしながら問いかける横で、アニールはフードを外した。
「御使い様に個人的に支援させて頂くとお約束したでしょう。お忘れですか?」
どこか迫力のある笑顔に戦きながら、テイトは記憶を辿った。
確かに、強引に約束を取り付けていた気がする。
いや、勿論有難いけれど。
「い、いえ、勿論覚えてます。でも、まさかアニールさん自ら来てくれるなんて」
アニールはルフェール教団の責任者ではなかっただろうか。
更に言えば、現教祖の息子の筈だ。
そんな忙しい立場の者がまさか自ら訪れるとは全く予想していなかった、と言えば嘘になる。
「御使い様が健やかに過ごされているのかもきちんとこの目で確認したかったのです。それに、御使い様と私の約束なのですから、他の方に任せるのは失礼に当たります」
彼が熱心な信者であったことを思いだし、テイトは気が遠くなった。
そんなテイトの視界の端に楽しげな様子で歩いて来るレンリとナナの姿が見えたため、テイトは救世主とばかりにそちらを見遣った。
その視線に気付いたのか、レンリとナナはテイトに向かって微笑み、そして、隣にいるアニールに目を移すと驚いたような表情を見せた。
アニールはその二人の姿に何か思うところがあったのか、感極まったように目頭を押さえた。
「御使い様……尊い……」
テイトは思わずアニールから一歩距離を取った。
こちらへ駆け寄る二人の後ろにはシンの姿も見えたため、テイトは更に頼もしく思った。
「――アニール、お久しぶりです」
「っレンリ様、ご機嫌麗しいようで、何よりです」
レンリの何の変哲もない挨拶に、アニールは宝物でも貰ったかのように深くお辞儀をした。
「アニール、ここはなかなか良い場所ですわね。あたし、気に入りましてよ」
「ナナ様もご健勝であられて……」
ゆっくりと頭を上げたアニールはレンリとナナが外套を羽織っていることに気付いたのか、少しだけ目を細めた。
「……お出かけですか?」
「えぇ、今からナスタチウム地方に行くのですわ」
「それはそれは、少し遠出ですね。……危険はないのでしょうか?」
「あたしとシン様がいるんですもの! 危険などあるはずがありませんわ」
「それは心強いですね」
ナナが胸を張って答えるとアニールはにっこりと笑った。
しかし、横目でこちらを見るアニールの目は酷く鋭いものであり、テイトはその圧から逃げるように顔を背けた。
口は決して動いていなかったのに、本当に危険はないのか説明を求めますと確かに聞こえた気がしてテイトは体を震わせた。
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